46.英雄、バイト少女たちと初日の出を見る
王都での騒動を終え、我が家へと帰ってきてから、数日が経過した。
今日は1月1日。
カレンダー的には【ノアの日】。俗に言うと正月である。
俺は正月最初の朝日を見るために、店の女の子たちともに、屋上へとやってきていた。
時刻は6時を回っていた。
だがこの時期は、この時間でも、まだまだ暗い。あたりが見えない、そして寒い中、俺たちは日が出るのを待っていた。
「おとーしゃーん。おとーしゃんっ」
くいくい、と俺の袖を引っ張るのは、金髪の幼女だ。
ぴんっ、と立った猫耳に猫尻尾も、髪の毛と同じ、オレンジがかった金色。
大きく、くりくりとした目が特徴的のこの子は、名前をタイガという。
「どうした、タイガ?」
俺はタイガを見やる。幼女はふよふよと空を飛んで、俺の胸にぽすんと抱きつく。
この子は普通の女の子じゃない。雷獣と呼ばれる、最強種族のモンスターの化身なのだ。
俺は森の中で偶然この子とで会い、生まれたばかりのこの少女を、自分の養子として育ている。
「みんなさむいなか、どーしてお外にいるのー?」
ぶるる、とタイガが身震いする。俺は自分が身につけていたマフラーを、タイガの首に巻く。
もともとタイガは、マフラーを巻いていたので、二重で巻いたことになる。
「それはなタイガ。初日の出を見るためだよ」
俺はタイガを抱っこしながら言う。
「初日の出ってなぁにー?」
はて、と首をかしげるタイガ。そういえばこの子、生まれたばかりだったな。
「一年の最初に日の出を見ることだぞ。縁起が良いって言われてるんだ」
「ほぅ。えんぎが。でもなんで縁起が良いのー?」
「う……。そういえば改めて言われると……わからんな」
俺が答えに困っていたそのときだ。
となりに立っていた、小柄な少女が、タイガにほほえみながら言う。
「……光の女神ノアさまが、この世界にやってきて、太陽を作ったのが今日なんです」
よどみなく、その少女が説明する。
特徴的なのは、雪のように白く、ふわふわとした髪の毛だ。
背はやや低め。目は灰色。体は細く、愁いを帯びた表情もあいまって、儚げな印象を与える。
手足はすらりと長いが、出るところは出ている。きゅっと引き締まったお尻がキュートなこの少女。
名前をキャスコという。
「……つまり今日は、太陽の誕生日とも言えるのです。だから縁起が良いとされてます」
「ほぅ! 誕生日ですか! なら縁起が良いですな!」
タイガがなるほど! と納得する。
「だって、おとーしゃん!」
「なるほど。勉強になるなー」
「ねー、勉強になる! さすがキャスちゃん、かしこいですねっ!」
タイガがにこーっと笑って言う。キャスコは「……ありがとう、タイガちゃん」と上品にほほえんだ。
「そりゃ賢いに決まってるだろ。なにせキャスコは賢者さまだからな」
それは頭が良いことの比喩ではなく、キャスコの職業は、【賢者】なのだ。
かつて俺は、魔王を倒した勇者パーティに居た。(訳あって追放され、今は田舎で喫茶店を開いている)
彼女はそこで、【賢者】として、その冴え渡る頭脳と魔法の腕で、パーティーメンバーを支えていたのだ。
この子は、知識量じゃ誰にも負けないのである。
「キャスちゃん……かしこい子!」
「な、賢い子なんだよ」
「……もう、からかわないでくださいよ」
くすくすと、楽しげに笑うキャスコ。タイガも笑っていたのだが、
「へくちゅんっ!」
と大きくくしゃみをする。
「タイガ、寒いのか?」
「うう……ちょっと寒いかもー」
と、ちょうどのそのときだった。
「タイガちゃーん」
ほわほわ、とした声が、屋根の下から聞こえてきた。タイガの耳が、ぴーんと立つ。
「その声は……はるちゃーん!」
タイガが屋根の下を見やる。すると、ふぅふぅ、と息を切らしながら、ひとりの少女が、屋根を上ってくるではないか。
特徴的なのは……目を見張るほど、大きなおっぱいだ。本人はGカップあると言っていたが、本当はHカップあるという。で、でかすぎる……。
身長はやや高め。キャスコと並ぶと、頭一個分くらいの身長差がある。
骨格がしっかりとしており、太ももむっちりとしていて、健康的だ。
ちょっと太めの眉と、大きくて愛らしい瞳。ぱっちりとした二重が実にかわいらしい。
濃い桜色をした、長めの髪を、腰のあたりまで伸ばしている。
この子はハルコ。俺の店で働いている、バイト少女その1だ。ちなみにその2はキャスコである。
「ハルちゃん、どこいってのた? あたちまちくたびれたんですけどっ!」
タイガが俺の胸から離れ、ふよふよと、ハルコのそばまでやってくる。
「ごめんごめん。おらちょっと、タイガちゃんのために、良い物を作ってたんだに」
ちょっとなまりの入ったしゃべり方をする、ハルコ。
「良い物! なんでしょうっ?」
タイガが目を、キラキラと輝かせる。ハルコは【ステェタスの窓】を開く。
これは、この世界に生きる人間なら、みな開くことのできる不思議な窓だ。
ここには自分の能力値だけじゃなく、さまざまな便利な機能がついている。
その機能の一つ、【インベントリ】の中から、ハルコはマグカップを取り出す。
カップからは湯気が出ていた。インベントリの中は、時間が止まっているので、温かい物は温かいママなのだ。
「じゃーん。スープだよ~。タイガちゃんが寒いかなーって思って、作ってきたんだに」
「おー♡ スープだぁ……! ハルちゃんナイス! 大好きー!」
タイガがハルコの腰に、きゅっと抱きつく。
「こらこらタイガ。ハルちゃんがスープをこぼしちゃうだろ」
「はっ! そーでしたっ! ごめんなしゃい!」
ぺこっと頭を下げるタイガ。ハルコは笑って「大丈夫だよ~」と言う。
「それよりハイこれ。温かい内に召し上がれ♡」
「うんっ! ハルちゃんありがとー! いただきまーす!」
タイガがスープを、こくこくと飲む。
ハルコは俺とキャスコの元へ来ると、【インベントリ】から同じ物を取り出して、俺たちに渡す。
「ありがとな、ハルちゃん」
「………………」
ハルコがちらちら、と俺を見上げる。どことなくすねているようだった。
「どうしたの?」
「……ジュードさん。この前は、ハルコ、って呼んでくれましたよね?」
この前、とは12月25日の、降臨祭のことだろう。
あのとき、ハルコたちの泊まっているホテルが、モンスターの襲撃にあった。
ホテルは半壊していた。俺は焦って彼女たちのもとへと駆けつけた。
そのとき俺は、ハルコのことを……ハルコと叫んでしまっていたのだ。
「あのときみたいに、ハルコって呼んで欲しいなー……なんて、だ、だめですか?」
じっ、とハルコが俺を見上げてくる。不安げに眉を八の字にしている。
ふぅむ……呼び捨てか。
「あ、や、やっぱり今まで通りで良いですっ!」
顔を真っ赤にして、ぶんぶん! と首を振るうハルコ。
「……ハルちゃんっ。もうっ。何をへたっているのですかっ」
キャスコが目をきゅっ、と三角形にして、ハルコを叱る。
「……攻めどきではありませんか。ぐいぐいかないと」
「きゃ、キャスちゃー……ん。でもぉー……」
ハルコは泣き顔になって、キャスコに抱きつく。
身長的には、ハルコの方が大きい。だが年齢的には、キャスコの方が上だ。(キャスコが17、ハルコが15)
キャスコは小さいけど、結構お姉さんなところがある。そしてこう見えて結構積極的なのだ。
「……攻めるときに攻めないといけませんよ。ほら、勇気を出してっ」
「うう……もうちょっとキャスちゃんのとこで、充電してから~……」
「……もう、仕方ありませんね」
キャスコは苦笑した後、ハルコを抱きしめて、よしよしとする。
ハッ……! とハルコが目をむく。
「タイガちゃん隊長! 大変であります!」
唐突に、ハルコが叫ぶ。
「どうしたのかね、ハルちゃん隊員!」
タイガがハルコに近づく。
「キャスちゃんの体……とっても温かいです!」
「なーにー! 隊長にもだっこさせてください!」
タイガがキャスコのそばによる。
タイガもキャスコの体に、きゅっと抱きつく。
「ほう! これは……とっても温かいですな! ハルちゃん隊員!」
「隊長! しかもとっても良い匂いがします! それに柔らかくて気持ちが良いです!」
「それは確かに言えるー!」
二人がむぎゅーっ、とキャスコにくっつく。キャスコは苦笑して、ふたりの頭をなでる。
「お姉ちゃんだなぁ、キャスコは」
キャスコが長女で、ハルコが次女。タイガが末っ子という図式。
甘えん坊の妹たちと、しっかりもののお姉さんみたいな。
「……ジュードさんも、甘えて良いんですよ♡」
キャスコがにこーっと笑って言う。
「あいにくと場所が空いてないじゃないか」
「……ふたりとも、離れてください」
「「りょーかい!」」
謎のチームワークを発揮して、タイガとハルコが、ばっと離れる。
「……はい、どうぞ♡」
「ええー……と。その……」
キャスコの体に、抱きつきたくないかと聞かれると、抱きつきたいよそりゃ。
ただまだ付き合ってもない男女が、抱き合って良い物だろうか。それに俺は35のおっさん。下手したら捕まるんじゃ……。
それにキャスコの体は、細く儚げで、抱きしめたら折れてしまいそう。
しかし胸も尻も出ており、抱けばおそらく気持ちいいだろうが……ううむ。やはり倫理的にそれはなぁ……。
と理性と本能とがバトルしていたそのときだ。
「お? そろそろ日が出るぞっ」
渡りに船とはこのことか。
徐々にあたりが、明るくなってくるではないか。
「「…………はぁ」」
ハルコとキャスコが、大きくため息をついた。
「……ごめんねハルちゃん。ジュードさん、昔からこんな感じなんです」
「おらもこの半年でわかってきたから、大丈夫だに、キャスちゃん!」
うふふと笑い合うふたり。
「ご、ごめん……」
俺が謝ると、
「はるちゃんきゃすちゃんっ! おとーしゃんが謝っているから、許してあげてっ!」
タイガが俺の前にやってきて、両手を広げて言う。
ハルコたちはほほえむと、
「大丈夫だよタイガちゃんっ!」
「……私たち、怒ってませんよ」
するとタイガが、ぱぁっと表情を明るくする。
「おとーしゃん! ふたりとも怒ってないって! 良かったね!」
にこーっと無邪気に笑うタイガを、俺たちはほほえんで見やる。
すると太陽が、ぐんぐんと上ってきた。
遠く、山の間から、燦然と輝く太陽が顔を見せる。
「まーーーぶしーーーーーーーーのーーーーーーーー!」
タイガが目を><にして、笑顔で言う。
俺も目を細めて、昇ってきた太陽を見やる。
晴れた空に、オレンジ色がよく栄える。山に降り積もった雪が鏡となって、朝日をさらに光り輝かせている。
今年最初の朝日を、俺たちは見やる。
「タイガちゃん、お祈りしようっ。今年もいい年になりますようにって」
「ほう! そんなことするんですかっ! よーし!」
タイガは手を合わせて、むむむ、とうなる。
「今年はおとーしゃんとハルちゃんとキャスちゃんに、いっぱい楽しいことがありますようにっ!」
自分の願いじゃなく、俺たちへ願いをかけているタイガ。
俺もハルコも、そしてキャスコも、ほほえむ。
「ンじゃ俺は……タイガとハルコとキャスコ、店のみんなが元気でありますようにっと」
続いてハルコが言う。
「お店のみんなが、幸せでありますようにっ!」
最後にキャスコが上品にほほえむと、
「……ジュードとタイガちゃんとハルちゃんが……たちが、ずっと笑っていられますように」
俺たちは朝日に向かって、ペコッと頭を下げる。
その後しばらく朝日を見た後、屋根から降りる。
朝早かったので、みんなその後、昼前までぐーすか寝てしまった。
寝坊した……と思ったのだが、街のみんなも同じように、寝坊していたみたいだ。
そんな感じで、まあ、今日も田舎で、まったり楽しく生活してます。
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