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41.英雄、街にあふれたモンスターを倒す




 12月25日。19時過ぎ。

 結界が破壊され、王都にはモンスターが流入してきた。


 俺は王城へ行って、結界を修復した後、街に入ってきたモンスターを討伐していた。


 俺の【索敵】スキルを使って、敵の場所を特定。キャスコの【飛行魔法】で現場まで急行する。


「……ジュードさんっ! あそこです!」


 ホウキにまたがるキャスコが指さす。そこは飲食店街だ。


「SHAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!」


 そこにいたのは、巨大な二足歩行をするトカゲだった。


【見抜く目】によると、【ジャイアント・リザード】。S級モンスター。


「真上で下ろしてくれ!」


 俺はホウキの上に立ち、身体能力を向上させるスキルを発動。【インベントリ】から魔剣を取り出す。


 魔法や攻撃系のスキルは、結界内では使用できない。だからどうしても、物理攻撃しか選択できないのだ。(もっとも魔法を使うと建物を壊すので、そもそも使えないが)


 それはさてき。


「……つきました! ジュードさんっ。お願いしますっ」


 ホウキがリザードの真上に到着。


「そこで待機してろ!」


 俺はホウキから飛び降りる。


「SHAOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」


 でかいトカゲが、おれに気付いて顔を向けてくる。大きく口を開いて、炎を吐き出してきた。


 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ……!!!!!


 炎の波が、俺に押し寄せる。反射スキルは攻撃スキルの一つなので、使用できない。


 俺は騎士の【防御力強化】、および【耐熱強化】スキルを発動させる。炎によるダメージは軽減される。


 俺は落下しながら、体を回転させ、魔剣を振る。


「ーーーーらあぁっ!!!」


 スパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ…………!!!!


 リザードの首を、一撃で吹っ飛ばした。


 ジャイアント・リザードを撃破した俺は、そのまま自由落下する。


「……ジュードさんっ!」


 地面に落ちる前に、キャスコが俺を回収。彼女の後に乗っかる俺。


 キャスコはそのままホウキを飛ばし、また別の場所へ移動する。


「……ジュードさんっ。大丈夫ですかっ? やけどは?」


「ああ。たいしたことない。ちょっと髪の毛が焦げたくらいだ。それより次へ行ってくれ。北西だ」


 キャスコがこくりとうなずき、ホウキを動かす。


 俺たちは次の現場へと急行。【索敵スキル】によると、だいぶS級の数は少なくなっていた。


 あと3体……いや、いま倒されて、後2体になった。おそらくキャリバーかオキシーの、どちらかが倒したのだろう。


「……そういえばジュードさん。街の避難、かなり進んでますね」


 キャスコが眼下を見下ろしていう。俺も下を見る。


 確かに眼下にはにほとんど、一般人が居ない。


 いるのは武装した騎士だけだ。武器を持たない一般人の姿は、不思議なことに、どこにも見えない。


「まだ避難勧告を受けて、そんなに時間経ってないだろうにな……」


 モンスターにより、あちこち建物が壊されている。だがモンスターに攻撃を食らい、怪我を負っている人間すら見当たらない。


「……避難が順調すぎますね」


 とキャスコが疑問を呈したそのときだ。


【ジュードさんっ。こっちのS級、ぶっ倒したっす!】


 俺の頭に、勇者パーティのひとり、騎士のオキシーから、通信魔法が入った。


「助かった。残り2体だ。北東へ向かってくれ」


 俺がオキシーに指示を出す。


 俺はさっきからこうして、通信を使って、キャリバー、オキシーと手分けして、S級を倒しているのだ。


「ところで街の避難なんだが……結構順調に進んでるみたいなんだけど、どうしてだ?」


 俺は気になっていることを、騎士団長オキシーに尋ねる。


【キース様のおかげっす】

「キースの?」


 といって、オキシーは以下のことを説明してきた。


 住民の避難が順調な理由は、


1 降臨祭の期間中、街の警備に力を入れようと、キースが提案したから。


2 ちょうど花火が最高潮の時間帯だったため、住人が中央広場に、集まっていたから。


「キースは何で街の警備を強化したんだ?」


【前々から降臨祭の日は、人が多くなるせいでトラブルが多かったんす。だから前から街の警備に力入れてくれーって上に進言してたんすけど、全然聞き入れてくれなかったんす】


 しかし今年になって、キースが発言力を持ったらい。


 キース主導の下、街の警備体制に力を入れたのだという。やるな。さすがキース。


【あと非番の騎士たちも、花火を見ようと中央広場に居たのが、地味に良かったんだと思うっす】


 なるほど……。一般人も一カ所に集まっていたし、その場にも非番の騎士がいたから、避難が楽だったと。


【いやぁそれにしてもラッキーだったす。万全の体制と、ちょうど人が集まっているタイミングで騒ぎが起きたおかげで、今のところ人的被害はゼロっす!】


 確かにラッキーだった。……まあ、ちょっとラッキーすぎる気がしなくもない。


 いや、考えすぎか。幸運の女神様が、降臨なさってくれていたのだろう。


 と、好意的に解釈することにして、それ以上は考えないことにした。


 なにはともあれ、これなら上手くいきそうだ。


 何事もなく終わってくれると良いのだが……。


「……ジューダスさん。敵を発見しました。接近します」


「了解。……ということだオキシー。通信をきるぞ。最後の二体のうち、そっちのを頼む」


 オキシーから了解の返事が来たので、俺は通信を着る。


 ちょう敵の姿を目に捕らえた。


「GURORORORORORORORORORORORORO!!!!」


 今度は頭が二つある、巨大な犬だ。


【見抜く目】によると、【双頭犬オルトロス】というS級モンスターだ。


 俺は先ほど同様、ホウキから飛び降りる。

「GURORORORORO!!!」


 双頭犬が、大きく口を開いて、またしても炎を吐き出してきた。


 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!


 俺はまた防御スキルでしのごうと思ったのだが。


 びょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!


 上空から、激しい突風が吹いた。【風流ウィンド・ストリーム】という、突風を起こす魔法だ。


 見上げると、キャスコが、こちらに手を向けている。どうやら魔法で補助してくれたようだ。(風流は攻撃魔法じゃないので使える)


「サンキュー、キャスコ!」


 俺は双頭犬の背中に着地する。魔剣のさやをつかんで、腰を下ろす。


 魔剣をしっかりと握る。剣に魔力を流し込み、思い切り、剣を振り抜く。


「ーーーーーーーラァアッ!!!」


 ズバアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッッッッッッ…………!!!!


 一刀で、ふたつの首を切り落とすことに成功。


 双頭犬は、首なし犬になる。そのまま崩れ落ちそうなる。


 俺はジャンプ。するとちょうどキャスコがやってきて、俺を回収してくれた。


「サンキュー。助かった」

「……無茶しないでくださいよ」


 目を伏せながら、彼女が言う。泣きそうだった。また炎に突っ込もうとしたからだろう。


「ごめんな。でもアレが一番手っ取り早いじゃあないか。早く倒さないと、建物の被害が増えるし」


「……だからって、身を危険にさらして良い理由にはなりません」


 キャスコがきついトーンで言う。俺は「ごめん」と頭を下げた。


 ……自分の身よりも、やはり街や人の方を最優先させるべきだと、俺は思う。


 けど、俺のことを心配してくれている、この少女を前には、そんなこと口が裂けても言えなかった。


 俺は気を取り直すように、キャスコに言う。


「これでだいぶ楽になったと思う。今ちょうど、オキシーも残り一体のS級を倒したところっぽいし」


【索敵】スキルによると、王都にいるS級のモンスターは、これですべて倒したことになる。


「……次はどうしますか?」

「S級が片付いたから、つぎはA級の処理に向かおう」


 キャスコがうなずく。


 しかしS級モンスターを倒したことで、結構楽になったな。


 正直A級以下は、本当に弱いからな。これなら無事、王都の騒動も上手いこと収束してくれそうだ。


 オキシーによると、人的な被害もないみたいだし。良かった良かった。


「さてA級は……。だいぶ数減ってるな。騎士団が頑張ってくれたのか。一番近くのA級モンスターは………………………………………………」


 そこで、俺は初めて気付いた。


「ッッ!!!!!!」


 今まで、S級にばかり気を配っていて、気付かなかった。


「キャスコッ! 今すぐ南門に行けッ!!!」


 俺は怒鳴り声を上げて言う。


「……ど、どうしました?」

「良いから早くしろっ!!!」


 キャスコが慌てて、ホウキを南門へ向けて飛ばす。


「クソッ……!!」


 俺の、完全なミスだ! S級にばかり気を取られすぎた!!!


 A級の動向にまで、目が行かなかった! クソッ! そのせいで……!


「……ジュードさん、あの、どうしたのですか?」


 キャスコがホウキを、超特急で飛ばしながら、俺に尋ねる。


 俺は答えた。俺が焦っている、その理由を。


「南門近くにA級が暴れてる! ハルコたちが、泊まってるホテルのある場所だ!」



    ☆



 A級モンスターが、ハルコたちの泊まっているホテルの近くで、暴れている。


【索敵】スキルで何度も確かめた。やはり事実は変わらない。


「クソッ……まだかっ!?」

「……もう少しですっ!」


 俺はキャスコの後ろに乗りながら、貧乏揺すりする。


 くそ。なんたる失態だ。


 A級がホテルのそばに居る。ということは、ホテルは今、どうなってる……?


「……大丈夫ですよ。ハルちゃんたちは、きっと避難してます」


 気休めを言うな! ……と声を張り上げようとして、俺は理性で言葉を押し込んだ。

「そう、だね。大丈夫……だよな」


 言って、俺は自分が、冷静さを欠いていることに気付いた。


 子供きゃすこに対して、大人おれが声を荒げるなんてもってのほかだ。


 大人の感情のはけ口を、子供に向けるなど、愚の骨頂だ。


 ……少なくとも、俺は【団長】から、そう教わった。いかん、冷静になれ。冷静さを取り戻さねば。


「…………」


 自分にそう言い聞かせながら、俺は不思議に思った。


 どうしてこんなにも、焦っているのだろうかと。


 言うまでも無い、タイガ、そして、ハルコの身が心配だからだ。


 ふたりが無事で居ないかも……と想像するだけで、冷や汗が止まらない。


 心臓が痛い。やけに鼓動が大きく聞こえる。


「……もうすぐです! 到着します! 大丈夫、ハルちゃんたちは……」


 と、そのときだった。


「「…………ッ」」


 俺たち二人は、息をのんだ。



 ーー南門近くの、ホテルが。

 ーー半壊していたのだ。



「……ハルちゃん。タイガちゃん」


 俺は、俺は……。


「あぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」


 高速移動スキルを発動。


 ホテルのそばに居た【豚鬼オーク】と【大鬼オーガ】のそばへ突っ込む。


 シュコンッ……!

 シュコンッ……!



 二体のA級モンスターに特攻し、俺は魔剣を振って、首を跳ね飛ばした。


「タイガ! ハルコぉおおおおおおおおおおおお!!!」


 俺はモンスターの死骸を放置し、半壊したホテルへと向かう。


 ホテルの壁に手を置いて、【修復】スキルを発動させた。


 壊れていた壁や入り口が直る。


 俺はドアを開けて、エントランスへ。そしてハルコたちの止まっている部屋へと急行した。


「ハッ……! ハッ……!ハッ……!ハッ……!ハッ……!ハッ……!ハッ……!ハッ……!ハッ……!ハッ……!ハッ……!ハッ……!ハッ……!ハッ……!」


 苦しい……。


 息が……苦しい……。


 心臓が……痛い。


 タイガ。ハルコ……。



 ーーそのとき俺の脳裏に、【団長】の、死に際の笑顔を思い出した。



「嫌だ……! もう……! もうっ!」


 もう二度と、大切な人をーーー「ハルコ! タイガぁあああああああああ!!!」


 そして俺は、ハルコたちの泊まっていた部屋へと、やってくる。


 ドガンッ……!!


 ドアを乱暴に蹴破り、部屋に入る。


「タイガ! ハルコっ!」


 果てして部屋の中にはというと……。



 ーーベッドの上に、ハルコと、そしてタイガが倒れていた。



「タイガ! ハルコ!!!」


 俺は彼女たちの元へ急いで近づく。


 ベッドに倒れる二人を前にして、俺の心臓は、痛いほど脈打っていた。


 俺は彼女たちを見て、息をのむ。


「た、倒れてる……。し、死んでるのか……。ど、どうしよう……いや、い、いきてるのか……」


 ハッ……!ハッ……!ハッ……!ハッ……!ハッ……!ハッ……!ハッ……!ハッ……!ハッ……!


 立ちくらみを起こしかけていた、そのときだ。


「……ジュードさんっ!」


 部屋にキャスコが入ってくる。後から追っかけてきたのだろう。


「きゃ、キャスコ……ふたりが……。目を覚まさねえ……」


「……ジュードさん。【見抜く目】を!」


「! そ、そうだなっ!」


 そうだ。俺には【見抜く目】があるんだ。相手の状態を調べるスキルがあったんだった。


 そんなことも、わすれるなんて……いや! 今は後悔してる場合じゃない!


 俺はいち早く【見抜く目】を発動させる。はたして……。


【二人は頭を打って、気を失ってるだけ。命にも、体にも別状はない】


「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………良かった」


 俺は、その場にへたり込んだ。


「……ジュードさんっ! ハルちゃんたちは!?」


 キャスコが声を荒げる。そうだ、結果は俺にしかわからないんだった……。


 俺が答えようとした、そのときだ。


「…………ぅぅん、キャス、ちゃん? ジュード、さんも……」


 ハルコが、ぱちっと、目を覚ましたのだ。

 ……そのときの俺は、自分を制御できなかった。


「ハルコぉおおおおお!!!!」


 俺は目の前の少女の、体に抱きつく。そして力一杯、抱きしめる。


「じゅ、ジュードさんっ?」

「よかった……! ハルコ……生きてて良かったッッ!!!!」


 俺はこの子の存在を、生きているという証拠を確かめたくて、ぎゅっと抱きしめた。


「ジュードさん……おらのこと……そんなにも……」


 ハルコが何かを言ってるが、俺には聞こえなかった。この子が生きている。その証拠に心臓が動いている。


 それが嬉しくて仕方なかった。


「……おとーしゃん?」


 次いで、タイガも目を覚ます。


「タイガ! おまえも……! 良かった……」


 俺はタイガも抱き起こし、その場でぎゅっと抱きしめる。


「ハルちゃん……タイガちゃー……ん」


 キャスコもやってきて、俺たちを包み込むようにして抱きしめる。


 俺とキャスコは、ふたりの無事を、心から安堵するのだった。

次回グスカス(王族)側の話になります。


後日談的な感じで被害状況の報告と、グスカスの処遇、国王の責任問題などに触れます。


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