草島4
「ああ? 冗談冗談! 極めてスカンピンさ!」
女性が相変わらずの笑顔で答えました。
またまた、それこそご冗談を。
こんなに大量の薬草を売りさばける身で、そのようなはずがございません。
「ハハハ、お姉さん、随分とジョークがお上手のご様子ですね」
私は定型文で返しました。
「いやいや! 薬草っても、千本使って初めてビン一個分の薬ができるんだ! 日銭を稼ぐので精一杯さ!」
女性はあくまで笑顔を崩さずに答えました。
ああ、なるほど。
そういう仕組みでしたか。
なんだか、頭上に描かれた夢という名の絵が、ハンマーで叩かれたかのように、砕け散りました。
やはり、現実とはR-18指定。
残酷なものですね。
「そ、そうでしたか。それはなんとも……失礼を致しました」
私は言葉に困り、思わず彼女から視線をそらして謝罪をしてしまいました。
卑怯ですよね。
勝手に自分で変な期待をしただけなのに。
「ハハハ! お前さんが謝ることはないだろ!」
女性は声高らかに言い放ちました。
「え?」
私はその声に反応し、再び彼女に顔を向けました。
「確かに、端からみたら割には合わない仕事かもしれないさ。でも、ウチが摘んだ薬草で作られた薬が、誰かの笑顔につながると考えたら、これ以上にやりがいのある仕事があるとは思えなくてな!」
彼女は手元の草に笑顔を向けながら言いました。
……ふふ。
どうやら私はおせっかいが過ぎたようですね。
今の彼女の言葉が心からのものだというのは、その笑顔を見れば一目瞭然です。
「……よろしければ、ご一緒してもいいですか?」
私は自然と出た笑顔でそう尋ねました。
「おう! 助かる!」
彼女はもはや私の目に焼き付いた笑顔でそう答えました。
「ふぅ、こんなもんだろ! ありがとな、嬢ちゃん! 助かったよ!」
夕日を背に女性が言いました。
「い、いえいえ。私が勝手にやった……ことですから。ハハハ」
私は激痛の疾走する腰をさすりながら、精一杯強がりました。
そりゃそうですよ。
薬草採りなんてしたことないのですから。
もう、腰が腰でないみたいですよ。
……だったらなんなんだよって話ですが、それはもういいじゃないですか、腰が痛くてそれどころじゃないのですから。
「ハハハ! 全く物好きな嬢ちゃんだな! よかったら、ウチの家に来ないか! 一緒に夕飯でもどうだ!」
女性は伸びをしながら言いました。
「ありがとう……ございます。ぜひ……ご一緒させて下さい」
私は腰を伸ばしながら苦笑いでそう答えました。
その日の夕飯は腰にも染み渡る程に暖かいシチューでした。




