三十五 幼馴染が苦手かもしれないというので僕は、
基本的に僕は朝に弱い。
どんなに寝ても、寝足りない。
とくに夜更かしをしているわけではないのだけど、いつも朝は眠くて仕方がない。
起きてから一時間くらいは頭がぼうっとして、まともに思考が働かない。
それでも日本の学生にフレックスタイムはまだ導入されていないので、仕方なく今日も朝早く家を出る。
霞む目をこすりながら、大きなあくびを噛み殺す。
そんな寝坊助丸出しの僕なのだけど、今日ばかりは朝から強制的に覚醒させられた。
なぜなら寝耳に水ならぬ、寝耳にエナジードリンクな光景が玄関をあけると広がっていたからだ。
「おはよう、葉月」
「遅いわよ、佐藤葉月」
扉を開けば、明らかに不機嫌な美少女が二人。
黒髪でアイドルのような可憐な容姿の一人は、僕の愛おしい幼馴染であり恋人であるさゆり。
そして金髪で女優のように鋭い瞳のもう一人は、いまだに謎多き二学年上の雪篠塚先輩。
美少女二人に朝からお出迎えなんて、本当は喜ぶところなんだろうけど、いかんせん迎える二人の表情がハッピーな雰囲気とはほど遠い。
なんて嫌な目覚まし機能なんだ。
朝からカオスすぎる。
いったい何がどうなってるんだろう。
「あの、えと、その、おはようございます。それで、これは、いったいどういった……?」
「師の出迎えは弟子の基本。当たり前でしょ?」
どう考えても師と仰ぐ相手に対するものとは思えない高圧的な態度で、雪篠塚先輩は憮然と言い切る。
というかなんでこの人、僕の家知ってるんだろう。
なんでも知ってる秀才って聞いたけど、そういう方向の知識も豊富なのか。
「あー、なるほど。正直よくわからないですけど、とりあえずわかりました。それでさゆりは?」
「雪篠塚先輩のことだから、やるからには徹底的にやると思って。絶対朝から仕掛けてくると思ったから、私もそれに合わせただけ」
「いい読みね。さすが白鳥さゆり。そうでなくちゃ面白くないわ」
「べつに私は全然面白くないですけどね」
普段僕とさゆりはそれこそ、時間があえば一緒に学校に行くけれど、毎日待ち合わせをしたりはしてない。
だから意外に思ったのだけど、どうやらこれは偶然というわけではなく、狙って雪篠塚先輩対策でこうしたみたいだ。
それにしても仕掛けてくるって言い方。
実は僕は暗殺されてかけていたりするのだろうか。
「というか雪篠塚先輩、家、こっちの方じゃないですよね? わざわざここまですることあります?」
「白鳥さゆり。自分で言ったことをもう忘れたの? やるなら、徹底的にやる。妥協はしない。私は本気で佐藤葉月を学び、超える気でいる」
「あの、その、昨日からずっと言っていると思うんですけど、僕から学ぶこと、いうほどあります?」
「なかったら困る。私の師なんだから。がっかりさせないで」
この人、本当に僕から何かを学ぶ気あるのかな。
態度がどう考えても生徒じゃなくて教師側なんだけど。
「はあ、そうですか。あんまり僕に期待されても困るんですけど、まあ、とりあえず、学校いきます?」
「そうね。私にとってもうあそこで学ぶことなんてほとんどないけど、あんた達はまだ若いからね」
「若いって、先輩と私たち、歳二つしか変わらないじゃないですか」
「単純な年齢だけでいえばそうね」
「なんですかその含みのある言い方」
「含んだつもりはないわ。はっきり言ったつもりだけど?」
「……私、雪篠塚先輩のこと、苦手かもしれません」
「あっそ。私はべつにあんたのことはどうとも思ってないわ」
「ま、まあまあ、ほら二人とも、お喋りはそれくらいにして学校行きましょうよ? 遅刻しちゃいますし」
うわぁ。
すごい空気が悪い。
あのさゆりにしては珍しく、明確な敵意を雪篠塚先輩に向けて、ぷりぷりと怒っている。
なんだかこんな分かりやすく感情を出しているさゆりが珍しく、僕は少しにやけてしまう。
「なんか、葉月、笑ってない?」
「え? いやいや、そんなことないよ」
「高みの見物? いいご身分。この私に対してその態度、いい度胸じゃない。でもその余裕も今だけ。最後は私にひれ伏すことになる」
「わりと最初から僕、ひれ伏してると思うんですけど」
「なに言ってんのよ、葉月! 負けちゃだめじゃん! 私の彼氏なんだから、しっかりしてくれなきゃ困る!」
「えぇ……そもそも勝ち負けがよくわからないけど」
めざといさゆりは僕の油断に気づき発破をかけ、雪篠塚先輩は僕に研がれすぎた矛先向けて続けている。
なんとなくこの二人、僕にイラッとする時だけ息ぴったりな気がするのは気のせいだろうか。
今すぐこの弟子二人、なんとか破門ってことにできないかな。
どう考えても僕には、荷が重い気がしてならなかった。




