119.勇者グスカス
グスカスはティミス、怪我人を連れてダンジョンの奥へと進んでいく。
ティミスが加わったことでできることが増えた。
グスカスはより慎重に、慎重にとダンジョンの奥へ進んでいく。
そして……。
「つ、着い、たあ……」
なんとボス部屋の前まで到着してしまったのである。
グスカスは自分でやったこととは言え、信じられないといった表情を浮かべていた。
「す、すごいわねグスカス! ボスの部屋まで一度も敵とエンカウントしなかったわ!」
どうしてこんなことができたのか……?
言うまでもない。
「いや、おれは凄くねえよ。ジューダス……かつての仲間が、おれに教えてくれた知識と技術が、凄かったんだ」
ジュードの教えが、グスカスたちをここまで導いたと言えた。
自分ひとりでは、そして【勇者】では、ここに無傷でたどり着くことはできなかったろう。
職業を失い、最底辺まで墜ちたからこそ、彼は自らと向き合い……そして無傷でたどり着くという小さな勝利を手に入れたのだ。
「あとは、他の連中がここにくるまで待機だ」
「そうね……って、あれ? あいつは?」
そのとき、怪我人がいないことに、ティミスが気づく。
グスカスも周りを見渡し……。
「なっ!? おま……何やってんだ!?」
ここまで運んできた怪我人が、ふらふらと、ボス部屋へと入っていくではないか。
自殺行為だ! とグスカスが慌てる。
「ティミス! てめえはそこ動くな! いいな!」
グスカスは慌てて怪我人の後を追う。
扉が開いて、怪我人が完全に中に入ってしまう。
グスカスは、扉の前から腕を伸ばす。
ボス部屋の厄介なところは、入ってしまったら、出られない仕組みとなってるところ。
しかしまだ、扉が閉まってない状態なら外へ脱出可能だ。
グスカスは必死になって腕を伸ばす……。
すると怪我人がグスカスの腕をつかんできた。
「んなっ!?」
ぐいっ、とグスカスは引っ張られて……。
ボス部屋の中に入ってしまう。
「し、しま……」
ずずぅうん……。
扉が完全閉まってしまう。
「嘘だろ……高ランクダンジョンの、ボスに……挑まねえといけないのか……? 職業も、ないのに……?」




