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04.英雄、A級モンスターを瞬殺する



 王女ミラピリカが来た翌日。


 朝。俺は喫茶店の前で、いつものように雪かきをした。


「あれ……? あの双子、今日は来ないなぁ」


 双子少女の冒険者のことだ。毎朝とても早い時間にダンジョンへと向かう。行く前に俺のところへ寄って、残り物のパンをもらいに来るのだが。


「ふぅむ、どうしたのかね……。ハルちゃんに聞いてみるか」


 俺は喫茶店の店内に入る。時計は朝7時半を示していた。



 からんからん♪



「ジュードさんっ! おはようございまーす!」


 ドアが開くと、バイトの少女がやってきた。身長は150くらいで、年齢は15だったかな。


「ハルちゃん、おはよ」


 俺が挨拶をすると、


「うぅ…………」


 と顔を真っ赤にして、その場にしゃがみ込む。


「……ジュードさん今日もイケメンでかっこいいなぁ。笑顔がとっても素敵だにぃ~♪ ああ、おらこんな旦那様に毎日お出迎えされてぇ〜なぁ、なんつって♪」


 ぶつぶつと、彼女が何事かをつぶやいている。


「ハルちゃん? どうしたの、体調不良?」

「ああジュードさん! なんでもねーだに」


「だに?」

「ああ何でもないです! ……ああもうハルコばかばかっ、方言丸出し、田舎者ってジュードさんに笑われちゃうよぉ……」


「今日もハルちゃんは朝から元気いっぱいだね」


「え、えへへ……元気が取り柄みたいなところありますから!」


 この少女は、ハルコという。


 うちでバイトとして雇っている少女だ。


 ここよりさらに田舎から、この【ノォーエツ】の街に出てきた少女である。


 明るい笑顔と、ぱっちり二重、そしておっきなおっぱいが特徴的だ。


「今日もお仕事よろしくね」

「はいっ! あ、えっと、ジュードさん。おら……じゃない、わたし、クッキー作ってきました! 食べてください!」


 ハルコが肩にかけていたカバンから、紙袋を取り出す。どうでもいいけどこの子、カバンを斜めがけしているから、胸が強調されてとんでもないことになってた。でっかいなぁ。


「あ、あの決して! 決して他意はないんですよっ! 練習! ほら、お店に出せるものが作れるようにって、練習! その練習のために作ったクッキーなので、決してその好きな人にあげるクッキー的なサムシングでは決してないので!」


「え、ああうん。わかってるよ?」


「あ、そうですかぁー……。……はぁ、変に取り繕って、そういうとこ、ハルコのだめなとこだに……」


 ハルコがまたブツブツ言っていたけど、聞こえなかった。なんだろうね。


 紙袋から俺は、クッキーを出す。


「どれ……」


 俺はクッキーを食べる……のではなく、【技能スキル】を発動させる。


 【指導者おれ】の持つ【技能スキル】のひとつ、【見抜く目】。


 これは文字通り、対象を【見抜く】ことのできるスキルだ。


 使い方の一つに、対象となる物体の情報を【見抜く】ことができる。


 焼き加減、おいしさなどに始まり、作った人間がどんな手順を用いたのか、焼き時間はどれくらいだったのか。


 対象となる本人しか知り得ない情報ですら【見抜く】ことのできる、だいぶチート性能の能力だ。


 悪用できるスキルなので、俺は人間を対象に【見抜く目】はあまり使わないようにしている。


 だって逆の立場だと嫌じゃん。知らないおっさんにいろいろ知られるのなんてさ。


【見抜き】終えた後、俺はハルコに言う。


「焼きすぎかな。もうちょっと焼き時間5分くらい短くした方が良いよ」

「なるほど! 勉強になります!」


 ハルコはカバンからメモを取り出して、俺の言ったことをメモする。


「ほかには……」


 と【見抜いた】情報を俺はハルコに伝えていく。彼女は真剣に、俺の言葉をメモっていた。まじめだなぁ。


 一通り話し終えると、ハルコが目を輝かせる。


「ジュードさんの【技能】は、今日もすごいですね!」

「ありがと」


 ハルコが目を閉じて、胸の前で手を組んで言う。


「ジュードさんお料理もお菓子作りもプロレベルだし、すごいなぁ……」


「あー、いやまぁ、百パーセントおれの能力じゃないんだけどな」


「あれ、そうなんですか?」

「うん。俺の【能力】のおかげなんだよ」



 俺の職業、【指導者リーダー】。


 この職が持つ【能力アビリティ】は、



【仲間の強さを3倍にする。その代わりに、仲間の能力の6割をコピーする】



 というものだ。


「昔の知り合いにな、料理がすごい上手いやつがいてさ。そいつに料理やお菓子作りの腕をコピーさせてもらったんだよ」


 指導者は仲間がいて初めての力を発揮する。俺は勇者パーティに所属していた。


 前回も説明したが、パーティには前に出て戦う前衛フロントと、戦いには参加しないが、前衛を支援してくれる後衛サポートがいる。


 俺は後衛の連中から、【能力アビリティ】をいろいろとコピーさせてもらっているのだ。


 彼らの能力を底上げするかわりにな。


「だから俺がすごいんじゃあなくて、仲間の職人がプロレベルだったんだよ。俺の作るパンやクッキーより、あいつの方が上手く作れてたさ」


 ちなみにあいつというのは、勇者パーティの後衛で、料理人を務めていた少女のことだ。元気してるかなぁ。


「けど作ってるのはジュードさんじゃないですか! ならジュードさんもすごいです!」


「そういうもんかねぇ」


「はい! そーゆーもんです!」


 えへー、と笑う俺とハルコ。和やかな時間がわずかに流れる。


 あ、そうだ。


 この子が来たら、聞こうと思っていたことがあったんだ。


「っと、そうだ。ハルちゃん、ちょっと聞きたいんだけど」


「! 休日の予定ですかっ! それならいつでもあいてますけど!」


「あ、いや違くて。双子のほら、キキとララについて聞きたいんだ」


「あ、はい……」


 ハルコがなんだか、とてもへこんでいた。どうしたんだろう?


「確かキキちゃんとララちゃんって、ハルちゃんと同じ集合住宅アパートメントに住んでいたよね?」


「はい。隣の部屋同士です」


 ならわかるだろう。俺はハルコに尋ねる。


「キキちゃんとララちゃんって、昨日ちゃんと家に帰ってきてたかわかる?」


「ええと……そうですね。珍しく昨日は帰ってきてなかったです」


 ハルコの集合住宅の部屋の壁は薄いらしく、となりの生活音が結構聞こえるらしい。


「そっか……帰ってきてないんだ」

「はい。どこか遠出でもしてるのかなーって思ってたんですけど」


「…………ふぅむ」


 あの子たちは基本、遠出するような子たちじゃない。朝早くにダンジョンへいき、夜には帰ってくる。その生活リズムを、そう簡単に崩すだろうか。


「ハルちゃん。ちょっと店開けて空けて良い?」

「いいですけど……ジュードさん、どちらに?」


「ん。ちょっとね」


 俺はハルコに店を任せて、その場を後にしたのだった。



    ☆



 双子冒険者、キキとララが、昨晩から帰ってきてない。


 冒険者ギルドでそう聞いた俺は、その足で目当てのダンジョンへと向かった。


「ここか……」


 ノォーエツ近くの地下ダンジョンだ。


「ふぅむ……帰ってきてないとなると、トラップにでもはまったかな」


 俺は【見抜く目】を発動させる。


 見るのは、地面だ。


「双子ちゃんの足跡だけを【見抜いて】っと」


 俺は彼女たちの足跡のみを抽出して【見抜く】。ぽわ……っと足跡が光りとなり、ダンジョンの奥へと続く。


「よっと」


 軽く体を縮めて、そのままダッシュ。


 ビぅうううううュンッ……!!!!


 超高速で、後ろに背景が流れていく。これは勇者グスカスの持っているスキル、【高速移動】だ。


 そう、俺は仲間の強さを底上げする代わりに、仲間たちの能力をコピーする能力を持っている。


 俺の仲間、つまり勇者パーティ。つまり勇者の能力さえも、俺は持っているのだ。


 スキルで超強化された脚力で、俺はダンジョンを走り抜ける。


 ややあって、双子の足跡がぴたり、と消えている場所までやってきた。


「ほいほい、【見抜き】っと」


 俺は【見抜く目】を発動させる。そして周辺に仕掛けてあるトラップを【見抜く】。


「壁に【転移トラップ】発見……。おそらくこれで転移したんだな。どれどれ」


 俺は転移トラップに触れる。するとシュオンッ! と体が光る。


「うぉ……。まぶしっ」


 と思った次の瞬間には、俺は薄暗い小さな部屋の中にいた。


「お、いたいた。おーい、キキララ~」


 壁に背を向けて、双子少女の冒険者たちが、ぐったりと座っている。


 俺は彼女たちのそばまでやってくる。


「……気を失ってる」


 俺は【見抜く目】を発動。彼女たちの健康状態を【見抜く】。


「良かった。衰弱してるだけか。栄養補給すれば元気になる」


 さて。


「後はここから出るだけか……といっても出口とかないんかな……ん?」


 辺りを見回して、俺は気づいた。


「なんだ、ドアあるじゃん」


 端っこの壁に、鉄製のドアがあった。


「しかしなんでドアがあるのに、この部屋から脱出しなかったんだ……?」


 なにか出れない事情でもあったのだろうか。


「ふぅむ……行ってみるか」


 俺は双子たちを部屋に残し、ひとり、ドアを開けて外に出る。


 そこには……。


「GROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」


「あー……なるほど。そゆことね。となりにこんなでけえのがいたら、そりゃあの部屋からでれねえわ」


 そこにいたのは、見上げるほどの大きさのモンスターだ。


 牛の頭に、人間の体。牛鬼ミノタウロスにしてはでかい。


 なにせ巨大すぎる牛鬼だ。俺は【見抜く目】を発動させて、モンスターの情報を見抜く。


「ミノタウロス・ロード……A級モンスターか」


「GUROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」


 牛鬼が手に持っていた、巨大すぎる斧を振りかぶる。


「GUROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」


 雄叫びを上げながら、俺めがけて、牛鬼が斧を振り下ろす。


 がぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん…………!!!!


 と堅いものにぶつかる音とともに、


「GURO…………???」


 斧の刃の部分が、折れて、どこかへすっ飛んでいった。


「あー、うん。ごめん。俺、仲間に【反射】スキルもっているやつがいてさ。そのくらいの物理攻撃、まったく効かないんだ」


 仲間のひとり、騎士のオキシーが持っていた【反射】のスキル。


 牛鬼の一撃を、俺ははじいたのだ。


「わりぃな、おまえより強いやつと俺はたくさん戦ったことあるんだよ」


 なにせ勇者パーティに参加してから十数年。ずっと戦いっぱなしだったからな。


「GURO…………!?!?」


「あー、悪いな。別に俺、おまえを討伐しろって仕事は受けてないんだ。けど……」


 俺は拳を握る。俺の拳に、勇者の【身体能力超強化】、騎士の【腕力超強化】スキルを乗せる。


 さらに俺自身が鍛え上げた強さを、拳に乗せて、


「っらぁあああああああああああああああああああ!!!」


 一瞬で牛鬼のもとへ距離を詰め、ジャンプし、その土手っ腹に、拳を突き立てる。


 ばごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!


「GUROOOOOOO……………………」


 一撃だった。一発で相手のお腹に、でかい穴が開いた。そして悲鳴を上げながら、牛鬼は倒れ、魔素になって消えた。


「ふぅ。いやぁ、こんな雑魚相手に10秒もかかっちまったなぁ」


 俺たちが普段戦っていた魔物と比べると、弱すぎたな、こいつ。


「というかA級のモンスターなんて初めて見たわ」


 俺が戦ってたのって、基本Sとか、SS級が普通だったからな。Aとかマジでいたんだってレベルだ。


「ま、いいか。さて、あの子ら連れて、この場を退散しますか」


 俺は元の部屋に戻って、双子を抱きかかえる。【見抜く目】を使って、帰り道最短ルートを【見抜き】、【高速移動】を使って、ノォーエツの街へ帰ったのだった。

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次回もよろしくお願いします!

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[良い点] 面白い星五個ですよ、題名長いけど短くすればいいのになぁ、書籍化しちゃったから今さらダメなのですね。
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