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06.英雄、双子冒険者に訓練をつける



 隣国の姫と女王がやってきた、その日の夕方。


 喫茶店・ストレイキャッツ店内には、ジェニファーばあちゃんを含めて数名しか、客がいなかった。


 まあここ、喫茶店だしな。飯屋じゃない。料理も出すがやはりメインはコーヒーやパン、ケーキなのだ。


 それに何より、酒をここでは出さない。仕事帰りの冒険者たちが立ち寄る、なんてことはしない。


 夕方は奥様方はお夕飯の準備に忙しくしているし、ゆえに夕方は客がすくない。来るのはおじいちゃんおばあちゃんくらいだ。


「ちょいとハルコちゃん。コーヒーのおかわりをちょうだいな」


「はいっ! 了解しましたー!」


 バイトの少女ハルコが、あいたカップをばあちゃんから回収し、俺のいるカウンターへとやってくる。


「ジュードさんっ♪ おかわりお願いします!」

「ん、了解ハルちゃん」


 俺はハルコから、カップを受け取ろうとした、そのときだ。


 ぴたっ。


 と、俺の手と、ハルコの手が重なったのだ。


「うわわわわわわーーーーーー!!!」


 その瞬間、ハルコが顔を真っ赤にする。持っていたカップを、手から離してしまう。

「あっ! カップが!」


 叫ぶハルコ。その間に、俺は【技能スキル】を使用する。


暗殺者アサシン】の技能、【動体視力強化】、そして【敏捷強化】。


 俺は仲間になった人間の技能を、コピーする能力を持っている。


 それを使って、【彼女たち】からコピーしたばかりのスキルを使用。


 カップの落ちる速度が、非常にゆっくりになる。


 俺は敏捷性をスキルで強化されている状態だ。素早く動いて、カップをキャッチ。


 スキルが切れる。


「カップが割れる…………って、あれ? 割れてない」


「危なかったね」


 俺はカップを受け取った後、ホットコーヒーを注ぐ。


「はいこれおかわり」


「え? え? ジュードさん……いまものすごく早く動いて、カップを普通にキャッチしてませんでした?」


 目を丸くするハルコに、俺は「ん、まあ」と答える。


「すごいです! どうやったんですかっ?」

「技能つかったんだよ。最近彼女たちからコピらせてもらったんだ」


「彼女、たち?」

 

 はてと首をかしげるハルコ。はっ……! とハルコが目を見開き、


「……じゅ、ジュードさんに女っ? まさか恋のライバル出現しただに? そんなぁ……ただでさえおら見た目良くなくて自信ないのにぃ~」


「ハルちゃん? どうしたの?」


 俺が言うと、ハルコが「なんでもないです!」と立ち上がる。


 カップを持って、ハルコはジェニファーばあちゃんの元へ行く。


「ハルコちゃん、だめじゃあないか。もっとアタックしていかないとねぇ」


「うう……だっておばあちゃん。無理だよぉ~……。恥ずかしいし~……」


「ばかいえ。あの程度で赤くなってどうするさね。ほら、今日この後お暇ですかってアタックしてきなっ」


「む、無理無理!」

「いけるいける!」

「無理無理ー!」


 とジェニファーばあちゃんとハルコが、仲良くしていたそのときだ。



 からんからん♪



「「ししょー!」」


 店のドアが開く。やってきたのは、双子少女の冒険者だ。


「キキ、ララ。お帰り」

「「ただいま、ししょー!」」


 ふたりとも年齢は15歳。だが見た目より幼く見える。背が低いが、しかしふたりとも胸がでかい。


 顔かたちはうり二つだが、目の形だけ微妙に違う。つり目のキキ。垂れ目のララ。


 双子は俺のいる、カウンターまでやってくる。椅子に座って、ずいっと顔を出す。


「今日は無理しなかったか?」

「「うんっ! ししょーに言われたとおり!」」


「うんうん、偉い偉い」


 俺は双子の頭をなでる。彼女たちはうれしそうに笑っていた。


「ほらほらハルコちゃん。あれよあれ。ああいう感じでアタックさね!」

「うう……無理~……」

「まったく根性ないねぇ!」


 と奥でハルコとばあちゃん。


 それを横目に、双子が俺に言う。


「「ししょー。今日も稽古、おねがいします!」」 


「ん。いいよ。店しめてからな」

「「はーい!」」


 喫茶店ストレイキャットは、19時には店じまいする。


 早いだろうか。まあ夜に喫茶店へ来る人少ないしな。一番人が来るのは午前中からお昼にかけて、あとはゆるゆると客数が減っていくのである。


「ハルコちゃんほらぼやぼやしてると、あの美人な双子ちゃんたちに取られちゃうよっ?」


「……うう、わかってますよぉ。はぁ……勇気ほしいなぁー」


 ハルコが何かを言っていた。さっきからアタックだの取られるだの、何の話をしているんだろうね。



    ☆



 双子冒険者を連れて、俺はノォーエツの近くにある森へとやってきた。


 ノォーエツはゲータニィガ王国の南方の辺境にある。田舎町だ。あちこちに田んぼや森がいくつもある。 


 俺は、街からそう遠くない森の中で、彼女たちに戦闘訓練を施していた。


「いくぞししょー! たぁっ!」


 しゅばっ……!


 キンッ!


「暗殺者が正面から切ってかかっちゃだめだろ。気配を消して不意打ちを狙おうな」

 

 俺は先日もらった曲刀シャムシールで、キキのナイフを受ける。


 キキの職は【暗殺者】だ。敏捷性にすぐれ、気配や足音を消す技能を持つ。追跡や暗殺に特化した職業だ。


「ししょー! くらえ【樹縛ウッド・バインド】!」


 ララが手に持った杖を、地面に突き刺す。そこからぶっとい木の根っこが生えて、俺めがけて飛んでくる。


 ララの職業は【森呪術師ドルイド】だ。樹木や植物を操る特別な魔術師だ。


 森呪術師の魔法の中には、相手を植物で眠らせたり、捕縛したりと、前衛職をサポートする職業といえる。


「お、いいな。キキが攻撃している隙に捕縛魔法を使うのか。ただそれならくらえーって言わない方が良いぞ」


 高速でやってくる木の根っこを、俺はひょいっとよける。


「このっ! このー!」


 キンッ! キンッ!


「まだまだー!」


 うにょうにょ……。


 キキのナイフが、ララの木の根っこが、俺に襲いかかる。


 俺はそれをよけながら、攻撃のだめな部分を指摘していく。


 俺のスキル【見抜く目】は、相手の動きや弱点を的確に見抜く。


 俺は動きの無駄な部分や、だめなところを列挙して教えていく。


 ふたりは熱心に俺の話に耳を傾け、俺から聞いた情報をフィードバック。すると徐々にだが彼女たちの動きは良くなっていった。


 ……こうして彼女たちを訓練することになったのは、先日、ダンジョンで彼女たちを助けたからだ。


 あのときふたりは、部屋の外に強いモンスターがいると知っていた。それを俺が倒して、ふたりを地上へつれ戻した。


 ふたりは俺の実力に驚き、ぜひとも訓練をつけてくれと頼んできた。


 まあ別に断る理由もなかった。こうして俺は、仕事が終わった後、ふたりに訓練を施している次第である。


 それはさておき。


「「つ、疲れたよぉ~…………」」


 地面にぐったりと、双子少女たちが寝そべる。


 俺は【ステェタスの窓】の【インベントリ】から、パンの入った袋と、冷たいジュースの入った水筒を取り出す。


「お疲れふたりとも。ほら」

「「わぁ……! ありがとー!」」


 双子は笑うと、パンと水筒を受け取る。


 ぱくぱくぱく!

 ごきゅごきゅごきゅ!


「ふたりともすげえ食欲だなぁ」

「「だって昼からなんも食ってなかったんだもん!」」


 なんと。昼飯抜きとは。


「だめだろ、三食ちゃんと食わないと」

「「だぁってぇー……。まだ駆け出しだし、お金ないんだもん」」


 この世界では、15で成人を迎え、女神様から職業と技能を与えられる。


 いただいた恩恵(職業と技能を総称してそういう)をもとに、どんなふうに働いていくかを決める。


 ふたりは最近15になったばかりだという。まだまだ駆け出し。そりゃ金はないか。


 なにせ毎朝、残り物のパンをもらいにやってくるしなぁ。


「ふぅむ……。ふたりとも、良かったらこのあとウチに来ないか?」

「「ししょーの家?」」


 首をかしげるふたり。


「ふたりさえよければ、このあと夕飯でもどうだ? お昼の残り物があるんだが、食べていかないか?」


 スープやカレーの残りが結構ある。ああいうのって、いっきに大量に作るからな。あまるのである。


「「いいのー?」」

「ああ、いいよ」

「「やったー!」」


 ふたりが立ち上がって、その場でぴょんぴょん、とうれしそうに飛び跳ねる。


「うん、それじゃあ帰ろうか……」


 とそのときだ。


「…………」

「「どうしたのー?」」


 俺の【索敵】スキルが、異変を察知した。


 索敵スキル。野伏レンジャーのスキルだ。周囲に人間や動物がいて、そいつが害意を持っていると、俺に知らせてくれるスキルである。


「なんか来るな」

「「なにくるのー?」」


 索敵スキルは、敵の座標しか教えてくれない。どんな敵が来るかは知らない。


「わからねえ。こっちの方みたいだ」


 南の空を指さす。どうやらすごいスピードで、敵が飛んでくるみたいだ。


「向こうが気づく前に迎撃するか」

「「どうやって? 魔法?」」


「違う違う」


 俺はその場に落ちていた石っころを、手に取る。森の中だからな。あちこちに手頃な石がある。


 俺は石を持ち上げて、索敵で捕らえた敵の座標を見やる。


「ふたりは下がって。しゃがみこんでて」

「「うん。ししょーがそういうなら、そうする!」」


 ててて、と双子が離れる。それを確認して、俺はスキルを発動させる。


 騎士のスキル【腕力超強化】。そして弓兵のスキル【投擲】。


 このふたつのスキルを掛け合わせて、俺は思いきり、石を放り投げる。


 ブゥゥンッッ……………!!!!!!!


 石はまるで流星のごとく、夜空を駆け抜けていく。【投擲】スキルによって、敵まで一直線に、正確に石が飛ぶ。


 ややあって、


 ばごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお………………!!!!!!!


 距離があるからか、遠くの方で、大きな音がした。そして、


 ずぅうううう…………ん、と地鳴りのような音。


「倒せたかな?」

「「結局なんだったんだろー?」」


「さぁなぁ。まぁ、街に被害が出る前に片がついて良かった良かった」

「「良かった良かった!」」


 かくして謎の飛行物体を、石で倒した俺だったのだが……。


 翌朝。


「「ししょー! たいへんだ!」」


 喫茶店に、双子冒険者が慌ててやってくる。


「どうしたー、ふたりとも?」

「「ししょーがたおしたの、翼竜ワイバーンだったー!」」


 なんでも冒険者ギルド内で噂になっているらしい。翼竜が一撃で倒されていたと。


 飛竜を目撃した人と、そして撃墜したところを見た人が居たらしい。その時刻が、ちょうど俺たちが森にいた時刻と重なる。


「翼竜ねえ……それって強いのか?」

「「A級モンスターだよ!!!」」


 またか。前のミノタウロス・ロードと同じくらいの強さか。


「あ、じゃあ弱いなそいつ」

「「めっっっちゃ強いんだけどっ!?」」


 双子が瞠目する。そして俺に尋ねた。


「「ししょーって、何者?」」


 俺は普通に答えた。


「ん。ただの喫茶店のマスターだよ」

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次回もよろしくお願いします!

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