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62.英雄、魚人の群れを退ける



 俺がクラーケンを討伐した後。


 海岸沿いの道路わきに馬車をとめ、俺たちは休憩していた。


「いやぁ、旦那。ありがとうございました! なんてお礼を言っていいやら」


 先程助けた獣人の男が、ぺこぺこと頭を下げる。


「お礼なんていらないよー。大したことしてないし」


「いやいや、すごいですよ旦那! クラーケンっていえばSランクのモンスター。それを単独で倒すなんて! なかなかできることじゃない!」


 他の船員たちも、そうだそうだとうなずく。


「おれにはわかる、あんたがただものじゃあないってことを!」


「いやいや、ただのおっさんだよ」


「「「いやいやないない」」」


 船員も、そしてハルコたちも、揃って首を横に振った。


 なんでだろ?


「おとーしゃん、だいじょうぶ? お風邪ひいてませんかー?」


 娘のタイガが心配して、俺の膝上に乗って来る。

 俺はさっき、2月の冷たい海に飛び込んだばかりだからな。


 タイガは風邪をひかないか気にかけてくれているのだろう。


「おー、全然平気だよ。心配かけてごめんなー」


 わしゃわしゃ、とタイガの頭をなでる。


 俺は船員たちとたき火を囲っている。

 毛布でくるまり、火に当たっている。


「……ハルちゃん、これはチャンスですよ」


 キャスコとハルコが、俺からちょっと離れた場所で、ぼしょぼしょと何事かを話している。


「……濡れた体を温めあう。これは非常時、非常時ですから!」

「……え、ええー。おら、は、はずかしいよぅ」


「……何も恥ずかしがることは有りません。非常時ですから!」

「そ、うだね……ひ、非常時だもんね!」


 うんうん、とハルコたちがうなずきあっている。


「ところで旦那は、これからどちらに?」

「ネログーマの【エバシマ】ってところに行くつもりだよ」


「そりゃいい! 実はおれの家がエバシマで飯屋やってるんだ! ぜひともおれんちに立ち寄ってくれ! 飯をおごらせてくれ!」


 獣人の男がおれの手をガシっと握る。


「気にすんなって。そんなお礼されるようなことしてないからさー」


「何をおっしゃる! おれたちの命の恩人じゃねえか! 恩には礼を尽くす! ネログーマ人なら常識だ! だから頼む、お礼させてくれ!」


 そういえば獣人は律儀なやつがおおかったなー。


 そんなの別にいいのに。

 しかしまあ、せっかくの行為をむげにするわけにもいかんな。


「わかった。じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ。その代り、エバシマまで一緒にいこうぜ? 馬車はまだ乗れるしさ」


「それはありがたい! いやぁ、ほんと旦那はいい人だなぁ。あんたのようないい人は、初めて会ったよ」


「いやぁ、照れますなぁ」


 と獣人たちとぬくぬく暖を取りながら、会話していたその時だ。


「ジュードさんっ!」


 ハルコが俺に近づいてきた。

 ……なぜか、毛布で体をくるんでいる。


「んー? どったのハルちゃん?」


「あの……えっと……お体、冷たそう……だから、温めようかな……と」


 ハルコはうつむき、もにょもにょと口を動かして言う。


 顔が耳の先まで真っ赤だ。

 頭から湯気が出ている。


「お茶でもいれてくれたの? ありがとー」


「ち、ちがう……おら、おらが……あ、あたため……うう、無理ぃ~!」


 ハルコが脱兎のごとく、その場から離れようとしたそのときだ。


 ビョォッ! と、一陣の風が吹いた。


「へ?」

「ふぇ……?」


 毛布の端っこが、チラッとめくれた。


「は、ハルちゃん? なんで、毛布の下、何もきてないの……?」


 真っ白なおなかと、そして下乳が見えた。

 ブラは付けていなかった……。


「あうあう……あうぅう~~~~~」


「……ジュードさん、説明しましょう」


 キャスコがハルコの隣にやってきて言う。


「……古来、体を温めるときは、裸で抱き合うときまってるのです」


「変なことハルちゃんに吹き込むなよー。真に受けちゃったじゃんか」


「……いいや、これはウソではありません。さっ、わたしも準備できてますよっ」


 よく見るとキャスコも毛布で体を包んでいた。

 まさか彼女も半裸なのか?


「おいてめーら、旦那がお連れさんとお楽しみするそうだ、ちょっとお暇するぞ!」


「いやいやそんなことしなくていいから」


「「「いやいやお気になさらず!」」」


 ハルコとキャスコが、毛布一枚姿で、俺に詰め寄って来る。


「……さっ、ジュードさん。抱き合いましょうっ」

「じゅ、ジュードさん……おらの体で、きもちよくなってほしいだに……」


 じりじり、とハルコたちが近づいてくる。


「えっと、ええっと……嫁入り前の女の子が、知らない男に肌をさらしちゃいけないよ?」


「……大丈夫です! ジュードさんになら、見られても。ねっ、ハルちゃん!」


「うぇ!? は、はずかし……」

「……ハルちゃんもオッケーだそうです! 据え膳食わぬは男の恥といいます! さぁ!」


 意外とキャスコはぐいぐい来るんだよなー、と思っていたその時だ。


「あ、あー! 敵だ! すまんふたりとも、海岸沿いに敵が現れたからちょっといってくるな」


 俺は毛布を脱いで、生乾きのシャツを羽織って、その場を後にする。


 街道を外れ、浜辺までやって来る。


「GYAGYA!」


「あれは、魚人サハギンだな」


 文字通り人間サイズの魚が、人間のように二足歩行している魚人型モンスターだ。


 手には三又の矛をもって、砂浜をえっちらおっちらと歩いてくる。


「んー? けど魚人って寒い時期は海から出てこないんじゃなかったか……? まあ、いいか。ほっとくと危なそうだし、やるかー」


 俺は魔剣を取り出し、魚人めがけて軽く走る。


 向こうが俺に気づいた瞬間。


 スパっ!


 剣で魚人を真っ二つにした。


「ふぃー。さて、戻る……って、んん? なんだ……海からなんかくる。魚人のむれ、かな?」


 最初は魚の群れが泳いでいるのかと思った。

 しかし魚が岸へ向かってはこないだろう。


 近づくにつれて、それが銀ぴかのうろこを持った魚人たちの群れであることに気づいた。


「ううーん、ますますおかしいですなぁ」


 俺は魔剣を手に、軽く横に気って払う。


 すっぱぁああああああああああああああああん!


 魚人群は今の一撃で、全員が真っ二つになった。


 俺は剣をおさめて、首をかしげながらみんなの元へ戻る。


「おいーっす。片付けてきたよー」


「あ、あんた……やっぱりすごいな!」


 漁師獣人が、俺にかけてきて、腕をつかんで振る。


「魚人を一撃で倒すなんて、すごい!」

「やっぱただものじゃなかった! さすがすぎる!」


 わぁわぁ、と獣人たちが歓声を上げる。


「どもども。それより変じゃないか?」


 俺はぷかぷかと海上に浮く魚人の死体を見て言う。


「魚人ってこの時期、海の底でおとなしくしてる気がするんだが」


「そのとおりだ旦那、けど、最近じゃ珍しくないんだよ」


「というと?」


 獣人が険しい表情で続ける。


「どうにも最近、海の様子がおかしいんだよ。水棲モンスターが活発化してる」

漁師獣人たちがうんうんとうなずく。


「魚人だけじゃない。さっきのクラーケンだってそうだ。あんな化けもの、本来はもっと沖の方ででるってきくぜ?」


「そのせいで魚の取れる数が減ってきてるんだ。まったく、困ったもんだよ!」


「ふぅむ、なるほど……そんなことが。原因は何だろうな?」


「「「さぁ?」」」


 漁師たちがそろって首をかしげる。


「噂じゃ海底にダンジョンが出来たって聞くぜ」

「まじか。それが本当なら、厄介だなぁ」


「ま、ただの噂話だよ。根拠はどこにもないさ」


 漁師たちがため息をつく。

 ううーん、真偽のほどはともかく、漁師のみんなが困っているのは、なんとかしてやりたいなぁ。


「ところで、旦那。美女がお待ちだぜ!」


 獣人がキラキラ目を輝かせて、おれに言う。


 ハルコたちは毛布にくるまった状態で、正座して俺の帰りを待っていた。


「ええっと、ええーっと……もうちょっと海を調べてこようかなーなんて」


「いや旦那、今はその時じゃないだろ。今はほら、据え膳据え膳!」


 なんでか知らないけど、獣人たちがわくわくした表情で俺を見やる。


「ここで逃げたら男がすたりますぜ!」


「え、ええー……そうかな?」


「「「そうそう! ほら、いったいった!」」」


 獣人たちに背中を押され、俺はハルコたちのもとへ帰ってきた。


「た、ただいまー」


「お、おかえりなさい……です」


「……さっ、ジュードさん。温めあいましょう♡」


 ぴらっ、とキャスコが毛布の前を開く。


「……大丈夫です、やましいことはなにもしません! 温めるだけですから、健全!」


「い、いや遠慮しておく……は、はくしゅっ!」


「……ほらぁ! 冷えてますよ! さぁ、はやく、お早く!」


 キャスコがふすふすと鼻息荒く言う。

 昔は引っ込み思案な子だったのに、今ではすっかり元気になってるな。


 積極的になるのはいいことだとは思うけど、ちょっとぐいぐいきすぎじゃありません?


 まあ、でもここで彼女たちの好意を無駄にするのも……ううーん。


「わ、わかったよ」


 俺はキャスコたちの隣に座る。

 濡れたシャツを脱ぐ。


「……失礼しますっ♡」


 キャスコが俺に密着する。

 素肌同士が、触れ合う。


 キャスコの肌は、吸い付くようであった。

 ぴったりとくっついて、柔らかく、それでいてみずみずしい。


「し、しつれいしましゅ……」


 ハルコは消え入りそうな声で、キャスコと逆側に座る。


 ……で、でかい。


 説明が不要なほど、ハルコの乳房は大きかった。


 なぜか腕を胸で挟み込むようにして、俺に抱き着く。


「ど、どうですか……?」


「あ、ああ……とっても暖かくて、気持ちがいいよ」


「え、えへへ~、良かったぁ……♡」


 なんだか気恥ずかしかった。

 ハルコはぷにぷにと柔らかく、キャスコはぷりぷりで張りがあって気持ちがいい。


 そしてふたりとも、びっくりするくらい暖かいのだ。


「……ほら、心地いいでしょう?」


「ああ、冷えた体があったまるよ。ごめんな、キャスコ。まじめに俺の体のこと考えてくれてたのに、変な勘繰りしちゃってさ」


「……お気になさらず。そして……いいんですよ?」


 ちらちら、とキャスコが期待のまなざしを俺に向けてくる。


「な、なにが?」


「……初めては、お外でも、私は一向にかまいません。ね、ハルちゃん?」


「ふしゅぅ~……」


 ハルコはキャパオーバーしたのか、目をグルグル巻きにして気絶していた。


 ちなみにタイガは、俺の体に寄り添ってくぅくぅと眠っている。


「子供がいるから無しの方向で」


「……おあずけですか。ジュードさんの、いけず」


 ぷくっと頬を膨らますキャスコの頭を、俺はなでる。


「ちゃんとケジメをつけたいんだ。わかってくれよ」


「……ジュードさんの律儀で優しいところ、大好きですっ♡」


 そんなふうに、俺たちは暖を取ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新潟や群馬とかの地名が捻って出てくるのが、超鈍感おじさんと絡まってよい感じです。 お手が空いたら、のほほんと続けて頂ければ幸いです。 ⇒グス何とかさんは、スルーの方向が嬉しいです。
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