28 王都への帰路
俺たちは王都に戻る途中で一度夜営をする。
魔猪の肉を焼いて、リアとガウと一緒に夜ご飯を食べた。
俺にとっては塩気の足りない魔猪の肉だが、リアもガウもおいしそうに食べる。
竜と魔狼にとっては薄味の方がいいのかもしれない。
食事が終わると治療の時間だ。
「ガウ、こっちに来なさい」
「がうー」
ガウは大人しく俺の足元に来て伏せをする。
俺はそんなガウを優しく撫でてから、薬を作る。
育毛と発毛の効果のある薬だ。
材料はヒールポーションの主原料のケアリ草だ。
それにキュアポーションの主原料であるレルミ草。
ヒールポーションは身体の回復しようとする力を高める作用がある。
そしてキュアポーションは身体の恒常性機能を向上させる作用がある。
その二つの作用を絶妙に組み合わせて、発毛と育毛を促進させるのである。
普通のヒールポーションやキュアポーションよりも製作難度は高い。
だが、俺にとってはさほど難しくない仕事だ。
「よしできた」
作った薬は空中に保持する。
やはり容器が欲しい。帰ったらすぐに買おう。
「さて、ガウ。薬を塗るから大人しくしなさい」
「くぅーん」
「大丈夫。しみないし、痛くないはずだ」
俺はマッサージしながら、ガウの肌に優しく薬を塗りこんでいく。
最初は少し緊張気味だったガウも気持ちが良さそうにリラックスしていた。
「うん、順調だな。元通りに生え揃うまでにはまだかかるが……」
やけどの治療直後は、つるつるだった箇所も少しだけ毛が生え始めていた。
一週間ぐらいで、犬の短毛種ぐらいの毛の長さまでは伸びると思う。
「少しだけかゆくなるかもだが、掻いたらだめだぞ」
「がう」
「舐めても身体には悪くないはずだが、もしかしたらお腹が緩くなるかもしれない」
「がう」
「薬の臭いが気になって舐めたくなるかもだが、舐めないようにな」
「がぅ!」
ガウは機嫌よく元気に返事をしながら、さっそく後ろ足で首の後ろを掻こうとした。
その後ろ足を手で抑える。
「だめ」
「がう?」
「掻いたらだめ」
言い聞かせたので、ガウもわかったようだ。
安心した直後、自分の前足を舐めようとするのですぐに手で抑える。。
「だめ」
「……がう?」
「舐めたらだめ」
言い聞かせたので、ガウは理解したようだ。
褒めるために撫でてやる。
そして俺は寝る準備をする。
床に防水性能のある布を敷く。そして防水性能のある布で簡易の屋根を作った。
これで急に雨が降ってきても、少しはましなはずだ。
それから大きめの毛布を出してくるまった。
すぐにリアがもぞもぞと毛布の中に入ってくる。
俺の胸の上に乗って丸くなる。
「ガウも入りなさい」
「がう!」
ガウは嬉しそうに毛布の中に潜り込んできた。
「毛が生え揃うまでは、ガウも寒かろう」
「くぅーん」
ガウは、とても大きな体を縮めるようにして毛布の中で丸くなっている。
ガウには俺の用意した毛布は小さすぎるようだ。
「毛布が小さくてすまないな。大きめの毛布ではあるんだが……」
俺が謝ると、ガウは「いいよ」というかのように尻尾を振って顔を舐めてきた。
俺はそんなガウの背中を撫でる。
そんなことをしながら、俺たちは眠りについた。
次の日、起きて朝ご飯を食べて、ガウの全身に薬を塗って歩き始める。
昼過ぎになり、やっと王都の門に到着した。
門をくぐろうとすると、衛兵が少し慌てた様子で飛んできた。
「どうした? ちなみに俺はルードヴィヒという冒険者だ」
そう言って、俺はどや顔で冒険者カードを提示した。
「ああ、うん。昨日出ていったやつだな、覚えているよ」
「それは光栄なことだ」
Fランク冒険者のことを覚えているとは、衛兵は記憶力が良いらしい。
「そんなことより、その……魔物は?」
「魔狼のガウだ」
「魔狼? 冒険者カードには書いてないが……」
従魔として登録すると、冒険者カードに刻まれるのだ。
「まだ登録はすんでいないんだ。昨日従魔にしたところだからな」
俺がそう言うと、衛兵が警戒の目でガウを見る。
「……本当に魔狼なのか? 大きすぎるが……、それに毛がほとんど生えてないが……」
ガウが特別大きな魔狼で、身体に毛が生えていないので、衛兵はそんなことを言う。
冒険者ギルドのチェックが入っていない魔獣ということで、警戒を強めたのだろう。
しかも俺は新人のFランク冒険者なのだ。
信用度が低いのは仕方がない。
「俺をかばって、大きな火傷をしてしまったんだ」
「昨日従魔にしたと言っていただろう? いつ火傷したんだ?」
俺はやけどを治療したことを説明した。
「む? 君は薬師なのか? いや、毛を失うような火傷をすぐに治すなど薬師にも無理だが」
「俺は薬師ではなく魔導師だが、魔法薬の製作が得意なんだ」
錬金術というと胡散臭がられるので、魔法薬と言っておく。
「確かに冒険者ギルドのカードには魔導師と書かれているな。だが……」
「魔法薬は知らないか?」
「ああ。聞いたことがない」
「術者自体少ないからな。魔法はいろんなことができるんだよ。魔法薬の効果は非常に高い」
「そう言うものなのか」
「信用できないかもしれないが、昨日大やけどを負った魔狼がこの状態だ」
「ふむ?」
衛兵は半信半疑と言った様子だ。
「病気でも怪我でも、何かあれば冒険者ギルドに来てルードヴィヒを呼んでくれ」
「ああ」
「宣伝のためだ。初回は無料でいい。二回目からも普通の薬ならば十ゴルド以下で作ろう」
「それは安いな」
「もちろん珍しい症例などなら、高くなることもあるが、まずは相談してくれ」
「相談料は?」
「無料でいい。薬師が匙を投げた患者でもかまわない。衛兵仲間にも言っておいてくれ」
「わかった。一応伝えておこう」
衛兵はまだ信じていなさそうだが、完全に疑っているというわけでもなさそうだ。
今はそれで充分だ。少しずつ俺の薬の評判を上げて行けばいいだろう。