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40.英雄、破壊された結界を修復しにいく



 12月25日、夜。

 俺が異変に気付いたのは、日没後から少しして、俺の【索敵】スキルの反応があったからだ。


「……!!」


 場所は王都、中央広場。さっきまで俺たちは、ここで開かれていた花火大会を見物していた。


 花火がそろそろ終わると思ったその瞬間、【索敵】が発動した次第。


「……ジュードさん、どうかしましたか?」


 となりに立つ、白髪の賢者・キャスコが、俺のただならぬ様子に気付いて言う。


「もんすた……」俺は口を閉ざす。ここでこのことを言えば、余計な混乱を招く。


 俺は【通信魔法】を発動。目の前のキャスコを相手に、【念話テレパシー】を送る要領で、【通信する】。


【キャスコ。慌てないで聞いてくれ】


 通信での会話に、キャスコが戸惑いを見せながら、彼女はうなずく。


【……何かあったんですね?】

【ああ。モンスターが大量に、この町に向かってきてる】


 キャスコが目をむく。


【……どういうことですか?】


【俺の索敵スキルに反応があった。王都周辺に居たモンスターが、いっせいに王都目指して、移動を開始した】


 俺はキャスコに説明しながら、状況整理に努める。


【……何があったのでしょうか?】


 不安げにキャスコが俺を見やる。


【……今、調べる】


 俺はキャスコとの通信をきり、今度は別の技能スキルを発動させる。


【見抜く目】


 これは対象から、あらゆる情報を見抜くスキルだ。


 俺は【見抜く目】を用いて、いま【索敵スキル】から得た情報から、この状況がどうして起きたのかを、見抜く。


 その結果……。


【王都にある女神の結界。その制御装置が誰かに壊された】


「……!!」


 導き出された結果に、俺は瞠目する。


 女神の結界が壊された……だと? 空を見上げる。空の上には、結界を作っている結界石が浮いている。


 そして結界が発動していると、石が明るく輝いているはず。


 だのに……。


「マジだ……」


 結界石は色と輝きを失っていた。結界石は無事っぽいので、どうやら本当に、制御装置が壊されたらしい……。


「王城に保管されてるはずなのに……どうして……?」

「ジュードさん……?」


 キャスコが不安そうにこちらを見てくる。俺は通信魔法を使って、キャスコに話しかける。


【……結界が破壊されたみたいだ】

【!?】


 キャスコが驚くのも無理はない。女神の結界があるから、モンスターは街に入ってこられない。だがそれがなくなるとどうなるか……。


【ちょっとキースに連絡を取ってみる】


 結界装置があるのは、王城だ。そこにいるだろう、キースに連絡を取れば、状況を確かめられるかもしれない。


 俺はキースに【通信魔法】で、呼び出してみる。


 ……。

 …………。

 …………駄目だ。


「通信が通じない……キャスコ! 【転移】スキルで俺を城まで運んでくれ!」

「……わ、わかりましたっ」


 俺はキャスコのそばによる。彼女がスキル発動のため、精神を集中させる。


 普段は、女神の結界内(町中)では、転移スキルは使えない。だが結界が壊れている今ならば、転移を使用できる。


「……いけますっ」

「よし、頼む!」


 キャスコが【転移】スキルを発動。


 目の前がぐらり……と揺れる。


 そして気付くと、俺たちは、その場から消えた。こうして、結界の発生装置のある王城へと、向かったのだった。



    ☆



 転移が完了し、俺たちは王城の、第三王女ミラピリカの部屋の中に居た。


【転移】はキャスコの行ったことのある場所へしか、飛べない。


 キャスコは今朝、ピリカたちに会いに、ここへ来ている。


「いくぞキャスコ!」

「はいっ」


 俺はキャスコを連れて、ピリカの部屋を出る。当の本人は部屋に居なかった。


 俺はピリカの部屋を出て、キースの部屋へと、足早に向かった。


「ここだっ……キース! いるか-!」


 ドアの外からノック。すると……。


 ガチャッ……!


「ジュードさんっ!」


 銀髪の青年が、そこに立っている。額に汗をかき、顔色が悪い。だがなぜだろうか、目だけは輝いていた。


「キース、大変だ結界が!」

「ええ。結界を作っている発生装置が壊れたと、僕のところに、たった今、連絡がありました」


 どうやらキースに通信が入らなかったのは、別のところと通信していたかららしい。


「どうなってるんだ?」

「わ、わかりません。なにせ僕も知らせを受けたばかりなんです」


 どうやらキースも、俺と同じくらいの情報しか持ってないようだった。焦ってるのか、早口だった。


「時間が無い。キース。俺を装置のある部屋へ連れて行ってくれ」

「……それは」


 キースが渋る。街を守る結界。それを司る発生装置は、文字通りこの街の要。重要品。


 おいそれと外部の人間に、ありかを教えるわけには行かないだろう。


 部外者が、しかも何の目的もなく、装置の場所まで行ったら問題になるだろう。


 だが俺にはやるべきことがあった。


「キース。今はいちはやく壊れた装置を直す必要がある。俺には……」


 と言いかけたそのときだ。


「そうかっ! ジュードさんには、【修復】スキルがありましたね!」


 俺の職業、【指導者リーダー】は、契約者の能力をコピーする能力を持っている。


 俺は前に、鍛冶師の人間から、【修復】という、壊れた無機物ならたちどころに修復できる、というスキルを持っていた。


「なんという幸運だ! ジュードさん、頼みます! 付いてきてください!」


 キースがうなずく。


 俺はキースに連れられ、キャスコとともに、部屋を移動する。


 キャスコがホウキを、インベントリから取り出す。俺たちはホウキにまたがり、飛行魔法で、発生装置のある部屋へと急いだ。


「発生装置は王城の一番高い塔の、最上階にあります」


 キース先導の元、キャスコがホウキを操作する。


 移動しながら、俺はキースに尋ねる。


「塔の外から部屋に侵入はできないのか?」

「塔の壁は厚く、窓もありません。加えて塔の周りには、塔以上に高い建物もないので、外部からの侵入は不可能かと」


 となると内部から侵入する必要がある。


「犯人は誰なんだろうか……。外からあやしい奴が入る……ってことはないだろうし」


「そうですね。王城に入る際は、来た目的を入り口で記入させられ、さらに監視用のマジックアイテムを持たされます。目的以外の場所へ行こうとなると、衛兵にその情報が伝わる仕組みになってます」


 となると、外部の人間が、内部に侵入……ということ無理そうだ。


「……となると」

「……ええ。内部の人間による犯行となります」


 キャスコは塔までやってくる。らせん状の階段を、ホウキが上っていく。


 キースは神妙な顔つきで推理する。


「しかも犯人は、城の内部構造に詳しい人間になります」

「発生装置の置いてある場所は、特定の人間しか知らないのか?」


 キースがうなずく。


 ……そうなると、だいぶ犯人が絞られるような気がする。内部犯だったとすると、いったい誰が、何のために結界を破壊したというのか……。


「そういえば結界が壊れたって誰から通信が入ったんだ?」


「結界装置は壊れると、それを管理している人間の元まで連絡が行くよう、魔法がかかってます。管理人から僕宛に連絡がついさっき来たのです」


 そうこうしていると、ホウキが最上階へと到着。


「! 大丈夫か!?」


 部屋の前には、見張り番らしき男がふたり、倒れていた。


 俺は彼らのそばによる。うつ伏せに倒れて気絶している。さらにその場には血だまりができていた。


「傷はできてからそんなに時間が経ってない……。キャスコ、治療を」


「……了解です。【大回復ハイ・ヒール】!」


 賢者キャスコが、回復魔法を発動させる。すると倒れていた衛兵たちの顔色が、みるみる良くなる。


 さっきまで青ざめていた彼等の顔に、血色が戻る。


「……これで命は助かったと思います。聖職者プリーストじゃないので、【全回復パーフェクト・ヒール】はできませんでしたが」


 大回復は相手の傷を直したが、意識までは取り戻せてなかった。


「いずれにしろ衛兵たちが目を覚ましてから、犯人の事情聴取を行いましょう」

「ああ、今は結界装置を直すぞ!」


 俺たちは発生装置のある部屋へと侵入する。


 そこは窓のない、小さな、そして狭い部屋だった。


「なんだ……足下のこれは……。割れたクリスタルか……?」


 足下には、大量の【水晶クリスタル】が落ちていた。


 破片がいくつも転がっていた。大きさは不揃いで、ちょうど【大きな何かが、ぶっ壊れて割れた】ような印象を受けた。


「発生装置の残骸でしょう。ジュードさん、この散らばっているクリスタルに【修復スキル】を使用してください」


「わかった任せろ!」


 俺はしゃがみ込んで、クリスタルの破片に手を置く。


 そして鍛冶師のスキル、【修復】を発動させる。


 破片となった水晶が、映像を逆回しするように、元に戻っていく。


 バラバラだった水晶は、一カ所へ集まっていくと、やがて一つの大きな石の塊になる。


 それは長方形の板だった。モノリスってやつだろうか。


 水晶のモノリスが俺たちの前に出現する。すると……。


 ピカッ……!!!


 こぉおおおおおおおお………………!!!!!!


 モノリスが光ると、天井に向かって、光の柱が伸びる。


 俺は【見抜く目】を使って、モノリスを、そして光の柱を見やる。


【モノリスは結界の発生装置。そしてこの光は、外に伸びて、空に浮く結界石に照射される】


【発生装置がなおったことで、結界は無事、元に戻った】


 それを聞いて、俺は安堵の吐息を漏らす。

「良かった! これで街は安全ですね!」


 キースもほっと……と表情を和らげる。


「いや、まだだ。結界は戻ったが、結界が解除されたせいで、モンスターが結構街に、入ってきてやがる」


【索敵】スキルで確認した。


「B級以下のザコが多数……。それに、S級以上が何体か……」


 索敵の精度をあげれば、敵の強さくらいは判別できる。


 俺はキースに言う。


「キース、すぐにオキシーたちに連絡を取ってくれ。騎士団と連携して住民の避難誘導を。キャスコ、行くぞ!」


 俺はキャスコのホウキにまたがる。


「ジュードさんは?」

「俺はS級の相手をしてくる!」


 ホウキが空中に浮く。


「わかりました! 住民の避難は任せてください! 街と……住民の平和のために、お願いします!」


 俺はうなずくと、キャスコが【飛行魔法】を発動させる。


 こうして、俺たちはモンスターのあふれているだろう、城下町へと向かったのだった。

グスカスの処遇は、街の騒動を収めた後、きっちり書く予定です。


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