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憧れの先輩 = ヘタレな後輩  作者: 勝成芳樹
2/2

憧れの先輩の体育祭 = ヘタレな後輩の体育祭

 私には憧れている先輩がいる。

 二年生で、私と同じ図書委員会に所属している人だ。

 面倒見がよく明るい人だけど、先日、先輩に想い人が存在している事が判明した。

 好いている彼女の事を語る先輩は、まるで乙女のように頬を赤らめていて、とてもかわいらしかった。

 普段の頼りになる先輩からは想像できない、そんな一面を持つ人なのだ。


 そして光栄な事に、私は先輩の恋愛アドバイザー(?)を務めさせてもらっている。

 先輩が恋をしている事に気付いたから、というのが一番の理由だが、私自身が先輩の力になりたいという部分も大きい。

 何故なら、先輩が恋をする相手は、とても攻略難易度の高い人だからだ。


 先輩の恋のお相手は先輩の先輩、つまり三年生で、先輩と同じ合唱部の副部長を務めている。

 才色兼備を体現したような人で、学校中の男からモテる人だが、彼女が彼らの告白を受け入れた例は皆無。

 しかし、先輩とはとても親密な関係であり、その先輩からの告白を受けて、二人は晴れて結ばれる――筈だった。


 その時の状況を説明しよう。

 ある日の朝、先輩と彼女が良い雰囲気になっている事に気付いた私は、放課後に告白するように発破を掛けて先輩を送り出した。

 成功を疑っていなかった私は、先輩たちの甘い未来に思いを馳せながらニヤニヤしていた――のだが、なんと先輩は私の所へ戻って来てしまったのだ。


 顔を真っ赤にして息を乱し、如何にもダッシュで戻って来たといった感じの先輩の様子を見て、私は察した。

 彼女は学校中の男からモテすぎて、先輩に告白が本気だと気づかなかったのだ!

 大方、冗談だと受け止めて流してしまったのだろう……先輩は想いを伝える事には成功したものの、彼女にそれが伝わる事はなかったのだ……!


 ……でも、私はそこまで悲観してはいない。

 先輩が告白した日の朝の彼女の様子を見る限り、彼女が先輩の事を他の男と同列に見ているという事はまずない。

 先輩だけではなく、彼女も先輩の事を意識している筈なのだ。


 となれば、私のやるべき事は一つ。

 先輩のアプローチを手助けして、彼女と先輩の恋を成就させる!

 その為には私、労力を惜しみませんよ!


「と言う訳で、次の借り物競争のお題に策を施しました」

「お前は何を言っているんだ」


 体育祭の最中、私はこっそりと呼び出した先輩にそう告げた。

 真っ白な体操服に身を包んだ先輩は、控えめに見ても運動が得意そうには見えない。

 男だし、体付きが全体的にガッシリとしてはいるけど、やはり文化部に所属するせいか、筋肉が見えるほどではなかった。


 そんな先輩が競技に出場する数は少なかったが、借り物競争では先輩の多彩さとコミュニケーション能力の高さを買われてエントリーする事になったらしい。

 それを知った私は実行委員の先輩ファンとコンタクトを取り、借り物競争のお題に手を加えたのだ。


「借り物競争のお題を、先輩があの人を選んでも一切違和感がなく、尚且つ好意を匂わせるモノに変えたんですよ! 私って凄くないですか、先輩!」

「凄いな。思いついてもまず実行されない計画を実行に移した後輩の行動力に感心するよ」

「あぁぁぁぁぁ! 先輩に褒められちゃったぁ!」


 えへへ、褒めても何も出ませんよぅ。


 ……今、間違えて本音の方を出してしまった気がする。

 恥ずかしくて顔が熱くなったけど、先輩も興奮して顔を赤くしてるし、きっとバレないはず……。


「……それで、俺は借り物競争で先輩を連れて行けばいいんだな?」

「あ、はい! ついでにゴールした後にお題を教えてあげれば完璧です!」


 何で連れて行かれたのか気になっている所で、本気で好意を持っているかもしれないと匂わせるお題を教えてあげれば、彼女も先輩を強く意識せざるを得ない筈。

 流石私……自分の才能が怖ろしい……!


「なるほど……確かに効果が高そうだな!」

「はい! 同じ状況で同じ事をされたら、私はコロッとオチる自信があります!」

「ほうほう……ほほうほう……!」


 どうなるかを想像したのか、先輩がニヤリと悪い笑みを浮かべる。

 フフフ、先輩も悪よのう……!

 同じような笑みを浮かべながら、私は先輩の背中をパシリと叩いた。


「これを成功させれば、好きな人と付き合える事は間違いないですよ! 桜色の未来はすぐそこです!」


 私の女の子コンピューターが導き出す……彼女が先輩と付き合える確率、99.9999パーセント!


「そうか、そうなのか……! これで好きな人と付き合えるんだな!」

「えぇ! これだけされて気付かない人なんていませんよ!」


 何せ、入っているお題は『一番好きな人』『憧れている異性』『一緒にご飯を食べたい人』などなど、かなり直球に近いモノばかり。

 彼女は相当に鈍いみたいだけど、これなら確実に気付いてくれる。

 気付いたら後は一直線、先輩と彼女は結ばれて、先輩と彼女はハッピー。先輩ファンの私もハッピー。

 完璧な作戦だ……幸せになれる人しかいない……!


「おっしゃ! やる気が出て来た! 今日こそやってやるぞォ!!」

「その意気ですよ先輩! 頑張ってくださいっ!

「よし! それじゃ、俺の雄姿を見ててくれよ!」

「……あー、ごめんなさい。私、借り物競争の時はグラウンドにいないんですよ」






「え?」






「実は、細工をする代わりに保健室の方で手伝いをする事になっててですね……」


 そう、こっちの方に労力を惜しまなかった結果、私は世紀の瞬間に立ち会えなくなってしまった。

 とても、とても悲しい事……だけど、これも先輩たちの幸せな未来の為……!

 私は涙を拭くように手を目元にやりながら、先輩の体操服の裾を引っ張った。


「先輩、お願いです! 私の犠牲を……私に付き合って先生に怒られた友達の犠牲を無駄にしないで下さい……! 絶対、絶対に結ばれてください……!!」

「お、おう……」


 涙声でお願いすると、先輩は微妙な表情をしながら頷く。

 流石にちょっとわざとらしすぎたかな、と小さな後悔をしていると、借り物競争の出場者を集める為の放送が入った。


「あ、もう時間ですね。先輩、吉報を期待して待ってますからねっ!」

「……あぁ、うん。それじゃ、行って来るよ」


 ……気のせいかな、先輩の口から白いのが出ている気がする。

 ゆっくりと歩いていく先輩を見送りながら、私はその白い物の正体が何なのかを考える。


 ――そうか! 先輩、やる気を出し過ぎて気炎が……!


「おーい、もう手伝いの時間だよーっ!」

「……ハッ! うん、今いくーっ!!」


 迎えに来た友達に返事をして、私は保健室へ向かった。

 借り物競争の後、仲睦まじく寄り添うであろう二人の姿を想像しながら。






---






 私には可愛い後輩がいる。

 二年生で、私と同じ合唱部に所属している男だ。

 面倒見がよく明るい性格だが、先日、後輩に想い人が存在している事が判明した。

 好いている後輩の事を語る彼は、まるで乙女の様に顔を赤らめていて、正直キモかった。

 普段の頼りになる姿からは想像も出来ない、残念な一面を持つ男なのだ。


 そして不名誉な事に、私は後輩の恋愛アドバイザー(?)を努めさせられている。

 後輩が恋をしている事に気付いたから、というのが一番の理由だが、後輩の力にならなければならないという義務感が大きい。

 何故なら、この馬鹿は想い人に私の事が好きだと勘違いさせたままだからだ。


 後輩の恋の相手は後輩の後輩、つまり一年生で、後輩と同じ図書委員会に所属している。

 元気系の随分と可愛らしい娘らしく、二年生や三年生の男衆からは妹(二次元限定)のようだと言われているらしい。

 中でも格別に親密な後輩とは距離が近く、それが原因か後輩が恋をしている事が発覚し、そのまま二人は想いを伝えあってハッピーエンド――とはならなかった。


 その時の状況を説明しよう。

 ある日の放課後、この阿呆が困り果てた顔で部室に現れ、想い人に勘違いされたと、勘違いされた相手である私に相談を持ち掛けて来た。

 私はその場で訂正しなかった後輩の情けなさに頭を抱えながらも、それならこちらから告白してしまえと発破を掛けて送り出した。

 しかしこの馬鹿はあろう事か、送り出した先で告白も訂正も出来ず、私に想いが伝わらなかったと更なる勘違いを生み出しやがったのだ。


 家に帰った後、チャットでその事を伝えられた私がパソコンのモニタを貫かなかった事は褒められても良いと思う。

 元より他の後輩からの想いに全く気付かない鬼畜王にぶちんだったが、ここに至ってヘタレという属性を追加しやがったのだ!

 普通にナイし、勘違いすらも訂正しなかったと聞いてめっちゃムカついた。


 ……とは言え、このまま後輩を見捨てるのも忍びない。

 何だかんだ、私も後輩に色々と助けられて来た。

 高嶺の花と敬遠されがちだった私の、気兼ねなく何でも話せる貴重な友人なのだから。


 ならば、私も一肌脱いで見せよう。

 後輩のアプローチを手伝って、彼の青春を照らす月にでもなってやろう。

 ――そう、思っていたのに……ッ!!


「なぁ、君は私を呆れさせる以外に脳がないのか? 借りれないと分かったのなら、先輩よりも君を借りたかったと一言告げれば済んでいただろう? それが出来なくても、私以外の人を誘って誤解を解けば良いじゃないか」

「それが出来たら苦労しないよ……」


 この大馬鹿野郎、いや、超ド級の大馬鹿野郎は、よりにもよって後輩女子の策通りに私を借りてしまった。

 どうせ告白出来ない事は分かっていたが、折角『一緒にご飯を食べたい人』という比較的アタリのお題を引けたのだから、同性の友人でも誘えば良かっただろうに。

 お前のせいで、私は彼女に『告白されすぎて告白に気付かなくなってしまった可哀そうな人』だと噂を流されたんだぞ。


 ……いけない、気を強く持っていなければ、鬼の形相をした本音さんが後輩を金棒で撲殺してしまう。

 ほぼ自業自得とは言え、本気でシュンとしている馬鹿をこれ以上追い詰めるのも可哀想だ。

 せめて、脳内でフルボッコにする程度に留めておかねば。


「……ふう。君の顔が倍くらいに腫れ上がったから、そろそろ勘弁してあげよう」

「ねぇ先輩? 先輩の中での俺の扱いってどうなってるの?」

「決まっているだろう。ストレス発散用のサンドバッグだ」

「大体分かってたけど酷い!? 先輩はもっと後輩を労わるべきだと思います!」


 さて、何時も通りこれからの行動を決めるか。

 取り敢えず、何時も通り彼女に想いを伝える方針で行くとしよう。

 どうせ誤解を解こうとした所で、私が鈍感だと思われるだけだからな。

 学ばせられたのだ。主にへなちょこのヘタレ王に。


 ……ふむ、そうだな。


「先輩、何か思いついた!?」

「……少しは自分で考えようとは思わないのかな、君は」

「自分で思いつけるなら苦労はしないんだよ!!」

「そうかそうか、つまりきみはじぶんで行動できない、そういうやつなんだな」


 こほん、と咳払いを一つして、阿呆にも分かりやすく説明をする。


「折角状況を作ってくれたのだ、最大限に活用するとしよう」

「でも、彼女が用意してくれたのは借り物競争のお題だぞ? 一体どうするんだ?」

「あるじゃないか。『借り物競争のお題』が」


 彼の手からお題の書かれた紙を奪い取り、見えるように突き付ける。


「もうすぐ昼食の時間だ。弁当を持って彼女と一緒に食べて来れば良い」


 そう言うと、彼はその発想は無かったとでも言いたげに口を開け、次第に頬を赤く染め始めた。

 今頃、彼の脳内ではピュアで甘酸っぱい昼食風景でも描かれているのだろう。

 あまりにも分かりやすい態度に苦笑しつつ、私は彼の背中を叩く。


「どうせ暫く出番はないのだろう? 折角だ、今の内に誘って来ると良い」

「ででででででも、あの子の事だから先輩と食べろって言うだろうし……」

「どれだけヘタレなんだ君は……生憎と、昼の時間は他の友人との予定が入っている。気にする事は無い」


 ま、今決めた予定なんだがな。

 友人には申し訳ないが、ヘタレな後輩を送り出す為に付き合ってもらおう。


「ぐっ……そ、それなら誘っても大丈夫そうだな……」

「フフ、ついでにあーんでもしてもらったらどうだ?」

「……先輩、俺は想像だけで昇天出来そう……」


 ……クッソだらしない表情を浮かべている後輩は置いておくとして、中々良い案だと思う。

 想い人に渡す事を想定したお題を渡す事で好意を示し、尚且つ昼食を共に摂らせる事で距離を縮める。

 正に一石二鳥の作戦だ。後輩女子も喜ぶだろう。


「……ところで、君は何時までその表情を晒し続けるんだ?」

「ハッ!? 意識が飛んでいた……」

「私なら良いけど、彼女にその表情を見せてはいけないよ……ほら、行っておいで」


 念の為に釘をさしてから、後輩の背中を押して送り出す。

 私に向けて手を振りながら走る彼はとても嬉しそうで、私ですら一瞬見惚れそうになるほどだった。


 彼の姿を見えなくなるまで見送ってから、私は小さく呟く。


「……叶うなら、早く付き合って欲しい物だな」


 だって、幸せな事には早く気づいてもらいたいじゃないか。






---






 ごはんは一緒に食べれたけど、全部作戦タイムだったよ…… >

 < 知 っ て た

 なんでぇ……なんで俺の想い伝わらないのぉ…… >

 < お前あれだろ

 < どうせ私の話をした後にご飯に誘っただろ

 何故バレたし >

 < 私の話題出さずに誘えよ馬鹿阿呆すかぽんたんのおたんこなす

 先輩が辛辣で辛い…… >

とりあえずここまで

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