13.英雄、新人冒険者たちを強化する
ギルドマスター直々に、冒険者としてスカウトされた翌日。
昼下がりの暇な時間帯にて。
からんからん♪
「「ししょー! お願いがあってやってきましたー!」」
やってきたのは、双子少女の冒険者、キキとララだった。
小柄で明るい髪色はそっくり。キキはつり目で、ララはやや垂れ目だ。
「どうしたー、ふたりとも? また戦闘訓練か?」
にしては時間が早い。この子たちの訓練は、店じまいをしてからだからな。
「「にてるけど違う! 今日は別件だよっ! 入ってきてー!」」
入る?
誰か来るのか?
からんからん♪
ドアが開くと、やってきたのは、少女三人組だった。
「おじゃまします、ですわー♡」
「うー……」
「あ、ども」
僧侶、弓兵、剣士の三人組だった。
全員女の子だった。
「この素敵なおじさまが、キキララちゃんたちの言っていた【おししょーさま】ですの?」
と僧侶。
「「そーだよっ! おししょー! すっごいひと!」」
「まぁ♡ うらやましいですわぁ、キキララちゃん、こんなダンディでかっこよい大人の男性に訓練つけてもらって居るだなんて♡」
僧侶が俺を見てニコッと笑って言う。
「「えへへ~。いやぁ、それほどでもー」」
となぜかうれしそうな双子たち。
「ねぇねぇリーダー。浮かれるのはいいけど、こーゆーときはまずは挨拶っしょ?」
「うー」
剣士と、そして弓兵がうなずく。
「そうでしたわ。おじさま、すみません。わたくし、このパーティのリーダーを務めてます、ポムポと申します」
僧侶ポムポが、ペコッと頭を下げた。
「はいよ、俺はジュード。よろしくね。ポムポちゃんはキキララと同じパーティなの?」
俺が尋ねると、リーダー・ポムポが首を振るう。
「いいえ、わたくしども三人は、キキララちゃんたちとは別のパーティですわ。ただ同じ時期に冒険者登録したので、いわゆる同期ということになりますわ」
なるほど、キキララは双子だけでパーティ組んでるんだな。
「それで? キキララ。用事ってなんなの?」
俺は双子に尋ねる。
「「ポムポちゃんたちが、ぜひとも師匠にあいたいっていうから、連れてきたの」」
「俺に?」
ポムポがうなずく。
「キキララちゃんたちから聞きましたの。おじさまから指導を受ければ、とっても強くなれると」
なるほど……って、
「キキララよ、しゃべっちゃったのか? 【指導者】のこと」
「「しゃべっちゃった! ごめん!」」
まったく。まあ言ってしまった物はしょうがない。それにこの子らは、裏切り者・ジューダスについて知らないみたいだしな。
知ってたならもうちょっと騒ぎになっているだろうし、それに【裏切り者に指導なんて受けたくない!】みたいなこと言われそうだしな。
「それでポムポちゃんはどこまで知ってるの?」
「ほぼ何も。ただキキララちゃんたちが、最近いきなり強くなってびっくりしたんです。それでどうしたのかと聞いて……」
キキララとポムポは、同時期に冒険者になった。強さは互角だったそうだ。
ただ最近キキララたちが、前触れなくチカラをつけたことを、ポムポたちは不思議に思った。
理由を聞いたところを、強化してくれるおじさん(俺のこと)がいると知り、ここへ来た次第だそうだ。
「ふぅむ……ほぼ何も知らないのか」
「はい。初対面でもうしわけございませんが、どうかわたくしたちのことも、強くしていただけないでしょうか?」
「おじさん、おねがいー」「うー!」
やや脱力系の剣士と、『うー』しか言ってない弓兵が頭を下げる。
「ん。いーよ」
特に断る理由はない。弟子のキキララの友達とあれば、なおのことな。
「「ありがとうございます!」」「うー!」
「「ししょーやっさしー! さすがししょー!」」
かくして俺は、新人冒険者たちを、強くしてあげることにしたのだった。
☆
店はほぼ客がいない状態だった。ポムポたちを席に案内し、コーヒーを出す。
「わたくしたち何も頼んでないのですが?」
「気にすんな、初めての客にはサービスするようにしてるんだ」
俺は人数分のホットコーヒーを出す。
「「ししょー! わたしたちはいつものー!」」
「はいはい。ロイヤルミルクティね」
双子のキキララには、ミルクティを出す。
「親切なおじさまで良かったわね♡ キティ、マイメェロ」
「そだねー」「うー!」
ポムポに言われ、剣士と弓兵がうなずく。
「よせやい照れるぜい。……さて、じゃあまずは軽く説明しておくか」
俺は自分の能力について、かいつまんで説明する。
「俺は【指導者】っていう職業を女神アルト様からもらった。こいつは仲間の強さを3倍にするかわりに、仲間の能力をコピーさせてもらうって能力がある」
「強さを、というのは、腕力や知性などのことですか?」
「そうそう。個人の身体能力のことだね。さてじゃあ具体的にどうやって仲間を強くするかなんだけど……。三人とも、【仲間登録】ってわかる?」
冒険者なら知ってるだろうか?
「ええ。仲間として登録することで、お互いのステータスを見ることができるようになる」
とポムポ。新人でもさすがにそれは知っているか。
「そんでインベントリを仲間ないで共有できるんだよねー」
剣士の言葉に、俺はうなずく。
インベントリとはようするにアイテムボックスのような物だ。
ステェタスの窓には、自分たちの身体能力を数値化した表や、インベントリなどのアイテム収納機能も付いている。
「俺の能力は、【仲間登録】することによって発動するんだ」
「それだけですの?」とポムポ。
「それだけ。んじゃさっそく登録するか。ポムポちゃん、ステェタスの窓出して」
こくっとポムポがうなずくと、自分の【ステェタスの窓】を表示する。
「【仲間登録】の仕方は知ってる?」
「確かお互いの【窓】を見せ合い、そして手で触れるんですの?」
「そうそう」
【窓】は通常、相手には見えない(自分側にしか情報が書かれてない)。
だが【窓】をくるっ、と手でさっと振ってひっくり返すと、相手にステータスが見える状態になる。
その状態で、互いの【窓】に触れるだけで、【仲間登録】完了。
俺はポムポと、上記の手順を踏む。
『ポムポ・プディングと【仮契約】を結びました。パーティである間のみ、能力を発動させます』
と俺の脳内に声が響く。
“仮”の契約が結ばれたようだ。
「はいポムポちゃん。これで終わりだよ」
「これだけ? これだけで、強さが三倍になってますの……?」
不安げに、ポムポが首をかしげる。
「ああ。【ステェタスの窓】を見てごらん」
「ええ…………え、えぇえええええええええええええ!?!?!?!?」
ポムポが瞠目し、絶叫。
「なになにリーダーどったの?」
「うー?」
仲間の二人が、ポムポに近づく。
「み、皆さんわたくしのステェタスが!」
「おー、まじで三倍になってるんじゃん」
「うー!」
剣士が平坦に、弓兵がポムポ同様に目をむいて驚いている。
「すごい……本当だったのですね!」
僧侶がキラキラとした目を、俺に向けてくる。
「「あったりまえじゃん! あたしたちのししょーをなめんなよ!」」
と双子が嬉しそうに言う。照れるなぁ。
「じゃあおじさん、私もさくっと登録させてよー」
「うっ、うー!」
はいはい、と剣士と弓兵が手を上げる。俺はうなずいて、ポムポにしたのと同じ手順を踏む。
ややあって。
「おー、まじすげー。私の腕力三倍になってる」
「うー!」
「マイメェロの数値も上がってるし、ほんとにおじさんすげーね」
「うっうー!」
ふたりが俺に、またもキラキラした目を向ける。まぶしい。
三人が自分の強さの向上に喜んでいる。
ポムポが俺の前に来ると、
「おじさま、どうもありがとうございますわ。これでわたしたちも強くなれましたわ」
といってきた。
「あー……いや、今の状態だと不十分なんだよ」
首をかしげるポムポ。
「えーーっと……な。今の段階じゃな、まだ仮契約状態なんだよ。本契約しないと、この状態は永続しない」
と俺が言う。
「おじさま、どういうことですの? 仮契約って?」
と聞いてくる。
「つまり……」
「「ししょーと本契約を結ばないと、パーティ状態が解かれると、能力が戻っちゃうんだ!」」
とキキララ。
「そうですの?」
「あー……うん。そうなんだ。今の段階だと、パーティを結んでいる間だけしか三倍状態になれないの。パーティ解除しちゃうと元に戻るんだ」
ちなみにパーティ状態だと、相手の個人情報(あくまでステータスや状態のみ。本名とか年齢は秘匿される)が24時間だだもれ状態になる。
それは倫理上問題が出る(相手がもよおしたこととか、腹が減っていることもわかってしまうから)。
だから、パーティを組むときは、必要時のみ。冒険者ならダンジョンの中だけは登録して、町へ帰ってきたらパーティ登録を解除するのがセオリーだ。
それは勇者パーティでも同様。戦闘時のみ登録して、プライベート時には登録を解除するのだ。
「それは……困りますわ」
「だよねー。またそのたびここへきて、おじさんと契約結んでだとめんどっちーし」
「うー」
うんうん、とうなずくポムポたち。
「けどおじさま。本契約? とやらを結べば、三倍状態が永続するのでしょう」
「あー……うん。そう……なんだけどさ……」
俺は口ごもる。さてここからなんと説明するべきか。
「「ししょー、照れてる? はずいの?」」
「いや、こーゆーのって言うとセクハラになるような気がしてさー」
どうしたもんかね。
「どうすれば本契約できるのか、おっしゃってくださいな」とポムポが言う。
「ええっとー……」
と口ごもっていた矢先、
「「ししょーとチューすればいいんだよ!」」
キキララが笑顔で、先に答えてしまう。
「ちゅー?」とポムポ。
「リーダー。キスのことじゃない?」と剣士。
「う、うぅー!?」
弓兵が瞠目する。まあ、そういう反応になるよな。
「ど、どういうことですの?」
顔を真っ赤にしたポムポが聞いてくる。
「「ししょーとキスすれば、契約完了! これでいつでも能力三倍!」」
「ええっと……いちおう補足しておくとな。本契約する方法は二つあるんだ」
1 仮契約状態を、合計で100時間以上
2 契約者同士で接吻を交わす
上記どちらかの条件を満たせば、契約が完了する。
ちなみに勇者グスカスとは条件1で本契約を結んだ。
さらにちなみに、キースとはなぜか条件2で契約を結んだ。向こうがそう望んだのだ。男同士でキスなんて、嫌がるかと思ったが、キースだけは喜んでいた。かわってるなあいつ。
さておき。
「…………」
ポムポたちが、黙りこくってしまう。
「ほらーキキララ。ドン引きしてるんじゃんかー」
「「でもほんとーのことじゃんかー」」
まぁなぁ。
さて本契約の方法を聞いた、ポムポはというと。
「お、おじさま……その、キキララちゃんたちは、どちらの条件を?」
「えっとなぁ」
「「もちろんキッスしたよ!」」
「こらこらこら」
向こうがそっちのほうが手っ取り早いから! と喜んで向こうから、キスしてきたのである。
「……そう、ですわね」
「パーティ登録状態で100時間以上って結構かかるもんねー」
と同意を示すポムポたち。
ややあって、
「お、おじさまっ」
「うん。なに?」
ポムポが顔を真っ赤にしながら、
「わ、わたくしと、き、キスをしていただけないでしょうかっ?」
と、言う。
「え、いやぁ……ポムポちゃん。それはやめといた方が良くないかなぁ? だってキスだよ? あいて知らないおっさんだよ?」
俺が諭すように言うと、ポムポは首を振るう。
「かまいませんっ」
「知らないおっさんとキスって気持ち悪くない?」と俺がいうと、
「そんなことありませんわっ。その……おじさまはその、かっこいいかたですし、嫌じゃありません……」
ぽっ……とポムポがほおを染めて言う。
「私もー。嫌じゃないよ。それだけでお手軽に強くなれるんでしょー。ならするー」
と剣士が軽いのりで言う。
「う、う~……」
弓兵もポムポ同様、恥ずかしがっていたが、やがてうなずいた。
「おいおいいいの?」
「は、はいっ。おじさま……どうか、キスを……お願いします……」
俺はポムポを改めて見やる。
茶髪に三つ編み。白いフード越しに見える起伏に富んだ体つき。
新人と言うことで、年齢は15だろう。こんな若くてきれいな少女が、キスしてくれとは。
いやはや。
「ええっと……いいのかい、本当に?」
「はい……お願いします……」
すっ……とポムポが目をつむって、みずみずしい唇を向けてくる。
俺はなるべく恥ずかしい思いをさせないよう、長引かせないようにしないとと思った。
俺は彼女のそばにより、ちゅ……とキスをする。
『ポムポ・プディングと【本契約】を結びました。これより彼女の能力を、常時三倍状態に。また僧侶の技量を6割コピーしました』
そう言って、【小回復】をはじめとした、僧侶の技量を俺はコピーする。
「…………」
ポムポは顔を真っ赤にした状態で、ぷるぷると震えている。
「ポムポちゃん、もう終わってるよ」
「は、はひ……そう、なんれしゅね……」
しゅぅう……と湯気が出そうなほど、顔を真っ赤にして、ポムポが言う。
「ごめんね。キモかったでしょ?」
俺が言うと、ポムポは「そんなことありませんわ!」と強く否定する。
「むしろ気持ちが良かったというか……」
「え、なに?」
「なんでもありませんわ!」
ぶんぶん! と強く首を振るポムポ。
「おじさん、私もキスしてー」
「う……うー……」
「マイメェロもキスしてくださいお願いします、だってさー」
俺は剣士にうながされて、彼女たちにキスをする。
「ファーストキスだったけど、気持ちよかった。おじさん上手だね」
と剣士キティがにやっと笑って言う。
「キキララと練習したから?」
「いやぁ……どうだろ?」
「「どやっ!」」
なぜか得意げなキキララ。
「お、おじさま……」
顔を真っ赤にしながら、僧侶の少女がもじもじして言う。
「その……お恵みを、ありがとうございました……」
「いやぁ、俺のほうこそごめんね。そうだ、お礼にキキララと一緒に、訓練見てあげるよ」
俺の能力は、正確には基礎能力を三倍にする能力だ。
つまり基礎能力を個人練習なり戦闘なりで伸ばせば伸ばすほど、能力値が上昇していく。
訓練を積めば、さらに彼女たちは強くなれるのだ。
「ほ、ほんとうにいいですかっ?」
晴れやかな表情で、ポムポが俺の手をつかんで言う。
「そ、それでは毎晩! 毎晩おじさまのもとへ行かせていただきますわねっ!」
「おう、どんとこい。五人まとめて面倒見てあげるよ」
俺が言うと、
「「「わーい!!!」」」
と彼女たちが嬉しそうに笑う。
「リーダー。良かったねー」
「な、なにがですのっ?」
「だって惚れちゃったんでしょー?」
「ち、ちがいますわー!」
ポムポと剣士キティが、何か言っていたけど、なんだろうか?
まあ何はともあれ。
こうして、俺はキキララの知り合いの、新人たちを強化したのだった。
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