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18.勇者グスカスの、愚かな振る舞いとその結果

三人称、グスカス視点です。




 話は半年ほど前にさかのぼる。


 それはジュードが、王都を追放された日の夜。


 勇者グスカスは、取り巻きの女たちとともに、夜の酒場を飲み歩いていた。


「おらおまえら行くぞ! 三軒目!!」


 この日、グスカスは非常に上機嫌だった。目障りな男が目の前から消えたからだ。


「おうおまえら、なんで俺様が上機嫌か、知ってるかぁ?」


 グスカスが取り巻きの女どもに尋ねる。そいつらは、グスカスの地位と名誉に目がくらんですり寄ってきた女たちだ。


 女たちは追従笑いを浮かべて、知らないと首を振る。


「教えてやるぜ! あのクソめざわりなジューダスが王都から追放されたからだ!」


 女たちは、内心『だからなに?』と思っていたが、しかしグスカスの機嫌を損ねたくないので、心の内の言葉を表に出さなかった。


「あー! 気分が最高だぜ! あの偉そうなクソじじいがいなくなって、せいせいするぜ! ぎゃーーーーはっはっ!」


 そんなふうに上機嫌に歩いていた、そのときだ。



「えーん! おかーさーん! おとーさーん! どこー!」



 夜の街。歩道にて、ひとりの男の子が泣いていた。


 どうやら家族で外食をしにきて、途中で両親とはぐれてしまったようだ。


「あ゛ー……?」


 グスカスは男の子が視界に入ると、彼に向かって歩いて行く。


 そしてグスカスは、泣いてる男の子に向かって、



「うっせーぞガキぃ!!!」



 回し蹴りを、食らわせた。


 バキィ……!!!!


 男の子は勇者の蹴りを食らって、数十メートル吹っ飛ぶ。


「俺様が気分良く歩いているところなのに、耳障りな泣き声で俺様を不快にさせるんじゃあねえよ!!」


 グスカスは吹っ飛んだ男の子の元へ行き、ぺっ……とつばを吐く。


 取り巻きの女たちは、グスカスの所業にドン引きしていた。


「グスカス様……」「それはちょっとさすがに……」


「あ゛?」


 意見を言おうとした、取り巻きの女の元へ、グスカスは近づく。


【インベントリ】から聖剣を取り出し、


 ザシュッ……!!!


「ぎゃあああああ!」「いだぁあああああああああ!!!」


 口答えした女の顔に、横一線、聖剣を振るう。


 目玉を潰された女たちは、その場にうずくまって転がりまわる。


「俺様に口答えするんじゃあねえよ。俺様を不愉快にさせんなボケが!」


 すると騒ぎを聞きつけて、衛兵がやってくた。


「ぐ、グスカス様……これはいったい?」


 若い衛兵が、グスカスに尋ねる。


「こいつらは俺様を不愉快にさせた。だから切っただけだ。何か問題でもあるか?」


 グスカスの答えに、若い衛兵の顔が怒りにゆがむ。


「貴様! いくら勇者だからといってやって良いことと悪いことがあるぞ!」


 衛兵が義憤に駆られ、腰の剣を抜こうとする。


「やめろバカ!!!」


 衛兵の詰め所から、彼の上司らしき男が急いでやってくる。


「グスカス様! 申し訳ございません! このバカな部下には、ワタシの方から、きつくお灸を据えておきますので! なにとぞ! なにとぞお許しください!」


 上司がペコペコと頭を下げる。どうやら若い衛兵をかばっているようだ。


「あ゛ー……?」


 グスカスは顔を不快にゆがめると、


「駄目だね」


 ズバンッ…………!!!


 グスカスは聖剣を手に取り、たてついてきた若い衛兵を、一刀両断する。


 そのチカラは、魔王を倒すためだけに与えられた最強のチカラ。


 だがそれを、グスカスは、あろうことか、人殺しに使ったのだ。何のためらいもなく、一部の迷いもなく。


 ただの己の欲求を満たすためだけに。


「!!!」


 上司が顔を蒼白にさせる。いままっぷたつにされた部下の死体を、凝視する。


「勇者である俺様を不快にさせた罪で死刑にしてやった」

「………………」


 怒りに、上司が震えていた。ぎゅっと拳から血が出るほどに。


 そして上司は、グスカスをにらんでいる。だが勇者はどこと吹く風。


「俺様を罪に問うか? 魔王を倒し、世界を救った、俺様のことを?」


 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、グスカスは上司に尋ねる。


「………………いえ。ワタシは、何も見ませんでした。この場はワタシが処理しますので、グスカス様は、お帰りください」


 上司がそう言うと、グスカスはにまりと笑う。


「そうそう、そういう態度だよ。おまえ、名前なんていうの?」


 グスカスは気分良く、上司に名前を尋ねる。


「……ジョージと申します。西地区の衛兵長を務めてます」


「あっそ。父上に、おまえを昇進させるよう言っといてやるよ。感謝しな」


「……ありがとうございます」


 グスカスは上司の肩をたたいて、取り巻きの女どもを連れて、その場を離れる。


 グスカスは【通信】魔法を使い、自分の父親に、つまり国王に連絡をいれる。


「もしもし父上? 西地区の衛兵長のジョージってやついるんだけどさ、こいつクビにしとけよ。うん、そんじゃよろしく」


 通信の魔法を切る。背後を振り返る。


 取り巻きの女たちに向かって、グスカスは言う。


「よし三軒目いくぞぉ~!」


 先ほどの所業を見て、取り巻きの女たちは言葉を失っていた。だがここで逆らえば、殺されるか、強権発動で仕事を失うかの二択だ。


 女たちは恐怖を押し殺しながら、追従笑いを浮かべると、グスカスの後をついていく。


 これが、勇者グスカスという男の実態だった。



    ☆



 それから半年あまりが経過した、現在。


 時系列的に言えば、キャリバーたちがジュードの店へ向けて出発した、その日の夜。


 グスカスは王都のバーにて、ひとり酒を飲んでいた。


「くそっ!!!」


 だんっ! とテーブルの上に、グラスを乱暴に置く。


「なんで誰もこねえんだよ!!」

 

 グスカスは非常に不機嫌だった。


 話は数時間前。


 グスカスは自分の執務室にて、書類仕事をしていた。


 面倒な仕事は、全部弟のキースに任せていた。だがそのキースが、先日病気で倒れてしまった。

 

 ゆえにグスカスは、キースが肩代わりしてくれていた仕事を、こなさねばならなかった。


 慣れぬ仕事だ。とてもじゃないが処理できない。今まで面倒ごとは、すべて人任せで済ませていた。


 だがキースがいなくなり、第一王子の仕事は、すべてグスカスがやらねばならなかった。


「気分転換に飲みに来たってのに……これじゃ気分も晴れねえよ!!!」


 かんしゃくを起こしたグスカスは、グラスをバーの壁に向かって投げつける。


 バーのマスターは、何も言わず、グラスを回収する。


「けっ……! ったく、俺様が飲みに行くから出てこいっていっても、でてこねえとはよ。付き合いの悪い連中だぜ」


 仕事が嫌になり、グスカスはひとり城を抜け出した。


【通信】の魔法を使い、とりまきの女たちに連絡をいれた。一緒に飲むからこいと。

 

 だが誰一人として、首を縦に振らなかった。みな用事がある、都合が悪いといって、取り合ってくれなかったのだ。


「おいマスター! 酒だ! 酒もってこい!」

 

 バーのマスターは、何も言わない。グスカスのすることに、何も口を挟まない。


 酒を出せと言われたら黙って酒を出す。グラスを割っても怒らない。


 はっきり言って、その態度が不愉快だった。


「もういいっ! 俺様は帰るぞ! 会計は父上にでもつけておけ!」


 グスカスは気分が悪くなり、バーを出る。マスターは何も言わず、ぺこっと頭を下げるだけ。


『またのお越しを、お待ちしてます』と言われなくなってから、いったいどれくらい経つだろうか。


 寒風吹きすさぶ中、グスカスはひとり、夜の王都を歩く。


「…………」「…………」「…………」「…………」


 街の住民たちは、グスカスが外に出た瞬間、建物の中に引きこもってしまった。


 誰も挨拶をしないどころから、目も合わせないし、そもそも彼の視界に入ろうとしない。


 しぃー…………ん。


 王都のメインストリートから、人があっという間に消えた。グスカスが、外に出た瞬間にである。


「おい!!!!!」


 グスカスは叫ぶ。夜の王都は、驚くほど静かだ。


「失礼なやつらだ!! 父上に言いつけて、全員死刑にしてやるぞ!!!」


 だがグスカスの叫びは、むなしく王都に響くだけだ。


「くそがっ!!!」


 グスカスは悪態をつきながら、夜の王都を歩く。みな建物の中に引っ込み、息を潜めている。


 まるで自分が、悪者か何かになったような気分だった。


「くそっ! 俺様は勇者だぞ……? 世界を救った救世主だぞ……? なのに、なんだよこの扱いはっ!」


 しかし無理からぬこと。グスカスに逆らえばどうなるか? 街の人たちは十二分理解している。


 だから、誰もグスカスに近寄らないのだ。

「勇者への感謝を忘れたクソどもが! 誰が魔王を倒したって…………」


 言って、グスカスは黙る。


 誰が魔王を倒したのかって?


 決まっている。ジューダスとキャリバーたち、勇者パーティだ。


 いや、正確に言うのなら、勇者以外の、勇者パーティだが。


「~~~~~~~~!!!!!」


 脳裏をよぎる、苦い思い出。


 魔王を前に、オメオメと逃げ帰った情けない自分の姿。


 勇者の代わりに、ジューダスが魔王を倒したという知らせを聞いたときの、圧倒的な羞恥心……。


 そして、嫉妬。


 あのジューダスという男に対する、嫉妬。


「くそがぁああああああああああ!!!」


 グスカスはいらだちげに、近くにあった建物めがけて、落ちていた石を投げる。


 窓ガラスが割れる。だが誰もグスカスに注意する者はいない。中に住んでるだろう人間たちも、何も言ってこない。


「くそっ! くそっ! くそがっ!!!!」


 イライラしながら、グスカスは王城へ向かって歩く。


「くそっ! くそっ! くそっ! 俺様は勇者だぞっ! 勇者は世界を救ったんだぞ! だのに! なんだこの扱いはよぉ!」


 対外的には、【勇者グスカスが魔王を打ち倒した】となっている。


 街の住人たちは、ジューダスではなく、グスカスがこの世界を平和にした。


 と十二分に、広まっている、はず。


 ……なのに。


 街の住人たちは、グスカスへの尊敬の念を抱こうとしない。感謝もしてこない。


 ただ黙って、距離を取られる。


「くそっ! 俺様をもっと崇めろ! 褒め称えろ! 無視すんじゃあねえよ! クソがぁっ!」


 確かにグスカスは世界を救った、と街の人たちは知っている。


 だが同時に、グスカスがどういう人間かも、住人たちは知っているのだ。


 逆らったら殺される。

 気分を害したら処罰される。


 そんな人間に、いったい誰が近づくというのか。たとえ救世の勇者という肩書きがあったとしても、誰も近づこうとしないだろう。


 だがしかし、グスカスは理解していなかった。


 自分の愚かな行いが、いかに住民たちからの信頼を落としているかということに。


 たとえ魔王を倒したという功績が(本当はないけど)あったとしても、彼の行いが、自分の評判を地に落としていることに。


「くそぉおおおおおおおおおお!」


 グスカスはしんと静まりかえる町中を、ひとりさみしく、歩くのだった。



    ☆



 王城へと戻ってきたグスカス。


 そのまま執務室へと向かう。


「まったくよお、またクズカスのやつ、仕事放置して出ていきやがったぜ」


「おいクズカス、じゃあないだろ。グスカス様だろ」


 執務室の中から、声が聞こえた。少しだけドアを開けて、中を見る。


 そこにいたのは、第一王子直轄の文官たちだった。


 第一王子グスカスが仕事を放棄したから、代わりに文官たちが中で仕事をしているらしい。


「いいんだよ、あんなクズでカスなやつ。クズカスで十分」

「確かにまあ、みんな言ってるよな。クズ王子、カス王子って」


 なんだとっ! とカッとなるグスカス。


「しかしほんとろくでもねえよなクズ王子さんは」

「ほんと。だからキャスコ様にも相手にされないんだよ」


 今すぐにでも部屋の中に入り、文官たちを死罪にしてやろうと思った。


 だがやめた。図星をつかれて、頭が真っ白になったから。


「なんで宮廷魔道士様の名前が出てくるんだ?」

「バカお前、知らないのかよ。あのクズ王子、子供の頃からキャスコ様のことが好きなんだぜ」


「へえ! あのクズでも人並みに恋するんだな!」

「ああ、でもあのクズ、キャスコ様からまったく相手にされてないんだよ」


 そう……。


 キャスコは国王ちちの妹、その娘。つまりキャスコもグスカス同様、王族の血が流れてる。ありていに言えば親戚だ。


 ゆえに昔から付き合いがあった。


 グスカスは、キャスコのことが、子供の時から好きだった。


 だがグスカスは、いつもキャスコをいじめていた。気になる女の子を、いじめたくなる理論である。


 気になるからこそ、グスカスはキャスコのことをいじめていた。だがそれは逆効果だった。


 キャスコの心は、グスカスに全く向いてなかった。それどころか、【やつ】に向いてしまっていたのだ。


「キャスコ様って確かジューダス様のことが好きなんじゃなかったっけ?」


「ああ。キャスコ様が勇者の仲間としての訓練を開始した7歳のときから、優しく指導してくれたのがジューダス様なんだ。そのときからジューダス様が好きなんだってさ」


「いいねえ、甘酸っぱい。そしてクズカスご愁傷様だな!」


「まったく。まあかわいそうなんて一ミリも思ってないけどね」


 中の文官たちが笑っている。グスカスは怒りで震えていた。


「噂だとさ、あのクズ、キャスコ様を寝取られたと勘違いしてるらしいぞ」


 ……そのとおりだ。


 グスカスは、キャスコを懸想していた。だがいくらこちらがアプローチしても、なびこうとしない。


 それはなぜか?


 あのジューダスという男が、自分からキャスコを奪ったからだ!


「ばーーーーーか! 寝取る寝取られた以前に、そもそもおめーのこと、最初からキャスコ様は見向きもしてねーっつーーの!」


 中から嘲笑が聞こえる。

 怒りに打ち震える、グスカス。


「だからあのカス、ジューダス様を追放したんじゃないか?」


「どういうこと?」


「もともとむかついてたんだろうよ。自分が一番偉い勇者なのに、仲間たちはみんなジューダス様を頼りにする。愛しいキャスコ様はジューダス様にゾッコン。むかっ腹がたってたんだろうなぁ」


「なんだ追い出したのって、完全に私怨じゃねーかよ! ちっさ! 器ちっさ!」


 言われ……否定できない部分があることに、グスカスは腹が立った。


「あーあ、あのクズ王子のせいで、ジューダス様いなくなっちゃったよ」


「な。しかもジューダス様がでていったせいで、キース様までいなくなってさ。こっちは大迷惑だぜ」


 はぁ……とため息をつく文官たち。


「正直あのカス王子が居なくても全く問題ないんだけど、キース様がいないのは、手ひどい痛手だよな」


「ほんと、あのクズがいなくなればよかったのに。どうしてキース様がいなくなっちゃうんだよな」


 はぁ~~~~~~と重くため息をつく文官たち。


「ジューダス様、帰ってきてくれないかなぁ」

「そしたらキース様も帰ってくるし、王城の雰囲気も良くなるし、良いことづくめだよ」


「「なぁ」」と同意し合うふたり。


「追放されたのがジューダス様じゃなくてあのクズだったら良かったのにな」


「そうそう。ジューダス様が魔王を倒して、英雄として帰ってきてくれればなぁ」


「というかさぁ~おかしくね? ジューダス様がキャスコ様たちお仲間のみなさんを、放り出して逃げたって言うの」


「あ、俺も思ってた。なんというか、どっちかっていうとオメオメと逃げたのってあのクズっぽい感じしない?」


「わかる~。あいつ態度でけえくせに、肝っ玉小せえとこあるしな~」


 と笑う文官たち。そこで、堪忍袋の緒が切れた。


「てめえええええらぁああああああああああああああああ!!!!」


 ばーん!


「…………」「…………」


 ドアを開けると、文官たちがぴたりと、おしゃべりをやめる。


「て、てめえらクビだクビ! 救世の勇者の悪口を言ったんだ! 情状酌量の余地もなく即刻解雇だ!」


「…………」「…………」


 文官たちは、冷ややかな目をグスカスに向ける。そして何も言わず立ち上がると、部屋から立ち去ろうとする。


「お、おい待てよ!!」


 がしっ、とグスカスが文官の肩をつかむ。


「出てく前にこの仕事片付けてからでていけよ!」

「……なんでですか?」


 冷たい目を、文官が向けてくる。


「わたくしどもは、今しがたクビになったのでしょう?」


「しかし出て行く前に、いまある仕事を全部片付けてから出て行くのが礼儀だろ!」


 こいつらに今、逃げられては困る。ただでさえ、現状仕事に四苦八苦しているのだ。


 キースが居た頃から、王子の仕事を手伝っていた、この文官たちに今、抜けられては困る。今抱えてる仕事を片付けさせ、なおかつ引継書を作ってもらわねば。


 だが文官たちは、グスカスの手を振り払う。


「知りません。だってわたくしどもに出て行けと言ったのはあなたでしょう?」


「おまえらをクビにはした! だが仕事をやってもらわないと困る! 仕事をきれいにしてから出て行け!」


「…………」「…………」


 文官たちは、汚い者をみるような目で、グスカスを見てくる。


 そして、言った。



「そんなんだから、キャスコ様に愛想つかされたんですよ」



 ……。

 …………。

 ………………。気づけば、グスカスは、部屋に一人だけだった。


 あの文官たちは、出て行ったのだろう。


「………………ちくしょう」


 グスカスの脳裏に、キャスコと、そしてジューダスの姿がよぎる。


 キャスコは顔を赤らめながら、ジューダスに魔道書のわからない部分を、聞きに行く。


 ジューダスの教えを、キャスコは嬉しそうに聞いていた。


 その姿を……遠巻きに、グスカスが見ている。


 うらやましい。妬ましい。


 あの男が、うらやましくて、妬ましかった。


 だから、国王に頼んで、城から追い出した。

 

 だから、グスカスはジューダスの姿で、魔王城を逃げた。


 グスカスは、妬ましかったのだ。あのジューダスという男から、地位も名誉も、そして愛する女も、奪ってやりたかったのだ。


 父親は息子グスカスに甘い。自分の頼みを聞いて、ジューダスを城から追い出し、やつの名誉を自分の物にした。


 これですべて手に入ったと思った。

 これですべて上手くいったと思った。


 ……だがそれは幻想だった。


 何も手に入ってなかった。何も上手くいってなかった。


 空っぽの地位と名誉。愛する女の心は、いまだジューダスに向いている。


 あの邪魔者を追い出して、地位も名誉も、愛する女も手に入ったはずなのに。みな、自分の元から離れていく。


 どうしてこうなった?


 なにがいけなかったのだ?


 教えて欲しい。誰か、教えてくれ……。


 しかし……誰も、誰も……誰か……。


「誰か……誰か答えてくれよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 グスカスの悲痛なる声は、王城にむなしく、響き渡るのだった。

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