52.勇者グスカスは、冒険者ギルドで恥をかく【後編】
冒険者として働こうと、ギルドへやってきたグスカス。
彼はステェタス確認で大恥をかいた後、今度はギルドの裏にて、実技試験を受けようとしていた。
「チッ……さっさと試験受けさせろよ。試験官は何もたもたしてるんだよ……ったく」
ここはギルド所有の訓練場だ。
円筒状の建物。中央には広場があり、ここで試験が行われるらしい。
「ったく、さっさとしろっつーの。こんな試験に時間かけたくねーての」
家では雫が待っている。
彼女を養うために、冒険者になろうとしているのだ。こんな試験なんぞさっさと突破し、クエストを受け、早くあの子に美味いものを食わせてやりたい……。
「す、すごい余裕ですね……グスカスさん」
「あ゛?」
見やるとそこには、ひとりの少年がいた。
15歳くらいだろう。
つまり成人したばかりの駆け出しだ。
「なんだガキ? 気安く話しかけてくんな」
「す、すみません……ただ、あなたがすごいなって思ったんです」
ほう、とグスカスがうなる。
「俺様がすごいのを見抜くとは……脇役にしてはよくわかってんじゃねえか」
「あ、ありがとうございます……、あ、ぼくボブっています」
ボブがペコッと頭を下げる。
「ぼくもその……ステェタスがそんな高くなくて、だから試験の自信がないんです。けど……同じ風にステェタスの数字が低いのに、堂々としているあなたがすごいなって……尊敬します」
このガキもまた、あまり強い数値を持ってないようだ。ザコと同類にされたのが腹立ったが、殊勝な態度を取っていることを評価して、殴らないでおいた。
「ったりめぇだろ。数字がなんだってんだ。問題は腕。ここよここよ」
グスカスが腕を曲げ、自分の力こぶをたたく。
「ワッ……! すごいむっきむきだ! やっぱり数値は関係ないんですね!」
キラキラとした目を、ボブが向けてくる。グスカスは得意げに笑った。
「おうよ。だからてめぇも、見るからに非力なヒョロガリで、試験もまあ落ちるだろうけど……鍛えれば強くなれっから、ま、頑張れや」
今回の受験者はグスカスとボブ、そして魔法使いの3名だけらしい。
3人の中で、どうみてもこの15歳のボブが一番弱っちそうだ。落ちるのはこいつだろうな、とグスカスは鼻で笑う。
職業を失い、自分は確かにステェタスは大幅減少した。だが勇者として鍛えてきたこの体と、魔王と言った強大な敵と戦ってきた経験があれば、冒険者試験なんて楽勝だ。
ややあって。
試験監督が、広場にやってくる。
「実技試験はシンプルだ。二つある。1つ目は攻撃威力テスト。そして組み手だ」
なんともシンプルな試験だ。
まあそもそも落とす試験ではないらしいし、こんなものだろう。
「ではまずは攻撃威力テストを行う」
試験監督が指を鳴らす。
すると広場に、的が出現する。
棒に板が張り付いており、板には円がかかれていた。
「剣が使えるなら剣で、魔法を使えるものは魔法で、この的に攻撃を与えろ。破壊したときの威力が、数値となって試験官である私のもとへ算出される仕組みになっている」
なるほど、とグスカスがうなずく。
「ど、どういうことだろう……?」
ボブが試験内容を理解しておらず、首をひねっていた。
「あの的めがけて剣をたたきつけるか魔法を打てっってこった」
「なるほど! ありがとうございますグスカスさん!」
「ハッ……! まあザコはザコらしく、せいぜい頑張れよ」
「はいっ……! よーし、がんばるぞー!」
ボブがむんっ、と気合いを入れる。
まあこんなザコはどうでも良かった。
「では始める。最初は魔法使いの君から」
受験生3名のうちのひとり、魔法使いが、的の前にやってくる。
精神を集中させ、魔法を発動。
初歩の火属性魔法【火球】。
そこそこの大きさの火の玉が、的にぶつかる。
「よし、いいぞ。悪くない結果だ。最初はこれで十分だ。次!」
グスカスかボブかのどちらかだ。
「俺様は最後でいい。ガキ、てめえがやれ」
「は、はい……!」
主役は最後に活躍するものだ。ガキはせいぜい、自分の引き立て役になってもらおう。
ステェタスの値がグスカス同様に低いと言うことは……まあお粗末な結果になるのは見えている。
そこで満を持してのグスカスが華麗に決める! ……これだ。
「2番、ぼ、ボブです。えっと……一応剣と魔法どっちも使えるんですけど……魔法でお願いします」
試験官がうなずく。
ボブは的の前に立つ。
「よぉし……じゃあ、がんばるぞー!」
そう言って、ボブが目を閉じて、そして……「ふぅうううううううん!」
ドンッ……!!!!
ボブが気合いを入れた瞬間、大気が……揺れたのだ。
「な、何だぁ……!?」
グスカスは目をむく。
見やるとボブの体が……黄金に輝いているではないか。
「あ、アイツ何をしてるんだ……?」
「アレはまさか!? 闘気! 彼は闘気を使えるのか!?」
試験官が叫んでいる。
「な、なんだよ闘気ってよぉ……?」
「失われし伝説の奥義だ! 大気中の自然エネルギーを体内に取り込み燃焼させ、莫大なエネルギーを作り出す……世界最強の奥義!」
な、なんだと!? 目をむくグスカスをよそに、ボブ少年が手に闘気を貯める。
「いきます……闘気砲!」
手の闘気を、一気に解放。
それはレーザービームとなって、放出された。
びごおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
極太のレーザーは、的どころか……練習場の壁をまるごと吹っ飛ばしたではないか。
グスカスも、そして試験官も……その場にへたり込んでいる。
「あ、あわわっ。またやっちゃった……壁壊してごめんなさいっ!」
ぺこっ! とボブが試験官に頭を下げる。
「まさか的も壁も、あんなヤワだと思わなくて……おじいちゃんの家の道場は、すごく頑丈だったので……つい……」
ぽりぽり……とボブが頭をかいて反省する。
「全部破壊しちゃったけど……的壊したから大丈夫ですよね?」
「き、きみぃいいいいいいいいいい!!」
試験官が立ち上がると、ガシッ! とボブの肩を掴む。
「闘気術を使えるのか!?」
「え、あ、はい。うちの田舎村ではみんな使えましたし……え、みなさんも使えますよね?」
きょとしながら、ボブが首をかしげる。
グスカスは、戦慄していた。
伝説の技術を、たやすくつかい、こいつはそれどこか、それが普通だと思ってやがる!
「使えないよ! すごい! 君は天才だ!」
「え、いやいや天才じゃないです。村でぼく一番のザコです。ぼくより強いやつなんてごまんといましたし……」
すると試験官が驚きながら、履歴書を確認する。
「ボブ・タナカ……出身……極東。極東!? 極東って、あの鬼ヶ島か!?」
グスカスも聞いたことがあった。
東の端には、鬼のように強いモンスターがうじゃうじゃいる、鬼の島があると。
そしてそこで暮らす人間もいる……と。
「極東出身者か! なるほど強いのはうなずける! すごいぞ! 天才だ! 我がギルドは天才を引き入れることができたぞ!」
試験官は大喜びしながら、ボブの手を握ってぶんぶんと振る。
「そんな天才じゃないですよ。あ、ほらグスカスさんの番ですよね」
試験官が「ああ……」とテンションが下がったように言う。
「グスカスくん。君の番だ」
「……お、おうよ」
的が出現する。
グスカスは的の前にやってくる。
ギルド支給品の剣を抜いて構える。
「……ちくしょう。俺様より目立ちやがって。あのモブやろうが……」
ブツブツ文句を言うグスカス。
剣を思い切り振りかぶり、
「おらぁああああああああああ!」
バシッ……!
……頬をビンタしたような、そんな軽い音がした。
「…………え、ザっコ」
受験者の魔法使いが、ぼそっと言った。
かぁああああ…………と赤くなるグスカス。
「う、うるせえ! 音の大きさは関係ないだろ! そうだろ試験官!?」
だが……。
「いやボブくん。ぜひとも我がギルドに入ってくださいね。きみにはA級……いや、S級の席を用意しよう! VIP待遇も考えておく! なにせ歴代最高得点をたたき出した天才だからね!」
……と、必死になって、試験官がボブを、自分のもとへ引き入れようとしていた。
「おい!」
「あ、ああ……。えっと……グスカス……得点、2か。はぁ~~~~~……………………」
試験官が深くため息をつく。
「グスカス。きみは失格だ」
「なっ!?」
「当たり前だろ。2って。子供のビンタがそれくらいの威力だ。大してボブくんは5億! ……うん、グスカス」
試験官は道場の笑みを浮かべながら、グスカスに近づいて、その肩をたたく。
「あきらめろ。きみには才能がない。というか、ボブくんと比べたら君なんてカスだ。即刻冒険者を辞めて別の仕事に就くと良いよ」
「~~~~~~~~~~~!!!!」
ぎりぃ……と歯がみするグスカス。
確かにあの桁外れの攻撃力と比べたら、自分のはカス。わかっている……だがそれを受験者に、わざわざ言う必要ないだろう!?
グスカスが、試験官にくってかかろうとした、そのときだ。
「ま、待ってください!」
バッ……! ボブが両手を広げて、グスカスの前にやってきたのだ。
「まだ組み手の試験が残ってます! それを前に落とすのは……おかしいと思います!」
ボブが必死になって、試験官に言う。
「いやねボブくん……いや、ボブ様。彼はあまりに弱すぎる……」
「それはステェタス上はでしょう!? それに彼はまだ闘気を使ってない! つまりグスカスさんはまだ本気じゃないってことです。ですよね!?」
キラキラとした目を、ボブがグスカスに向けてくる。
グスカスは困惑した。
このガキ、なにいってるんだ……?
「闘気なんてぼくの村では赤ちゃんだって使えました。グスカスさんが使えないわけないでしょう?」
……こいつ、まじか?
それとも……馬鹿にしてるのか?
いや、まじなやつだろう。
その目に曇りがなかった。
「……いや、ボブ」
「使えますよね!?」
……ここでつかない、なんて言えなかった。そんな雰囲気じゃなかった。
「お、おうともよ!」
だからつい、また見栄を張ってしまった。……またやってしまった。
「じゃあ次の組み手はぼくとやりましょう!」
「は……え……? はぁ!?」
何を言ってるんだ、このボブとか言うガキは。
あんなバケモノみたいな強いこいつと、組み手……だと?
いやいやいや! 死ぬ! とグスカスの冷静な部分が告げる。
だがここで拒否はできなかった。
「お、おうよ! かかってこい!」
「はいっ!」
グスカスとボブが、グラウンド中央に移動。
「これより組み手試験を始める。……グスカス、悪いことは言わない、今棄権しろ、な? ザコのお前には無理だから。最悪死ぬから。やめとけって」
試験官が、グスカスを馬鹿にしながら言う。
あきらかに、1ミリも期待していない。
「うっ、うっ、うるせえ! や、やんぞごらぁ!」
裏返った声でグスカスが言う。
腰が完全に引けていた。
「よろしくお願いします! ぼくも……全力でいきます!」
ごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!
ボブの体から、すさまじい量の闘気が噴出した。
グスカスはそれだけで……膝が震え出す。
ボブは体を沈めると、ドンッ……!
「たぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」
闘気を腕に集中させて、すさまじい勢いで、こちらに突っ込んでくる。
……死。
グスカスの脳裏に、死のイメージがよぎる。
それは魔王と対峙したときに感じたのと、同じレベルの恐怖を感じた。
「ひぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいごめんなさいごめんなさい降参しますぅうううううううううううううううううううううううう!!!!」
グスカスは泣きわめいた。
闘気を纏った少年が、こっちに突っ込んできただけで、戦意が完全に砕け散ってしまったのである。
だがボブは聞こえていないらしかった。
「くらえ、すごいぱーーーーーーんち!」
どごおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!
……死んだ、と思った。
すさまじい衝撃が、体に走った。
ボブのパンチが、グスカスの体に当たる。木の葉のように吹っ飛ぶグスカス。
そのまま後の壁に、グスカスが激突。
……そのまま彼は、壁に埋まって、失神した。
「あ、あわわ……ごめんなさい……まさかグスカスさん、こんなに……こんなに……弱いなんて、思わなくって……」
ボブが駆け寄ってくる。
グスカスを壁から引き剥がすと、彼に闘気の治癒術を施す。
死に体だったグスカスの体が、一瞬にして完全回復した。
「な、なんだそれはぁ!?」
と試験官が驚く。
「え、闘気を応用した治癒術です。こんなの……一般教養ですよね?」
きょとん、と首をかしげるボブ。
「いやいやいやおかしいよおかしいよ!」
「え、弱すぎてってことですか?」
ボブが真顔で首をかしげる。
グスカスは……モブを、バケモノを見上げながら、こう叫んだ。
「つよすぎんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
……余談だがグスカスはいちおう、冒険者として登録ができた。
グスカスは本来落第点だったのだが、ボブが彼も冒険者にしてくれと頼んだところ、あっさりオッケーが通った。
おそらくボブの不興を買って、天才がギルドから出て行くのを防ぎたかったのだろう。だから特例で、取るに足らない雑魚を、冒険者にしたのだ。
……酷い屈辱だった。
ちなみにインチキして合格したグスカス。試験の一部始終を、ギルドにいる全員に、噂が出回ることになる。
その結果、ボブのおなさけで入ったインチキ合格者として、長く笑いものになる羽目となる。
……かくしてグスカスは、大敗北と、そして大きな屈辱を味わされたが、なんとか冒険者になることができた。
やっと冒険者になれた。だが裏口で入ったグスカスが、果たして冒険者として、まともにやっていけるだろうか?
誰がどう見ても、絶対に、無理だった。
もとより基礎能力が落第点なのところを、裏口で入ってしまったから……。
もし、このときボブがいなければ、裏口合格できていなければ。
……グスカスはさらに、酷い目に合わずにすんだのに。このときのグスカスは、そんなこと微塵も、知らないのだった。
グスカス冒険者編は、じっくりやってきます。
新作をはじめました。
「自由を奪った状態で倒すなんて、この卑怯者!」と追放された最強の暗殺者、人里離れた森で魔物狩りしてたら、なぜか村人たちの守り神になってた
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最強の影使いの暗殺者が無双するお話です。頑張って書いたので、読んでくださると嬉しいです。
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