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55.英雄、旅に出る



 キースのところで勲章をもらってから、数日が経過した。


 2月中旬のこと。


 俺は店を休み、店員たちを連れて、旅行に出かけていた。


 前々から企画していた、隣国ネログーマへ向かう。


「ふぁー……のどかだなぁ~……」


 幌つきの馬車に、俺たちは乗っている。

 馬車は揺ったりと東へ向かって進んでいた。


「おとーしゃん、のどかですね!」


 俺の膝の上に乗っているのは、金髪の幼女。


 名前をタイガという。


 この子は雷獣という元Sランクのモンスターであったが、わけあって俺の娘となった。


 勝ち気そうな目つきと、獣耳としっぽが特徴的だ。


「お、タイガさんもそう思いますか?」


「うん! ところでのどかって、なぁに~?」


「そうだなぁ、キャスコ先生に聞いてみようか」


「うん!」


 タイガは立ち上がると、俺の真横に座る少女の膝に乗る。


「ねーねーキャスちゃん!」


「……はい、なんですか、タイガちゃん?」


 俺の右隣に座る少女。

 名前をキャスコという。


 さらさらの銀髪に、真っ白な肌。


 手足はすらりと長く、愁いを帯びた表情がじつにに会う。


 薄幸の美少女……とでも言うのか。


「のどかって、なんですかー?」

「……そうですね。何もなく、平和ってことです」


「おー! へいわですか! それはとても良いことですな!」


 タイガはぴょんっ、と飛び上がり、今度は俺の左隣に座る少女の膝に着地。


「ねーねーハルちゃん」

「ん? なぁに、タイガちゃん」


 桜色の髪の美少女が、タイガに微笑みかける。


 彼女はハルコ。

 俺の店で働いてくれる、働き者の女の子だ。


 長くつややかな髪と、太陽のように明るい笑み。


 そして目を見張るほどの大きな胸が特徴的だ。


「ハルちゃんは……のどかっていみ、しってる?」


 きらん、とタイガが目を光らせていう。


「んー、おら難しいことわからないな。教えてタイガちゃん」


「んもー、しかたないなぁ。はるちゃん友達だから、おしえてあげる!」


 タイガは得意げに言う。


「へいわですねー、っていみです!」

「わぁ……! そうなんだに。タイガちゃんは、物知りだに~♡」


「えへ~♡ でっしょ~♡ あたちものしり!」


 ぴょんっ、とタイガが俺の膝の上に乗る。

「あたち、物知り?」

「そうだなぁ。さすがタイガさんだ。物知りだぜ」


「えへへっ! もー! おとーしゃんってばほめじょーず!」

「お、そんな難しいことも知ってるのか。タイガは頭が良いなぁ~」


 わしゃわしゃ、と娘の頭を撫でる。

 タイガのしっぽが、ぶんぶんぶん! とうれしそうに左右に振れた。


「ところで……ハルちゃん、キャスコ?」


「「はい?」」


「座席はいっぱい空いてるだけど、どうして真横にぴったり座ってるの?」


 馬車は冒険者ギルドのギルドマスターが、なぜか手配してくれた。


 普段世話になっているからと、りっぱな幌つきの馬車を貸し切ってくれたのだ。


 中は広く、座席も多い。

 だというのに、ハルコたちふたりともぴったり寄り添っている。


「……お気になさらず! ね、ハルちゃん?」

「え、あ、うん! はい! 気にしないでくださいほんと!」


「いやでもなぁ……」


 ふたりはかなり密着している。


 ハルコのムチッとした太ももとか、キャスコの張りのある乳房とか、そういうのが惜しみなく当たっているのだ。


「うう……きゃすちゃん……おら……はずかしいよぅ……」


「……何を恥ずかしがってるのですか! 恥ずかしがってて意中の人をよろこばせられるとでも!? ガンガン責めないとダメです!」


「じゅ、ジュードさん……ごめんなさい。あつくるしいですよね、こんなぷくぷくの女がそばにいて……」


 濡れた目でハルコが俺を見上げる。


「そんなことないよ。むしろ外寒いし、温かいくらい。それにぷくぷくなんかじゃない。健康的でいいことだと俺は思うね」


「はぅ……♡ ジュードさん……♡」


 かぁ、とハルコが耳の先まで真っ赤にする。


「……そこですハルちゃん! そこでガバッと! そこでぐいっと!」


「ハルちゃんごーごー!」


 逆サイドの二人が、ハルコに応援を送る。

「うう……ええっと……え、えいやっ」


 ハルコが俺の腕を、なぜだか掴もうとした……そのときだ。


「あ」


 俺は立ち上がる。


 スカッ、とハルコの手が空を切り、そのまま倒れる。


「ご、ごめんハルちゃん! だいじょうぶかい?」


「は、はひ……」


 俺はハルコの手を引いて、立ち上がらせる。


「ケガはないか?」


「大丈夫です。でも……どうしたんですか、ジュードさん?」


「ん? ちょっと厄介ごとかな。キャスコ。ふたりをよろしく」


 俺はそう言って、窓ぎわに足をかける。


「きゃ、キャスちゃん? ジュードさんどうしたのかや?」


「……おそらくは、またお節介だと思います」


 ふぅ、とキャスコがため息をつく。


「……敵ですか?」

「ああ。ちょっと離れたところで、モンスターに襲われているみたいなんだ」


「……もう。せっかくの休みなのですから、もっとゆっくりすればいいのに。護衛もいるでしょうし」


「そうなんだけどなぁー……。すまんね」


 俺はそう言って、窓から飛び降りる。


 そのまま【高速移動】のスキルを使って、モンスターの気配がある方へと向かう。


 俺たちからかなり離れたところに、馬車の列があった。


 どうやら商人のキャラバンみたいだ。


「くそっ! オーガだ! どうしてこんなところに!?」


 大鬼オーガを前に、商人たちの護衛である冒険者たちが対峙している。


 ただ少し苦戦してるようだった。


「クソ! もうダメだ!」


 オーガが、一人の冒険者に斬りかかろうとする。


 俺は高速移動しながら、【ステェイタスの窓】から魔剣を取り出し、駆け抜ける。


 彼らの間を、疾風のようにかけぬける。


 そしてオーガの脇をすり抜けざまに、全員胴体を真っ二つにしたのだ。


「へ……?」「なんだ……?」「いったいなにが……?」


 ぽかんとする冒険者たち。


「大丈夫かー?」


「「「あなたは……英雄さん!!」」」


「ありゃ? 何で知ってるの?」


 冒険者たちが、キラキラした目を向けて、俺に駆け寄ってくる。


「そりゃ有名ですよ!」

「王都を救った英雄ジュードさんですよね!」

「うっわすげえ! 本物だ! さ、サインください!」


 どうやらこの間の王都での一件(表彰)が、冒険者の間でも伝わってしまったらしい。


 あれだけ派手にすれば、そりゃ知られてしまうか。


「みんなは商人たちにケガがないか確認と、他に敵が現れないか注意しててくれ」


「英雄さんは何を?」


「俺は残りを片付ける」


 オーガの気配は、まだする。

 おそらく今倒したのは先遣隊だ。


 俺はキャラバンの馬車の、荷台の上に乗る。


「ごめんよ。ちょっと足場貸してくれ」


「いいですけど……何をなさるおつもりで?」


「ん? ちょっと殲滅」


 気配をスキルで察知したところ、前方の遠く、山の中にオーガの大軍が潜伏してることがわかった。


 この場にいるオーガは、魔法で倒すわけには行かなかった。


 ほかに巻き込むわけには行かないからな。

 ただ……山の中で潜んでいる奴らは別だ。

 周囲に何もない。

 ならちょっと全力を出しても構わないだろう。


「タイガ、ちょっと力借りるぞ」


 俺は【指導者リーダー】という職業ジョブを持っている。


 これは、味方の能力をコピーするという能力を持っている。


 俺の娘、タイガ。

 彼女は雷獣という、とても強いモンスターだ。


 彼女が持っていたスキルを、俺はコピーさせてもらっている。


 スッ……と前方、遠くの山に向けて右手を差し出す。


【獣神の豪雷】


 雷獣のもつ雷が、俺の右手から放出される。


 どっごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!!


 凄まじい雷鳴と、地鳴り。


 豪雷が通った後には、何も残らなかった。

「よし、掃除完了」


 山もちょっと削れてしまったが、直せる範囲内だ。


「「「…………」」」


 ぽかーん、とした表情の冒険者たち。


「騒がして申し訳ない。怪我人はいないか?」


 こくこく、と全員がうなずく。


「そりゃ良かった。そんじゃな」


 そう言って、俺は豪雷の通った後を、【高速移動】で走る。


 走りながら、【修復】スキルを使用。

 これは壊れた無機物を元通りにするスキルだ。


 焼け焦げた地面や、削れた森を修復していく。


「ん? なんでこっちの山も削れてるんだ?」


 俺が削ってない方の山も、なぜか丸々えぐれていた。


「誰か無鉄砲に力をぶっ放したのかな?」


 俺はそっちの方も修復する。

 

「うん、これでオッケー。さて、かえるかー」


 とそのときだった。

 ふわり……と、誰かが上空から降りてきたのだ。


「……ジュードさん。お迎えに上がりました」


 箒にのったキャスコが、微笑みながら、降りてきた。


「おー、キャスコ。たすかる~」


 俺はひょいっ、と彼女の後ろに乗る。


 ふわりと箒が持ち上がり、俺たちの馬車へ向かって飛んでいく。


「……まったく、あなたってひとは、本当にお人好しなんですから」


 呆れたように、キャスコがため息をつく。

「……どうして他人が壊したであろうものまでも、直すんですか?」


「いやぁ、ほっとけないだろ。山の動物たちも迷惑だろうしなぁ」


 ちなみに俺がえぐった山に住んでいた動物たちは、オーガにおびえて退避していたらしく、無事だった。


「……余計な手間だと文句一つ言わずに、後処理をする。ほんと、お人好しで……素敵な人です♡」


 ふふっ、とキャスコが微笑む。


「……そんなあなたが大好きです♡」

 

 キャスコが後ろに体重を乗せてくる。


 彼女の髪から、良い匂いがする。


「キャスコ、飛ぶのに集中してくれよー。落ちたら大変だ」


「……大丈夫です。もうしばらく、こうして二人きりの時間を楽しみましょう♡」


 そんなふうに、ゆったりとした速度で、俺たちは馬車の元へと帰ったのだった。

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