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十 幼馴染が日曜日は部活で忙しいので僕は、



 憂鬱な中間考査を無事乗り越えて、やっと週末に辿り着いた。

 一夜漬けを二日連続で行ってしまったということもあって、昼前まで眠り続けてしまった。

 本来ならば完全に寝坊で遅刻はおろか、休みすら検討するような時間帯になってしまっているけれど、まったく問題はない。

 なぜなら今日は土曜日。

僕が本気を出せば、二度寝だってすることすら可能な日なのだ。

 カレンダーを見ると、来月はもう七月で、そろそろ夏休みがやってくる。

 もっとも、部活にも所属していない僕には、毎日が休みになったからといって、特段何かお楽しみなイベントが生まれるわけじゃないのだけど。


 しかし、イベントか。

 カレンダーをまだ顔も洗っていないので目ヤニだらけの目で見つめていると、やはりどうしても思い出してしまう。

 それは来月から始まるサマーバケーションではなく、まさに明日の予定のことだ。


 来る日曜日。

 僕にしては珍しく、予定が入っている。

 それは、女子とのデートという、字面だけみれば最高の予定だった。

 でも僕は、まだ素直に喜べないでいた。


 理由は簡単だ。

 意味がわからないからだ。


 デートの相手は、高校でも一、二を争う美女として有名な朽織先輩。

 だけど、正直言って、僕は朽織先輩のことをよく知らない。

 ほとんど初対面の人と言っていい。

 極端に内向的というわけではないけれど、ほぼ初対面の女子といきなり半日遊べと言われると、どちらかといえば内向的な僕にとっては、中々につらいものがあった。

 これが幼馴染のさゆりとのデートだったら、諸手を挙げてウッキウッキで日曜の朝を迎えるところなのだけど、今のところ不安というか億劫さの方が勝っている。


 そもそも、なぜ朽織先輩は僕と日曜日に遊びたくなったのだろう。

 あの人だいぶ急というか、完全に勢いで言ってた気がする。

 もしかすると、あれは彼女なりの冗談で、本気でデートなんてする気はないのじゃないか。

 そう考え始めると、僕はこの推察が案外正しいものなのではないかと思えてきた。


 そうだよ。

 そうに決まってる。


 あのトウコウ選抜総選挙で絶対的な一位として崇められる、女王とすら呼べる美人さんが、こんな冴えない下級生と休日を過ごそうと思うわけがない。

 実際明日待ち合わせ場所に行っても、朽織先輩の影も形もないに違いない。


 なんだか、僕は急に気が楽になって来て、ベッドの上でぐっと身体を伸ばす。

 もちろん、万が一ということもあるので、一応明日約束通りの時間に駅には行くけれど、きっと朽織先輩はいない。

 せっかく外に行くので、ついでに買い物でもしようかな。

 たまには服でも見て見ようか。

 普段あまり買い物はしないので、いい機会だ。

 そういう意味では、朽織先輩に感謝だ。



 途端に明日が少し楽しみになってきた僕は、スマホで明日どこへ行くかそれなり見繕い始める。

 高校に入ってからは、さゆりが日曜日は部活で忙しくなったので、めったに僕は日曜に外に出ることはなくなってしまっていた。

 でも明日は、久し振りに活動的な日曜日になりそうだな。




―――――




 前々から計画的に勉強していたということもあって、ある程度の手応えがあった中間考査を超えて、憂鬱な週末がやってきた。

 土曜日は部活が休みなのだけど、明日日曜日には部活がある。

 それがとてつもなく気が重い理由だ。

 もちろん、この気が重いというのは、明日ある部活自体に対してじゃない。

 明日部活があるせいで、とある心配事に関して、何もすることができないというのが、私の大きな悩みだった。


 そう、問題は明日だ。

 明日、葉月と朽織先輩がデートをする。


 とうとう怖れていた事態が起きてしまった。

 いつかこんな日が来るのではないかと、怖れていたのに。

 こういった状況にならないように、高校からは心機一転、女子力アップに全てを捧げてきたのに、まさかあんな大物が引っかかるとは思わなかった。


 朽織先輩の口振りや、葉月の性格から考えても、誘ったのは先輩の方だ。

 ということは、冷静に考えて、ある一つの結論が得られる。


 それは、朽織先輩が、葉月のことを好きになってしまったということ。

 一目惚れなのか、入学した当時から目をつけていたのか知らないけど、絶対そうだ。

 もし仮に、まだ本格的に好きになってなかったとしても、半日も葉月と一緒に過ごしたら、好きになるに決まってる。


 あのぽわぽわ頭の幼馴染は、自分では気づいていないみたいだけど、とんでもなく魅力的なのだ。

 普段はそこまで自分から喋る方じゃないから、目立つことはない。

 でも一緒にいると、何度も言葉を交わしていると、その人間性の魅力がよくわかってしまう。


 うわー! 最悪だ! ほんとにまずい! これは私の幼馴染人生史上最大級の危機!


 何より相手が悪い。

 朽織先輩。彼女は非常に可愛い。

 私より背もちょっと高いし、胸の膨らみだってテニスボールとバレーボールくらいの差がある。

 まあべつに? 葉月はそんな乳の一つや二つで人を評価したりしないけどね!?


 それはそうと、とにかく朽織先輩も魅力的な人間だというのは、確定的に明らか。

 幼馴染という立場に甘えて、これまでは丁寧というか、慎重に葉月との関係性を進めていってたけど、これは作戦を変更する必要があるかもしれない。


 でも、それも全ては、明日を乗り切ってからの話だ。

 私より二年も多く生きていることもあって、テクニックや戦術では朽織先輩には敵わないはず。

 とにかく先輩が短期決戦を仕掛けてこないことを祈るばかり。


 お願い! 葉月! 明日を耐えきって! 朽織先輩に惚れないで!


 私は自宅のベッドの上で、両手を重ねて祈りを捧げる。

 

 葉月、私以外の女の人を、好きにならないでよ。


 とんでもなくわがままだって分かってるけど、そう願わずはいられない。


 明日ほど憂鬱な日曜日は、ずいぶんと久し振りな気がした。 

 





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― 新着の感想 ―
[一言] 女子力アップをパリピ連中に混ざってクラスカースト内ランクを上げることだと勘違いした結果、肝心の幼なじみとの接点が減ってマジもんのトップランカーに油揚げさらわれそうになっているカンジ?
[一言] なに、城之内ネタやってんだよw
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