表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/154

48.勇者グスカスは、悪夢を見る

48話、書き直しました。前回の話は無かったことにしてください。




 ジューダスが隣国行きを決めた、一方その頃。


 勇者グスカスは、夢を見ていた。


 夢の中で、グスカスは、年末の出来事を思い出していた。


 場所は王城。謁見の間。


 大勢の人たちが見守る中、グスカスは王の前に、跪いて、断罪されていた。


【グスカス。おぬしから王位継承権を剥奪の上、この城から追放する】


 自分の父であり、国王であもあるグォールから、そう言い渡されるグスカス。


【お、おやじ……?】

 

 グスカスは目をむいて、わななく。


【どういうことだよ……。俺様が……王位を継げない? う、嘘だよな?】


 グスカスはすがりつくように言う。だが父は目を伏せたまま、何も言わない。


【答えろよ! 親父! 親父ーーーーーー!!!】


 答えをくれぬ父に、グスカスは憤る。内心の動揺をごまかすように。嘘であってくれと祈りながら。


 グスカスは立ち上がり、父にくってかかろうとする。だがグスカスは衛兵に捉えられ、地面に押しつけられる。


【親父! うそだよなぁ! さっきのは何かの聞き間違えだよなぁ!? なぁあ!?】


 グスカスは叫ぶ。嘘だと言って欲しかった。


 だが父は答えない。目を閉じて、グスカスの言葉を無視する。


 ……グスカスは焦った。今まで、父が自分を無視することはなかった。


 父は自分のわがままを、いつも聞いてくれた。いつも父は、自分を気にかけてくれた。


 ……半年前。魔王をまえに怖じ気づき、王都へと帰ってきた自分を。父は責めず叱らず、ただよく帰ったと優しく出迎えてくれた。


 他の奴らは、臆病者だと自分を馬鹿にする中。父だけが違った。


 父グォールは、いつだって、息子であるグスカスの唯一の理解者であり、唯一の家族だった。


 しかし……。


【…………】


 優しかった父は、目を閉じて、耳と口を閉ざし、グスカスの前に立っている。


 それではまるで、グスカスを無視してるようではないか。


 まるで赤の他人のように……。


 グスカスは、先ほどの父の言葉を思い出す。王位継承権を剥奪すると言っていた。


 それは王子である自分から、王になる資格を奪うということ。それは、国王ちちの子ではなくなるということ。


 ……グォールが、自分の父でなくなる。家族ではなくなると言うこと。


【……嫌だ】


 口をついた言葉は、そんなシンプルな者だった。


【嫌だ! 嫌だ嫌だ! 嫌だぁあーーーーーーーーーーーーー!!!!!!】


 叫ぶグスカスの脳裏には、父との思い出が思い起こされる。


 自分を産んだ母は、グスカスが幼い頃に死んだ。父の後妻とも、そして彼女が産んだ腹違いの兄弟たちとも、グスカスはなじめなかった。


 この広いいえの中で、グスカスはひとりぼっちだった。……ただひとり、父グォールを除いて。


【親父! 嫌だ! ここから出て行きたくない! 嫌だ! 俺を! 見捨てないでくれよ! おやじぃーーーーーーー!】


 王位を継げないことよりも。グスカスは、父から捨てられることのほうが、怖かった。

【…………】


 グスカスの叫びに、グォールは応じない。目を閉じて黙ったままだ。


【お願いだ! 親父! 嫌だ! 出て行きたくない! 親父! ごめん! 許してくれよぉ!】


 グスカスは泣いて叫んだ。わんわんと、子供のように泣いた。


 かつての父は、こうしてグスカスが泣けば、どうしたのだと心配そうな表情で、自分に駆け寄ってくれた。


 ……しかし。


【……そのものを、ここから追い出せ】


 グォールは冷たく、グスカスにそう言い放つ。


【親父……親じぃ……】


 衛兵たちが、グスカスを捉える。無理矢理立ち上がらせる。


【嘘だろ! なぁ! 嘘だよなぁ……嘘だって言ってくれよぉ!】


 グスカスは叫ぶが、グォールは瞑目したままだ。


 なぜ嘘だと言ってくれないのだ!


【親父! なんでだよ! なんで俺様がこんな目に遭わないといけないんだよ!?】


 グスカスは、本気でわからなかった。


 俺は勇者だ。選ばれし人間だ。


 ちょっと他人に迷惑をかけても、許される存在なのだ。


 なぜなら、幼い頃から、自分が誰かに迷惑をかけても、誰からも怒られなかったから。


 グスカスは理解した。自分は特別な人間なんだ。何をしても大丈夫な人間なのだと。そう、誤解していた。


 ゆえにグスカスは、今回の騒動でさえも、いつものように、ちょっと周りに迷惑をかけた程度にしか思っていなかった。


【たかだか怪我人が出たくらいじゃねえか! 死んだ人間はいないんだろ!? なら良いじゃねえか!】


 グスカスは、言った。

 心から、そう思っていることを


【どうしてそんな程度で、俺様がこんな目に遭わないといけないんだよ! 教えてくれよ!!! 親父!!!!】


 グスカスの悲痛なる叫びに対して、父はというと……。


【……もう良い】


 グォールは、重々しく言った。


【……もう良い。連れて行け】


 ただ、その一言だけを。そうして、グォールはきびすを返し、奥へと引っ込んでいった。


【おい待てよ! 答えろよ! 親父! 親父ーーーーーーーー!!!!】


 グスカスは父の元へ駆けつけようとした。だが衛兵たちがグスカスを捉えて、動けなくする。


【離せ! 俺様を誰だと思ってやがる!? 勇者グスカス様だぞ!? 第一王子グスカス様だぞぉ!?】


 それを捉えるこの不敬な奴らを、誰か引っ捕らえろと叫ぶグスカス。


 ……しかしその言葉に、誰も従わなかった。当然だ。グスカスは、もう王子でも何でも無いのだから。


【親父! 行くなよ! 親父! 親父ーーーーーーーーーーーーー!!!!!】


 グスカスは手を伸ばす。だが父の背中は遠のくばかりだ。


 やがてグスカスの意識が暗転する。伸ばした手が何かをつかむ前に、グスカスは暗い闇のそこへと、落ちていった……。



    ☆



「親父ッッッ!!!」


 はっ、とグスカスは目を覚ます。


 ……自分はどうやら、悪夢にうなされていたようだ。


「はぁっ! はぁっ! はぁー……! はぁー…………はぁー………………」


 荒い呼吸を繰り返すグスカス。半身をおこし、自分の心臓に手を当てる。


 どくん、どくんっ、と心臓が、体に悪いような鼓動を刻んでいる。この寒い中、額に脂汗をかいていた。


「はぁ……はぁ……くそッ!」


 嫌な夢を見てしまった。グスカスは顔をしかめて、マットをぼすんっ! とたたく。

「嫌な夢だ……」

 

 グスカスは起き上がり、周りを見渡す。


 粗末な部屋だ。天井も床も、木造で、しかもボロボロ。壁にはひびが入っており、風が吹くたび、冷気が部屋の中に入ってくる。


「……ちくしょう。さみぃ」


 グスカスはベッドの上の毛布にくるまる。だが毛布もぺらっぺらで、寒さを全くしのげてなかった。


「…………」


 それにしては寒い。まさかと思って、グスカスが窓のカーテンを開け、窓を開ける。

「……雪降ってやがる」


 そこに広がっていたのは、辺り一面の雪景色だ。


 街に降り積もる雪を見て、グスカスはため息をつく。その息は白い。


 窓を閉めてため息をつく。


 ……ここは人間国ゲータニィガ。王都から南東に下った、【ガオカナ】という街だ。

 王都を追放されたグスカスは、従者の少女とともに、この田舎町まで流れ着いたのである。


 ガオカナは王都ほどではないにしても、ここを訪れる者は多い。


 ここは隣国ネログーマとの国境にある街。中継地点のような街なのだ。


 それゆえガオカナは宿場町として栄えている。道行く人の数は多い。


「くそ……なんで俺様が、こんなクソ田舎にいなきゃなんねえんだよ……」


 グスカスにとって、王都以外はすべてクソ田舎に分類されるのだ。


 人も少ないし、街だって田舎くさい。垢抜けてない。不便だし。宿だってぼろい。


 グスカスが泊まっているのは、ガオカナの安宿だ。


 グスカスは、ほぼ何も持たずに、実家を追い出されたのだ。


 手持ちに余裕がないため、こうして安くて汚い宿に、我慢して泊まっている。


「くそ……こんなとこじゃなくて……ちゃんとした宿に泊まりてぇよ」


 悪態をつくグスカス。


「……くそが。どうして、俺様がこんな目に遭わないいけねえんだよ」


 グスカスはベッドに腰を下ろして、恨み言を言う。


「なんで王都を追い出されなきゃなんねえ。どうして王の資格を奪われなきゃいけねえ。どうして……」


 最後の言葉は、口にしなかった。


 どうして、親父は俺を、見捨てたんだ……と。


 ……グスカスは、本気で、すべてを理解していなかった。


 王都を追い出された理由も。王の資格を奪われた理由も。父が自分を見捨てた、理由さえも……。


 グスカスはわからなかった。なぜなら、誰も教えてくれないからだ。


 彼は今まで、周りからちやほやされ、誰からも怒られたこともなかった。


 だから何が間違っていることで、何が正しいことなのか、彼にはわからないのだ。


「……畜生。覚えてろよ。俺様をこんな目に遭わせた野郎どもめ。俺様を誰だと思ってやがるんだ」


 王都を追放されたときは、ショックで抜け殻のようになっていた。


 だがあれから1週間以上が経過し、徐々に別の感情が芽生えてくる。


 それは、怒りだ。自分にこんな理不尽な目に遭わせた奴らに対する、憤りだ。


「俺様は勇者なんだぞ。なんで女神に選ばれた俺様が、こんな目に……!!!!」


 ……だが。


 言ってから、グスカスは思い出す。


「………………」


 自分は、もうすでに【勇者】ではなくなっていることを。


 かつてグスカスは、女神から【勇者】の職業ジョブをもらった、文字通り選ばれし子供だった。


 それがこの間、追放処分が決定した際、【王子】の職業だけでなく、【勇者】の職業さえも、失ってしまったのだ。


「……関係ねえ!」


 だがグスカスは憤る。


「俺様が女神に選ばれたって事実は変わらねえ! 俺様は! 選ばれた人間なんだよ!」


 ……たとえ人から与えられた、勇者の称号であったとしても。女神からチカラを与えられた、選ばれた人間であったという事実は、消えない。


 自分は特別なんだ。特別な人間なのだ! ……と思い込むグスカス。


 ……そうしていないと、精神を保てなかった。


「勇者に選ばれた俺様をこんなひでえめに会わせやがって! 覚えてろよ目に物みせてやるからぁ……!」


 グスカスは立ち上がる。そして宿の安い壁に向かって、ボコッ! と勢いよく、拳をたたきつける。


「いってぇええええええええええええええええええええええ!!!!!」


 あまりの痛さに、グスカスはその場にしゃがみ込む。痛い。拳が腫れている。


「い゛でぇ゛……! くそっ、折れた! これぜってえ骨が折れた! いてぇよぉ! 誰かぁ! 医者はどこだぁあああ!」


 グスカスは地面に転がり込んで、痛みに耐える。だがグスカスの呼びかけに、誰も答えようとしない。


 ……雫は、【仕事】からまだ帰ってこないだろう。


 医者を呼んでも、来るわけがない。ここはただの、宿の中なのだから。


「くそぉ……いてぇ……ちくしょう……いてぇよぉ……」


 地面に無様に横たわりながら、グスカスは涙を流していた。


 ……決して、惨めな自分に、泣いていたわけではない。


 と、自分に言い聞かせながら。

グスカス側の話は、じっくりやっていきます。


よろしければ励みになりますので、下の評価ボタンを押していただけると大変嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ