139.勇者グスカス
夢の中のジューダスが、自分のことを偉いと言ってくれた。
弱さを認めたことを、褒めてくれた。
「…………やめて、くれよ」
うれしい。その気持ちは確かにある。
だが今のグスカスは、その優しさにこたえることができなかった。
「おれなんかを……そんな風に助けようとしないでくれよ」
グスカスはもう前のグスカスとは違う。
自分が凄いやつなんて一ミリも思っていない。
たくさんの失敗をして、たくさん周りに迷惑をかけて……やっと、やっと自分の客観的な立ち位置に気づいたのだ。
「おれは……選ばれた人間なんかじゃなかった。おれは……最低のクズなんだ。おれは、仲間を置き去りにする、悪いやつなんだ」
もしもこの世界が一つの物語だったとしたら、主役はこのジューダスだろう。
弱気人のために、死力を尽くす。
優しくて、強くて、かっこいい、そんな英雄。それが、ジューダス。
一方でグスカスは、そんな英雄の足を引っ張る単なる邪魔者でしかないのだ。
「おれは救われる価値のない人間だよ」
「そんなことねえよ」
ジューダスは近づいてくると、教え子をぎゅっと抱きしめた。
優しいハグだった。泣きたくなるくらい、彼は温かった。
「価値のない人間なんて、この世にはいないさ」
「でも……おれは何の役にも立てない、邪魔者で……」
「そんなことないさ。だっておまえ、人を救ったじゃあないか」
ティミスのことを言ってるのだろう。
「グスカス、おまえは確かに色々未熟だ。でも……そんなおまえでも、変われたじゃないか。人を助けるまでに、成長できたじゃあないか。すごいことだよ」
「……すごくねえよ」
「いいや、すごいことさ。弱さを認め、自分と向き合い、自分にできることを一生懸命やる。なかなかできないことだぜ?」
……ジューダスの言葉がすっと、耳に入ってくる。
彼は、本気でグスカスがすごいと思っているようだ。
本気で、こんな価値のない人間に、価値があるって、言ってるようだ……。
「グスカス。人は間違うよ。だれだって、毎回、いつも選択に対する最善手を打てる訳じゃあない。誰だって過ちを犯すことだってあるさ。誰だって失敗する。……重要なのはな、グスカス」
彼は微笑むと、グスカスに言う。
「失敗は恥ずかしいことじゃあない。そこから、立ち直れないことが、恥ずかしいんだ」
「!」
「おまえはたくさん失敗したよ。でもちゃんと、立ち直ろうと努力した。その結果人を救った。大成長さ」
「じゅー……だす……」
グスカスは自分を否定していた。
でもジューダスは、彼だけは、自分を肯定してくれた。
失敗も、弱さも、立ち直ろうとする努力も……全部。
それが……グスカスにとってはうれしかった。
認めてくれたのが、自分の師匠であることも……また。
自分をきちんと見てくれてた人から、言われた言葉だからこそ……。
その言葉に……グスカスは救われたのである。
「おれは……」
「これから、どうする?」
ジューダス問うてくる。
このままうずくまったままなのかと。
グスカスは……。
ジューダスの元から離れる。
そして、力強く、こういった。
「おれは……ボスを倒す!」
もう彼は弱者ではなかった。
英雄譚における、邪魔者でもなかった。
彼は、グスカス。
「ボスを倒して、そんで、ダンジョンに巻き込まれた全員を助ける……!」
そのときだ。
カッ……! とグスカスの体が黄金色の輝きだした。
再び、彼の体に、力が宿る。
かつてあった、そして失った……。
「勇者の力、戻ったようだな」
ジューダスには見抜く目がある。
その彼が言ったのだ。勇者の力が戻ったと。
うれしかった。これで……。
「これで、ボスを倒せる!」
「ああ、いこうぜグスカス!」
「おう!」
彼はグスカス。
しかし今は、ただのグスカスではない。
勇者……グスカスなのだ。




