76.英雄、思いを告げて幸せになる
グスカスと別れた後、俺はキャスコ、ハルコともに、デートの続きをしていた。
時刻は深夜を回っている。
俺たちはゴンドラに乗って、エバシマの街の水路にいた。
「ふたりとも……ごめん」
俺は目の前の座る美少女二人に、頭を下げる。
「デート、台無しにしちゃって……ごめんな。本当ならクルージングを予約してたのに、俺のせいでキャンセルすることになって……」
俺はダンジョン突入までの経緯を思い出す。
夕方。クルージングの直前。
グスカスたちの様子が気になった俺は、ボブに通信魔法を入れたのだ。
そこで異常事態を察知した俺は、クルージングを取りやめて、救助へと向かったのである。
「……気にしないでください、ジュードさん」
「そうです! おらたち……ぜんっぜん大丈夫ですから!」
二人は笑顔で、俺を許してくれた。
「でも……ディナー楽しみにしててくれたのに」
「……何を言ってるのですか。私たちが楽しみにしていたのは、ジュードさんと食事をすることです」
「ジュードさんが一緒にいるだけでいいんだに! 何をどこで食べるか、なんて全く関係ないです!」
「ふたりとも……ありがとう」
俺はもう一度深く頭を下げる。
許してくれたとはいえ、俺がふたりの楽しみを奪ってしまったことは事実なのだ。
「……そんな浮かない顔をしないでください。私たち、わかってますから」
キャスコが俺のほおに手をあてて微笑む。
「わかったって……何が?」
「……あなたの女になる、ということが、どういうことかという意味です。ね、ハルちゃん」
「はいっ! ……どういう意味ー?」
キャスコは苦笑すると、席に座り直す。
「……ジュードさんは凄まじくお人好しです。どんな状況下に自分がおかれていても、困っている人を助けにいってしまう。たとえ大事なデートの最中でも、です」
「うう……すまん……」
「……責めているのでは決してないです。助けて欲しいと差し伸べられた手を、ほうっておけない。それは素晴らしいことです。そして、あなたという男の魂の形なのです」
「えっと……ええっとぉー……キャスちゃん、おら、難しくて何言ってるのかわかんねーだに……」
キャスコは苦笑すると、ハルコの頭をなでながら言う。
「……ようするに、この人がこういう性格ってことは、もう十二分に私たちは理解してるので、今更気にする必要は無い。ってことです」
「ああ、そういうこと! うん! おら、わかってますから! ジュードさんがどういう人かってことは!」
「……そして、あなたが決して、私たちをないがしろにしていないってことも、十分承知してますよ」
キャスコとハルコは俺を見て微笑む。
「……私たちよりも他の人の命を優先しているのではなく、私たち全員を等しく大切にしている。そうですよね?」
「ああ……もちろんだよ」
俺はふたりをみて、とてつもない安心感を覚えた。
この二人は、自分を深く理解してくれている。
受け入れてくれている。
そのことが……こんなにも嬉しいとは。心地よいとは。
「ジュードさん……」
ハルコが俺に近づいてくる。
俺の手を握って、見上げてくる。
「おら……嬉しかったです。今日、ダンジョンへ行くってときに、手伝ってって言われたことが」
少し浮かない表情で、ハルコが語る。
「おらはジュードさんやキャスちゃん、タイガちゃんみたいにすごいことできません。だから、ジュードさんたちの足を引っ張ってるんじゃあないかって、邪魔者なんじゃないかって、思ってました」
「そんなことは……」
「でもね、だからこそ、ジュードさんに頼りにされて、嬉しかったんです! これからも頼ってください! 遠慮なんてしないでください!」
ハルコが、満開の桜のような、明るい笑みを向ける。
「わたしはジュードさんのこと、大大、だぁいすきですから!」
「……私もです。私たちの全てはあなたのものです。全てをあなたに委ねます。だから、あなたもまた、私たちに遠慮せず、寄りかかってください」
ふたりの笑顔を見て……俺は覚悟が決まった。
この二人は、俺に全幅の信頼を置いてくれている。
大好きな少女たちが、好きで居てくれるだけでなく……である。
ならば俺も、きちんと、誠意を持って応えないと。
「ハルちゃ……ハルコ。それに……キャスコ」
俺はインベントリから、一つの【箱】を取り出す。
そして蓋を開ける。
「わぁ……! きれーな指輪だに!」
それは銀の台座に、宝石が一つ乗っているだけのシンプルな指輪だ。
桜色の宝石、蒼色の宝石の指輪。
それぞれ一組ずつが、台座に収まっている。
「ペアリング。桜色のがハルコので、青いのがキャスコの」
俺は二人の目を見て、ハッキリと言った。
「あなたたちのことが好きです。俺と、付き合ってください」
……ちょっとベタすぎただろうか。
けど大事なのは自分の思いを、正確に伝えることだから、これでいいんだ。
ふたりは目の端に涙を浮かべながら、しっかりとうなずいた。
「「はいっ!」」
二人の返事を聞いて、俺は……いや、俺たちは全員、ホッ……と安堵の吐息を漏らす。
「はぁ~~~~…………良かったぁ……。ちゃんと言ってもらえてぇ~」
「……まったくです。ジュードさんヘタレだから、ここでもその鈍感勘違いっぷりを発揮するのではと、ヒヤヒヤしてました」
「鈍感? いやぁ、そんなことないだろ」
「「…………」」
ふたりはあきれたような表情で、ため息をつくと、すぐに苦笑する。
「……ジュードさんらしいですね」
「でもでも、そんなとこ、すっっごく大好きです!」
ううーむ……どうやら俺は人より鈍感らしいな。
気をつけねば。
「えっと……じゃあ、ハルコ。お手を拝借していいですかい?」
「もちろんです!」
ハルコが嬉々として、左手を差し出してくる。
「ええっと……ただのペアリングだから、右手でいいんだよ?」
「いいえ! これはもう……結婚指輪も同然だに!」
「いやいや気が早いって。ふたりとも付き合っていくうちに、俺に愛想を尽かせて別れるみたいなことも……」
「「絶対無いから!」」
ふたりがカッ……! と目を見開いて、俺を叱りつける。
「ジュードさんひどい! わたし……本気なのに!」
「……ジュードさんのお嫁さんになるつもりで好きと伝えたはずなのですけど、どうやら本気が伝わってないようですね。悲しいです」
「あ、いや……ごめんって。その……でも、人生を決めるのは早くないか……?」
ふたりはそろって、首を横に振る。
「もうおらの人生はジュードさんのお嫁さんになって、たっくさんジュードさんの赤ちゃんを産むことって、決めてるんです!」
「……ハルちゃんと同意見です。そして、よぼよぼになるまで幸せに暮らす計画はもうできてるんです」
どうやら二人は、結婚まで視野にいれていたらしい。
「……ジュードさんは違うんですか?」
「おらたちじゃ……お嫁さんにふさわしくないかや?」
……どうやら俺は、そうとうに、この二人から好かれていたらしい。
恋人を通り越して、夫として俺を受け入れてくれようとしているようだ。
「ありがとう。気持ちはすごく嬉しいよ。けど今すぐここでプロポーズって訳にはいかない。結婚は一生のことだから、俺はふたりによく考えて欲しいな」
「おらはジュードさん以外のひとと結婚なんてしたくないです……ジュードさんは、おらと結婚したくないのかや?」
「そんなことないよ。けど軽々しく決めていいことでもないと思う。まずはお互いのことをこれから、いっぱいいろんなことしながら、知っていこう。ね?」
ふたりはすこし不満そうではあったが、納得してくれた。
「……うれしいです。私たちの人生を、きちんと考えてくださって」
「当たり前だよ。大好きな2人のことなんだからさ」
俺は指輪を取り、ハルコに桜色のそれを、キャスコには青いそれを。
それぞれはめていく。
ややあって、俺は二人を改めて見て言う。
「ハルコ、キャスコ。改めて……頼りない彼氏だけど、これからよろしく」
ふたりは晴れやかな表情を浮かべると、こくりとうなずく。
ハルコたちは俺に抱きついてくる。
俺はふたりの唇に、順々に、唇を重ねた。
……かくして。
勇者パーティを追放されたただのおっさんだった俺は、辺境で平民として暮らすこととなり。
そして……ふたりの可愛い恋人をとともに、これからも人生をともに歩んでいくことになったのだった。
次回から新展開となります。
グスカスには十分に地獄を苦しんでもらい、ジュードには幸せな道を歩んでもらいます。
今後も頑張って書いていきますので、よろしければ広告下の【☆☆☆☆☆】からポイント評価を入れて下さると嬉しいです。
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