56.英雄、9つ首の大蛇を倒す
俺はハルコたちとともに、ネログーマへと向かう馬車に乗っていた。
ガタゴトとゆっくりと馬車に揺られる俺たち。
「おとーしゃん、あたち……いいたいこと、あります!」
タイガが俺の膝の上で、難しい顔をして立っている。
「ほう、どうしたんだいタイガさん?」
「おとーしゃん……働き過ぎ!」
ぴしっ、とタイガが自分のしっぽで、俺の顔を指す。
「働き過ぎ?」
「そー! もー! おやすみなのにおとーしゃんってばよけーなことに首突っ込みすぎ! やすめー!」
ふぅむ……そう言われてもなぁ……。
すると隣に座っていたキャスコが、すまし顔でうなずく。
「……タイガちゃん。よく言いました」
「キャスちゃん! キャスちゃんもそう思うよね!」
「……ええ。ジュードさんはちょっと働き過ぎです。せっかくの休暇なのに、あなたってば困っている人がいると、すぐにすっとんでいくのですから」
「いやまぁ……ほっとけなくって」
「……そういうところ、わたし大好きです。けど今は旅行中と言うことを忘れないでください。ハルちゃんがさみしくて泣いてましたよさっき」
「え、ええっ? す、すまないハルコ……」
俺はとなりを見やる。
「かー……ぐー……えへへ~……♡ ジュードさぁん……だいすきだに~……♡」
「……ハルコさん俺のとなりで寝てるんですけど?」
それもかなり爆睡していた。
「……泣き疲れてしまったのでしょう。ねえタイガちゃん」
「そー。ハルちゃんえんえん泣いてなきつかれちゃったの。はーたいへんだった!」
「本当かなぁ~?」
「……本当です」「ほんとだもん!」
タイガがハルコの膝の上に乗っかり、ぺちぺちとハルコの頬を叩く。
「ハルちゃん……起きて!」
「わっ、えっ、な、なに? どうしたの、タイガちゃん?」
「ハルちゃん、さっきさみしいって泣いてましたよね?」
「……ジュードさんがいつもみたいにすぐすっとんでいって、さみしかったんですよね?」
するとハルコがきょとんとした表情で首をかしげる。
「え? そんなことないよ。だってジュードさんのお節介は、いつものことだに?」
「すまん……」
「ああいえ! 責めてないです! もう慣れっこですし」
ハルコが笑顔で首を振る。
「……もう、ハルちゃんってば正直すぎます」
「キャスちゃん、はるちゃんせめないで。うらおもてのない、いいこだから!」
「えへへっ♡ ありがとタイガちゃん♡」
ハルコはタイガを抱きしめて、頬ずりする。
「……何にせよ、ジュードさんはもう少し体を休めてください」
「そうは言ってもなぁ……あ」
そのときだった。
「すまん、敵の気配がする」
「「「…………」」」
「いやあの……みんな。そのですね……ちょっと人が襲われてるみたいなんで、ちょっといってきてもいい?」」
「「「……はぁ」」」
ハルコたちがあきれたように、ため息をつく。
「おとーしゃんってば、これだから」
「……まったく、お人好しなんですから」
「で、でも! おら……ジュードさんのそういうとこ、大好きです!」
「……わたしもです」「あたちもー!」
呆れていたみんなだったが、結局許してくれた。
「ごめんな。すぐ帰ってくるから」
「……わたし、この人送り届けてきますね。すぐ戻ってくるから、ふたりとも良い子で待っててくださいね」
「「はーい!」」
キャスコがホウキを取り出し、俺はその後に座る。
風の魔法が発動し、箒が浮かび上がる。
俺はキャスコの操縦する箒に乗って、馬車の窓から飛び出した。
「……まったく、あなたってひとは」
俺の前に座るキャスコが、ふぅ……と悩ましげにため息をつく。
「ごめんってキャスコ」
「……旅行先に着いたら、少しは人助けは自重してくださいね」
「それは……善処します」
「……よろしい。ふふっ♡」
俺には敵を察知する技能がある。
これと俺の能力【見抜く目】を組み合わせることで、敵のいる場所への最短ルートを見ることができる。
さっき俺が壊し、修復した山の向こうから、大きな気配を感じたのだ。
「……敵は?」
「たぶんSSランク程度のモンスターだな。俺一人で倒せるよ」
ややあって、俺はそいつを見つけた。
山のようにでかい蛇だ。
蛇の首は、9つあった。
「……九頭バジリスクですね。強力な毒のブレスを使います」
「おっけー。じゃあキャスコはここで待機な」
キャスコが首を振る。
「……わたしもお手伝いします。毒のブレスを使うなら、わたしの風魔法で」
「何言ってるんだ。ブレスを使うならなおのこと、おまえにまで被害が及んだら大変だろ?」
俺は箒の上に立ち上がり、キャスコの銀髪を撫でる。
「おまえは後で俺の帰りを待っててくれ」
「……いつまでも、子供扱いしないでください」
「違うよ。大事だから、傷ついて欲しくないだけだよ」
するとキャスコが、ふふっと微笑んだ。
「……いってらっしゃい」
「ん。いってくるなー」
俺は【高速移動】スキルを発動。
脚力が超、強化される。
箒から飛び降り、地上へと着地。
そのまま敵に向かって走る。
「GUROROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」
「うわー。間近で見るとでっけえなこいつ」
何せ山と同じくらい大きな蛇が、九匹いるからな。
そりゃでかくもあるか。
「GUROOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」
バジリスクの一匹が、俺を捕捉すると、俺めがけて毒ブレスを放ってきた。
ぶしゃぁあああああああああああああ!
俺は【ステェタスの窓】を開く。
【インベントリ】から、魔剣を取り出す。
毒ブレスが俺めがけて、波濤のように押し寄せてくる。
「ほいっと」
俺は魔剣に魔力を入れて、軽く振る。
すぱぁあああああああああああああああああああん!!!
剣の風圧によって、毒ブレスがいっきに晴れた。
そのまま首の1本を断ち切る。
「あと8本。さて……」
俺は【見抜く目】を発動。
すぐに、俺はそいつを見つけた。
俺が察知したのは、このでかい蛇と、それと戦う1人の人間の気配だった。
俺は素早く彼の元へと向かう。
「う……うう……」
そこにいたのは、黒髪の少年だった。
俺はすぐ、倒れ伏す少年に、【見抜く目】を使って状態を確認する。
死ぬ毒ではなかった。
強力な麻痺毒だった。
「良かった、即死の毒じゃなくて。まってな、すぐ解毒してやるから」
俺は少年を背負う。
「うちの賢者様は回復解毒もなんでもござれの魔法のエキスパートだからな。すぐに楽になれるよ」
「あ……う……に、げて……」
少年がおびえた目で、俺に訴えかける。
「あれ……ばけもの、です。あんなばけもの……かないっこない……ぼくも……はが、立たなかった……」
「いやまぁ、あれは大丈夫だよ。むしろ俺は君の麻痺毒のほうが心配だ。長く麻痺って後遺症なんて残ったら大変だもんな……」
「いや……なにいって……あんなバケモノ……かてっこない」
「バケモノ? まあ……うん、大丈夫だよ。俺、化け物退治、慣れてるから」
俺は少年を背負った状態で会話する。
「GISHAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
蛇の首が2つ、俺めがけて突進を駆けてくる。
「あぶ……ない!」
「ん? よっと」
俺はひょいっと軽くその場で跳躍。
蛇の攻撃をひらっとかわすと、その頭の上に乗る。
「ちょっと揺れるぞ。ほいっ」
俺は片手で魔剣を握り、
ザシュッ……!
「それもういっちょ!」
ザシュッ……!
軽く魔剣を振るうと、バジリスクの首が2つ、切断される。
「う……そ……。あんなに……強いのに……いちげきで……?」
「GIAHHAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
首を3つ失って、バジリスクが痛みでもだえていた。
「ごめんなー、ちょっと麻痺がまんできるか? ちょいちょいっとこいつら倒すからさ」
「は……?」
目を丸くする少年を背負いながら、俺は走る。
なるべく彼の負担にならないよう、速度を制限する。
バジリスクの首を伝って走る。
ザシュッ……!
「これであと5つ」
走りながら、首を切る。
こういう図体のデカい敵は、魔法で殲滅するよりは、こうして速度を生かしてちまちま削っていく方がいい。
ザシュッ!
「あと4」
ザシュザシュッ!
「あと2」
俺は走りながら、片手で魔剣を振る。
背負っている彼に負担がかからないよう、慎重にね。
やがてあと首は残り2本。
「「GISHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」」
2本の首をそらし、毒ブレスを俺めがけて放つ。
思い切り剣を振るわけにはいかなかったので、ブレスをそのまま受ける。
「おわり……だ……ぼくら……ともども……麻痺って……食べられちゃう……」
「少年、大丈夫か? 麻痺つらくないかー?」
「………………は?」
背負っている彼が、目を大きく見開いている。
「な……んで? どう……して? 平気……?」
「まあ、この程度の麻痺毒なんて、魔王の使う呪毒とくらべたらかわいいもんだよ」
俺には騎士オキシーからコピーさせてもらった、【麻痺耐性】のスキルがある。
SSランク程度の麻痺毒は、俺にはほとんど効かないのだ。
「ちょっとピリッとくるけど、ま、問題なしだよ」
「すご……いです……」
「いやいや普通だよ。さて、ちゃちゃっと片付けて帰りますか。ちょっと揺れるけど我慢してなー」
俺は飛び上がり、魔剣に魔力をこめる。
素早くバジリスクの背後に回り、剣を振る。
スパアアアアアアアアン!
1振りで、2つの首を落とした。
あんまり揺らさないように注意しながら、俺はふわりと着地する。
「ふいー……。おーい、キャスコ~」
「……はぁい」
俺は上空で待機していたキャスコに、手を振る。
彼女は箒を操り、俺たちの目の前に着陸した。
「この子、麻痺毒うけてるんだ。解毒してあげてくれ」
「……わかりました」
俺は少年を地面に寝かせる。
キャスコはすぐに、解毒の魔法を使った。
たちまち、少年の顔色が良くなる。
ややあって、彼は体を起こした。
「大丈夫か? 麻痺残ってないか?」
「は、はい……だいじょうぶ、です。元気……です」
「ん。そりゃあ良かった良かった。怖かったろ? もう安心しな」
見たところこの子は、子供のようだ。
15歳以下かな。
「体力は減ってないか? おーい、キャスコ、回復魔法を」
「だ、だいじょうぶですっ! へいちゃらです!」
「そうか? 無理しなくて良いんだぞ」
「……もう、無理してるのはあなたでしょっ。あなたも麻痺毒を受けてるんですから、ほら、解毒しますからこっちきてくださいっ」
キャスコが柳眉を逆立てながら、俺の腕を引っ張る。
「いや俺は大丈夫だってー」
「……黙って! もうっ! いっつも自分のことは後回しにするんですから!」
「ごめんなー」
ややあって、俺の治療も完了する。
治療ってほどたいしたケガ受けてないけどね。
「さて……っと。少年。名前は?」
「…………」
少年は、俺にキラキラとした目を向けてくる。
「少年?」
「あ、えっと! ぼく……【ボブ】っていいます!」
黒髪少年ことボブは、バッ……! と頭を下げる。
「たすけていただき……ありがとうございましたーーーーーー!」
「いやいや。君が無事で良かったよ」
バッ! と顔を上げる。
「すごいです! あなた……ちょーすごいです!」
「いやいやぁ。照れますな」
「あんなバケモノを軽く倒してしまうなんて! しかも! 自分のことよりも、救助を優先するなんて! 本当にすごいです! かっこいいです!」
「よせやい。照れるぜ」
若い子に褒められるのって気恥ずかしい。
けど……別に俺は褒められるべきことしてないんだけどなぁ……。
「すごい! すごい! 僕が見た中で一番強いです! 名前を教えてください!」
「俺か? 俺はジュード。君を治療したお姉さんはキャスコ」
「ジュードさん! いや……師匠!」
ガシッ! とボブが俺の手を握る。
「師匠?」
「はい! 師匠! 僕、あなたの弟子になりたいです! あなたのように、強い人になりたいんです!」
……とまあ、いつもの通りモンスターを倒したら、少年から弟子にしてくれって頼まれてしまった。
ふぅむ……どうするかね?
新連載、はじめてます。
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