はじまりはベッドの中
俺の名前は惡斗結衣。なんの変哲もないその辺にいる普通の高校生である。
誰が考えたんだか、結衣なんて女の名前。←両親だ。
俺は自分の名前がだいっきらいである。
そんな俺、惡斗結衣はいわゆる帰宅部というやつだった。
だから授業が終わればいつものように帰宅し、飯を食べ、ギャルゲーをし、可愛い子でシコって、寝る。
その繰り返しだった。
……その日までは。
「はー、今日もシコってンキモディィー! ……毒素は寝る前に排泄しないとスッキリ寝らんねーからな。これ常識」
俺はシコった右手を綺麗にウエットティッシュで拭き取った。そして精子はトイレットペーパーで包んでトイレにポイである。
ジャアアアア。
(……精子さん、成仏してくれよ。南無阿弥陀仏)
俺は南無阿弥陀仏と両の手を合わせ念仏を唱える。
俺の中から排出された何万という尊い生命が犠牲になったのだ。
「ふぅ。寝るか!」
えーっと、あ、明日の準備を忘れていた。
俺は急いで明日使う教科書をスクールバッグに入れると、ベッドに入った。
「まだ10時か。いつもなら、まだゲームアプリをしている頃か」
今日はいろいろあって疲れた。
なんたって、今日は高校の入学式だ。
俺は今日から高校新一年生なのだ。
「ふぅ」
頭がぼやぼやしてきた。
入眠の合図である。
今日はあまりクラスの人と話せなかったからな。
明日から挽回だ!
そう思いながら、俺は眠りへとついた。
・
・
・
ポポポポポ、ポポポポポ。
スマホで設定した目覚ましタイマーがけたたましく耳元で鳴った。
窓の外からの陽光で、俺は目を覚ました。
「……朝か」
意識や視界はぼんやりしている。
はーあ、やだなー……。
そう思いながらも、俺は目覚ましタイマーを指で止め、再び二度寝の体制に入る。
そう、俺は本当に起きなければいけない時間よりも30分ほど早めにセットしていたのだ。だから二度寝三度寝してもいいシステムになっている。
「ふぅ」
タイマーを止めた手を毛布の中に戻し、寝相で乱れた毛布をしっかり肩の高さまで戻す。
……ん?
その時、何かが俺の布団の中にいることに気づいた。
てか、俺、抱き枕持ってたっけ?
もみ、もみ。
柔らかい温もりが前面で肌を伝う。
「……すぅ」
「……」
俺は遠のきかけて意識が次第に現実に戻っていくのを感じながら、薄目を開けた。
毛布の前部分が膨らんでいた。
俺の片腕に重いものが乗っているのが確認できる。
そ、っと布団を持ち上げた。
「……すぅ。……むにゃむにゃ」
俺の布団の中には、なんと、白髪ツインテールの女の子が俺の腕を枕にし眠っているのだった。
そしてなんと、(自分で言ってなんだが)裏山けしからんのが、俺がその子を抱き枕のように抱いて眠っていたことだった。
「あ;kjdf;おいあえんふぉ;え」
俺は頭の中でそれを理解することが難しかった。
できないことはない、ただ、現実を受け入れることができなかったのだ。
これは夢か?まだ夢の中にいるのか?
そう思ったが、俺の意識ははっきりとしており、今の周りの風景、状況をはっきりと認識することができた。
「んん……」もぞもぞ。
「ハッ……」起きそう……!
やばい。この状況、どうするー!?アイフル!?
てか、この子だれー!? いや、ここは俺の家。パニクることはない。冷静にいれば、何も問題ない。
そう思い直し、俺は冷静に努めた。
少女のキレイな奥二重の目が開く。
「ん……あ、兄さん、おはよ~……」
「あ……兄さん!?」
なんと、その子は、奇妙なことに、一人っ子の俺のことを兄さんと呼んだのだった!
「に、ニサーンとは、俺のことか?」
「……うん、そうだよ~……どうして~?」
むにゃむにゃ、と寝ぼけまなこの少女は未だ眠たげな瞳でなんの恥ずかしげも容赦もなく俺の胸に抱きついてきた。
「ハ……ハァ……やべ……鼻血出る……」
俺の鼻孔が突如謎の刺激によって流血を催した。
これはギャルゲーの世界なのか?
「こらー! 加林ー!」
ダッダッダッ。
その時、階下から知らない女の子の声と共に階段を上がってくる音が聞こえてきた。
こ、今度は誰だ……!?
俺は急いで顔を起こし部屋のドアに視線を向けると、なぜかすでに少し開いているドアからひょっこり何者かが顔を覗かせ部屋まで入ってきた。
これまた少女である。しかも美女、というには幼い顔つきだが、これまた美人な顔立ちの少女であった。少女というより、中学生? 程よい膨らみのある胸と茶髪のボブヘアーが印象的であった。
それに、もちもちとしていて健康的なけしからん体である。
両手には料理で使うかき混ぜ棒やら長箸を持っていた。
「またお兄さんのベッドに入り込んで。この変態!!」
ビクッ。
へ、変態……!? 変態って、俺のことじゃないよな……? じゃないよな?
てか、このハリのある罵倒する声。まさかツンデレ?!
「んも~、別にいいでしょ~。邪魔しないでよー」
「あんたがそうやって抱きついてるから、お兄さんが起きたくても起きれないのよ!!」
「違うもーん」
「お兄さんもお兄さんよ! そうやって加林を甘やかすからお兄さんの優しさに浸け込まれるのよ! わかってるの?」
うぉっ。突然俺に視線が向けられた。
俺か? 俺がしゃべるのか? 俺のターンなのか?
「……わかってるよ。ごめんな」
「っっ!? ……ちょ! お兄さんは謝らなくていいの! ……もう、これだから調子が狂うのよ」
目の前の女の子は、俺の言葉に、怒る気力をなくしてしまった様子だった。
いや、てか、俺誰? 俺、こんなキャラだったっけ?
この女の子の名前も知らないし! ちょっと! どーなってるの!?
「加林、早く起きないと遅刻するわよ。吹奏楽の朝練あるんでしょ」
そう言い残し、美少女の女の子は部屋から出ていってしまった。
ヒタ。
「うっ……ちょっと」
ヒタヒタ。
「やっと……2人きりね♡」
加林というらしい白髪ツインテールの女の子が、いやらしい目つきで俺の体に絡みついてくる。
「朝練、あるんじゃないのか?」
「あるけど~。キスしてくれたら、起きよっかな~♡」
テヘヘッと照れ笑いを寄越しやがる。
いや、なに恥ずかしげもなく自分で言っておいて、言ってから照れてんだよと。
「き、きす……? マジで言ってんの?」
「うん。んー♡」
唇をすぼめて近づけてくる。
え。ちょっと待って。心の準備が……!!
なんだこの展開。
どうなってんねん!!
俺、キスなんか無縁の存在っつーか。彼女いない歴年齢っつーか。一回もしたことねーし!
「いや、ちょっと待て。今は、ダメだ。なんか唇カサついてるし。口開けて寝てたから口ん中ムズムズするし」
「えー。もー」
俺が加林とかいう女の子の唇を手を出して制すと、機嫌が悪くなったのかもういいと言ってその子は部屋を出ていってしまった。
マジか……。
バタン。
虚しく響く。
「……」
俺は急いで辺りを見回した。
何も変わったところはない。いつもの俺の部屋だ。
パソコンを開く。起動。
普通につく。中身もある。ギャルゲーも、入ってる。セーブデータも残ってる。
あとは、なんだ。
スクールバッグだ。俺は急いでスクールバッグを開いた。昨日のままだ。
教科書も今日のになっている。
「なぜだ……」
おかしい。奇妙な2人の少女に、いつもの現実。
あの2人は、誰だ? 俺の知っている世界じゃない。だが、現実だ。
現実の、美少女だ。
そう、それは夢のような。
ぶんぶんと頭を振る。
違う、それは、そう、まるでギャルゲーのような。
「ギャルゲーだよなぁ……」
さっきの2人の性格といい、展開といい。
ギャルゲー、なんだよなぁ……。
「そんなわけ、あるはずが……」
俺はさっきのことが本当に夢ではないことを確認するために、急いで一階リビングへと向かうのだった。