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16 冒険者ギルド再び

 すぐに八人のヨナの護衛中、トマソンを入れて七人が集まった。


「最後の一人は妻のお産に付き合ってるんだ」

「彼の分は、復帰したらすぐに付与しよう。特に鎧は大切だな」


 子供が生まれたばかりで、父親が怪我をしたら子供が可哀そうだ。

 俺は七人の護衛に向けて言う。


「とりあえず、愛用の武器と防具を出してくれ」

「「「ありがとうございます!」」」


 強化してもらえると聞いているらしく、護衛たちはみんな目を輝かせている。

 トマソンの剣を見て期待しているというのもあるのだろう。


「お礼なら、ヨナさんに言ってくれ」

「「「ヨハネスの旦那! ありがとうございます!」」」

「そんなそんな! 気にしないでください」

「なんとお礼を言えばいいか……」


 ヨナと護衛たちがそんなやり取りをしている間に俺は武器と防具をチェックする。

 よく手入れされている。それに質も上等だ。

 だが、普通の市販の武器と防具である。


 一流冒険者や騎士、貴族などは自分専用の武器や防具を作ったりもするらしい。

 その場合は、当然のことながらずっと割高になるようだ。


「今までの武器防具に不満点などはあったか? 折角だ。ついでに改善しよう」


 そう言ったのだが、みな最初は遠慮していた。

 だが、説得して改善して欲しい点を教えてもらう。

 それを改善しながら、みんなの武器と防具をオーダーメイドで最適化する。

 武器だったら長くしたり短くしたり、太くしたり細くしたり。重心を移したり。

 防具ならば、幅の調整や丈の調整などなどである。

 調整には少し時間がかかった。


 それを終わらせてから、錬金術で武器防具を強化していった。

 強化自体はさほど時間をかけずに終わる。

 要望を聞いて調整しながら強化していったが、それでも全部で三時間程度だ。

 護衛たちが本当に嬉しそうなので、俺も嬉しかった。


 その日は、護衛のみんなと夜ご飯を食べて、風呂に入って寝た。



 次の日。

 朝ご飯をごちそうになって、俺はすぐに冒険者ギルドへと向かう。

 素材採集に適した地域や、魔物の生息域、そして魔王の情報を知るためである。


 俺が冒険者ギルドに入ると、ギルドマスターのギルバートがやってくる。


「おお、ルード。まともな格好になったな」

「魔熊の賞金もあるからな。一通り装備を整えさせてもらった」


 それにしてもギルバートはギルマスだというのに、暇なのだろうか。

 俺がギルドの建物に入ったとき、ギルドの食堂エリアで冒険者と談笑しつつ何か飲んでいた。

 さすがに朝からは飲酒していないとは思うので、飲んでいたのはお茶などだろう。


「ギルマスは忙しくないのか?」

「うちのギルド職員は優秀なんだ。何ごともなければ暇なもんだ」

「それはうらやましい限りだ」

「それに冒険者の相談に乗るのも大切な仕事だ」


 食堂で冒険者たちと話をしながら、情報収集をしていたのだろう。

 ということは、ギルバートは情報通に違いない。


「そういうことならば俺の相談に乗ってほしいのだが」

「ん? なんだ? とりあえず何でも言ってくれ」

「……随分と心強いな」

「勘違いするな。力になれるかはわからん。だが、言うだけならただってことだ」


 そういって、ギルバートは近くの椅子に座ると、俺にも座るように促した。


「聞いてもらえるだけでも助かる」

「なんでも聞いてくれ」


 ギルバートは俺の知りたいことを知らないかもしれない。

 それでも、ギルマスで情報通のギルバートが知らないということは貴重な情報だ。


「こういう草がどこに生えているか知らないか?」


 俺はケルミ草とレルミ草を鞄から取り出してギルバートに見せた。

 ケルミ草はヒールポーションの、レルミ草はキュアポーションの主原料だ。

 ギルバートは真剣な表情でそれをじっと見る。


「いや、知らないな。なにか特別な草なのか?」

「薬草の一種だ。これがあれば、かなり有用な傷薬を作れるんだが……」


 そんなことを話していると、暇そうな冒険者たちが五人ほど集まってきた。


「ルードさん、この草には触ってもいいのか?」

「ああ。手に取って観察してみてくれ」


 俺の許可を得ると、すぐに戦士職の冒険者がケルミ草を手に取って観察する。


「ルードはこんな草を探しているのか? これは雑草じゃないか?」

「お前は聞いてなかったのか? ルードさんが薬草の一種って言ってただろうが」


 戦士と同じパーティーらしい魔導師の一人が呆れた様子で突っ込む。


「ルードほどの魔導師が薬草って言うのならそうなんだろうな」

「みんなが知らないということは、この辺りではこの草から薬は作らないってことか」


 俺が尋ねると、ギルバートがうなずく。


「ああ、薬草採集のクエストはあるが、この草ではないな」

「ちなみに、採集依頼クエがあるのはどの薬草なんだ?」

「えっと、そうだ。実際に見た方が早いだろう。少し待っていてくれ」


 そういってギルバートは受付の奥に一度行って戻ってくる。

 約縦横〇・五メートル四方、高さ〇・一メートルの木の箱を手にしていた。


「一般的な採集クエの対象薬草は、これらだな」


 ギルバートが持ってきたのは標本箱のようだ。

 中には植物が十種類ほど並べられている。

 俺も知っている薬草だ。千年前も普通に使われてはいた。

 だが、薬効が薄い。

 ケルミ草やレルミ草がない時に仕方なく使う類いのものばかりである。


 錬金術が完全に衰退したせいで、ケルミ草やレルミ草などは雑草扱いされているのだろう。

 嘆かわしいことだ。


 その間、戦士と魔導師と同じパーティーのスカウトが無言で俺の横に立っていた。

 そして、その視線はケルミ草とレルミ草に釘付けになっている。


「気になるのか?」

「いや、気になるって言うか……。これ実家の方でよく見たやつだと思う」


 スカウトは真顔でそう言った。

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