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95.勇者グスカス




 奴隷に落ちたグスカスは、朝着替えると、食堂へと向かう。

 貴族の屋敷で働く奴隷達には、主人の方針で、一日三食の食事が与えられてる。


 ……だが。



「おい貴様、そこのおまえ」

「ああ? んだよ……」



 グスカスが食事の配給の列に並んでいると、奴隷達の監視役が話しかけてきた。



「そんな汚い姿で食堂に入るな」

「ああ!? 汚いだぁ!?」

「ああ、きちんと身を清めてこい」

「ちっ……!」



 グスカスはしぶしぶシャワーを浴びに行く。

 奴隷用の風呂場がいちおうあるのだが、ここでは温水がでない。



 冷たい思いをしながらグスカスは体を綺麗にして戻ってきたのだが……。



「あんたの分の食事はないよ」

「ふ、ふざ……ふざけんなよ……! なんでねえんだよ!」



 シャワーを浴びて戻ってきたところには、配給の列はなくなっていた。

 食堂のおばちゃんはグスカスを馬鹿にしたように笑う。


「来るのが遅いのが悪いんだよ」

「それは! 体がきたねえとか言いがかり付けられたからよぉ!」

「とにかく、時間になってもこなったあんたの自己責任だ。飯抜きはね」

「そんな……」



 グスカスがいじめられてる姿を見て、ほかの奴隷達があざ笑ってる。

 元同室の女は、奴隷長に気に入られてるらしく、たくさんの朝ご飯を食べていた。



 ぐぅ……とグスカスの腹の虫がなる。

 こんな状態で過酷な肉体労働をしたら、死んでしまう。



「な、なあ……本当になんにも食べるものないのかよぉ」



 食堂のおばちゃんにそう尋ねると、カノジョはにやりと笑った。



「そんなに食べたきゃ、生ゴミでもあされば?」

「生ゴミ……」



 厨房のゴミバケツのなかには、野菜や果物の残りが入っていた。

 今のグスカスにとっては、それですら、ごちそうである。



 ……だが、勇者だったプライドから、そんなことできなかった。



「ゴミなんて、くえるかよ! 馬鹿にしやがって……!」

「ああそう。じゃあ飯抜きで労働頑張るんだね」

「ぐぅう……」



 グスカスに食べ物を与える、という優しい奴隷はここにはいなかった。

 みなグスカスがいじめられてる姿を見て、愉悦の表情を浮かべる。



 最底辺の奴隷達にとって、自分より下の存在がいるということで、精神の衛生を保つことができる。

 グスカスいじめは、奴隷達にとっての娯楽だった。



「なぁグスカスぅ? 残りモンあんだけどよぉ、食べてえか??」



 奴隷の一人がパンの残りを持ってグスカスのもとへやってくる。



「ああ! くれ! くれよ!」

「くれぇ? ください、だろ?」

「ぐ……!」


 

 奴隷の分際で調子に乗るなと言いたかった。

 ……だが、自分もまた奴隷であることを思い出す。



 そう……今の自分は最底辺の存在なのだ。

 どうする……くださいというべきか。



 ……勇者である自分に、そんなことはできない。

 だが……何も食べないと死んでしまうのは事実……。



 昨晩も飯にありつけなかったのだ。(だから寝不足だった)

 


「…………」



 グスカスは、プライドを捨てて、自らが生きることを選択する。

 彼は頭を下げて、奴隷に頼む。



「……パンを、めぐって、ください」



 頭を下げながら、グスカスは歯がみする。こんなやつらに頭を下げることが、そして、生きるためにプライドを捨てる羽目となったことになった、自分の弱さに、腹が立っていた。



 だがその気持ちをぐっとこらえて、頭を下げる。

 すると奴隷がパンの残りを地面に放り投げる。



 グスカスが拾おうとすると……。

 その手ごと、踏み潰された。



「ぎゃぁああああああああああああ!」

「あはは! ぎゃーだって! 犬みてえ! ぎゃはははあ!」



 ゲラゲラと周りの奴隷達が笑う。

 見張り役はそのいじめを黙認していた。



 おそらく奴隷達がこうしてグスカスをいじめることで、奴隷達のやる気が少しでも向上すればいいと、思ってるらしい。

 グスカスは泣きながら、それでもパンを喰らう。



「ちくしょう……ちくしょう……」



 こんな惨めな思いをしながらも、パンを食べるのは生きるため。

 そう……生きてさえいれば、必ずチャンスが巡ってくるはず。



 ここを抜け出すチャンスが。

 そのために、彼は耐える。たとえ馬鹿にされようとも。


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