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34.英雄、娘たちと王都で買い物する



 俺の喫茶店に、キース・ピリカの王族兄妹がやってきてから、さらに数日後。


 いよいよ明日、降臨祭を迎える。


 降臨祭前日の朝。


 俺は娘とバイト少女たちとともに、人間国ゲータニィガの、王都にやってきていた。


 俺たちがいるのは、王都の西門。入ってすぐの場所。


 眼前には大通りが広がっており、左右には店が建ち並んでいる。


王都おーと、でっけーーーーーーー!」


 元気よく叫ぶのは、俺の義理の娘タイガだ。


 ハルコに抱っこされている状態の雷獣少女タイガ。周りの建物を見て目をむいていた。


「ハルちゃんたいへんです! たてものがとってもおっきいの!」

「うんっ、おっきいね。お城みたいだね」


 ハルコはニコニコしながら、タイガの頭をなでる。


「ちがうよー。お城はもっともっともぉっとおっきいもん!」


「そうなんだー。おら王都初めてだから、お城って見たことないんだ。そんなにおっきいの?」


 するとタイガは、笑顔で首を振ると、


「あたちも見たことない! あたちもくるの初めてー!」


「そっかぁ。じゃあおらと一緒だに!」


「だにー! ハルちゃんといっしょだにー!」


 うふふと笑うハルコとタイガ。仲いいわー。和むわー。


 すると俺のとなりに、賢者キャスコが近づいてくる。 


「……ハルちゃんとタイガちゃん、仲いいですね」


「だなー。姉妹というか、お母さんと娘みたいな感じするなー……って、痛い痛いどうしたんだよキャスコ?」


 キャスコがぷくっと頬を膨らませて、俺の二の腕を、指でつまんできた。


「……別に何でもありませんっ。うらやましいとか思ってないですからっ」


 ぷいっとそっぽを向くキャスコ。何でも無い割に怒ってるような気がするんだが……ふぅむ。


「キャスちゃん! あれなにー!」


 タイガがハルコの胸から、キャスコの胸へ飛び移る。


「……どれですか?」

「あの遠くのとんがったたてもの! とっても素敵な建物~♡」


 タイガが指さす先には、この国の象徴たる建物があった。


「……タイガちゃん、あれはお城ですよ」

「! お城ですかっ! あのゆーめーな!」


 タイガが目をむいて驚く。


「キャスちゃんキャスちゃん! あたちね知ってるのっ。あそこにね、お姫様すんでるのー!」


 するとキャスコはほほえむと、


「……そうです。よく知ってますね。タイガちゃんは物知りです」

「タイガちゃんは博士さんだに~」


 タイガの頭を、バイト少女たちがよしよしとなでる。


「なんだか二人とも、若奥様みたいだなー」


 俺がぽそっと感想を漏らすと、


「「!!!!」」


 二人がくわっ……! と目をむいて、ぎゅんっ! と勢いよく俺を見やる。なんなん?


「キャスちゃん!」「……ハルちゃんっ!」


 ふたりは抱き合って、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねていた。


「ふたりともたのしそー! あたちもたのしー!」


 二人に挟まれながら、タイガが嬉しそうにそう言ったのだった。



    ☆



 さてなぜ俺たちが王都にいるかというと。

 降臨祭に参加するためである。


 といっても、女神様のご光臨をお祝いする祭りは、どの街でも(規模の大小はあれど)行われている。


 ただこの国で一番、規模の大きな祭りは、ここ王都で執り行われる。


 前夜祭といって、降臨祭の前の日からお祭りが行われるのは、王都しかない。


 前の日からみんな、飲んで騒いでの大はしゃぎ。


 そして当日には色んな地域から、王都の祭りを楽しもうと人がここに押し寄せる。


 降臨祭特別のディナーを出すレストランや、様々な出店。街は魔法電球マジックライトでライトアップされて非常に綺麗だ。


 そして夜には、冬場だというのに魔法花火マジック・ファイアフラワーまで打ち上がる。


 ここまで賑やかで、そして派手な祭りは、人間国ゲータニィガでは、王都でしか味わうことができない。

 

 俺はタイガに王都の賑やかな町並みや、そして祭りの雰囲気を見せてやりたかったのだ。


 それと、バイト少女たちとのデートも、ノォーエツのような辺境よりも、賑やかな王都での方が楽しめると思ったから。


 別にノォーエツの田舎町が嫌いなわけじゃない。むしろ好きだ。


 ただやはりお祭りは、賑やかな方が楽しくて良いだろ?


 それと王都に来たのは、もう一つ、いや、二つばかり理由がある。


 一つは世話になっている王都の連中に、あいさつするため。いつも向こうからこっちに来てもらってばかりだからな。


 そしてもう一つは……。今大変なことになっているらしい、グスカスの様子を見に。


 あいつもなんだかんだ言って、俺の教え子だ。様子が気になるのだ。


 とまあ、そんなこともあり、俺はバイト少女たちとともに、ここ王都へとやってきた次第だ。


 王都には1週間くらい滞在して、年末前にはノォーエツに帰る予定だ。


 一週間も店を空けることになるのだが……まあ、店は趣味でやっているようなもの。


 一週間休もうが、一ヶ月休もうが、経済面においては、何の問題も無い。


 ただ常連さんたちがいるからな。あまり長く店を空けられないが。


 常連さんたちには休むことを伝えてある。

 ハルコとデートすることも言うと、むしろもっと長く休んでも良いぞ! しっかりデートを楽しんできな! とまで言われた。


 とまれ、こうして俺の店は、ちょっと早い冬休みを取ることにし、王都にやってきているわけだ。

 


    ☆



 俺たちは宿泊予定のホテルにチェックインした後、王都の街を見て回る。


「ハルちゃん、このひとたちどっからわいてきたのー?」


「ねぇー……どっから来たんだろー。はぁ~……この国ってこんなにたくさん、人っていたんだねー……」


 タイガとハルコは、人の多さに目を白黒させていた。


 俺とキャスコは、元々王都に居たのでそこまで驚かない。


 あ、ちなみにだけど。俺とキャスコは変装している。


 なぜなら今、俺とキャスコは、あまりここにいて良い人物ではない。(まあキャスコはそこまでだけど)


 何せ俺は、【裏切り者】だ。さすがに王都だと、俺の顔を知るものも多く居るだろう。


 ということで、俺はキャスコお手製の、【認識阻害】の魔法がかかった【メガネ】をかけている。


 これは文字通り、相手からの認識をねじ曲げる魔法だ。


 俺という人間を見ても、見た本人は【ジューダス】と正しく認識できなくなる(別人であると認識する)のである。


 認識阻害のメガネのおかげで、俺たちは問題なく、王都を観光することができた。


「キャスちゃん! あそこのあまーい匂いのする屋台は、なんですかー!」


 出店の一つを、タイガが指さす。


 砂糖菓子の甘い匂いがした。


「……あれはクレープという、異世界のスィーツですね」

「「ほほぅ!」」


 タイガと、そしてハルコまでも、目をキラキラとさせた。


「ハルちゃん隊員! いしょいであの屋台の調査に向かいますよー!」


「了解ですタイガちゃん隊長! ゴーゴーゴー!」


 ダダダッ……! とハルコがタイガを抱っこした状態で、屋台へとかけていく。


「やっぱ仲いい親子みたいだ……痛い痛いってキャスコ。なんでつねるの?」


「……ジュードさんは、もっと乙女心を学習してくださいっ。ふぅんだ」


 ぷいっとキャスコが頬を膨らませてそっぽ向く。どうしたんだろうか……。わ、わからん……。


「悪ぃ。気をつけるよ」


 俺はキャスコの頭をなでる。


「……もう♡ そうやってすぐ、取りあえず謝るんですから♡ そのくらいじゃ私、機嫌直しませんからね~♡」


 その割にはキャスコさんよ、機嫌良さそうじゃありませんかね? まあ気をよくしてくれて良かったけど。


 屋台に突撃した二人は、クレープ屋さんの前でよだれを垂らしていた。


 俺はお金を払って、4人分のクレープを買う。


「ジュードさんっ、ありがとうございます!」

「いえいえ。これくらいおごりますよ。タイガの面倒見てもらってるからね」


 タイガはというと、一心不乱にクレープを頬張っていた。


「……タイガちゃん、クレープ美味しい?」


 タイガを見下ろしながら、キャスコが尋ねる。


「ちょー!」

「……ちょー?」


「ちょーうめー!」

「……ふふっ♡ じゃあ私のもどうぞ♡」


「いいのー! キャスちゃん太っ腹ー! 大好きー!」


 クレープを食べた後、俺たちは適当にぶらぶらとする。


「ハルちゃん! あそこのひと、口から火ふいてるー!」

「わわっ! なにあれすっごいねー!」


「むむっ、あたちだってできるけどっ? ふぁいやー!」

「わー! た、タイガちゃん駄目だってばっ! ここでは雷獣要素抑えて抑えて!」


 タイガは、飛んでさえいなければ、普通の獣人に見える。


 だが獣人は空をふよふよ浮かないし、まして口から火なんて噴かない。


 それをするとタイガが獣人でなく別のもの(さすがに一発で雷獣とはばれないだろうけど)だと、周りから疑われてしまう。


 無用なトラブルを避けるため、タイガには普通の、獣人の女の子として振る舞ってもらっているのだ。



    ☆



 大道芸人の出し物を見た後、


「そうだ。キャスコ。服屋いきたいんだ。タイガに洋服を買ってやりたい」

「! おとーしゃんも! だいすきー!」


 俺は王都に住んで長い……が、あまり服屋っていかないんだよな。


 というのも、俺は服は着れればそれでいいやなタイプ。一方でキャスコは、結構おしゃれに気を遣うタイプだ。


 俺は服屋なんてそうそういかない。そもそも王都って服屋が大量にあって、どこにどんな服屋があるのか知らない。


 なのでキャスコに、女の子用の服が売ってある、服屋へ案内してもらうことにした。


 やってきたのは、幅広い年代層の、女の子ものを売っているブティックだ。


 子供服売り場にて。


「およーふくがこんなにいっぱいー!」


 タイガが目をキラキラと輝かせて言う。


「そうだね、お洋服イッパイで困っちゃうねー」

「そー。こまっちゃうのー。あたちに似合うお洋服、あるかなー?」


 ハルコはタイガを抱っこしながら、にっこり笑って言う。


「あるあるー。たっくさんあるよっ」


「……私たちにに任せてください。タイガちゃんにお似合いの、超かわいいお洋服をコーデしてあげますよ♡」


「おー! ふたりともたのもしー!」


 三人はタイガの洋服を選びだす。


 俺は基本的に、少女たちの会話に口を出さない。楽しくおしゃべりしてるとこを、邪魔するのは野暮ってもんだからな。


 娘たちが楽しそうに、これが似合う! これ似合いそう! とタイガに洋服を持ってくる。


 降臨祭セールということで、服は結構割り引かれていた。バーゲン? っていうのか、こう言うの。


 タイガたちは、なんと1時間も、子供服を選んでいた。一時間ってすげえな。よく飽きないなー。


 ややあってタイガの服を選出し終える。女子チームが選んだだけあって、なるほど、かわいらしいお洋服ばかりだった。


「んじゃ買ってくるから。三人はベンチに座っててなー」


 俺は選んでもらった服をレジで会計を済ませて、タイガたちのもとへ帰ってくる。


「おとーしゃんっ。ありがとー!」


 タイガが俺にギュッ……! と正面から抱きついてくる。


「いえいえ。仮にもお前のお父さんだからな。これくらいさせてくださいよ」


 俺はタイガを肩車し、バイト少女たちを見やる。


「ふたりもありがとね。お礼に何か買ってあげるよ」


「「いいんですかっ?」」


 二人が目を輝かせて言う。


「おうよ。娘に似合うナイスな服を選んでくれたお礼だよ。服かわせてくれ」


 するとハルコが、「で、でも悪い……」と遠慮しようとする


 だがキャスコが、ハルコの手をがしっとつかむ。


「……ハルちゃん。ジュードさんからプレゼントされた、お洋服ですよ」

「!」


「……一生の宝物、ですよ」

「!」


 キャスコは俺を見て、ニコッと笑う。


「……じゃあお言葉に甘えさせてもらいます♡」

「おらもー!」


 そんなわけで、バイト少女たちの服を買いに来たのだが……。


「ねー、二人とも。ここってさ、下着売り場だよね?」


 やってきたのは、ランジェリーコーナーだった。


 スケスケだったり、色鮮やかだったりする下着が、所狭しと並んでいる。


「……下着も服です♡」


 キャスコがにっこり笑ってそういう。


「……きゃ、キャスちゃー……ん。これはさすがに、はずかしいよぅ……」


 もじもじ、とハルコが身じろぐ。キャスコは「……ちょっと失礼♡」といってハルコの手を引いて、俺から離れる。


「……ハルちゃん。明日着る勝負下着は持っていますか?」

「……え、持ってないけど」


「……おばかっ! 明日は勝負の時ですよ! 勝負下着をもってないなんて、戦場に剣をもたず参上するようなものです!」


「……ええー。勝負下着って、明日はデートするだけでしょ?」

「……その後もワンチャンスあるかもじゃないですか!」


「……そ、その後って……ほ、ホテル的なっ?」

「……ええ。ホテルでワンチャンスあったらどうするんです? 勝負下着、必要でしょう!?」


 なにやらぼしょぼしょと、小声で何かを言い合っている。それもキャスコは、結構な剣幕だ。


「……いいですかハルちゃん。夜、ジュードさんとホテルに入る。そして彼に見せる下着が、いつものダサい白パンツじゃ、ジュードさんの心は揺らぎませんよ!」


「……だ、ダサいって酷いよう」


「……ごめんなさいハルちゃん。でも殿方を打ち落とすためには、殿方ごのみのエッチな下着がないといけないのです。ださださパンツではノー。圧倒的にノーですよ!」


「……そ、そういうものなのかなぁ?」


「……そういうものです。わかりましたか?」


 こくり、とハルコがうなずいて、ふたりがこっちへやってくる。


「……ジュードさん。では下着を選んできますね♡」


「え、ええー……と。ふたりで選んでなよ。俺はタイガと、あっちのベンチで休んでるからさ。買うもの決まったら呼んで」


 さすがに女の子の着る下着を、おっさんの俺が、一緒には選べないよな。


 それに場違いにもほどがある。下着売り場にいるの、みんな女の子だし。


 おっさんが若い、しかも美少女二人と一緒にパンツを選んでいる姿とか……。


 は、犯罪臭が半端ない。俺が二人に何のパンツを買うの、と聞いてる不審者に思われかねない。


 だから俺は逃げようと思ったのだが。



 がしっ……!



「……さっ♡ ジュードさん。お好みの色を教えてください♡」


 笑顔のキャスコが、俺の腕をがっちりつかむ。


「きゃ、キャスコさん?」


 俺は逃げようとするのだが、謎のチカラが働いていて、逃げられない。



 がしっ……!!



「じゅ、ジュードさんは白と黒なら、ど、どっちがいいだに!?」


 顔を真っ赤にしたハルコが、俺の逆側の腕をがしっとつかんでいた。


「やっぱりジュードさんは、ださださパンツよりも、スケスケえっちなショーツが好きなんですか!?」


「ハルちゃん!? 何言ってるの!?」


 キャスコに感化され、ハルコまでなんだか、おかしなことを言うようになってしまった……。


「ハルちゃんは赤が似合うとおもうのー!」


 タイガが、俺の頭の上で無邪気に言う。


「……そうですね。ハルちゃんは赤いえっちなショーツが似合いそうです。タイガちゃん、私は何色が良いでしょうか?」


「きゃ、キャスコおまえ……子供に何を聞いてるんだよ」「黒ー!」「タイガちょっと黙ってようなっ」


 ……とまあ。


 こんな感じで、わいわいわちゃわちゃしながら、二人の服(というか下着)を選んだ俺。


 少々ぐったりしたが、しかしみんなでこうして買い物をするのは、楽しいなと思ったのだった。 

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