80.英雄、古竜を単独で倒す
俺は勇者パーティのメンバー、キャリバー、オキシー、そしてキャスコとともに、討伐クエストに来ていた。
人間国ゲータ・ニィガ。
南方のとある山中で、古竜が発見されたのだ。
「いやー、このメンツでクエストって、ひさしぶりっすね、ジューダス兄貴っ!」
快活な笑みを俺に向けるのは、騎士の少女オキシー。
「だなぁ。魔王討伐した以来か」
「王都での騒動では、我々は別々に動いていたからな」
うんうん、と剣士キャリバーがうなずく。
「……国王は何を考えてるのでしょう。確かに、古竜種は我々勇者パーティで挑んでも苦戦する相手。しかし勇者でなく引退したジュードさんに依頼するなんて」
賢者キャスコが、不満げにつぶやく。
「まあまあいいじゃあないか。グスカスは療養中だしよ。このメンツで対処しようぜ」
「……しかしひどいです。ジュードさんを追いやっておいて、必要になったときだけ呼び戻すなんて。都合が良すぎます」
どうにもキャスコは、腹の虫が治まらないようであった。
俺はキャスコの唇に、軽く口づけをする。
「俺は大丈夫だからさ。ね?」
「……ジュードさん、ずるいです。そうやってキスすれば、キャスコが何でも言うことを聞くって思ったら、大間違いですからね♡」
「といいつつ、兄貴のことを許すキャスねえさんであった。っか~! いいなぁ、ラブラブっすね-。ねえキャリイ姐さん」
「……なぜ私に話を振る。べ、別にキャスコとジューダスがいちゃついていても、私はなんとも思っていない。羨ましいなんて断じて思っていない」
「アタシなんもいってねーんすけど、語るに落ちてるっすね~。ウケるぅ~」
とまあ、割合みんな緊張感はなかった。
「古竜と戦うんだぞ、もう少し気を引き締めないと」
「だいじょーぶっすよ。だぁって……ねえ?」
うんうん、と勇者パーティの少女達がうなずく。
「何せこちらには指導者ジューダスがいる。何も恐れることはない」
「……あなたがいれば百人力ですもの。安心して戦いに行けます」
「兄貴がいればまー、なんとかなるっしょ」
「いやいや、古竜はSS+ランク。魔王を除けば最強の種族だぞ」
「……けれどジュードさんがいたから、古竜は何度も倒せたでしょう?」
「俺がいたおかげじゃないよ。みんなが力を合わせてくれた結果じゃないか」
ふぅ……とパーティメンバー達が時を突く。
「兄貴は相変わらずっすね」
「ジューダス、もう少し自覚を持とう」
「……あなた、ほら寝癖ついてますよ」
どうにも緊張感のない少女達。
ううむ……まあグスカスが居ないとは言え、メンバーのほとんどが居るからな。
古竜相手でも、まあ倒せるだろう。
「よし、では古竜の巣へ向かうぞ。みな、ジューダスの邪魔にならないように気をつけること」
「「はーい!」」
「いやいや、みんなで頑張ろうね」
かくして、俺は勇者パーティとともに、古竜討伐へと向かうのだった。
☆
古竜は山中にある、洞窟に巣を作っているようだった。
俺たちは洞窟の前に到着する。
オキシーと俺が壁役。
キャリバーがアタッカー。
キャスコは後衛で魔法の準備。
いつもの陣形を組み、俺たちは洞窟内へと侵入する。
【……この我の領域を踏みいれし愚か者どもよ、何のようだ?】
洞窟の奥から、ぬぉっ、と巨大な竜が姿を現す。
かつて戦ったことのある、SSランクモンスターの火山亀よりは小さい。
だがやつから感じ取れる、圧倒的パワーは、SSランクを超えていた。
「俺たちはおまえを討伐しにきた。近隣の村を襲っているようじゃないか。もうやめると約束するなら見逃すが、どうする?」
【ハッ! 劣等種ごときが、最強種族のこの我に命令するだと! 笑止千万!】
古竜は俺たちを、見下した目で見ながら言う。
【人間達は、この古竜ベヒモス様の食料になれることを、むしろ光栄に思って欲しいくらいだ!】
「……交渉決裂だな。知性のある相手は、本当はやりたくないんだが」
「兄貴、しかたねーっす。やらないとやられちまうっす」
鉄兜をかぶったオキシーが、くぐもった声で言う。
【脆弱なる人間よ。自ら進んで我に喰われに来たこと、褒めて使わす。褒美に、苦痛無く殺してやることを約束しよう】
バッ……! と古竜が翼を広げる。
【一瞬だ。一瞬で、終わらせてやる。死ねぇい!】
古竜が、その巨体に見合わぬスピードで、俺たちに襲いかかってくる。
「は、はやいっす! 目で追えない!」
「え……? そうか?」
普通に見えた。
まあ俺には【見抜く目】がある。
……それにしても、こんなに古竜って遅かったか?
まあいい。
俺はボブから習得した闘気を練り上げ、身体能力を強化する。
【しねぇええええええええええい!】
古竜が大口を開けて、俺を丸呑みにしようとする。
がら空きの胴体めがけて、俺は拳を振るった。
ドガァアアアアアアアアアアアアン!
「……へ?」
古竜は俺のパンチを、よけることなく、まともに喰らう。
そして凄まじい早さで吹っ飛んでいくと、洞窟の天井をぶち破って、消えた。
「なんか、めちゃくちゃ軽かったな。古竜ってもっと重かった気がするけど……どう思う?」
「「「…………はぁ」」」
少女達が、呆れた顔でため息をついていた。
「え? なに?」
「いや……キャス姐さんから聞いていたけど、兄貴、バケモノっぷりに拍車がかかってるっすね」
「以前もジューダスがいたおかげで、楽々と古竜を倒せたが、これは予想外だ」
「……さすがジュードさん♡ 闘気を習得して、さらに強くなったんですね♡」
よくわからんが、俺以外はみんな、あまり驚いていない様子だった。
【な、なんだその強さは、貴様ぁあああああああああああああ!】
「あ、戻ってきた」
古竜がバサッ……! と俺たちの前に降りてくる。
「おまえ、なんかボロボロだけどどうかしたか?」
鱗が全て剥がれ落ちている。
見るからに体力を消耗していた。
【貴様のせいだろうが!】
「え、俺? まだなにもしてないけど」
武器すら使ってないのだが。
「というかおまえもどうしたよ。急に天井破ってどっかいくしさ」
【貴様が! 殴ったからふっとんだんだろうが!】
どうやら自分で逃げたのではないみたいだ。
【し、信じられぬ……古竜の鱗は絶対に破れぬ無敵の鎧だぞ? それを……たかが殴っただけで破るなんてっ!】
「換毛期だったんじゃないのか?」
【どこまでも……我を愚弄するか! もう許せぬ! わが灼熱の炎に焼かれて死ぬが良い!】
ぐっ! と古竜がブレスの構えを取る。
俺は【インベントリ】から魔剣を取り出し、ガードの構えだ。
ゴォオオオオオオオオオオ!
吐き出した炎は、まるで津波のように、俺に押し寄せてくる。
まずは炎を払いのけて、そしたら攻撃だな。
俺は魔剣を軽く、横に振る。
スパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
魔剣から斬撃が放たれる。
……なんか、妙に鋭かった気がする。
「よし、炎は消えた。さぁ、みんな。気を引き締めろ、戦闘開始だっ」
「「「はぁ~~………………」」」
キャスコ達が、なぜだろうか。
呆れたように、ため息をついていた。
「どうした?」
「兄貴……あれ見てっす」
「すでに古竜は、死んで居るぞ」
へ? と思ってみやると、確かに古竜は死んでいた。
「じょ、上半身が……消滅してる。いったいなにがおきたんだ?」
「……ジュードさんの闘気を込めた斬撃が、ベヒモスを消し飛ばしたんですよ」
マジか。
炎だけを消すつもりで払ったのだが。
「なんか、妙に古竜が弱くなってないか?」
「「「いや、あなたが強くなってるんですよ!」」」
「……もとより強かったジュードさんが、闘気を身につけたことで、古竜をも圧倒するほど強くなっていただけです」
「すげー! 兄貴ちょーすげーっす!」
「さすがジューダス。全盛期のときよりも強くなるとは。見事だな」
ううーん……あんま強くなった自覚、ないんだけどなぁ。
ともあれ、古竜討伐は成功したのだった。




