116.勇者グスカス
魔力撃。圧縮した魔力の塊を体外に放出し、遠距離の敵に当てる技術。
これはスキルや魔法でもないため、職業がなくても使用が可能なのだ。
これを習った当時、グスカスは必要性を見いだせなかった。
自分が死ぬまで勇者であると、信じて疑わなかった彼にとって、魔力撃などスキルや魔法があれば必要ないと思っていたからだ。
……だが、今まさにその状況におかれて、ようやく彼はジュードの意図に気づけた。
こういう何らかのことがあって、職業の力が封印された(使用不可)だったときに、使うため修得させていたのだと。
「ぐぎぎゃ!」
魔力撃の直撃を受けた子鬼王は、ティミスに覆い被さるようにして倒れる。
亜人型モンスターは人間とほぼ同じ体の構造をしてる、らしい。
ならば神経が集中する、後頭部に一撃を入れれば、意識を刈り取ることが可能。それが完全な不意打ちにならなおのこと、効果は絶大である。
「ティミス……!」
グスカスは急いで子鬼王へと近づく。
その下敷きになってるティミスに声をかける。
「そ、その声……あんた……グスカス……」
「待ってろ! すぐにこのデカブツをどけるからな!」
ティミスは、なんでグスカスが助けに来たのかわかってないのか、困惑の表情を見せている。
それに応える時間はない。
グスカスは次に、魔力で身体強化を行う。
魔力には物質の性能を高める効果があるらしい。これもジュードに教えてもらったことだ。
魔力による体の性能を向上させる技術……身体強化。
子鬼王は2メートル近い巨体を持っていた。
だが強化されたグスカスは、それを容易くどけることができた。
「おら、行くぞ!」
「え、え……? で、でも……」
「うるせえ黙ってろ!」
グスカスはティミスをお姫様抱っこすると、すぐさま戦線離脱する。
だが……
「ゴギャガァアアアアアアアアアアアアアア!」
「ちぃ! もう起きやがった……!」
子鬼王は、自分の餌を奪われ憤慨していた。
そして、女を横取りしたグスカスに、強い恨みを抱く。
グスカスは作戦を次の段階に移行するべく、その場から離脱したのだった。




