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12.英雄、ギルドマスターから直々にスカウトされる




 定休日の夜のことだ。


 俺は【とある理由】があって、外出していた。



 からんからん♪



「さみぃ……」


 外は昼間と違って吹雪いていた。頭や肩に雪が乗っている。


「コーヒーでもいれて飲むか……」


 とそのときだった。


「ジュードさんっ」


 喫茶店のなかの、カウンターに、バイト少女のハルコが座っていた。


「ハルちゃん。どうしたの、こんな夜更けに?」


 ハルコは化粧を落とし、パジャマ姿だった。ピンク色のかわいらしいパジャマの上に、中綿の半纏を着ている。


「どうしたのはこっちのセリフですよ。夜中に急に居なくなるから、心配しました」


 ハルコが眉を八の字にして、心配をあわらにする。


「心配かけてごめんね。ちょっと用事あって外出てたんだ」


「用事……ですか」


「うんそう。まあたいしたことなかったけどね」


「そう……ですか。無事なようで何よりです」


 ほっ、と吐息を付くハルコ。


「温かい飲み物でも飲みますか?」

「そうだね、お願い」

「はいっ!」


 ハルコがコーヒーを入れる。お湯を沸かして、あちこち動き回り、カップにコーヒーを入れる。


「どうぞっ」

「ありがとーハルちゃん」


 俺はハルコからカップを受け取る。無意識に【見抜く目】を発動。コーヒーのできを見抜いてから飲む。


「うん、とっても上手になってきてるね」

「本当ですかっ?」


「ああ。これは俺を抜くんじゃあないか」

「そ、そんなことないですよ~。えへへ~♪ ジュードさんに褒められただに~♪ おらうれしー♪」

 

 ハルコはほおを手に添えて、いやんいやんと身をよじる。


 とバイト少女が出してくれたコーヒーを、俺が飲んでいたそのときだった。


 

 だんだんだん!

 だんだんだん!



 店のドアが、乱暴にノックされたのだ。


「な、なんでしょうか?」

「わかんない。なんだろ、こんな夜更けに?」


 ハルコが不安そうな表情になる。俺は彼女の頭に手を置く。


「大丈夫。俺が見てくるよ」

「は、はひ…………」


 ぼしゅっ……と顔を真っ赤にして、ハルコがつぶやく。どうしたんだろう、風邪かな?


 まあそれはさておき。



 どんどんどん!

 どんどんどん!



「はいはい今開けますよーっと」


 

 からんからん♪



「あぁああのあの夜分にすみません!」


 入ってきたのは、小柄な少女だった。


「あっ」


 がっ。


 びたーんっ!


 その子は足をもつれさせ、何もないところで躓いていた。


「いったぁー……い」


 半泣きで少女が言う。


「だいじょぶ?」

「うう……ずびばぜん……」


 よろよろと立ち上がる少女を、俺は改めて見やる。知り合いだった。 


 紫色のふわふわとした長い髪を、三つ編みにしている。


 目には赤渕のめがねをかけており、スカートにシャツ、カーディガンという、このくっそさむい中、外を出歩く格好じゃなかった。


 髪の毛はぼさぼさで、ノーメイク。おそらく寝起きで、急いでやってきたのだろう。

 その少女に……俺は見覚えがあった。


「なんだ、ジュリアちゃんじゃないか。どうしたの?」


 やってきたのは、この【ノォーエツ】の街の冒険者ギルドで、ギルドマスターの座についている女の子だった。


 この子、見た目は小さな少女だが、実は百歳単位で生きてるのである。


妖小人ハーフリング】と呼ばれる、亜人の一人だ。昔はホビットとか呼ばれていた。


「す、すみませんジュードさん! あの実はシャーリィさんにお願いがあってやってきたんです!」


「シャーリィは留守だよ。いま【ガオカナ】に出張してる」


 シャーリィはウチに居候することになった。しかし彼女は数少ないS級冒険者。


 全国あちこちに、引っ張りだこなのだ。あまりウチにいる時間は少ない。


 今シャーリィは【ガオカナ】という、【ノォーエツ】から東へ行ったところにある場所に出ている。


「そんなぁ……」


 絶望しきった表情のジュリア。


「S級のシャーリィさんがいないんじゃあ……ふぇええ……困ったぁ……」

「どうした? 相談か? なら聞くぞ」


 はっ……! とギルドマスターが俺に気づく。


「もしかしたらジュードさんなら……でもジュードさん冒険者じゃないし、部外者に危険な仕事を頼むのは気が引けるし……」


 はぁ、と重くため息をつくジュリア。


「いいから話してみ? なにか解決策を思いつくかもよ」


「は、はい……。実はつい先ほど、【大穴ワンダー・ホール】から新しいモンスターが異世界からやってきまして」


大穴ワンダーホール】とは、異世界につながっているゲートのようなものだ。


 そこから頻繁に、異世界の強いモンスターがやってくるのである。


「どんなモンスターだ?」

「【観測所】によりますと、SS級の【氷翼竜アイス・ワイバーン】っていうんですけどぉ……」


 あ、それ。


 ああ、それか。


「ああ、それね。俺、倒してきたよ。ついさっき」

「はぁ~……無理だよなぁ、だって相手はSS級だもん……って、倒したんですかーーーーー!?」


 ジュリアが目をひんむいて驚く。


「うん、倒してきた」

「いつ!?」

「ついさっき」

「早すぎますよぉおおお!」


 ジュリアが絶叫。ハルコは「それで外行ってらっしゃったんですね?」と聞いてきたので、俺はうなずいたのだった。



    ☆



 5分後。

 ストレイキャッツ店内にて。


 ハルコは先に眠っていてもらっている。店内は俺と今やってきた少女だけがいる状態だ。


 窓際の席に、ギルドマスター・ジュリアが座っている。


 子供のように小さな彼女が、カップを両手で包み、ふうふう言いながらコーヒーを飲む。


 店内は魔法マジックストーブ(魔力結晶を燃やして暖を取るストーブ)がたかれている。暖かい。


「わぁ……! 目が! 目が真っ白に! 病気かなっ!」


「落ち着けって。めがねが曇ってるだけだろ」


「そ、そうですね……す、すみませんお騒がせしてすみません……」


 ぺこぺこと頭を下げるジュリア。とてもじゃないが、ギルドマスターの威厳は感じられなかった。


「それで話を改めて伺いますが、ジュードさん、SS級モンスター倒してきたんですか?」


 ジュリアが俺をまっすぐに見て、不安げに聞いてくる。


「うん」

「うんってあなた……相手はSS級ですよ?」

「うん。だから?」

「だからって……」


 驚愕に目を見張るギルドマスター。


「相手は……SS級。つまり勇者パーティでしか勝てないような相手です」


「まぁだろうなぁ」

「だろうなぁって……そもそも氷翼竜を倒したというのは、その、し、失礼ですが本当なのでしょうか?」


「本当かって言われても、俺冒険者じゃないし、ギルドカードに【結果】が刻まれないしなぁ」


 冒険者になると、ギルドカードというものが発行される。


 これには本人の強さだけでなく、討伐したモンスターの数や種類さえも、カードに記録されるようになっているのだ。


「そ、それじゃあその……すみませんが、こちらに触れてもらえますか?」


 そう言って、ジュリアは名刺のような物を、俺に渡す。


「これは?」

「仮のギルドカードです。本契約してない仮のカードですが、触れれば討伐したモンスターの詳細が出ます」


「ふぅむ、そんなものが」


「あ、あの、もちろんカードで見た情報は悪用はしませんし、口外も絶対しませんので安心なさってください。あくまで今の話が本当なら、ギルドから謝礼金を払う必要があるので、事実確認のために必要なんです」


 俺はうなずいて、仮のギルドカードに触れる。


「はいカード」


「では失礼まぁ……すぅううううううううううううううううううううううううううううう!?!?!?!?!?!?!?!?」


 パリーンッ!!!!


 と、ジュリアのめがねが、どういう原理か不明だが割れた。


「はぁああああああああ!?!?!? え、SS級が千単位で!? S級が万単位で討伐した!? しかも……SSS級の討伐経験すらあるですってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」


 われためがねの状態のママ、ジュリアが取り乱す。


「あなた何者なんですかぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?!?!?」


 ジュリアが半狂乱で叫び、俺の胸ぐらをつかんでゆする。


「た、ただのおっさんだよ」

「そんなわけないでしょ!?」


「何かおかしいのか?」

「何もかもがおかしいんですよ! なんですこの規格外の討伐数は!?」


 がくがくがく!


「ゆ、揺らさないでとりあえず離して……」

「す、すみませんつい……」


 ジュリアが手を離し、ぺこぺこぺこと謝る。


「まあこのおっさんにもいろいろあったんですよ。そこはあんまり触れないで欲しいかな」

「わ、わかりました……」


 そう言って、ジュリアは仮のギルドカードを破いて捨てる。


「カードの討伐の詳細は見なくて良いの?」

「見る必要はなくなりました。あれだけの強さをお持ちなのです、氷翼竜を倒したのは本当でしょう」


 詳細を見られたらまずかったので、都合良かった。カードはまず【どのランクのモンスターを何体倒したか】が先に表示されており、ランクを押すことで、どんな種類を倒したか詳細が見れる。


 俺の倒したSSS級の詳細を見られるとマズい。なにせ【魔王】がそこに含まれてるからな。


 魔王を討伐した勇者パーティのジューダス、とばれる可能性があったから。


「しかし世の中には、あなたのような、とてつもない強さを持った人が居るんですねぇ……」


「そりゃあいるだろ。勇者パーティとかさ」


「あれはもう生きる伝説。規格外。同じ人間とは思えない化け物ですよぉ」


 そうかな? と俺は内心で首をひねる。あいつらは確かに強いけど、そんな化け物ってほど強いかぁ?


 まあ主観が入ってるからなんともいえないがな。


「と、というか……SS級を単独撃破したあなたも、十二分に化け物ですけど……す、すみません失礼な言い方して」


「気にすんな。気にしてないからさ」


 ジュリアはイスに座り直すと、


「…………」

「どうした?」


「あの……じゅ、ジュードさん。ぶしつけな申し出と承知で、あなたにお願いしたいことがあります」


「お願い? なんだい? いってごらん」


 ギルドマスターは居住まいを正すと、


「と、当【ノォーエツ】冒険者ギルドに、冒険者として登録お願いできないでしょうかっ!?」


「うん。いーよ」


「もちろんお仕事なされているということは重々承知してます。なんで冒険者なんて危険な仕事をと嫌がる気持ちも理解できます。ですが片手間で結構、むしろ名前だけ貸していただけると助かるんです。もちろんあなたに…………って、いいんかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!」


 ギルドマスターが力一杯叫ぶ。


「ジュリアちゃん、落ち着いて。今、夜だから」

「す、ずびばぜん……」


 しゅん……と肩をすぼめるジュリア。


「あの……ええとぉ……いいんですか?」


「うん、いいよ別に。うちそんなに忙しくないし、手伝ってあげる」


「ほ、本当に? え、え、なんでこんなあっさり……?」


 目を白黒させるジュリア。


「まあ別に断る理由ないしなぁ。あ、基本的に喫茶店の仕事を優先して良いか? 俺じゃないと対処不可能な仕事だけ回す。そんな感じで良い?」


「そ、それで結構です! むしろ助かります! ありがとうございます! あぁあああああありがとうございまぁああああああああああああああす!!!」


 ジュリアは絶叫。立ち上がると、何度もペコペコと頭を下げた。


「やったぁ! これでやっと、うちのギルドにも専属のS級冒険者ができましたぁ……」


 ジュリア曰く。


 冒険者の数は多い。だがA級以上の【精鋭】と呼ばれる冒険者は、数すくない。


 特にS級なんて、片手で数えられるほど。

 ゆえにA級以上の冒険者は、ギルドと専属契約を結ぶらしい。


 そして各地に派遣されるのだそうだ。


 専属の冒険者がいないところは、よそのギルドから精鋭を借りることになる。それはお金がかかるし、引き受けてくれるかどうかもあやふや。


 ここノォーエツ冒険者ギルドにも、S級以上の専属冒険者はいなかったそうだ(シャーリィはすでに別のところと専属契約を結んでいる)。


 だからこそ、ジュリアは涙を流して喜んだ……という次第らしい。よそからレンタルすると、法外な金をギルドから要求されるんだそうだ。


 なるほどなぁ。


「ありがとう……ジュードさん、ほんとにありがとぉ……」

「いやいやどういたしまして」


 こうして俺は、冒険者ギルドに、S級(本当はSSS級あるけど、秘密にしてもらった。面倒だから)冒険者として登録されたのだった。


 ……ちなみに余談だが。


 その翌日。



 からんからん♪


 

「ぜひわがギルドと契約を結びませんか!?」「いいやうちと契約しましょう! 望む待遇をお約束します!」


 大量の冒険者ギルドのギルドマスターたちが(それぞれの街にギルドはある)、大挙して喫茶店に押し寄せてきたのだ。


「いいやウチと!」「いやいやウチと!」「わたしのところに来てください!」


「「「「「「お願いします!!」」」」」


 大勢のギルドマスターたちに、頭を下げられる俺。


 だが俺はもうすでに、ノォーエツと専属契約を結んでいるというと、


「遅かったか……」「くっそ、うらやましいなノォーエツのとこ」「氷翼竜を瞬殺とか……はぁ……いいなぁ、こんな実力者、そうそういないのに……」


 とぼとぼと、彼らは俺の元から、帰って行ったのだった。


 あ、ちなみにその【氷翼竜】は俺が10秒くらいで倒した。


 最近の雑魚ミノタウロス・ロードなどよりかは、少し骨があったけど、まあ雑魚だったなと俺は思ったのだった。

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