一 幼馴染が自分のことを美少女だと気づいてしまったので僕は、
幼馴染をやめることにした。
いつかはこんな日が来るだろうと多少想像こそできていたが、いざその時が来てしまうとやはり堪えるものがある。
何の取り柄もないこの僕にとって、これまでの日々はあまりに過ぎた幸せだった。
白鳥さゆり。
もう名前から美少女臭が溢れ出ている。白鳥なんて苗字に平仮名でさゆり。
こんなの本物の美少女にしか許されていない名前だ。
そんな彼女の幼馴染を僕如きがやれていたなんて、今思えば奇跡としか言いようがない。
僕とさゆりは小学校に入る前からの顔見知りで、小学校も中学校も一緒で、今年入学した高校も同じところだ。
ただ、これまでと大きく異なる点が一つあった。
それは、さゆりの学校での立ち位置だ。
これまでは顔を半分ほど隠すくらい長い前髪に黒ぶち眼鏡で、美術部の友人たちと過ごすことの多い、俗にいう地味子だったさゆりは、あまり目立つような存在ではなかった。
もちろん幼馴染である僕だけはずっと前から気づいていた。
さゆりが下手をしたらテレビに映っているアイドル以上の美貌を持っていることを。
ただ控えめな性格と、外見にあまりこだわりのない気質から、それはあまり僕以外の皆には気づかれていなくて、さゆり本人もあまり意識していないようだった。
ところがどっこい。
高校に入った途端、さゆりは変わってしまったのだ。
鬱陶しいくらいだった長い髪はさっぱりと切られて、本来の容姿の良さがありありと分かるショートカットになり、コンタクトレンズに変えたのか黒ぶち眼鏡はどこかに消えてしまい、切れ長の二重が印象的になってしまった。
部活動も美術部からソフトテニス部に鞍替えして、一緒につるむ友人たちは皆、きゃぴきゃぴの人生マジ卍って感じの陽キャラ女子たちになった。
これはもう、むりだ。
僕にはとても絡めない。
雲の上の存在。
もはや僕がさゆりの幼馴染だというのは、黒歴史で触れてはいけない過去になってしまった。
僕がさゆりの幼馴染だということを知られたら、彼女のリア充トップカーストライフの邪魔になってしまうかもしれない。
そういうわけで、明らかに自分のことを美少女だと気づいてしまった白鳥さゆりの幼馴染を僕は、やめることにしたのだった。
―――
なんだか最近、幼馴染の佐藤葉月が私のことを避けている気がする。
私と葉月は小学校に入る前からの付き合いで、中学校も同じだったし、今年から入学した高校も一緒だ。
自分で言うのもなんだけど、私と葉月はもうほとんど公認カップルと言ってもいいくらいの仲の良さだった。
お互いの両親も顔見知りだし、私も正直に言ってしまえば、葉月以外の男子にはまるで興味が持てなかった。
というか早く告ってこいとずっと思ってる。
でも中学校の時は、けっこう冷や冷やしたものだ。
葉月はクラスの中で目立つ方ではないけれど、勉強もできるし、帰宅部のくせにやたら足が速かったり、よく喋る方ではないけれど、実際喋ってみると頭の回転が早くて話す言葉が面白く、どことなく中性的な外見も相まって、地味に女子人気が高い奴だった。
中学校まではなんとか私の根回しというか、地道な正妻アピールが効いて、葉月にぐいぐいと近寄るような女子はいなかった。
だけどきっと、このままではいつか葉月が誰かにとられてしまう気がした。
そんな危機感を覚えた私は、決意する。
葉月の彼女に相応しい女になってみせると。
ただの幼馴染というだけの間柄から、一歩進むために、私は見るからに陰キャなキャラクターを変え、俗にいう高校デビューをしてみせると。
そうすれば、葉月もそれなりに本気で私のことを女子として意識してくれるはず。
そう、思ったのに、どうしてこうなっちゃったのかな。
なぜか高校に入った途端、葉月が私に対してよそよそしくなった。
中学まではいつも一緒に登校して、一緒に下校してたのに、今は自然と別々になってしまった。
というか自然にそうなったというよりは、高校入学してすぐは一緒に登下校してたのに、どうしてか葉月の方が時間をずらすようになったのだ。
ありえないとは思うけど。
まさか。そうなのかな。
もしかして、葉月、好きな人、できちゃったのかな。
私は、間に合わなかったの、かな。