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21.英雄、街の外のザコ敵を軽く殲滅する




 それは暮れも近づいた、冬の日。新たなバイト少女が加わってから、数日が経過した、ある日のことだ。


 朝。


 俺は自分の店の前の道を、スコップで雪かきしていた。


「ほいほいっと」


 手に持ったスコップで、サクサクと雪を片付ける。


 店の前以外も雪をかく。


 サクッ、サクッ、サクッ。

 サクッ、サクッ、サクッ。

 サクッ、サクッ、サクッ。


 手を動かしながら、ぼんやりと思考する。


 ここ人間国ゲータニィガは、四季の変化が顕著だ。春は暖かく、夏は暑く、秋は過ごしやすく、そして冬は寒い。非常に寒い。


 雪はドカドカと降るし、毎日氷点下まで気温が下がる。


「さみぃ~……。そして毎度のことだが雪の量すげえなぁ……」


 道路の雪をすべてどけると、俺は店へ向かって歩く。


「ちょいとジュードちゃん!」

「ん? ああ、ジェニファーばあちゃん。おはよ。散歩?」


 俺に声をかけてきたのは、お向かいに住んでるおばあちゃんだった。


「そうさね。街をぐるっと」

「そうかい。寒いのによく歩くねえ。俺は散歩なんて無理だなぁ」


 するとばあちゃんは苦笑すると、


「朝早くから起きて、街のために雪かきしている男がなーにいってるんかね」

「いやいや、だからといって寒いのが得意ってわけじゃあないんだなぁこれが」


 それは本当。寒いのって俺苦手なんだよね。暑い方が俺は我慢できる。


「今日も朝から雪かきありがとうねぇい」


「なんのなんの。朝の運動のつもりでやってるだけ。好きでやってるだけだからさ、感謝なんてしなくていーよ」


 ジェニファーばあちゃんは笑うと、


「そんじゃジュードちゃん、また後で。コーヒー飲みに行くからねぇい」

「おう。待ってるよー」


 俺はばあちゃんと別れた後、店へ向かって歩く。


 しばらく大通りを歩いていると、1軒の喫茶店が見えてきた。 


 レンガ作りの、2階建て。


 入り口看板には、【喫茶・ストレイキャット】という名前が書かれている。


 看板は猫の形をしており、首輪の部分にドアベルがついている。ちょっとおしゃれなデザインだ。


 ここが俺の働く店。勇者パーティを出て行く際にもらった退職金で、この店を買った。

 

 それが半年ほど前。


 以降、俺はここで喫茶店のマスターとして、のんびりと働いている次第である。



 からんからん♪



 ドアを開けると、そこには可憐な少女が立っていた。


「……ジューダスさん♡ おかえりなさい♡」


 16、7歳ほどの華奢な少女だ。


 真っ白な髪。ふわふわとした髪質のそれを、肩口でショートカットにしている。


 目は雪の日の空のように灰色。そして透き通るような美しく白い肌。


 髪色や体つきといった、彼女を構成するパーツすべてが儚げで、まるで雪の精霊かと思うほどだ。


 とは言え出るところは出ている。すらりとしたボディに、ぷっくりと突き出たお尻が実にキュートなこの少女。


 名前をキャスコといって、勇者パーティのメンバーのひとりだ。


「ただいまキャスコ。それとこらこら、ここでは俺はジュードだよ」

「……そうでした♡ ごめんなさい、ジュードさん♡」


 くすっ、とほほえみながら、ぺこりと頭を下げるキャスコ。


「キャスコ。どうした、まだ店開ける時間じゃあないと思うんだけど」


「……ジュードさんを起こしに行ったら、いなかったので、ここで来るのを待ってました」


 店内は暖かかった。だるまストーブがつけており、実に暖かい。


 窓ガラスにはびっしりと結露が出てきており、外からはからっと晴れた朝日が覗く。

「ストーブつけててくれたんだ。ありがと~」


 俺はキャスコの頭をなでる。ふわふわとしている。子犬や子猫と言った、生まれたばかりの動物の毛並みとでも言うのか。


「……もう、ジュードさん。子供じゃあないのですから、よしよしはやめてください」


 むっ、とキャスコが唇をとがらせる。


「ああ、ごめんな。つい昔の癖で」


 キャスコとの付き合いは10年ほど前まで遡る。


 彼女が7歳のときから、俺はこの子に、教育係として関わっていた。


 だからキャスコに対しては、妹とか、生徒みたいな感じを覚える。

 

 俺は手を離そうとするが、「……もうちょっとだけ、お願いします」とキャスコが頬を染めて言う。


 さすさすと触る俺。


「なんだ子供扱いはやめてほしかったんじゃあないのか?」

「……時と場合によります。今はジュードさんになでなでされたいんです♡」


 喉をなでられた子猫のように、キャスコが目を閉じて言う。


「……はぁ♡ 幸せです。まさかこんな日が来るなんて」


 ふふ、と上品に笑うキャスコ。


「しかし幸せかぁ。おまえ本当に良かったのか? 王都を出てここへきて」


 数日前。キャスコはこの店へやってきた。

 話を聞くと、どうやら勇者グスカスに解雇通告をくらい、宮廷魔道士長としての役職を剥奪されたそうだ。


 その理由が、グスカスの不興を買ったから、らしい。なんだその理不尽な理由は。


 俺はグスカスに注意し、キャスコを戻すように言おうとした。だがキャスコ自身が別に良いと言ってきた


 そしてここで働きたいと言ってきた。他に行くところがないということで、俺は二人目のバイトを雇うことにした次第。


 二階には空き部屋がいくつかあるので、キャスコにはそこを使ってもらっている。


 他にもウチには、居候が何人かいるのだが、それはさておき。


「……いいんです。ここで、ジュードさんのそばにいられることが、私の幸せなんです♡」


 ふぅむ……そういうもんかね。


 こんな田舎街の、さえないおっさんが経営している喫茶店より。華やかな王都で宮廷魔道士という花形職業として働いていた方が、格好いいと思うんだけどなぁ。


 まあ本人が幸せと言っているんだ。じゃあいいかと。本人の幸せが一番である。


「おっと、ごめんな。いつまでも頭なでなでしてて」

「……いいえ。どうぞ♡ お好きなだけなでてください♡」


「あれ? おまえがなでてくれって話じゃなかったっけ?」

「……ふふ♡ そうでしたっけ?」


 くすっと上品に笑うキャスコ。儚げな出で立ちに、その控えめな笑い方は実にあっている。


「じゃあまあ、いつまでもこうしてないで、朝食の準備を……」


 しようと思っていた、そのときだ。


「あー…………」


 俺の【索敵スキル】に、反応があった。


【索敵スキル】。これは俺の持つ【技能スキル】のひとつ。


 害意を持った敵の存在を、いちはやくキャッチするというスキルだ。


 この町に向かって、外敵が近づいてきているようだ。


「……どうしました?」

「あー……いや。ちょっと。あ、そうだ飯作っててくれよ。俺ちょっとお向かいのジェニファーばあちゃんに用事があったんだ」


 そう言って、俺はその場を離れた。



    ☆



 俺は店の外に出ると、街の一番高い建物のところへやってくる。


野伏レンジャー】の持つ、【視力強化】スキルを使って、辺りを見回す。


「あー……。敵さん、いっぱいいますな」


 街の外から、うじゃうじゃと、モンスターの群れがやってくる。


 俺は【見抜く目】を発動させる。


 これは対象となるものの、あらゆる情報を【見抜く】ことのできる、【指導者リーダー】のスキルのひとつだ。


指導者リーダー】。それが、女神様から俺に与えられた【職業ジョブ】だ。

 俺はこの【指導者】の能力のおかげで、仲間となった人間のスキルをコピーさせてもらっている。


 さておき。


「見たところA級以下のザコしかいないようだなぁ」


 街には【女神の結界】があるため、外敵モンスターは入って来れない(その代わり街での戦闘行為・転移スキルや転移結晶の使用を禁止されている)。


 あのザコ敵どもは、結界のおかげで、街には入ってこられない。


「けど街のみんなが心配するよなぁー……」


 俺は【視力強化】を切る。


「朝から街の皆さんを心配させるわけにはいきませんよっと」


 俺は【ステェタスの窓】を開き、使用可能な【技能スキル】一覧を開く。


「ええっと……A級程度のザコなら……。あー、でも数多いし……お、これにするか」


 俺はスキル一覧の中にあった、魔法スキルを選択する。


魔法の矢マジック・アロー


 魔力を固めて矢を作り、それを打ち出す魔法だ。


 魔術師の職業を持っていれば、レベルが低くても使用できる初歩的な魔法スキルである。


「んでここに……【魔法・複製】スキルを付与すると」


 これは【賢者】の持つスキルだ。


 1つの魔法をコピーし、数を増やす魔法だ。


 魔力を流し込めば流し込むほど、複製できる数が増える。


【賢者】。つまりこれは、さっきの第二バイト少女・キャスコから能力をコピらせてもらったものだ。


 俺には仲間となった人間の能力を6割(威力じゃなくて数)コピーさせてもらう能力がある。


「それと【魔法・命中率上昇(必中)】スキル、あと【魔法効果・威力拡大】を組み合わせると」


 これらも賢者のスキルだ。それぞれ視界に捉えた相手に魔法を必ず当てるスキル。魔法1発の威力を拡大するスキル。


 いろいろと魔法にスキルを付与して、準備完了。


「そんじゃ、いきますか」


 俺は視力強化を使って、ぐるりと街の外を見やる。


 街めがけてやってくるモンスターの大群めがけて、俺は【魔法の矢】にありったけの魔力を流す。


「そーら、いけっ!」


 右手が光る。そこから、流星群のように、光の矢が上空へ向かって飛び、地上へと向かって降り注ぐ。


 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!


 無数の魔法の矢が、遠くに落ちる。軽く地面が揺れる。


 ややあって、


「うん、索敵にひっかからないし、全員やっつけたなぁ」


 ふぅ、と俺はため息をつく。一安心だ。


「しかしどうしたって、街に向かってモンスターがやってきたんだ? って……あー……。そっか、キャスコがいたんだっけ」


 キャスコがこの街に居るからだと、俺はすぐに原因がわかった。


 俺は高い場所から降りて、ストレイキャットへと戻る。



 からんからん♪



「ただいまー」

「……ジュードさん」


 ぱたぱた、とキャスコが俺の元へやってくる。


「あの……さっき魔法の気配を感じたのですが……」

「ん。あー……ちょっとね」


 賢者のキャスコは、魔法の感知能力に長けている。だから俺が打った魔法の矢に気づいたのだろう。


「あー、キャスコ。おまえ、最近魔法あんま使ってなかったよな?」

「……ええ、ここに来てからは一度も」


 ということは、キャスコの体には、膨大な量の魔力が秘められているだろう。


「だよなぁ。だから、エサを感知して、モンスターがたんまりやってきたわけだ」


「……!?」


 くわっとキャスコが目を見開く。


「慌てなくていい。もう片付いたから」

「……すみません。うっかりしてました」


 しゅん、と肩をすぼめるキャスコ。


「……私は人より何百倍もの魔力量を持ってるんでした。だから定期的に魔法を使って、魔力を減らさないと、その大量の魔力がモンスターを引き寄せてしまうんでした」


 キャスコが青ざめた顔で言う。


「……ジュードさんのもとへきて、浮かれてて、忘れてました。ごめんなさい」


 気落ちするキャスコ。俺は安心させるように、彼女の頭をなでる。


「なぁに、落ち込むこたない。間違いは誰だってする。反省して次に生かせば良いよ」


「……でも、そのせいでジュードさんに、迷惑を」


「ぜーんぜん。迷惑なんかじゃないよ。俺はしたくてやったんだ。俺が勝手にやったことだ。迷惑? んなこと一切感じてねえよ」


 だからそんな悲しそうな顔を、しないでほしい。俺はキャスコを抱き寄せて、ハグする。


「……ぁ、ぅ」


 キャスコは子供の時から、落ち込んだときは、こうしてハグしてくれとせがんできた。


 こうしていると落ち着くのだそうだ。


 ぽんぽん、とキャスコの頭をなでる。


「落ち着いたか?」

「……はい。すみません」


 俺はキャスコを離す。


「……いろいろと、ありがとうございました」


「なぁに気にすんなって。バイトのメンタルケアも、店主の勤めですよ」


 するとキャスコは、すねたように言う。


「……店主だから、なぐさめたんですか?」

「いやいや、違うよ」

「……そうですかっ」


「子供を慰めるのも大人の勤めだからね」

「……そうですか」


 なぜか知らないが、キャスコがしょぼんとしてしまった。ううむ、どうしたのだろう……?


「まあ、これからは定期的に魔力を消費しような。街の外に一人で出るのが怖いなら、俺付き合うからさ」


 この子は勇者パーティをひとりで支えた最高の魔法使い。とても強い魔法を使える。


 しかし俺は知っている。この子はもともと、戦いを好まない性格をしてることに。


 できることなら、魔法を使って相手を殺す(たとえモンスター相手でも)ことは、したくない。


 優しい性格をしており、そしてちょっぴり怖がりやさんな性格をしているのだ。


 だから街の外に出て、もしモンスターに襲われたらと、怖がってしまうのは容易に想像できた。


 だから俺は、ついて行くと提案したのだが……。


「……ほ、本当ですかっ!」


 キャスコが目をキラキラとさせ、俺の腕をがしっとつかむ。


「……ふ、二人きりで、街の外へ行ってくれますかっ?」

「え、うん。こんなおっさんと二人きりじゃあちょっと嫌かな?」


 少女はぶんぶんぶん! とクビを強く振るうと、


「……嫌なわけないですっ! ありがとうございます、ジュードさんっ!」


 よくわからないが、感謝された。キャスコは「……一歩前進。一歩前進!」と上機嫌だった。どうしたんだろうね?


 ともあれ、こうして街を囲っていたザコを一掃し、その原因についても、解決したのだった。

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