24.英雄、SS級モンスターを賢者と協力し倒す
第三王女がやってきた翌日。
この日は、喫茶店の定休日だった。
従業員を含む俺たち全員で、砂漠エルフの国・フォティアトゥーヤァまでやってきていた。
目的はキャスコの魔力の消費だ。
彼女は定期的に魔法を使い、魔力を消費しなければならない。
その身にたまった膨大な量の魔のせいで、モンスターたちを引き寄せてしまうのだ。
俺たちはキャスコの【転移スキル】を使い、フォティアトゥーヤァ東部、【ウォズ】という街へとやってきていた。
なぜ転移したかというと、転移スキルだと、魔力を膨大に消費する。ここへ転移してノォーエツに戻るだけで、しばらく魔力消費をしなくて良くなるからな。
「ハルちゃん暑いよ! 夏みたいだー!」
「そうだねー、あついね~」
バイト少女ハルコ、そして義理の娘タイガが、手でひさしを作りながら言う。
俺たちは空を見上げる。雲一つない青空には、太陽が輝き、じりじりと肌を焼く。
「でもハルちゃん、ふしぎだねー。真冬なのに、真夏みたいなの」
「確かに不思議だにぃ……」
うむむ、と悩むふたり。それに対して、キャスコが言う。
「……ここ砂漠エルフの国・フォティアトゥーヤァには、火の大精霊【イフリート】が住んでいるのです。その影響下で一年中、暑いんですよ」
キャスコの説明に、ホエーっとハルコとタイガが感心したように呟く。
「タイガちゃん、聞いた。精霊さんがいるからあっちっちなんだって」
「精霊しゃん! かっこいいー! 見てみたい!」
「ねー、見てみたいねー」
うふふ、と笑うハルコとタイガ。
「それとキャスちゃんは物知りしゃんですね!」
にかっと笑って、タイガがキャスコに言う。キャスコは照れて頭をかいていた。
「だろ、キャスコは頭良いんだぜ? なにせ魔法の腕だけじゃなく、知識量もはんぱねえ、才女なんだぜ」
「……じゅ、ジュードさん……そんな、やめてくださいよ~♡」
えへーっと笑うキャスコ。やめてって言うわりに喜んでいるのは、なんでなんだろうね。
おっさんには若い乙女の心はわからないぜ。
さておき。
「キャスちゃんの転移のスキルってすごいんだねっ! 一瞬でとなりの国までやってきてるんだもん!」
ハルコが感心したようにキャスコを見やる。
「……そ、そんなすごくないです。行ったことのある場所へしかいけませんし」
「それでもだよ。一瞬で外国いけるなんて! キャスちゃんはすごいなー」
「しゅごいなー」
ハルコとタイガが、キャスコを褒める。顔を赤らめるキャスコ。
「なーそだろそーだろ? うちのキャスコはすげーんだぜ?」
なにせ勇者パーティの魔法職として、前線を支えていた凄腕魔法使いだからな。
「!?!?!?!?!?!?」
俺の言葉に、キャスコが目をむいていた。
「……う、うちのキャスコって言われましたっ! 俺の、キャスコってっ♪」
とろけるような笑みを浮かべながら、キャスコがくねくねと身をよじっている。
「!?!?!?!?!?!?」
それを聞いたハルコが、目をむいて、その場に膝をつく。
「……ジュードさんの、キャスちゃんって言ってた。ジュードさんの中では、もうおらの入り込む隙がないの……?」
ハルコは暑いだろうに、地面に膝をついて暗い表情になる。
「ん? どうしたの二人とも?」
「ろーしたの~?」
夢見心地なキャスコに、絶望顔のハルコ。
「……ジュードさんとキャスちゃんの挙式には、おらも呼んでくれますか?」
涙を浮かべながら、ハルコが俺に、よくわからないことを言ってくる。
「え、なになに? なんでそんな話になってるんだ? というか熱いからたちなって」
俺はハルコに手を貸して、よいしょと持ち上げる。ばるんっ、とその大きなおっぱいが揺れた。
間近に少女の潤んだ顔。つん……と甘酸っぱい汗のにおいがする。
「……だって、俺のキャスコって、さっきジュードさん言っただに……」
「ああ、アレは俺の仲間のキャスコって意味だよ。ほら、俺もともとキャスコの上司だったろ? だから昔の癖でついな」
するとハルコが、ぱぁ……! と表情を明るくする。
「そ、そうですよねっ! 良かったぁ~……って、キャスちゃん! しっかり!」
反対にキャスコが、その場に膝をついていた。
「……でーすよねー。私、わかってました。うん、わかってたけど、わかってましたけど……」
「キャスちゃんしっかり! まだおらたち勝負の場にすら立ってないから! ふたりで一緒にずくだそうよ!」
ハルコが、なんだかよくわからないことで、キャスコを励ましていた。
「……ハルちゃん。そうですね、一緒に頑張りましょうっ」
復活するキャスコ。ふたりは手をつないで、うん! と力強くうなずいた。
「おとーしゃん!! ふたりがとっても仲良ししゃんで、あたちうれしい!」
「そうだなー、ふたりは仲良しさんだなー」
俺はタイガを抱っこしながら、そんなことを言った……そのときだった。
「あ」
俺の【索敵】スキルに、反応があった。
「あー……」
索敵は、害意を持った敵が、範囲内に出現すると俺に知らせてくれる。
「砂の中で寝てたやつが、起きたんだろうなぁ……」
俺は二人を見やる。
「ハルちゃん、ちょっとタイガを頼む」
義理の娘を、ハルコに手渡す。
「いいですけど、ジュードさんはどこにいくんですか?」
「ん。ちょっとね」
するとこっそりと、キャスコが俺の元へやってくる。
「……ジュードさん、もしかしてモンスターですか?」
「ん。んー? まぁー……そだね」
「……私の魔力で、引き寄せてしまったのでしょうか?」
「んー……どうだろ? いま転移で魔力結構消費してるじゃん? だからあんま関係ないんじゃないかな?」
とは言いつつも、キャスコの魔力量は桁外れだ。転移で消費したとして、低級のモンスターが引き寄せられた……可能性はなくはない。
ただそうなると、この子は気に病んでしまうからなぁ。言わないで正解だろう。
「……ジュードさん。気を遣わせてごめんなさい」
「なぁに言ってるんだよ。気なんて遣ってないよ。じゃ、ちょっと行ってくるね」
俺はキャスコの頭をなでると、勇者からコピった【高速移動】スキルを使い、その場を離れたのだった。
☆
出現したモンスターを倒しに、俺はさっきまでいた【ウォズ】の街を離れた。
ウォズは漁港のある街だ。いっけんすると普通の街だが、少し離れると、砂漠が地平線まで広がっている。
一面の砂の大地をかけぬけると、徐々にその姿が見えてきた。
「うっわ……でっけぇ~なぁ~……」
そこにいたのは、仰ぎ見るほどの大きさの、巨大な【亀】だ。
背中には火山のような噴射口がついている。
四足で歩くたび、ずずぅーん、ずずぅーん、と軽く地震が起きるほどである。
俺は【指導者】の技能、【見抜く目】を発動する。相手の情報を見抜く。
「【火山亀】……SS級モンスターか。厄介だなぁ」
俺はSS級までなら、単独で処理できる。苦労しそうだが、まあなんとか。
「獣神の豪雷……は、使わないでっと。あれは破壊力ありすぎるし」
あの火山亀の裏に人や街があった場合大変だ。街を飛ばしかねない。
「GUROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」
火山亀が吠える。すると背中の火山から、
ドシュぅうううううううッ! ドシュぅうううううううッ! ドシュぅうううううううッ!
巨大な溶岩の塊を、俺めがけて飛ばしてきた。
「やっべ」
俺は【インベントリ】から魔剣フランベルジュ(砂漠エルフの女王からもらった)を取り出す。
【高速移動】で溶岩の前まで超速で移動。
騎士からコピーさせてもらったスキルを使用。
【防御膜】(あらゆる環境下でも活動できる膜をつくる)スキルで熱によるダメージを防ぎながら、
俺は同じく騎士の【反射】スキルを発動。
「せやぁあッ……!!!」
【見抜く目】を駆使し、はじいた溶岩が相手にぶつかるよう、溶岩めがけて、俺は剣を振るう。
ぱきぃいいいいいいいん! ぱきぃいいいいいいいん! ぱきぃいいいいいいいん!
反射スキルのチカラで、溶岩の塊が、火山亀めがけて飛んでいく。
ばごぉおおおおおおおおん!
ばごぉおおおおおおおおん!
ばごぉおおおおおおおおん!
溶岩の塊が、火山亀にぶつかる。
「やったか……?」
「GUROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」
「でーすよねー……」
元気いっぱいの火山亀。まあ相手は炎のモンスターっぽいしな。
自分の溶岩じゃあ、倒れないか。
火山亀がギョロッ! と俺に目を向けてくる。らんらんと輝く赤い目。相手は俺を、完全に敵と認識したようだ。
でかい図体で、俺めがけて走ってくる。
「じゃあ切ってみるか。……っらぁっ!!」
【高速移動】を使って、俺は火山亀めがけて走る。近づけば近づくほど、その大きさに驚かされる。
「足ふっと。顔でけえなぁ」
俺は剣士のスキルを使用。【斬撃・威力拡張】と【斬撃・範囲拡張】。
どちらも剣による攻撃の威力と、攻撃の及ぶ範囲を拡張するスキルだ。
さらに勇者の【身体能力超向上】を発動。
剣と自身の体を強化し、俺は走りながら、火山亀の足を切り払う。
すっぱぁあああああああああああん!!
「GUROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
火山亀のぶっとい足を、両断する。
バランスを崩し、倒れそうになっている間に、俺は残り三本の足を切る。
すっぱぁあああああああああああん!! すっぱぁあああああああああああん!! すっぱぁあああああああああああん!!
「これで動けないっと。あとは首を切って……っとぉ!」
俺は火山亀の正面に移動。しかし……。
「あ、こいつ首引っ込めやがったなぁ」
火山亀は甲羅の中に、頭を引っ込め防御態勢に入っていた。
「甲羅割って見るか……よっと!!」
俺は【高速移動】を使用したまま、火山亀の甲羅の上へとジャンプ。
「っっらぁあああああああ!!!」
渾身の力を使って、俺は甲羅めがけて、魔剣を振るう。
がきぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!!!!
範囲拡張された斬撃が、甲羅にぶつかる。しかし堅かった。斬撃がはじかれる。
「無傷って言うね。ふぅむ、どうしたもんか……」
俺は剣士の【虚空歩】という、空気を蹴って空中を移動するスキルを使用。
空中を移動し、火山亀から距離を取る。
「さてどうすっかなぁ……」
と、そのときだった。
【ジュードさん。大丈夫ですか?】
俺の頭に、賢者キャスコの声が聞こえてきた。
「お、キャスコじゃん。ということは通信魔法使ってるの?」
【はい。あの……苦戦なさってるんですよね?】
「えー? いやぁ、そうでもないんじゃない?」
【……ジュードさん。私、大丈夫ですから】
キャスコが優しい声音で言う。
【戦うのは、確かに私、苦手です。私に迷惑かけないよう気を遣ってくださってくれていること、感謝します】
ですが、とキャスコ。
【あなたのためなら頑張れます。あなたのために、頑張りたいんです】
かつての仲間からの言葉に、俺は頭をかく。
気を遣ったことが、逆に彼女に気を遣わせてしまってるようだった。
俺もまだまだだなぁ。
……うん。反省した。よし、仲間の力を借りよう。
「ごめんね、強がってたわ。相手めっちゃ堅い甲羅に覆われた亀で、苦戦してる」
【わかりました。風の刃で甲羅を破壊します。とどめはお願いします】
「了解」
俺は火山亀から十二分に離れる。
「亀さんよ、災難だったなぁ。俺一人なら逃げおおせただろうよ。けど……今うちには、最強賢者がいるんだわ」
俺は彼女の魔法が完成するのを待つ。やがて……。
【いきます!】
キャスコのかけ声の後、
【颶風真空刃!】
びゅおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!
火山亀を中心に、竜巻が発生する。
よく見ればわかるが、風の中を無数の真空の刃が見て取れる。
「GUROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」
バキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャ…………ッッッ!!!!
数え切れない真空の刃が、火山亀の甲羅を削いでいく。
亀は竜巻に翻弄される。風が吹くたび、甲羅が剥がれ、やがて甲羅がすべて剥がされる。
さっきの魔法は、相手の防御を、真空の刃でそぎ落とす魔法だ。
キャスコは殺傷系の魔法を好まない(それこそ真空の刃で粉々にする魔法もある)。
防御を削いだ後は、俺の仕事だ。
「運が悪かったな亀さんよ……!!」
俺は身体能力と斬撃を、スキルで強化した後、魔力を剣に走らせて、
丸裸になった亀めがけて、
「そぉおおらぁあ……!!!!」
思い切り、剣を縦に振るう。
すっぱああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!
魔力の乗った斬撃が、亀を縦に、一刀両断した。
「GURO…………………………」
真っ二つになった亀が、断末魔の声を上げる。すると左右に、死体が分かれて、倒れる。
ずうぅうううう…………………………………………ん!!
「ふぅ……あっちぃ~……。つかれたぁ……」
完全に火山亀を討伐した。爆発の後、後には魔力結晶が落とされる。
俺は魔力結晶(魔素の塊のようなもの)を【インベントリ】にしまい、【高速移動】を使ってウォズの街へ戻る。
街の入り口にて、少女たちが俺の帰りを待っていた。
「ただいまー。ふぅー、あっちかったー」
俺が手で風を送る。
「……お疲れ様です♡ さすがジュードさんです。これどうぞっ」
キャスコが【インベントリ】から、ボトルに入った飲み物を手渡してくる。
「さんきゅー」
俺が冷たい飲み物を飲んでいると、
「……………………」
ハルコが目をむいて、ぽかーんとしていた。
「ん? どったのハルちゃん?」
「……どうしました、ハルちゃん?」
俺とキャスコが、ハルコに尋ねる。
「……なんなん? さっきのあれ……なんなんだに……?」
目が飛び出るかってほど、ハルコが目をむいている。
「さっきのはSS級のモンスターで、まあそこそこ強かったなぁ」
「……ですね。でもジュードさんの敵じゃないですっ。さすがジュードさんっ」
「おいおいキャスコ-。おまえがいなかったらやばかったって。おまえの手柄もあるって」
「……いえいえ、私はアシストしただけで」
「んじゃふたりの勝利ってことだな」
「……はいっ♡ ふたりの、共同作業というやつです♡」
えへーっと笑い合う俺たち。
その一方で、ハルコが険しい表情で、頭痛をこらえるようにしている。
「ハルちゃん、どうしたのー?」
タイガが心配げに、ハルコに声をかける。俺もキャスコもどうしたんだろと近づく。
「いや、うん、改めて、おらの知り合い、おかしいんだなって……」
「おかしい?」
「……なにかおかしなことしましたっけ?」
はて、と首をかしげる俺たち。
俺たちおかしなこと、なにかしたっけ?
単にSS級を撃破しただけだ。
勇者パーティ時代なら、SS級の討伐なんて、日常茶飯事だったしなぁ。
するとハルコは、力一杯叫んだ。
「おかしいよ! ふたりとも! 強すぎておかしいよぉおおおおおおお!!!」
ハルコの叫びが、砂漠に響き渡るのだった。
かくして俺は、小旅行先で出会ったSS級モンスターを、賢者と協力して倒したのだった。
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