7-2「食の戦場」
「……ちょっとファグイ、人参をそんな不揃いに切っちゃダメじゃないの! 火の通り方にばらつきが出るでしょ!」
親が自分の身を案じているちょうどその頃、ルエナは専ら夕食の身を案じていた。
「は、はいっ、ルエナさん! ……えっと、自分よく分からないので良かったら手取り足取り教えていただきたく……」
「コル、ちょっとファグイの手伝いお願いできる? 手取り足取りがご所望なんですって」
「そ、それじゃ意味が……あ、いや、何でもないです睨まないで……」
ルエナとファグイの漫才のようなやり取りを、火の番を任されたコルは苦笑いしながら眺めていた。一見すると単にファグイがダメ出しされているだけなのだが、意外とルエナもその会話を楽しんでいるように思えるのは考えすぎだろうか。この二人、実は結構相性が良いのかもしれない。コルはそんなことをしみじみ思った。
リグオンを撃退したあと、それまで歩きづめだったこともあって、コルたち精霊師一行はへとへとに疲れていた。それで、安全な場所を探して一晩休息を取ることになったのだ。妖魔の襲撃に遭った直後なので、野営地も慎重に選ばなければならなかったが、しばらく探索した結果ちょうど良い洞窟が見つかった。
かなり深くまで続いているその洞窟は途中で湾曲していて、中で精霊の火を灯しても外に光が漏れないようになっていたのだ。
そこで一行はその洞窟で休むことになったのだが、安全な寝場所が確保できたとほっとした途端、誰かさんのお腹がぐぅ〜と鳴った(実際に鳴ったのはルエナのお腹だったのだが、コルにはそれを口に出して指摘する勇気は無かった)。そこで見習い精霊師たちで協力して、夕食作りに勤しむことになったのだ。
遠征中という不自由な状況下でも、精霊師たちは夕食には温かいしっかりした料理を食べるという習慣があった。それは光の届かない極夜域が非常に寒く、体力を奪われ易いからだった。
ちなみに、その時々で手元にある食材をまとめて煮て、アグノス灯護院伝統の甘辛い調味料で味付けした料理は通称「アグノス鍋」と呼ばれる。毎回具材が変わるので当然味も変化するのだが、どんな食材にも合うように研究された調味料のおかげで毎回美味しく出来上がる。現に今も香ばしい匂いが漂ってきて……
「ちょっと、コル、火が弱まってるわよ。ちゃんと集中して!」
ルエナの鋭い声にコルははっとして急いで火に意識を集中した。すると、考え事に耽っていたせいで弱まっていた朱色の火が、再び強く燃え上がって携帯用鍋の底を炙り始めた。火の番は手先の技術を必要としない代わりに集中力が必要な仕事だった。ついでにひどくお腹が空くというデメリットもあるのだが、仕事が終わればご飯なので、見ようによってはむしろ特権とも言える。火の番をした後の食事は普通の何倍も美味しく感じるのだ。




