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83.英雄、竜王と戦う



 俺を婿に欲しいという、竜王の娘ロゼ。


 彼女を母親のところへと送り届けるべく、俺は竜王の元へ向かった。


 行き先は隣国のフォティアトゥーヤ。


 北東部に広がる、【剱岳】という、連なった山々の一角だ。


「すまんなぁ、キャスコ。いつも送ってくれて」


 俺は賢者キャスコの操るホウキに乗っている。


「馬車代わりみたいに使ってごめんな」


「……気にしないでください♡ 私、ジュードさんと空を飛んでいる時間が、大好きなので♡」


 前に座るキャスコは目を細めて、俺に体重をかけてくる。


「ん~♡」


 キャスコが目を閉じて、唇をすぼめてくる。


「こらこら、よそ見運転はいけないよ」

「……わかりました。なので、ん~♡」


 俺は軽くキャスコと唇をかわす。

 砂糖菓子のように甘く、柔らかな彼女の唇の感触。


 キャスコは唇を離すと、幸せそうに目を細める。


「……送り迎え、最高です♡ こうして大好きなあなたと、ふたりきりで濃密な時間を過ごせますもの♡」


 キャスコが俺の胸板に体を預けて、子猫のように目を閉じていう。


「ジュードはモテモテだなっ! さすがわれの婿殿だっ!」


 俺たちの隣を飛んでいるのは、竜王の娘ロゼ。


 彼女の背中からは、炎でできた一対の羽が広がっている。


「ロゼよ、将来の結婚相手は、時間をかけてちゃあんと選ばないと。そんな今日会ったばかりの相手に軽はずみに求婚するなんて、いかんぞ」


「問題ないっ! ジュードは最高のオスだ! なぁジュードの女よ!」


 ロゼがキャスコに同意を求める。


「……ええ、もちろん。この星に存在するどんな男のひとよりも、ジュードさんは最高の男性です」


「いやはや……。というかロゼ。このお姉ちゃんにはキャスコって名前があるんだ。ちゃんと名前で呼ばないとな」


「わかった! すまないなキャスコ!」


「……気にしないでください、ロゼちゃん」


 そんなふうに話ながら、俺たちは剱岳付近までやってきた……そのときだ。


「キャスコ、待機」


「……敵ですか?」


「ああ。どでかいのが来る」


 ジッ……と俺は山脈の方を見やる。


 突如、山が振動しだしたのだ。


「……山が隆起している? 自然現象……いや、これはっ。ジュードさんっ!」


「ああ。ものすげえ大きさの、魔物だな」


 連なった山の一部分は、ゆっくりと持ち上がっていく。


 岩肌だと思っていたそれは、巨大な竜の顔だった。


「母上っ!」


 ロゼが竜に向かって手を振る。


「まじかー。アレがおまえのお母ちゃんか。でっけえなぁ」


「おう! 母上は偉大な御方だっ!」


 ぎょろっ、と竜王と目が合う。


 俺は【見抜く目】で、ロゼの母親をまっすぐ見返す。


「竜王……ランクSSS-か。とんでもない強さだ」


 現在最高ランクの魔物は、SSSランクの魔王。


 SSS-とは、魔王には及ばないが、しかしほぼ同格の強さを持つモンスターということである。


「…………」


 竜王はニッ……! と目を細めた。

 そう思った次の瞬間、俺は攻撃が来ることを予測した。


「キャスコ。風のバリアでロゼとお前自身を守れ」


 俺はホウキの上で体を縮め、ダンッ……! と右前方に向かってジャンプする。


「……【極大風障壁マキシマム・ゲイル・シールド】!」


 キャスコ周辺を、巨大な竜巻が包み込む。

 突如、前方から巨大な炎が押し寄せてきた。


 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ…………!!


 それは天と地を焼き尽くしながら、俺めがけて空を駆けてくる。


 あまり高温の青い炎は、届く前からとんでもない熱波を放っていた。


 俺は騎士のオキシーからコピーさせてもらったスキル【上級耐熱】を発動。


 文字通り炎の攻撃に対して、耐性を獲得するスキルだ。


 だがこれを用いても、俺は消し炭になってしまうだろうことは、容易く見抜けた。


 俺はインベントリから魔剣を取り出す。


 闘気オーラで身体能力を超向上させて、魔剣を横になぐ。


 スパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!


 押し寄せる炎の津波を、俺は強化した斬撃で、横に一閃する。


 竜王が吐き出した炎は、剣の風圧によってかき消される。


「あっちぃ。防いでこれか。直撃だったらやばかったなぁ。キャスコ達は……無事だな、よし」


 風のバリアのおかげで、熱波によるダメージはないみたいだ。


 女の子の繊細な肌が、やけどしたら大変だからな。


「さて……そんじゃ、反撃といきますか」


 俺は剣士キャリバーの持つスキル【空中歩法エア・ステップ】を発動。


 足下に空気の塊で足場を作り、空を駆けるスキルだ。


 そこに勇者の【高速移動】スキルを加える。


「長引けば生態系をこわしかねん。短期決戦だな。よーい……ドンッ!」


 俺は空を蹴って、超高速で、竜王へと肉薄する。


 ただまっすぐにツッコむのではない、上下左右に、軌道を変えながら進む。


 竜王の炎は強力だ。

 しかし放つのにはタメが必要となる。


 こうしてちょこまかと動けば、炎の準備に集中できない。よって、さっきのすごい炎の攻撃はできないってわけだ。


 にぃ……っと、竜王が唇を端をつり上げる。


「おっと、対応してくるか」


 見抜く目に、不意打ちは通じない。


 俺は空中の足場に留まり、攻撃に備える。

 竜王はガパッ……! とその巨大な顎を開ける。


 こぉおおお……と赤く輝くと、口の中から、無数の赤い球体が出現する。


「アレひとつに、とんでもないエネルギーが込められてるなぁ」


 カッ……! と赤い球体が強く発光する。

 ビゴォオオオオオオオオオオオオオ!


 無数の細い熱光線が、豪雨のごとく降り注ぐ。


 俺は空気の足場を広く取り、その場から無駄に動かない。


「ジュード! あぶないぞ! 【灼竜閃光雨ヴォル・スプレッド】だ! よけろぉおおおおおおお!」


 ロゼの悲痛なる叫びが、背後で響く。


 キャスコがロゼを背後からだきしめて、風のバリアから出ないように引き留めている。


 それでいい。俺のことは、気にしなくていいんだ。


 熱光線が雨のように降り注ぐ中、俺はその全てを……ギリギリで回避する。


「なっ!? ど、どうなってるのだっ!? あのビームの雨の中……ジュードはすべて避けてるだと!?」


 ロゼが仰天している。


「……ジュードさんの見抜く目は、万物を見抜きます。ビームの着弾点をすべて見抜き、ギリギリで回避しているのでしょう」


 キャスコが誇らしそうに言う。


 押し寄せる大量のビーム。

 俺は重心を落とし、最低限の動きで回避する。


 足を狙ったビームは、ジャンプして避けるのではなく、剣の腹で向きをそらす。


 やがて熱光線の雨が通り過ぎたタイミングで、俺は竜王へ再度突進をかける。


 竜王が、口を大きく開け、咆哮をあげる。


『シャァオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』


 びりびりびり……と大気が震える。


 空気の足場が崩れて、俺は地面へと落下する。


 相手はその隙を逃さず、巨大な爪で、俺を引き裂こうとする。


 頭から真っ逆さまに落ちている俺は、しかし敵の攻撃を、この目でしっかりと見ていた。


 超高速で飛来する竜の爪を、空中で体をひねってかわす。



「し、信じられないっ。あんな不安定な体勢で……攻撃をかわすなんてっ!」


「……あの人は百戦錬磨の戦闘経験により、どんな攻撃のかわし方も心得ているのです。さすがジュードさんです♡」


 背後で驚愕するロゼたちを横目に、俺は竜王の爪の上に着地する。


「足場サンキュー」


 俺は竜王の爪の上を、高速移動スキルを使って走る。


 爪から手へ。

 手から腕へと、竜王の顔面めがけて走って行く。


『シャァオオオオオオオオオオオオ!』


 竜王が逆側の爪で、俺に攻撃を加えてきた。


「そいつは悪手だな」


 先ほどと違って、今度は足場がある。

 攻撃が来るタイミングは、この見抜く目でバッチリと見えてるからな。


 爪がやってくるタイミングで、俺はバク宙でそれを回避する。


「なんて完璧のタイミング……ジュードは未来でも見えているのかっ!?」


「……まさか。骨格、攻撃の向きから、攻撃が来るタイミングを予測し避けているだけですよ」


「信じられぬ……人間業ではない!」


 俺は【空中歩法エア・ステップ】を使って空中に着地。


 そして一気に竜王へと距離を詰める。


 弾丸のごとくスピードで飛翔し、そのままの勢いで……俺は竜王へ拳を繰り出す……。


 ビタッ……!


 竜王の鼻先の前で、拳を止める。


 ぶわっ……! と風圧で、森の木々が暴風に吹かれたように揺れた。


 やがて、風がやむ。


『なぜ……私を殴らなかった?』


 地の底から鳴り響くような、重低音。


 それは竜王の発した言葉にほかならなかった。


「ここであんたを殴り飛ばせば、後ろに吹っ飛んで、大変なことになるからな」


 この巨体が落下した際のエネルギーは、彗星が衝突したのと同じくらいだと思う。


「それに……」

『それに?』


「初対面の女性を殴るのは、マナーに反するからな」


 俺は竜王の鼻先に立っている。

 そのすぐそばには、大樹と見まがう大きさの、黄金の瞳があった。


 縦長の瞳孔を持つその瞳が、まんまるに見開かれる。


『あーーーーはっはっはっは! なるほどなるほど! そうか……貴様はそういう人間か……うむ! なかなか面白いではないか! 気に入ったぞ!』


 竜王は実に楽しそうに笑う。

 それだけで地震が起きていた。


「できれば手合わせはこれで勘弁してくれませんかね?」


『応とも。しかし貴様、なぜ私が本気で殺そうとしていないことに気づいた。やはりその見抜く目を使ったからか?』


「まさか。素直で良い子の母親が、悪い魔物なわけないって思っただけだよ」


『なるほど……職業ジョブによる能力だけでなく、冷静に物事の本質を見抜く目を持っているか。ますます貴様を気に入ったぞ』


 竜王はまたぐらぐらと地面を揺らしながら笑うと、こういう。


『貴様の勝ちだ、小僧』


 ふぅー……と俺は安堵の吐息をつく。


「ジュードぉーーーーーーーー!」


「ロゼ……わっぷっ」


 ロゼがすっ飛んできて、俺の顔面にしがみつく。


「すごいぞジュード! 母様に、竜王に参ったを言わせた男なんて! 古今東西どこにもいないぞっ!」


「いやはや、照れますな」


 その後ろから、キャスコがホウキに乗って駆けつけてくる。


「キャスコ。終わったよ」


「……もう。ヒヤヒヤさせないでくださいね」


 ごめんごめん、と俺はキャスコの頭をなでる。


「……ジュードさんはずるいです♡ そうやって頭をなでれば、キャスコが簡単に許すとでもお思いですか♡」


 ふにゃふにゃと笑顔でキャスコさんがおっしゃる。


『なるほど。ジュードというのか。竜を打ち負かした強き男よ。我を真正面から打ち負かすとは。誠に見事なヤツだ』


 かくして、俺は竜王と戦い、勝利を収めたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 竜のお母さんの方は、果たしてどんなお姿(※人間体)なんでしょう? …ボンッキュッボンッ?(※死語?) …ロリババァ?(※そろそろ死語?) …熟女?(※さすがに皺クチャは…グハッ!?(…
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