五話 街と教室と仲間と
「やぁ~。たくさん歩いたね!!」
やっと座れた。俺の感想は今の所これしかない。
土曜日の朝。ゆっくりと睡眠を取っていたらナコからの電話が来て、半分寝たまま通話開始ボタンを押すと
『いつまで寝てるのー!! 早くお、き、てー!』
と、耳がぶっ飛びそうなくらいの大声で叫ばれて連れ出された。そして今は、昼食を摂る為にファミレスへ入ったところだ。
「うん。めっちゃ歩いたな。だけど……」
ナコに目をやる。既にメニューと睨めっこ状態だ。
「お前、何にも買ってないじゃねーか……」
女子の買い物は、こんなものなの! と、メニューから目を離さずに反論。そう、朝早くから来て歩いた。めっちゃ歩いた。でも、結果的には歩いただけだ。
こんなことを口に出すと、女性陣から次々に反論されるだろうから絶対に口外しないが、なぜこう、選ぶのが好きなんだろうな。女の子って。
「どうせ、オミ君。用事ないでしょ?」
「あのなぁ。いつもいつも。俺に予定がない前提で話を進めるな」
食べたいものが決まったらしく、メニュー表をこちらに渡してくるナコ。それを受け取りながら、生きてきて何度目かの言い合いをする。
「え? じゃあ。今日は何か予定あったの?」
「……あ、すみません。注文良いですか?」
「無いんじゃん」
違うぞ。店員さんがタイミング良く、横を通りかかったから注文するだけだ。決して休日に遊ぶ友人がいないとかじゃないから。
「あれ? オミ君? それに、ナコちゃん?」
ファミレスから出ると、ばったり見知った顔と会った。
「あー! メイちゃん!」
名前を呼びながらナコは駆け寄って、その胸へとダイブした。なるほど。これが女子同士のスキンシップってやつですかね。
「メイ。今日も家の手伝いか?」
俺はメイの格好……。いわゆる巫女服を見て、察する。木津宮めい。この町では、かなり有名な神社の一人娘で、たまにこうして巫女服のまま買い出しに来たりしている。良いのかどうかは聞いたこと無いけど。
ちなみに当然だが、こいつも俺やナコと同じクラス。1クラスしか無いからな。
「そうだよ~。2人は?」
「もうすぐ修学旅行だろ? 俺はこいつの買い物に付き合わされてるんだよ」
嫌味っぽく言ってやったが流石はナコ。まだメイに抱きついて、一切俺の話なんて耳に入ってやしない。メイはメイで、そんなナコに苦笑いしている。
性格はおっとりしていて、誰にでも優しく接する癒し系なので、ナコとはまた違った理由で男女に人気がある。
「おい、ナコ。いつまでくっついてんだ。いい加減にしとけ」
見ているこっちが恥ずかしくなってきたので、無理やり引っ剥がす。メイも少し恥ずかしかったのか、ほんのり頬が赤い。
「そうだ! メイちゃんも一緒に買い物しよーよ!」
これ名案とばかりに手を打ち、再びメイに突進しようとするナコを抑える。お前は闘牛か。
「えっと……。ごめんね、ナコちゃん。私、おつかい頼まれてるから……」
申し訳なさそうに両手を合わせて、ごめんなさいのポーズ。まぁ、さっきもそう言ってたしな。ナコ、人の話を聞かな過ぎるぞ。
「いや、こっちこそ。急に誘って悪いな。こいつのことは良いから、早く用事済ませちゃってくれ」
また学園で。と別れの挨拶をする。
「メイ、相変わらず忙しそうだな」
「う~ん。そこがちょっと気になるんだよね」
メイの後ろ姿を見送りながら、ついつい渋い顔をしてしまう。巫女服の裾が、メイの気持ちを表すようにパタパタと跳ねていた。
メイと別れてからも、ナコの買い物に付き合っていたのだが、何とその日だけでは終わらず、翌日、つまり日曜日も駆り出されることになってしまった。
そんなこんなで週末は、あっと言う間に過ぎ、新しい週が始まる。
「ふぁ~あ……」
教室に着くなり、大きなあくびが出てしまった。まぁ、疲れはしたが、たまには街を歩くのも気分転換にはなったし、何より、ナコが終始ご機嫌だったので、楽しめることは楽しめたかな。
「また夜更かし?」
「ん? あぁ、シーナ。おはよー」
いかにも、やれやれと聞こえてきそうなほどの呆れ顔で話しかけてきたのは委員長のシーナ。毎日俺より、いや、もしかしたら誰よりも早く、この教室に来ているのかもしれない。
ナコがグループの方に行ってから、一言、二言話すのが俺とシーナの日課のようになっていた。
こういう時、クラス替えも無くて良かったなって思える。もし、1年かけて仲良くなっても、違うクラスになったら同じ時より確実に話す機会は減っちゃうもんな。
適当な話題を話して、いつもそれぞれの席に着くのだが、今回は違った。
「オミ君。ちょっと、聞きたいことがあるんだけれど……」
シーナが珍しく、弱々しい声で切り出した。俺がシーナの声を聞こうと、少し前のめりになると、周囲を気にしながら更に小さな声で囁くように言った。
「ナコさん。もう本当に大丈夫なの?」
きっとシーナは、新学期が始まってからすぐに何日も休んだことを心配しているのだろう。
確かに理由も曖昧なままにしてるし、クラスの委員長として、気になるのは当然だ。
しかし、1からなんて説明したら良いのか俺も分からないし、ナコ本人も「学園の人に迷惑かけたくないから」と言っていたので、むやみに話すわけにはいかないだろう。
「あぁ。見ての通りだ。すっかり元気になりすぎて、困ってるくらいだよ」
冗談交じりで、そう切り替えしたのだが、シーナはあまり納得していない様子だ。しかし、詮索しすぎるのも良くないと思ってくれたのか、「そう。」とだけ短く返し、席へと戻っていった。
さっき何か別のことを言いかけていた気もするんだけど。まぁ、友達って言っても、タイミングとか言いにくいことはあるよな、お互いに。
「では今から、修学旅行の自由行動の班を決めます」
教卓には、教師ではなく我らが委員長のシーナが声を張り上げて、みんなの注目を集めている。3年目となると、この光景も見慣れたものだ。
その後ろで、黒板に『自由行動』という文字と、数字を女子特有の丸字で書いているのはメイ。この文字……見覚えがある。あいつがしおりも書いたのか。
シーナとメイは中学も同じで、非常に仲が良く、いつもメイがシーナのサポート役を買って出ている感じだ。
「一応、完全に自由にする案と、くじ引き案が出ています」
私は、問題児を分散させたほうが良いと思いますけど。と、要らん一言を付け足す。こら、そういうとこだぞ。
シーナもクールビューティーって感じで人気はあるのだが、こういうところが玉に瑕なんだよなぁ。
ただ、みんなもそういうシーナの事を分かって、3年連続で委員長を任せているんだし、今更、大きな問題にはならないだろうけど。
「せ、せっかくだから、自由にしよーよ! じゃあ、はい、開始!!」
すると突然、メイがシーナの声を遮って強引に班決めをスタートさせた。シーナが揉める前に、さっさと決めてしまおうって魂胆なのだろう。意外にやるなぁ、あいつ。あっ、でも案の定シーナに怒られてる。
そんなことはお構いなしに、クラスメートは班を次々に決めていく。
うちのクラスは35人で、確か自由行動の班は最大で4人だから8つの4人班と、1つ3人班ができるわけか。
「って、あれ??」
俺も友人たちを適当に誘おうかと思ったら、みんな既に集まっている……? しかも、見渡す限り4人班ばかり。
チラッとナコを見ると例のグループで固まって、ごめんなさいポーズをしていた。まぁ、それもそうか。
野郎どもに声を掛けると「高鷲さんと組むなら、邪魔したくないし」「なんで自由行動の時までリア充を見なきゃならないんだ」と、非情な声が返される。え? もしかして俺って嫌われてる??
じゃあ、俺は2人で余っているヤツの組むことになるんだが、周りを見ると……いた。教卓で、まだお説教してるやつと、されてるやつ。
そんなお説教されているメイと目が合うと、これ幸いとばかりに班を決定してしまった。
今回から新しい章の始まりです。委員長回だと思っていた方、ごめんなさい……。
幼馴染の次は巫女。オミ君が羨ましいですね。
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