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57.英雄、無自覚最強を鍛える



 九頭ナインヘッドバジリスクを倒した、俺。


 バジリスクに襲われていたのは、黒髪で、線の細い少年のボブ。


 キースも女みたいだったが、ボブもまた男には見えない見た目をしている。


 白い肌、黒いつややかな髪。

 手足はすらりとしていてしなやかだ。


 顔が小さく、目がぱっちりしている。

 二重まぶたに八重歯がじつに愛らしい。


「師匠! ジュード師匠! お願いです! 弟子にしてください!」


 俺たちがいるのは、ネログーマに向かう途中の草原。


 ボブは俺の前で、頭を深々と下げた。


「弟子なー。俺は弟子を取れるほどの人間じゃないぞ」


「そんな! ジュード師匠はすごいお人です! 強いし! かっこいいし! けどえらぶらないし!」


「いやはや。よせやい。そんなもんじゃないよ」 


「僕の師匠はジュード師匠しかいません! お願います! 弟子にしてください!」


「そう言ってもなぁ……俺、我流だしな」


 俺の戦闘技術は、別にどこの道場に通っていたとかはなく、戦っていくウチに自然と身についた物だ。


 弟子にしてくれと言われても困る。

 教える物が何もないからな。


「そこをなんとか! お願いします!」


「ううーん……そうだな。じゃあとりあえず君のチカラを見せてくれ。ダメなところを指摘しよう。俺は目だけはいいんだ」


 俺の職業は【指導者リーダー】。


 見抜く目といって、秘められたあらゆる情報ものを見抜くことができる。


 戦い方を指導できないが、この子の弱点を見抜いて教えてあげることはできる。


「それでいいです! お願いします!」


 バッ……! とボブが俺から、一瞬で距離を取る。


 おお、なかなかの脚力。


「師匠……全力で、お願いします」


「そりゃ無理だ。よそ様の子供を傷つけたら、親御さんに申し訳ない」


「……わかりました。じゃあ、僕は本気で行きます! ぜったいに……本気を出させてやるんだ!」


 ゴッ……! とボブ少年の体から、何かが噴き出す。


【見抜く目】によると、それは【闘気オーラ】と呼ばれるものらしい。


 魔力みたいなもので、体を強化させる効果があるそうだ。なるほどねー。


「だぁあああああああ!」


 彼の体が、一瞬で消える。


 一足飛びで、俺の懐まで入ってきたようだ。


 なかなかのスピード。

 だが……。


「くらええええええええええ!」


 ブンッ!


 スカッ……!


「良いパンチだ。けど大ぶりだな」


 俺は体の軸をずらし、彼の攻撃を避ける。

 ボブの腕を掴んで、ぽーいっと投げる。


 彼は面白いように飛んでいった。


「な、なんで……!?」


「攻撃が前のめりすぎるぞ。だからこうやってそのチカラを逆に利用されちゃうんだ」


 何も難しいことをしたわけじゃない。

 一直線でやってきた彼の力の向きを、ちょっとずらしただけだ。


「くそっ!」


 彼は空中で体をひねり、キレイに着地する。


「うん、受け身はいいね。体捌きはなかなかだ」


「ありがとうございます! だぁあああああああああああ!」


 彼がまた一直線に跳んでくる。

 

 俺は同じように、体の軸をそらし、ぽーいと投げる。


 ボブは木の葉のようにとんでいき、また着地。


「どうして!?」


「猪突猛進過ぎる。きみは通常攻撃が一撃必殺だ。けど強すぎるゆえに、攻撃が大味になっている。対人格闘なら、接近して小技を繰り出すほうがいいよ」


 ボブはぎゅっ、と唇をかみしめる。


「……たしかに、おじいちゃんからも、同じこと言われました」


「でしょ? 素早さを活用して接近攻撃してごらん」


「はい!」


 ボブは力強くうなずくと、俺に接近してくる。


 俺の目の前にやってくる。

 うん、素直で良い子だ。

 きっと強くなる。


「たぁっ! りゃあ!」


「脇を締めろ。体を前のめりにしない。小さく早くを心がけな」


「はいっ!」


 俺が教えたことを、ボブはすぐに吸収してしまう。


 なんてこったい。


「これが天才って奴かー。すげえ子だなぁー」


 俺はボブの小技を回避しながら、しみじみと思う。


「……何を言ってるんでしょうね、あの人は」


 ちょっと離れたところで、キャスコが呆れたようにため息をついていた。


 数十分後。


「ぜえ……はぁ……はぁ……」


 ボブは地面に仰向けに倒れた。


 汗びっしょりだった。


「お疲れさん。良かったぜ。俺が見た生徒たちの中でトップクラスだよ」


「ありがとう……ございます……」


 こんなに才能あふれていて、しかもまだまだ伸びしろがある。


 鍛えればもっと強くなる。


「だいぶ大振りじゃなくなってきたけど、まだまだ基礎体力がなってないなぁ」


「うう……精進します……」


「少年。君にぴったりの練習メニュー考えたから、それを実践すると良いよ。ええっと……おおい、キャスコー」


「……はいはい。メモ帳ですね」


 キャスコがいずこから、メモ帳とペンを取り出して、俺に渡してくる。


「さっすがキャスコ。頼りになるなぁ」


「……その言葉はそっくりあなたに返します」

 

 苦笑いするキャスコ。


 俺はメモ帳にトレーニングメニューを書く。


 それと彼の弱点をさらさらっと。


「ほい、これ練習メニューと要点まとめておいたから、やってみな。少年ならあっという間に俺より強くなれるよ」


「すごい……すごいすごいすごい!」


 ボブ少年はメモ帳を受け取ると、キラキラした目を俺に向けてくる。


「ジュード師匠! 強いしかっこいいし、見ず知らずの僕にこんなにやさしくしてくれて……ほんとすごいです!」


「やめてくれよー。照れるぜ」


 若い子に褒められると、気恥ずかしくなるよな。


「ジュード師匠は、僕であった中で、最高の人格者です! あなたはまるで、話に伝え聞いた【王都の英雄さん】のようです!」


 おや?

 

「ん? 少年、それって……?」


「友達に聞いたんです。王都でモンスターがあふれる騒動があったとき、その騒動を単独で納めて、しかも半壊した王都復興のボランティアを率先してやったという……最高の御方、それが【王都の英雄さん】だって!」


「あー……」

「……まぁ。あなたってば、本当に有名人になってしまったんですね♡ わたし、鼻が高いです……♡」


 うふふ、とキャスコが上品に微笑む。


「え……? あの、キャスコさん。今のってどういう……?」


 ボブがキャスコに尋ねる。


 俺は、あんまり目立つのが嫌だったので、キャスコに口止めしようとした。


「……この人が、王都の英雄さん本人ですよ♡」


 キャスコがハッキリと、そういった。


 あちゃー。


「こらこらキャスコ。どうしていっちゃうだよ」


「……言ったでしょう? わたし、たくさんの人が、ジュードさんのこと、好きになってもらいたいって」


 以前キャスコが言っていた。


 指導者ジューダスは、魔王を前に逃げた裏切り者であると、世間の人たちが思っているのが、心苦しいと。


 だから、俺が周囲から認められるのが、うれしいと。


「いやまぁ……けどなぁ……」


 するとボブが、俺を見て驚愕の表情を浮かべる。


「えーーーーーーーーー!? じゅ、ジュード師匠が、英雄さんだったんですってぇえええええええええええええ!」


 ほあー! とボブが口を大きく開けて、俺を見上げる。


 その目は、星空のようにキラキラしていた。


 ま、まぶしい……。


「すごいすごいすごーーーい! 僕……本当に尊敬しちゃいます! すごすぎますよジュード師匠!」


「いやいや。そんなことないって」


「いやいやいや! そんなことありますって! すごい! 本物だ! 本物の英雄がいるー!」


 ボブは俺の手を握ってくる。


「ジュード師匠は噂に聞いていたとおりのひとです! あなたは僕の英雄です! あなたのような強い男になりたいです!」


「そっかー。じゃあ基礎練がんばるんだぞ」


「そうすればジュード師匠みたいな、強くてかっこ良くて素敵な大人になれますかっ!?」


「う、ううーん……俺がそんな人間かはさておきだな。君は英雄になれるよ。俺なんかよりもずっとすごいね」


 ボブは感極まったような表情になると、俺に抱きついてきた。


「僕……ジュード師匠、大好きです!」


「……あらあら♡ ジュードさんってば、モテモテですね」


 うふふとキャスコが笑う。


「いやはや、照れますな」


 ボブは俺から離れると、バッ……! と頭を下げる。


「師匠! 僕……師匠に言われたとおり、まずは基礎練からはじめてみます!」


 バッ……! と頭を上げる。

 その目はキラキラと……いや、ギラギラと燃えたぎっていた。


「まだ僕はジュード師匠に直接指導してもらえるほど、強くない。だから! 基礎練ちゃんとやって、強くなったら! そのときは、弟子にしてください!」


 バッ! とまたボブが頭を下げる。


「いいよ。まあ、そのときにはすでに、君は俺を越えてると思うけどね」


「ご謙遜を! 僕があなたを越えられるわけないですよ」


「こらこら。やる前から諦めなさんな。自分を小さくする必要なんてない。子供はでっかく夢を見ないとな」


 ボブは太陽のように明るい笑みを浮かべると、


「はいっ!」


 力強くうなずいた。


「僕……がんばります!」


「おう。がんばれ。で、少年。近くの街まで送ってあげるよ。ついておいで」


「いや! 僕……走って帰ります! とっくんです!」


 ふんすふんす、と鼻息荒くボブが言う。


「そうかい。じゃあがんばりなさいな」


「はいっ! ジュード師匠はこれからどちらに?」


「ネログーマに向かっているんだ。その前にガオカナって街で一泊するつもり」


「ああ! 僕そこで暮らしてます! 今夜時間が合ったら、会いに行って良いですか!?」


「おうさ。いつでも」


 ボブは頭を下げると、すごい速さで走り去っていった。


「いやぁ……若さだなぁ」


「……ジュードさん、おじさんみたいですよ」


 キャスコが俺のとなりで微笑む。


「いやぁ、もういい歳のおっさんだよ」


「……そんなことないです♡ 素敵で、大人の男性です……♡」


 ぴったり、とキャスコが俺に寄り添う。

 

「しかしボブ少年は、良い子だったなぁ」


「……え?」


 キャスコが、目を丸くする。


「……ジュードさん、何言ってるんですか?」


「え、何って? さっきの彼のことだよ」


「……彼?」


 はぁ……とキャスコが深く、ため息をついた。


「……ジュードさん。本当に、鈍感すぎます」


「え? なになに?」


「……知りません。自分で考えてください。帰りますよ」


 キャスコが箒を手にしていう。


「えー、なんだよキャスコ。気になるじゃん。教えてよー」


「……わたし、ハルちゃんだけで十分なので。あまりメンバーは増やしたくないんです」


「何の話だよー。おしえてくれよー」


 しかし結局、キャスコは最後まで、何のことなのか教えてくれないのだった。

新作、はじめてます!


下にリンクを貼ってます!

よろしければぜひ、ご一読ください!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] えっ?ボブって男…じゃないの?
[気になる点] やべぇ…マジでボブきゅんがおっさん○ラブになりかけてる!? ブームは過ぎてそうだから、果たしてどの位の読者がハマってくれるんだろう…?
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