32.英雄、王族と冒険者たちからデートに誘われる
ハルコたちから、デートに誘われた翌日。
喫茶店・ストレイキャットには、第二王子キースと、第三王女ミラピリカが来ていた。
「ジュードっ。今日はおぬしにな、デートを申し込みに来たのじゃっ!」
窓ぎわに座るのは、人間国ゲータニィガの第三王女ミラピリカだ。
銀髪幼女がにかーっと笑いながら、俺に言う。
俺はホットミルクとコーヒーをいれて、彼らのテーブルに置く。
「デート……なぁ」
「うむっ! もうすぐ降臨祭じゃろう? わらわと一緒にお祭りへ行こう!」
屈託のない笑みを浮かべるピリカに、俺は首を振る。
「すまん、ピリカ」
「! な、なぜじゃッ? わ、わらわは何か、おぬしの気分を害するようなこと、したかなぁ……兄様~……」
隣に座る、自分の兄にそういう。
ピリカのとなりには、女の子のように線の細い、銀髪の青年が座っていた。
長い銀髪を後で縛り、にこやかに笑う彼は、第二王子キース。
「ピリカ。安心なさい。別にあなたは何もしてませんよ」
「そ、そうかなぁ……」
よしよし、と妹の頭をなでる兄。お兄ちゃんしてるなー。
「おそらくジュードさんは先約があるのでしょう。そうですよね、ジュードさん?」
キースがほほえみながら、俺を見やる。
「ああ、そういうことだ。ごめんなピリカ」
「そうじゃったかっ! 良かったぁ……わらわは、嫌われたわけじゃあないんじゃな?」
確認するように、ピリカが俺を見上げてくる。俺は彼女の、つややかな銀髪をなでて言う。
「もちろん。嫌いになるわけないだろ?」
「えへへ……♡ 良かった……♡」
ピリカが嬉しそうに笑う。
「しかし先約がおるのか……ぐぬぬ……来るのが遅かったかっ! 仕事がなければなぁ……」
はふん、と悩ましげに吐息を付くピリカ。
「仕方ありません。王族としての仕事があるのですから」
キースは妹を慰めるように言う。
「仕事って言えばキース。おまえんとこ大丈夫なのか?」
俺の聞いた話だと、グスカスが大変なことになっているといっていた。
第一王子の仕事を、キースが肩代わりしていた。しかしキースがグスカスの不興を買って仕事を放棄している……みたいな。
そんなことを、商業ギルドマスターから聞いた……と俺はキースに伝える。
「大丈夫です。今、兄の代わりに、僕が兄の仕事をしてます」
「え、そうなの?」
俺はキースの正面に座る。
「はい。兄は少し気を病んでしまいまして、今は療養中なのです」
「そうなのか……。大丈夫なん?」
キースは微笑みを崩さず、
「ええ。少しやつれていましたが、最近は体調も良くなっているみたいです」
「そっかぁー……。良かったなグスカスのやつ」
するとピリカが、ぷくっと頬を膨らませて言う。
「のうジュード。なにゆえグスカスの身を案じるのじゃ? あやつはおぬしをパーティ追放のうえに、裏切り者の濡れ衣まで着せたのじゃよ?」
むーっと納得がいってないように、ピリカが言う。
「前もいったけど、別にパーティを追い出されたことも、裏切り者扱いされてることもなんとも思ってないよ。むしろ平民ライフを送れてラッキーくらいに思ってる」
それに、と俺は付け加える。
「なんだかんだ言って、あいつは元教え子だからな。ちゃんと元気してるかってさ、心配になる訳よ」
グスカスにはいろいろされたけど、まあ子供のしたことだしな。
命取られたわけじゃないし、そんなに気にはしてないのだ。
「そういうものか?」
「そういうもんだよ」
むー、とピリカ。ややあって、
「おぬしが良いと言うのなら、わらわはそれ以上何も言えぬじゃないか」
苦笑するピリカ。キースもほほえんでコーヒーをすする。
「……やはりジュードさんは器が違う……心の広いお方だ……素敵です……」
「ん? どうしたキース?」
キースが潤んだ目をしていた。なんだ風邪だろうか?
「何でもありません。ジュードさんの素晴らしさを再確認して、ひとり感動していただけです」
「大げさだなーおまえ」
「大げさではありませんよ。広い度量。高い能力。やはり頂点に立つにふさわしいお人だ」
「ん? 何のこと?」
キースが笑顔で「いえ、なんでもありません」と首を振った。
ちら……っとキースが壁の時計を見やる。
「ピリカ。そろそろ帰る時間ですよ」
「え~~~~~! わらわもっと居たいのにっ!」
キースは苦笑して、しかしきっぱりという。
「駄目ですよピリカ。さ、帰りますよ」
「む~~~…………わかったぁ……」
キースとピリカたちが立ち上がる。
「戻って仕事か? 大変だなぁ」
「いえ、最近は優秀な部下が入ってくれたおかげで、仕事がとても捗ってます」
キースたちを見送りに、俺は出入り口までやってくる。
「へぇ、そりゃ良かった。優秀なん?」
「はい。彼女はとても優秀です。僕が少し指示をだすだけで、僕の想像を上回るの働きをしてくれるんです」
どうやらとっても優秀な部下が入ってくれたようだ。
そしてキースはその子を大変気に入っているらしい。興奮気味に言っているし。おやおや。もしかして、キースはその子に気でもあるかもな。
ううむ、気になるぜ。
「今度その子連れて来なよ」
「そうですね。今彼女は大きな仕事に取りかかってる最中なので……それが終わったら、彼女を連れてここに来ます。……あなたを迎えに」
「え? なんだって?」
キースはほほえむと、「なんでもありません。それじゃあ」といって、ピリカを連れて、店を出て行ったのだった。
☆
キースたちが出て行った後、喫茶店にキキララたち、とポムポら新人冒険者たちがやってきた。
「「ししょー! こんちゃー!」」
どたばた、とキキララが、俺のいるカウンターのところへ来る。
「おじさま♡ こんちゃー♡ですわ」「ちーっす」「うー」
その後から、ポムポ、キティ、マイメェロがやってくる。
この子たちも、キキララと同様、冒険者だ。どちらとも冒険者になったばかりの新人。
俺はこの子たちに戦いのイロハを教えている……まあ先生みたいなことをしているのだ。
「今日は大人数だなー。どうしたん?」
新人冒険者五人を見回しながら、俺が尋ねる。
「「今日はししょーに、デートを申し込みに来たんだぜ!」」
「と、ゆーことですわ♡」
キキララとポムポが、俺に笑顔を向けてくる。
「デート?」
「はい♡ おじさま、もうすぐ降臨祭ではありませんか♡ わたくしたち日頃お世話になってますので、そのお礼をかねておもてなしさせていただきたく、参上したのです♡」
「アタシたちポムポの家で降臨祭パーティするんだー。良かったらおじさんもこないーって誘いにきたの」
「うー!」
ポムポたちが概要を話す。なるほど、パーティなぁー。
「ララちゃんそれデートじゃなくない-?」
「「おうちデートっていうんだぜ! キティちゃん!」」
降臨祭の日は、若者たちはデートだけじゃなく、こうしておうちで祝いごともするらしい。
さて。
「せっかくだけど、ごめんな。降臨祭はどっちも予定が入ってるんだよ」
俺はキキララたちを見て言う。
「「「えーー!!」」」
新人冒険者たちが、目をキラキラさせながら言う。
「「それってデートっ?」」
「どなたかとデートにいかれるのですかっ?」
弾んだ声で、キキララたち。
「ああ。ハルちゃんとキャスコとな」
「「「おーーーーー!!!」」」
キキララたちが目を輝かせる。
「それは大事ですねっ。そちらを是非優先させてくださいましっ」
ポムポが笑いかけながら言う。
「えー、リーダーはそれでいいのー?」
後でキティが、頭の後で手を組んで言う。
「あら、何がですの?」
「だってリーダー、ジュードさんのことー」
ちらっとキティが俺を見やる。
「どうした?」
「どうかしましたの?」
きょとんと目を丸くするポムポ。
「あっちゃー、これ自覚ないパターンね。うん、なんでもないよー。話の腰折ってごめんねー」
キティがわからんことを言う。……ふぅむ、なんなんだろうか?
「「ししょー! デート頑張ってねー!」」
ぺかーっと表情を輝かせながら、キキララが応援してくる。
「えー、キキララちゃんたちもそれでいいのー?」
キティが、双子を見て言う。
「「それでいいってー?」」
きょとんと目を点にするキキララ。
「あちゃー。こっちも無自覚かーい」
キティがピシッ、とキキララに裏拳でツッコミ? をいれる。
「「?」」
「やれやれ子供ですな。ま、いいやーなんでもないよー」
また手を振るキティ。なんだなんだ? おっさんは若い子たちの会話に、ついてけないよ。
「おじさんごめんねー、この子たちお子ちゃまだもんで」
「いやお子ちゃまも何も、みんなまだまだ子供だろ?」
この場に居る少女たちは、みな15歳。成人したばかりだ。
書類上は成人扱いされるけど、俺からしたらまだ彼女たちは子供なのだ。
「あちゃー、こっちもかーい。こりゃみんな苦労しますのう」
「何の話?」
「ふふ、なんでもなーい。おじさんがんばー」
キティがにやりと笑って、親指をぐっと立てる。なんなのかね?
「うー?」
「あー、そかそか。君もだったね。がんばって」
「うー!」
マイメェロもよくわかってないらしいが、わかったー! みたいな感じでうなずいていた。
俺も同感だよ。わからんぜ。
その後キキララたちは、うちでコーヒーを飲みながら駄弁った。
数時間後。
「「それじゃししょー! デート頑張ってね!」」
「応援してますわ♡」
といって、キキララたちは、帰って行ったのだった。
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