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70.英雄、バイト少女たちとデートする



 玉藻と分かれた、数時間後。


 エバシマのホテルにて。


「ふぅー……落ち着かん」


 ホテルの部屋で、俺は時が来るのを待っていた。


 ちらちらと時計を、何度も見てしまう。


 立ち上がって、座って、しかしやっぱり立ち上がって……を繰り返す。


「おとーしゃん。まぁまぁ、おちついて」


 ふよふよ、とタイガが俺の隣にやってきて、ベッドに座る。


 自分の隣を、尻尾でぺしぺしとたたく。


「そうだな。落ち着くか」


 ふぅ、とため息をついて座る。


「ハルちゃんたちとのデート、そんなにきんちょーしてるんですかっ?」


「ん? んー……。うん、まぁ……そっちも……ね」


 もちろんハルコたちのデートもドキドキするのだが。


 今、俺の頭のなかを占領しているのは、別の不安だった。


 エバシマ付近に出現した、海底ダンジョン。


 今日はそこへ、冒険者たちが向かうという。


 新造ダンジョンは予測不可能なできごとが多い。


 もしも……と脳裏をよぎる。


「おとーしゃんっ! しゃんとして!」


 タイガは俺の膝上に乗ると、俺のほっぺをむにーっと引っ張る。


「しゃんとして! いつもしゃんとしてないけど、だからきょーはしゃんとして!」


「ふぁーい」


 タイガが手を離すと、膝の上に乗っかってくる。


 俺はタイガの頭をわしゃわしゃなでる。


 ぱたたっ、とタイガの獣尻尾が、嬉しそうにパタパタと揺れた。


「きょーのこと、ハルちゃんたちとてもたのしみにしてました。おとーしゃんは、ちゃんとハルちゃんたちに、こたえてあげてください」


「そうだなー……うん。そうだな」


 ……とはいえ、と脳裏を不安がよぎる。


 ううん、駄目だ落ち着かない。


「タイガ、ちょっと散歩いくか」


「だめー! デートあるでしょぉ!?」


 くわっ、とタイガが犬歯をむいて言う。


「大丈夫。デートは17時から。あと2時間くらいある。ジェラートでも食べに行こう」


「いこう!」


 タイガを肩車して、俺はホテルの部屋を出る。


 ハルコたちは隣の部屋にいる。


 だが今日の朝からひきこもっているのだ。

 立ち入り厳禁を、キャスコから言い渡されている。


「ハルちゃんたちなにしてるのかなぁ」


「きっとおめかししてるんだよ」


「あー、それな。けしょーはおんなのぶきですからなぁ」


「おっ、タイガさん物知り~」


「あたちそーゆーとこ、びんかんだからね」


 俺たちはホテルを離れて、近くをぶらぶらする。


「おとーしゃんたちいないあいだ、あたちどーなるの?」


「玉藻が面倒見てくれるってさ。だから安心してな」


「タマちゃんちにおとまりかぁ、たのしみ!」


 ……とはいえ、玉藻にわるいことをしてしまった。


 国が大変な時期にあるのに、タイガのおもりを任せてしまって。


 けど今朝、分かれるときにそのことをいったら、『気にしないで』と笑っていた。


 あの子、結構自分でため込むところあるからな。


 頼ってくれて全然良いのに。


 ……と、ぼんやりしながら歩いていた、そのときだ。


「師匠! ジュード師匠~!」


 どこからか、聞き覚えのある声がした。


「あー! おとーしゃん、ボブちゃんだ!」


 タイガが指さす先に、あの小柄な黒髪の子ボブがいた。


 ボブは笑顔で手を振りながら、猛然と俺の元へとやってくる。


「相変わらず元気だなぁ」


「ジュード師匠! なんて偶然! あえてとても嬉しい……げほごほ」


「あー、ほらほら落ち着きなさいって」


 すぅはぁ、とボブは深呼吸した後、ニコッと笑う。


「お久しぶりです、師匠!」


「久しぶり~。っつてもこの間ぶりか。どうしてエバシマにいるんだ?」


「冒険者として、この国でクエストを受注したんです!」


「もしかして海底ダンジョンのクエストか?」


 ボブは目を丸くしてうなずく。


「そうです! さすがジュード師匠! ぼくのクエストまでお見通しなんて!」


「いやたまたま言い当てただけよ。しかし……ふぅむ、そうか。ボブがいるなら安心かな」


 この子は発展途上とはいえ、十分に強い。

 ボブほどの猛者がいれば、何かあっても十分に対処できる……か?


「ボブのほかには、どんな奴が海底ダンジョンへ行くんだ?」


「ギルドで聞いた限りだと、かなりの実力者が来るみたいですよ。Sランク冒険者集団の【黄昏の竜】とか。あ、参加者のメンバー表みますか?」


「ああ、サンキュー。えーと、どれどれ……」


 参加者リストに、俺は目を通す。


 Sランク冒険者が結構な数、今回の作戦に参加するようだ。


 なるほど、玉藻が大丈夫といった根拠はそこか。


 俺が心配するまでもなく、準備万端ということか。


「……ん? あれ、俺の見間違いか?」


「どうしました、ジュード師匠?」


「あ、いや。なんか参加者リストに、グスカス……俺の知人の名前があってさ」


 リストの一番下に、【グスカス】と書いてあった。


「あれ? あいつ今、冒険者やってるのか?」


「……そうですね」


「はえー、知らんかったわ」


 そうか、あのグスカスがなぁ。


 俺は知らず、嬉しくなる。


 グスカス病気療養中なのに、人のために冒険者として、この国を救うために、頑張ろうとしていること。


 俺はそれが、嬉しかった。


 なんだ、ちゃんと勇者してるじゃあ、ないか。


「うん、これ見て安心したよ」


 勇者のステータスを持つグスカスが、作戦に参加しているのだ。


 ボブにSランク多数。そして勇者。


 万全の布陣といえる。


 俺が出るまでもなく、大丈夫そうだな。


「あ、そうだ。もしものときのために、連絡先おしえてくれない?」


「もちろんです!」


 俺たちは通信魔法の、連絡先を交換し合う。


 これで離れていても、遠くから魔法でボブと会話できる。


「ジュード師匠の連絡先をもらった! やったー! うれしー! 一生のお宝だ!」


「大げさだなぁ」


「ねーねーおとーしゃーん……」


 タイガが不満そうに、ほおを膨らませている。


「ジェラートぉ……」


「おお、そうだった。ごめんな。じゃあ、ボブ。気をつけて」


「はい! ありがとうざいます!」


 俺はボブと別れる。


 ジェラート屋へと向かう俺の足取りは、心なしか軽い。


「おとーしゃん、ごきげんさんですね?」


「おう。ちょーご機嫌だよ」


 グスカスがやっと、人のために何かするようになった。


 俺の言葉が、教えが、ようやく届いたみたいに思えた。


 だから……うれしかった。


「よぅし、これで心配なくなった! デート、がんばるぞぅ」


「おー! がんばれおとーしゃーん!」



    ☆



 数時間後。夕方。


 俺はホテルの入り口にいた。


「お、お、おまたしぇしましゅたっ!」


「……ごめんなさい、遅れてしまって」


 ハルコとキャスコが、俺の元へとやってきた。


「ううん、全然待ってないよ。時間ぴったし」


 俺は少女たちを見やる。


 正直……驚いた。


「ど、どど、どう……かや?」


 ハルコが恐る恐る、自分の服装を聞いてくる。


「うん、とっても綺麗だよ。キャスコも見違えた」


 ハルコは可愛らしい赤いドレスを、キャスコは上品な黒いドレスを、それぞれ着ている。


 長い髪をアップしにしたハルコ。

 逆に髪の毛を伸ばし、編み込んでいるキャスコ。


「キャスコ、髪の毛どうしたんだ?」


「……魔法で伸ばしてみました。どうでしょう?」


「すごい似合ってるよ。ロングもいいな」


「……ふふっ♡ ありがとうございます」


 しかし……びびった。

 マジで化粧は、女の子を【女】に変えるんだなぁ。


「……驚きました?」


「ああ、なんというか、うん。綺麗だなぁ」


「……もうっ♡ 語彙力なさすぎですよ♡」


「ふへ、ふへへ~♡ 綺麗だってぇ~……♡ キャスちゃん、綺麗だってぇ~……♡」


 ハルコがふにゃふにゃと笑う。

 あ、いつものハルコだ。なんか安心した。

「こんな美女ふたりをエスコートできるなんて、恐れ多いよ」


「そ、そんな! ジュードさんとぉってもかっこいいだに! 髪も服装もビシッとして、いつもの倍くらいかっこいいです!」


「……いつもそれくらい、しゃんとしてくれるといいんですけどね♡」


「すまんなぁ、いつもだらしなくて」


 さすがに今日は、いつものシャツ+ズボンスタイルだと、ハルコたちに失礼だからな。


 きちんと身なりを整えてきたのである。


「さて、じゃ、いきますか」


「「はいっ♡」」


 俺たちは歩き出す。


「人……すごいことになってるだに~……」


「……夕方ですし、お祭りの真っ最中ですからね」


 精霊祭ということで、仮面をかぶった人が道を行き交っている。


「俺らも仮面つけるか?」


「「…………」」


「じょ、冗談でーす」


 そう、今日は本気のデートなのだ。


 仮面をつけるなんて、浮ついたことをしちゃあいけない……のかな?


 たぶん、そういうことだろう。

 言った瞬間、ハルコたちの目つきが、暗殺者ですかってくらい鋭くなったから。


 俺の左右に、ハルコとキャスコが並んで歩く。


「わぁ! 見てみてジュードさん! 光の玉がうごいてます! きれーですよ!」


 街のあちこちに、光る球体のようなものがただよい、動いている。


「魔法ですかや?」


「いや、違うよ。あれは精霊。みんな遊びに来てるんだ」


「……精霊には光点だけの微細なものから、人の形を取る精霊までたくさんいます。高い位の精霊になればなるほど、人型に近づいていくんですよ」


「ふえー……。すごいなぁ~……」


 精霊の子供たちが、俺たちに混じってはしゃいでいる。


 微細な精霊たちも、楽しげな雰囲気に惹かれて、あちこちから押し寄せていた。


 精霊たちは特殊な光を発する。


 それが夜の街に実に映えた。


「水路に精霊さんの光が反射して、とってもきれーだにぃ~……」


 はぁー、とハルコが感嘆の吐息をもらす。


「クルージングもご用意していますので、乞うご期待」


「くるーじんぐ?」


「……船に乗って食事をしたり、景色を楽しんだりする催し物のことですよ」


「わぁ! すごい! ロマンチック!」


 きらきらとハルコが目を輝かせる。


 良かった、喜んでくれそう。


「そんじゃ、それまでいろいろ見て、時間潰そっか」


「「はーい!」」

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