08.英雄、S級モンスター【雷獣】をテイムする
第二王子がやってきてから、3日がたった、ある雨の日のことだ。
雨が降ると、みんな外に出たがらない。なので喫茶店ストレイキャットは、朝から閑古鳥が鳴いていた。
カウンターでぼけーっとしていたそのときだ。
からんからん♪
「「ししょー! お願い助けてー!」」
店のドアが開くと同時に、双子冒険者のキキとララが、入ってきた。
「「大変なのししょーにしかできないの助けて!」」
カウンターに手をついて、身を乗り出しながら、双子少女が食い気味に言う。
「まてまて。落ち着けって」
俺はバックヤードからタオルを取ってきた。双子は雨に濡れたままやってきたからだ。
ふたりを窓際の席に座らせる。熱いコーヒーを作ってきて、ふたりに出す。
双子たちはコーヒーを飲み、一息ついた後、俺に言う。
「「ししょー、S級モンスターを、倒してきてくれないでしょうかっ?」」
「ふぅむ……」
この世界には、モンスターと呼ばれる、異形の存在がいる。
強さに応じて、ランク付けされているのだ。
下はF級(動物と同等の強さ)から、
上はS級(自然災害と同じレベル)、
SS級(明確な殺意を持った自然災害)、
SSS級(規格外)、
と。
ランクが上がれば上がるほど、やばい相手になる。
ちなみにS級は俺にとっては普通だ。基本的に勇者パーティが相手にするのは、S級以上のモンスターだからな。
それはさておき。
「倒してきてくれないって言われてもなぁ。まずは具体的な話を教えてくれ」
双子が語ったところによると、以下のとおり。
・3日前、【ミョーコゥ】と呼ばれる田舎街に、S級モンスター【雷獣】が突如出現。
・【雷獣】は、なぜか知らないが暴走している。
・すでに近隣に被害が出ており、このまま放置しておくわけにはいかない。
・駆除したいが相手がS級モンスターであり、太刀打ちできる冒険者がいない。
・そこでA級モンスターをたやすく討伐した俺に白羽の矢が立った。
・ギルドマスターが双子を経由して、俺宛てに、依頼した。
以上。
「ジュリアちゃんだけは知ってるんだっけ、この間のワイバーン、俺が倒したってこと」
「「うん、ギルドマスターだけ」」
ギルマスのジュリアだけは、あのワイバーン討伐の際、俺の実力がA級以上だってことを知っている。この双子を除いてな。
「ふぅむ、なるほど……」
話を聞いた限りだと、モンスターが出現してから3日で、かなりの被害が出ているらしい。
「それは確かに、見過ごせないな」
「「! じゃ、じゃあ!」」
「ああ、俺がそいつをとっちめてくるよ」
俺がうなずくと、双子たちがにぱーっと笑う。
「しかし……ふぅむ、解せないな」
「「なにがー?」」
「いや、突然出現して、突然あばれだしたってのがさ」
モンスターは別名を魔物という。
魔素という、魔力の元となるガスを吸ったことで突然変異を起こした【動物】だ(スライムなどの例外もいるが)。
つまり何が言いたいかというと、モンスターは突然、降ってわいて出てこないということだ。
フィールドをうろついていたら突然にょきっと生えてきた、ということはない。植物のように。
必ず巣や、そして親が近くにあるはずである。あるいは地下ダンジョンのような魔素の濃い場所にいるはず。
だが話を聞く限りだと、そのS級モンスターは1匹のみ目撃された。
しかも野外でだ。
その上、それまで、そのモンスターをその地域で見た人間はいないという。
「突然降ってわいて出るようなことってないだろうから、そのモンスターはどこかに元々いたってことになる。じゃあどこにいたんだ? 暴れ出した理由は? ……不明なことが多すぎる」
うむむ、と俺が考え込んでいると、
「「え、じゃ、じゃあ……依頼受けてくれない?」」
不安そうな双子。俺は安心させるように笑って言う。
「受けないなんて言ってねえよ。だいじょうぶ、こう見えてこのおっさん、結構強いんだぜ?」
おどけるように、俺が言う。双子はぱぁっと顔を輝かせると、
「「よーく、知ってる!」」
ともあれ、俺は依頼を受けて、S級モンスター・【雷獣】の駆除に向かうことになったのだった。
☆
人間国ゲータニィガの大地は、【ノ】の字を描く形をしている。
俺たちの住む【ノォーエツ】は、【ノ】の線の真ん中から南よりの街。
そして【ミョーコゥ】は【ノォーエツ】から、さらに南下した場所にある。さらなるど田舎町だ。
俺は勇者からコピーさせてもらった【高速移動】を使って、目的地へと向かう。
本当にあっという間に到着。
「さて……この辺の森の中で目撃されたんだったな……」
やてきたのは【ミョーコゥ】の近く、【ハナブサ山】という山の中だ。
「しかし天気悪いな。もう冬だってのに雨ばっかりだ」
空は分厚い雨雲に覆われている。
ざぁあああああああああ……………………。
「服めっちゃ濡れるなぁ。雨よけ用に外套着てきて良かったぜ」
さておき。
「それじゃあさっそく……【索敵】」
俺は暗殺者のスキル、【索敵】を使用する。
害意のある敵の存在を知らせるスキルを発動。暴れてるであろうS級モンスターをこれで見つけ出せる。
……と思っていたのだが。
「あれ? なんで? 索敵にひっかからないぞ?」
何度スキルを発動させても、索敵スキルに、件のS級モンスターが引っかからない。
「どうなってるんだ? スキルの故障……なんてないしなぁ。ふぅむ、困ったなぁ……」
と敵を見つけられず、途方に暮れていたそのときだ。
ピカッ…………!!!
と激しい光が瞬いたと思った瞬間、雷が、【俺をめがけて】落ちてきた
「…………!」
俺はとっさに【動体視力強化】のスキルを発動。さらに【敏捷性強化】を使って、雷よりも早く【高速移動】スキルをオンにする。
超強化された脚力を使って、雷が直撃する前に、なんとか回避できた。
ずどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!
さっきまで俺が居た場所に、雷が落ちる。でかい穴ができる。
「偶然落ちた……わけないよな!」
ずどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!
ずどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!
立て続けに2発、俺めがけて雷が落ちてくる。あきらかに、俺に雷を【当てよう】としていた。
その段階になって、俺の索敵スキルに反応がある。
「すげえ早さで移動してやがるな。こいつがキキララの言っていた、雷獣ってやつか」
俺は勇者の【身体能力超強化】と、【高速移動】スキルを発動させる。
超高速に動いているそいつの早さに、追いつくためのスキルだ。ついでに【動体視力強化】もつけておく。
シュパパパパパパッ……!!!
風よりも早く、敵に向かって、俺は走る。
ずどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!
雷が俺めがけて飛んできたので、騎士の【反射】スキルを発動。
やってきた雷を手ではじき、あさっての方角へと飛ばす。
さて雷を打ってきた雷獣。
俺に攻撃をはじかれたと思ったやつは、次なる一手に出るだろう。
もう一撃食らわせるか。あるいはさらなるスピードで動いて、俺を攪乱させるか。
だが……。
「え? あれ? 逃げていく……」
雷獣は俺に雷を打った後、逃げていったのだ。反撃も、追撃もせずに
「ふぅむ……。おかしい」
俺は雷獣を追っかけながら、疑問に思う。
「どうして逃げるんだ? 相手はS級だぞ。人間なんて容易く倒せると思ってるだろうに」
まだ俺が反撃に出てないので、相手は強さをはかれてない。つまり侮っているはずである。
だのに……雷獣は逃げた。
「これは……何か理由があるのか?」
そもそもが突然出現したり、理由もなく暴れ回ったりしている。さらに加えて俺から逃げている。
不自然なことだらけだ。
「…………試してみるか」
俺は超高速で逃げる雷獣を追いかけながら、【見抜く目】を発動。
こいつは対象の持つあらゆる情報を、見抜くことのできるスキルだ。
あらゆるとは、文字通り何でもだ。
俺は逃げる雷獣の後ろ姿、逃げる様を見て、その【なぜ逃げるのか】という理由を見抜く。
『雷獣は追跡者を恐れているから』
という答えが返ってくる。脳内に直接。
「恐れる? 俺を? なんで?」
『雷獣は3日前に生まれたばかりの幼子。周りの存在すべてを恐れているから』
……なるほど。
俺は追跡をやめて、立ち止まる。そして両手を広げて、敵意のなさをアピールする。
すると雷獣は、ぴたり、と逃げるのをやめた。
俺から少し離れた場所に、雷獣がいる。
オレンジがかった、金色の体毛。見た目は【猫】だ。ただし巨大な猫。
生まれたばかりだというのに、人間の大人くらいの大きさがある。成獣はどれくらい巨大なんだろうか?
ぱっと見で猫にしか見えない雷獣だが、体には縞模様が見て取れる。
「猫というか虎だな。……さて」
俺は【見抜く目】を使って、この赤ん坊猫の親を探す。しかしかえってきたのは、
『この雷獣の親は、この子を生んで体力が尽き果て、死んでしまった。ゆえに母親を探し求めて、暴れ回っていた』
という答え。
「なるほどなぁ……。悪気があって周りに迷惑かけていたわけじゃないんだな」
どうりで索敵スキルに引っかからないはずだ。害意はないんだから。
もろもろの疑問に答えが出た。さて、どうするか……。
「なあおまえ。母親死んじゃってるってことは、腹減ってないか?」
生まれたばかりの動物は、母親から餌をもらわないと死んでしまう。
だがこの子の母は死んだ。父親の姿は見えない。自力で餌をとれないこいつは、さぞ腹を空かせているだろう。
「ちょっと待ってな」
【…………?】
俺は【ステェタスの窓】の【インベントリ】を開く。
中から店のミルクと木のお皿を出す。
「ミルクで大丈夫かな? これ牛の乳なんだが……まぁだめなら別のやつを飲ませてみるか」
俺は木の皿にミルクを注ぐ。そして俺の前に、すっ……と置いた。
【…………?】
雷獣が首をかしげる。
「飯だよ飯。ごはん。美味いぞ」
【…………?】
そう言っても、雷獣は首をかしげるばかりだ。
「飲み方がわからねえのか」
そうだよなぁ。、赤ん坊は母親から、ミルクを与えてもらうんだからなぁ。
「よし」
俺は木の皿を持って、雷獣にゆっくりと近づく。
【!】
雷獣がびっくりして、俺めがけて、雷を打ってきた。
ずどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!
超高速で、雷が俺めがけて飛んでくる。
それに対して……俺は、何もしなかった。
反射スキルも使わなければ、回避行動も取らない。
皿を持った状態で、立ち止まる。抵抗の意思を持たない。
果たして……。
ずどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!
と、雷が、落ちた。
俺を、避けてだ。
【ぐる…………】
「ほら、怖くないぞ。こわくない、こわくなーい」
俺はにこやかに笑いながら、雷獣へ近づく。雷獣はびびってはいたものの、しかし逃げようとしなかった。
やがて……。
雷獣の、すぐそばまでやってくる。
「近くで見ると、めっちゃパチパチいってるな。静電気でも常に出てるのか?」
【ぐうる……?】
俺が首をかしげると、雷獣もつられるように、首をかしげる。かわいいなぁ。
「ほらこれ。ごはんだ。今からおまえに飲ませる。ほら、口開けな」
【ぐ、……る?】
「口だよ口。ほら、あーん」
【ぐぅ……】
雷獣は少し迷った後、んが、と口を大きく開ける。
「そうそう。ほら、飲みな」
俺は雷獣の口に、お皿を押しつける。そしてお皿を傾けて、ゆっくりと中身を流し込む。
【!?!?!?!?】
雷獣が大きく目を見開いた。
「どうだ?」
【ぐるぅ……♡ ぐるぅ……!】
うれしそうにゴロゴロと喉を鳴らす。そしてまた、んがっ、と口を開いてきた。
「もっとほしいのか?」
【ぐぅ!】
「ぐぅじゃわっかんねー。でも、言いたいことは伝わったぜ。どんどん飲みな」
俺はミルクを雷獣に与え続ける。雷獣はおいしそうに、ミルクをごきゅごきゅと飲みまくった。
ややあって。
【ふにゃぁ♡ ふみゃぁあ……♡】
雷獣は文字通り猫なで声で、俺の体にすりすり、と頬ずりしてくる。
「いてて。静電気がパチッときて痛いってば」
【ふにゃぁ?】
「ふぅむ……人の言葉はわかるけど、静電気って単語がわからないのか」
知能は高そうだ。
【ふにゃ♡ ふみゃぁ♡ ふーみゃぁ♡】
雷獣は目を細めて、俺の体にすりすりと自分の体をこすりつける。
「なんだおまえ? 俺のことが気に入ったのか?」
【みゃあ♡】
雷獣はうなずく。
「はは、まさかS級モンスターに好かれるなんてな。光栄だぜ」
【…………】
じっ……と雷獣は俺を見上げる。そして、潤んだ目を向けてくる。
「どうした?」
【きゅう……。きゅうぅ……】
さみしそうに、雷獣がなく。どうしたのだろかと思って、鳴き声に込められた雷獣の感情を【見抜く目】で見抜く。
『雷獣はおびえている。目の前のお気に入りの人間が、母親のように死んで消えてしまうのではないかと』
「ふぅむ、なるほどなぁ……」
この子は孤児だ。そしてまだ幼子。この子を放っておくことも、まして討伐することなんて、俺にはできない。
「おまえ、もし俺がおまえの面倒を見てやるっていったら、もう周りに迷惑かけないか?」
【! ふみゃあ!】
こくこくこく、と何度も雷獣がうなずく。
「よし、じゃあ今日からおまえはウチの子だ。ウチの子になれ」
俺が言うと、雷獣は大きくうなずき、
【うん! わかった! おとーしゃん!】
といった。
「よしよし、わかってくれたか……。って、え? おとーしゃん? え、しゃべった?」
俺が瞠目してる間に、雷獣は【ふみゃーーーー!】と気合い1発。
ぴしゃ!
と雷が瞬く。上空から雷が、雷獣めがけて落ちる。
閃光の後には、ひとりの……女の子がたっていた。
「女の子……ずいぶんと幼い……人間? いや、猫耳としっぽが生えてるな」
というか、特筆すべきはそこじゃなかった。
「きみ誰? なんできみ、全裸なの?」
「ふにゃあ! おとーしゃんっ♪ おとーしゃんっ♪」
【ふにゃあ】そして、【おとーしゃん】。それはさっき、雷獣が発したセリフと同じだった。
つまり、だ。
「この目の前の全裸幼女は……雷獣の人間の姿、ってこと?」
「ふみゃあ♡ おとーしゃーん♡」
おいおい雷獣を飼うつもりが、なんか知らないけど子供を養うことなったぞ。
……ま、いいか。
こうして俺は、雷獣をうちの子として、育てることになったのだった。
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