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3-4「食堂」

「八分遅刻だよ! まったく、ファグイはともかく、コル、あんたはもうちょっとしっかりしてると思ってたけどねぇ……」


 食堂に駆け込むなり素晴らしい声量で激を飛ばしてきたのは、灯護院の料理長であるマリノ・リヴェリーだった。見た目も性格もどっしりと構えたこの壮年女性は、美味しい料理を振舞って精霊師や学院生の胃袋をしっかり掴み、特に若くして親元を離れて暮らす学院生から強い信頼を寄せられているが、一方で一度怒らせたら手がつけられないことでも知られている。


「すみません……二度とこういうことは無いようにしますから……」

「謝る暇があったら手を動かす! 朝餉の時間まであと二十分しか無いんだからね!」


 平身低頭するコルに対して再びマリノの叱咤の声が飛ぶ。コルとファグイは灯護院長と面会でもしているかのように背筋をぴっと正し、これ以上料理長の機嫌を損ねないうちに差し出された台布巾を手に取る。


 こんな朝早くに食堂を掃除しなければならないのは、灯護院がその性質上一日中稼働しているせいだ。灯護院の東側、つまり学院棟に位置するこの食堂は、祓魔隊と学院の共用施設である。そして灯護院の中核である祓魔隊は三交代制で、常に三分の一の人員が活動していることになる。


 当然それぞれ食事を摂る必要があるので、厨房もまた人員を入れ替わり立ち替わりして一日中稼働させていなければならない。この過密スケジュールの隙間を縫い、なおかつ一部に負担が集中しないようにスケジュールを組むと、どうしても中途半端な時間に掃除をせざるを得なくなるのだ。


 だが、それが分かったからといって労働が楽になるわけでは無い。コルはそれ以上無駄な考え事をするのはやめ、自らの仕事に集中した。


 約二十分後、コルとファグイは各々息を切らせつつ、超特急で食堂の掃除を完了させた。何しろ灯護院の食堂はだだっ広いのだ。しかも監督するマリノは恐ろしいほどの綺麗好きで、ちょっとでも手を抜いていると途端に看破されてしまう。


 そもそも当番二人に三十分で掃除しろという割り当て自体が無謀なような気もするが、そんなことを進言して集合時間がさらに早くなったり当番の頻度が増えたりするのも嫌なので、みんなあえて黙っているのだ。


「ご苦労さん。やればできるじゃあないか」


 マリノはチェックがひと通り済むと一転してのんびりりした声で言った。「簡単に言ってくれる」と愚痴の一つも言いたくなるところだが、コル達が掃除をしている間、マリノも厨房でギリギリまで味付けの調整に励んでいた事を知っているのでそうそう文句も言ってられない。実際、料理人の苦労は掃除担当の比ではないだろう。


「……ああ、そうだ、それと……クロハさんからコルに伝言だよ。朝餉が終わったら朝の稽古の前に話があるから執務室に来い、だってさ」


 マリノが思い出したように続けた言葉に、コルとファグイは顔を見合わせた。コルは単純に「何の話だろう?」という気持ちでファグイを見たのだが、ファグイの顔に「どれがバレたんだろう」という当惑の表情が浮かんでいるのを見て、思わず吹き出してしまった。



三章・完

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