94.勇者グスカス
グスカスは目を覚ます。
「くそ……ねみぃ……」
彼がいるのは、奴隷たちに与えられた小汚い部屋だ。
とりわけグスカスは、一番汚い部屋を与えられていた。
前は、もうちょっとマシな部屋だったのだが、同室となった女の子をいじめてから、扱いがわるくなったのである。
「ちくしょう……おれは……勇者だったんだぞ……」
勇者、だった。
グスカスの中で、認識の変化が起きていた。
以前は何かにつけて、自分は勇者なんだぞ、だから偉いんだぞ、と尊大な態度をとり続けていた。
だが色んな不幸な目に遭って、彼は自分が勇者でないことを自覚。
……だが今度は、勇者【だった】という過去の栄光にすがりつくようになってしまった。
それは仕方ないことだった。
今の彼は、勇者としての職業を失っている状態だ。
王子としての立場、勇者としての力、そして……愛する女さえも失った。
そんな彼に残されているのは、かつての栄華ただそれだけなのだ。
「…………」
助けて欲しい、と何度口にしかけただろうか。
だが誰も彼を助けてはくれない。
グスカスは少しずつ理解していた。
酷いことをすれば、自分に返ってくると。
自分にやられて嫌なことをしたら、みんな離れていくんだと。
……だから、周りには人が居ない、助けを求めようが、助けてくれない。
「ジューダス……」
無意識に、元指導者であり、パーティメンバーの名前が口をついた。
あのお人好しなら、どんな状況にあっても、グスカスを助けてくれるだろう。
「…………」
だが、彼のプライドが、助けをもとめることを邪魔していた。
いや……もっと簡単に言うなら。
「……こんな惨めな姿、知り合いに、見られてたまるかよ……」
ジューダスは気にしないだろう。
だがグスカスは気にするのだ。
こんな惨めで、最低な姿を見られることを。
プライドなんて気にしてる余裕がないことはわかってる。
……それでも、いやだった。
「おら起きるんだよグスカス! さっさと掃除しな!」
奴隷長がやってきて、勝手に部屋の扉を開ける。
うるせえババア、と言い返す元気もなく、もそもそとグスカスは朝の準備をする。




