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27.勇者グスカスは、奴隷に嘘をつき、更に苦しむ道を行く



 ジューダスからもらったものを、ビリビリに破り捨ててから、数時間後。


 一夜明けて、朝。


「…………くそが」


 グスカスは牢屋の中で目を覚ます。窓の外から差し込む光。今が朝だと教えてくる


「……最悪だ。最低の気分だ」


 グスカスは牢屋の、鉄格子の近くで気を失っていたようだ。


 昨晩は、惨めな気持ちに耐えきれなくなり、一晩中泣いていた。明け方近く、泣き疲れて眠った次第。


「…………」


 惨めすぎて死にたくなった。まさかよりにもよって、あのジューダスからもらったものに、救いのようなものを感じてしまうとは……。


「……最悪だ」


 むくり、と体を起こす。そして、部屋の中の異変に気付いた。


「……ん? なんだ?」


 見回す。いつもの牢屋の中だ。ただ、おかしな部分が散見する。


「……きれいになってやがる」


 昨晩、グスカスは、ジューダスからもらった物品をビリビリに破いてその場に捨てたはず。


 だのに、それらがない。それがまず一点。そして二点目。


「……あの召使い女が吐いたゲロもねえ」


 昨晩ここへやってきた、召使いの少女。自分グスカスが首を絞めた後、あの女は牢屋の前でゲロを吐いた。


 吐瀉物はそのままになっていたはず(そもそもここへ来て牢屋の掃除をする人間はいない)。


 だのに……。


「……きれいに片付けてある」


 片付けてある? おかしい。誰もここへはこないはず。しかし現に、綺麗に掃除されていた。


 誰かがここへ来て、掃除したのだろう。牢屋の外と、そして、牢屋の中を。


「……いったい誰が?」


 と疑問に思った、そのときだった。



 こつん……こつん……こつん……。



 誰かが、やってくる。グスカスの収監されている牢屋に向かって。


 いったい誰が? ピリカか? キース? それとも父上グォールか……?


 ……しかしやってきたのは、その誰でもなかった。が、知らぬ顔ではなかった。



「グスカス様! お、おはようございます!」



 やってきたのは、昨日の召使いだ。


 褐色の肌に、長い黒髪。額から生えるのはツノ。


 昨日グスカスが締め上げた、鬼族の少女だった。


「……てめえ。何しに来やがった?」


 知らず、声に不機嫌が混じる。この女、また俺様を哀れんできたのかと。


 グスカスが少女をにらみつける。少女は一瞬だけ体を萎縮させる。昨晩の恐怖がフラッシュバックしたのだろう。


 当然の反応だ。殺されかかったのだ。おびえるのは当然だ。おびえ、恐れられ、そして距離を取られる……。


 今までそうだった。グスカスの周りの人間は、そうやってみんな、自分のもとを去って行くのだ……。


 この女だってそうだ……と思っていたのだが。



「朝食を持って参りました!」



 あろうことか、この女。明るい笑みを浮かべて、そう言ってきたのだ。


「…………は?」


 予想外の反応過ぎて、いっしゅんフリーズするグスカス。


 少女の手には、確かに、お盆があった。そして盆の上には、皿にのったパンとマグカップに入ったコーヒーがあった。


「グスカス様、やはり食事は大事です。しっかりとした食事を取らないと、気分が滅入ってしまいますよ! なのでどうぞ!」


 少女はお盆を、格子から外からにゅっと中に入れる。


「…………」


 グスカスは鬼少女の顔を見やる。


 そこには……グスカスに対する、畏怖も、侮蔑もなかった。


 そこにあったのは、晴れやかな表情。明るい笑み。


 人からそれらを向けられることがなくなってから、どれくらいの時間が経っただろう。


 久しく忘れていた、人から好かれるという感覚に、グスカスは戸惑うしかなかった。


「グスカス様? お召し上がりたくないのですか?」

「……あ、ああ。いらねえよ。持って帰れ」


 普段なら強い口調でこの女にどなりつけるだろう。しかし今のグスカスは、あまりの異常事態に、戸惑いまくっていた。調子が狂っていた。


 だから普段のような態度を、とれないでいた。


 さてグスカスからいらないと言われた鬼少女はというと。


「いけませんっ!」


 と逆に一喝してきた。


「グスカス様はもう何日も、何も口になさってないではありませんか! このままでは死んでしまいます!」


 ふんすっ、と鬼少女が鼻息荒く言う。面食らうグスカス。


「希望の象徴である勇者様が死なれてはこまります! みな悲しみます! ぼ、ぼくも悲しみます!」


 女のくせに【ぼく】とか言う、この少女を……。


 グスカスは、改めて見やる。


 この女は、本気で怒っていた。怒っている? 何に対して?


 まさか……まさか本気で、身を案じているというのか?


 本気で、勇者グスカスが死んだら悲しむと思っているのだろうか……?


「…………」


 答えは、わからない。何もかもがわからなくて、グスカスは取りあえず、


「……飯、よこせ」


 食事を取ることにしたのだった。



    ☆



 鬼女は【しずく】と名乗った。


 妙ちきりんな名前だとグスカスが言うと、【祖母の名前からとったそうです。死んだ母がそう言っていました】と苦笑していった。


 名前が変と言われても、この女は笑って許していた。不快感をあらわにせず、ニコニコと、グスカスを見ていた。


 ……変わった女だ。頭いかれてるんじゃないかと思いつつ、グスカスは「あ、そ」とだけ返した。


 さて。


 グスカスは食事をしながら、あれこれと鬼女しずくに尋ねる。


「てめえ、ピリカにもう来んなって言われたのに、何できやがったんだよ?」


「王女様にはそう言われました。ですが、ぼくはグスカス様の召使いです! グスカス様の命令しか聞きません! なので来ました!」


「……じゃあ俺様が二度と来るなって言ったら、二度と来なかったのか?」


 すると雫が笑顔で首を振る。


「いいえ! 来ました! だってそうしないと、グスカス様をお世話する人、誰も居なくなってしまいます。それはいけません! グスカス様の食事を、いったい誰が運ぶというのでしょう?」


 そんなことになっていたのか……。


 まあ今まで召使いをボコったり殺したりしてたから。誰も世話をしたがらないのだろうか……。


 自分で言っていて、悲しくなった。


「グスカス様っ? どうしましたっ? 具合でも悪いのですかっ?」

「……なんでもねえよ。くそっ、調子狂うな」


 なんだこの雫という女は。命令に従うとか言っておきながら、命令を聞かないという。


 訳がわからない……。食事に頭を切り替えようとしたそのときだ。


 ぐぅう~~~~~~~~~~……………………。


「…………」

「あ、あはは……すみません」


 顔を真っ赤にして、雫が言う。今の腹の音は、どうやらこの鬼女から聞こえてきたようだ。


「ぼ、ぼく朝食がまだでして……。お見苦しい音を聞かせて、すみませんでした」

「…………ちっ。ほんとだよ。クソが」


 グスカスは悪態をつく。そして食事を再開しようとして、


「…………」


 ちらっ、とグスカスは檻の外を見やる。ニコニコと笑いかける鬼女がいた。


「…………」


 今まで他人は、みな自分を邪険に扱ってきた。みな自分に対して、蔑み、怒り……などの負の感情しか、向けてこなかった。


 しかしこの女は、どうだろう。


 ずっとニコニコと笑っている。実に献身的だ。しかもイヤイヤやらされてる様子もない。


「……おい」


 グスカスは食事をやめ、残っている料理ごと、お盆を檻の外に出す。


「はい!」

「もう飯はいいや。それ片付けておけ」


「よいのですか?」

「ああ。朝はあんま食べない派なんだよ。片付けておけ」


「わかりましたっ」 


 雫は空いたお盆を回収。じっ……とお盆に残っている朝食を見ている。


「……食いたきゃ食えばいいだろ?」

「そ、そんなまさか! 勇者様の残したものを食べるなど! 恐れ多い!」


 グスカスは、自分の心が、癒やされていることに気づいた。 


 そう、そうだよ。こういう態度だよ……と。


 こういう態度を、グスカスは他人に求めていたじゃないか。


 敬われ、大切にされ、恐れ多いと恐縮される。


 こういう態度を求めてきて、しかし誰一人として、グスカスにはそうしてこなかった。


 知らず、グスカスの口角がつりあがる。凹んでいた自尊心が、元に戻っていくような感覚がした。


「うるせえ。俺様が食ってもいいって許可出してるのに、なに拒んでるんだよ。奴隷のくせに。奴隷は奴隷らしく、主人の言うこと聞きゃあいいんだよ!」


 すると雫は、きょとんとした後、


「わかりました!」


 笑顔を浮かべて、大きくうなずく。


 雫はその場に正座すると、


「いただきます!」


 といって、残飯を、実に美味そうに食べていく。


「えへへ……♡ 勇者様の残したパンだぁ……嬉しいなぁ……♡ えへへ……♡」


 雫は涙を流しながら、むしゃむしゃとパンを食べる。


「残りもんを泣いて食べるとか、あーあー卑しいやつだなぁおまえ」


 グスカスはすっかり、元の調子の乗ったクソ王子っぷりを発揮していた。


 それでもこの鬼女しずくが不快に顔をしかめることはない。むしろ嬉しそうに、「すみません!」と笑っていた。


 おかしなやつだが、しかし悪くない。


 そうそう、こういう態度だ。こういう態度を、勇者おれさまに向けるべきなんだよ、と。


 グスカスはニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、召使いが食事する姿を、満足げに見ていた。


 そして……疑問に思った。


 なぜこいつは、勇者おれさまにここまで好感を持っているのだろうか、と。


 前までなら、勇者には無償の尊敬と好感を向けるべきだと、好かれて当然だと思っていた。


 だが親から見捨てられ、周りから虐げられ、さすがにグスカスも理解した。


 人は、何の理由もなく、好かれないということを。


 つまりこの鬼女は、グスカスを好く何か【理由】を持っているはずだと。


 それがグスカスは気になったのだった。



    ☆



 鬼女が、食事を取り終えた後。


「それではグスカス様。ぼくはここで失礼します。次はお昼ご飯をお持ちしますね!」


 お盆を下げ、その場を離れようとする。


「おいお前」


 すると雫は、ピタッととまり、嬉しそうにグスカスに向いて言う。


「なんでしょうかっ?」


 グスカスは鉄格子の前で、あぐらをかいている。


「座れ。お前に聞きたいことがある」

「!」


 ぱぁ~~~~! と雫が表情を明るくする。その場にぴょんっ、と正座して、


「なんでございましょうかっ? なんでもお尋ねくださいまし!」


 嬉しそうに、そういう。


 グスカスは立ち上がり、奥の部屋からベッドを引っ張ってくる。


 奴隷と主人が、同じ目線で話し合うなどあり得ないから。


 ベッドに座り、ふんぞり返るグスカス。奴隷しずくを見下しながら、尋ねる。


「貴様どうして、俺様にそこまで献身的に尽くすんだ?」


 先も述べたが、人はどうやら、【勇者である】というだけでは、自分グスカスのことを好いてくれはしないらしい。


 ならばどうして、この女は、勇者である自分に好意を向けてくるのか。


「俺様が記憶している限りだと、おまえのことを俺様は知らない。俺様がおまえに何かした覚えもない。なぜだ? なぜそうも献身的に俺様につかえる? 正直に答えやがれ」


 口調もこの頃には、元通りになっていた。この女が向けるまなざしや態度が、凹んでいた勇者グスカスの自尊心を、いやしたのだ。


「そうですね……。長い話になりますけど、いいですか?」

「かまわねー。俺様が納得するように話せ」


 鬼女しずくはうなずいて、こう答えた。



「勇者様は……ぼくの恩人だからです」



 そう言われても、しかし全く身に覚えがなかった。


「おまえを救ったことなんてねえけど?」

「そうでございますね。直接ではありませんけど……」


 しずくは目を伏せて言う。


「グスカス様は、両親のかたきを討ってくれたんです」


「両親の、かたき?」 


 はい、と鬼はうなずく。


「ぼくの両親は……魔王に殺されたんです」


 雫の話をまとめるとこうなる。


しずくたち鬼族は、隠れ里でひっそりと暮らしていた。


・そこに魔王がやってきて、鬼族を一人残らず惨殺した。


・幼い雫は、タンスの中に一人隠れて、殺されずにすんだ。


・しかし自分の両親と姉は、魔王の手によってむごたらしく殺された。


「おまえはどうして助かったんだ?」

「両親が、タンスの中に隠れてなさいって、ぼくを隠したんです」


 どうやら両親がこの女をかばったようだった。


「ぼくは……お父さんやお母さん、お姉ちゃんが殺されている姿を、ただ黙ってみてることしかできませんでした」


 ぎゅっ、と雫が悔しそうに歯がみして言う。


「ぼくは……何度もタンスの外に出て、やめろって殴りかかろうとしました。けど……できませんでした」


「……なんでだよ?」


 雫は卑屈に笑い、弱々しく答える。



「怖かったんです。あの魔王が」



 ……その答えを聞いた、グスカスは。


 この女に、共感を覚えた。


 魔王が、怖かった。


 その感覚、非常によくわかったから。


 何を隠そう、このグスカスもそうだったから。


 魔王を前にして、勇者グスカスは、敵前逃亡した。


 それはなぜか?


 怖かったからだ。魔王が、恐ろしくて仕方が無かったからだ。


 この女が抱いた思いと、グスカスもまったく同じ思いを、感じ取っていたのだ。


「……そうか。大変だったな、そりゃ」


 グスカスは、さっきよりも口調が柔らかくなっていることに気づいた。


 それはそうだろう。この女と自分は、ある意味似ている。


 魔王という巨悪に、おびえることしかできなかった。


 おびえて何もできなかった、という点において、グスカスも、そしてこの雫も、同じだったのだ。


「お、俺様たち似てるなっ」


 知らず弾んだ声になる。


 グスカスは思った。


 この女となら、上手くやっていけるかもしれないと。


 他の奴らは、いかに魔王が凶悪な存在であるか、知らなかった。


 安全な場所で、魔王の恐怖を知らずにいた。


 だから無責任に、勇者に魔王を倒せという。魔王の前から敵前逃亡したジューダス(本当はグスカスだが)を、馬鹿にして、こけにしてきた。


 魔王が、いかに怖い存在か、知らないくせに。逃げても仕方ない相手なのに、馬鹿にしてくる。


 人々の嘲笑が怖かったから、グスカスはジューダスに罪をなすりつけたのだ。


 しかし……。


 この女は違う。自分と同じだ。同じ、臆病な人間だ。


 なら、仲良くなれるだろう。


 そう、臆病者同士。


 この女となら……!




「何をおっしゃってるのですかっ。勇者様は、勇敢なお方ではありませんかっ!」




 ……。

 …………え?


 グスカスは目を点にする。その間に、雫が続ける。


「ぼくは、魔王を前にして縮こまって何にもできなかった臆病者です。ですがグスカス様は、勇者様は違うじゃないですか」


 晴れやかな表情で、雫は言う。


「魔王を前に一歩も引かず! 勇猛果敢に魔王と戦い! そして見事勝利を収めたではありませんか!」


 その、キラキラとした目を見て、グスカスは悟った。


 こいつ……勘違いしていると。


「臆病者はあのジューダスとかいう裏切り者じゃないですかっ! 魔王を前に敵前逃亡など! まあぼくも人のこと言えた義理ではありませんが、しかし仮にも救世軍のひとりが、魔王に怖じけずき逃げるなど! 職務放棄としか言い様がありません。そうですよね!」


 雫が同意を求めてくる。


 グスカスは……内心で汗をかいていた。


 そう、この女、勘違いしているのだ。


 この女は、世間一般でそうなっているように、【勇者グスカスが魔王を倒した】と、正しく、しかし間違った認識を持っている。


【敵前逃亡した臆病者がジューダスで、グスカスは勇敢に戦った】


 そう、自分が広めた通りの噂を、この雫という女は、信じ切っているのだ。


 つまり……。


 この女は、グスカス本人に感謝しているのでは、ない。


【両親のかたき、魔王を倒した存在】に対して、感謝し、尊敬し、好感を抱いている。


 世間一般では、それが誰かというと、グスカスということになっている。


 だが実際は違う。


 この鬼の家族のかたきを討ったのは……いったい誰か?


 この女が真に感謝すべき相手は……いったい誰だろうか?


「…………」


 グスカスは、知っている。嫌と言うほど、知っている。


「…………おい、しずく!」


 グスカスはベッドの上で立ち上がる。


 そして鬼女を見下ろして言う。


「魔王を倒したのは誰だ!?」


 すると鬼女は嬉しそうに答える。


「はい! 勇者グスカス様です!」


「おまえの両親のかたきを討ったのは誰だ!?」

「はいっ! グスカス様です!」


 グスカスは声を荒げて、早口で言う。


「そう! おまえの両親の無念を晴らしたのは他でもない俺様だ! 俺様によーーーく感謝しろ! そして俺様に感謝し、おまえが死ぬまで俺に尽くせ!」


 内心で、冷や汗をかきながら、グスカスは言う。


 もし真実である、【魔王を倒したのはグスカスじゃない】ということを、知っているのならば。


 この女は首を振るだろう。しかし……。


「もちろん! そのつもりです! 両親や姉のかたきをうってくれた、勇ましいあなた様に、ぼくは一生つくします! あなたの奴隷であること、ぼくはとても誇らしく思っています!」


 雫の目。グスカスに向ける目は……キラキラと純粋な光を発していた。


 この鬼女は、グスカスに心酔しきっていた。両親のかたきをうった存在に、感謝と、尊敬の念を向けている。


 だが……。


 だが……もし。


 もしも……この女が、真実を知ってしまったら?


【本当は、グスカスではなく、ジューダスが両親のかたきを討った】と。


 真実を、知ってしまったら……?


「…………」


 グスカスは、震える。また、誰からも尊敬されず、感謝もされず、一人孤独に打ち震える様を想像し……。


「そうだ! 俺様が勇者だ! 感謝しろ! 死ぬまでずっと感謝しやがれ!」


 グスカスは、嘘をつこうと決めたのだ。


 嘘を貫き通そうと。世間一般の、【勇者が魔王を倒した】という嘘を、つきつづけようと。


 なに、バレやしない。魔王を真に倒した人間が、手柄を自ら放棄したのだから。


 あの男が、自ら、魔王を倒したのはグスカスで良いと言ったのだから。


 父であり王であるグォールが、世間に植え付けたイメージ。勇者が魔王を倒して、ジューダスは裏切り者。


 この認識が覆ることは、百パーセント、絶対に、あり得ない。


 胸の中の不安を振り払うように、自分に言い聞かせるようにして言う。その表情に余裕はなく、あるのは軽犯罪者のごとく、卑しい表情だった。


「そうだ、俺様をあがめろ! 感謝しろ! あがめたたえながら俺様に尽くせ! いいな雫!?」


 グスカスの問いに、嬉しそうに、雫がうなずく。


 そう、認識が覆らないかぎり、この女はグスカスに対して、無償の尊敬と感謝の念を向けてくる。


 じゃあそれでいい。嘘をつき続けよう。



 ーーしかしそれが、さらなる苦しみを生むことに、グスカスは、気づかないのであった。

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