102.勇者グスカス
あくる日、グスカスたち奴隷は、今日も今日とて魔銀鉱山にて働いていた。
グスカスは文句を言わず淡々と作業をこなしている。
前はぶつくさ文句をたれていたのだが、そんなことしても無意味だと悟っていた。
粛々と自分の作業をこなしていると……。
「ん? 何だぁ……?」
昨日まではなかった横穴があった。
グスカスは不審に思い、少し中を覗く。
「! こいつは……」
入ってすぐに気づいた。
この据えた血のにおい……。
「ダンジョン……!」
グスカスはジュードの言葉を思い出していた。
ダンジョンは突発的に出現することがあると。
「この鉱山が、ダンジョン化したってことかよ……」
ダンジョン。モンスターがはびこる危険地帯だ。
宝の山であると同時に、そこは魔物の口の中である。
素人が入れば……死ぬのは必定。
「くそったれ!」
……以前のグスカスならば、無謀にもダンジョンに挑んでいただろう。
だが今はちがった。
彼はきびすを返して、すぐさま奴隷長の元へ向かう。
全員を鉱山から撤退させなければいけない。
彼は走りながら疑問に思っていた。
自分は、なんでこんなことしてるんだって。
もう勇者でもないのに、どうして彼の足は動いてるのだろう。
人を助けるようなことをしてるのだろう。
……わからない。
だが、それでも彼は走っていた。
「あらカス、どうしたの?」
「ティミス……!」
途中でティミスと鉢合わせた。
彼女は他の仲良い奴隷達とおしゃべりしていた。普通にサボりだった。
まあ、今は関係ない。
「奥に変な穴があった。それを奴隷長に報告しに行く!」
「穴……」
「ああ! 絶対に近づくんじゃあねえぞ!」
グスカスは忠告すると、走り去る。
入口にいる奴隷長の元へ到着。
「おい大変だ奴隷長! 今すぐ全員を避難させろ!」
「なんだい急に?」
「ダンジョンだ! この鉱山がダンジョン化してやがる!」
「! 本当かい!?」
普段彼の言葉なんて信用しない奴隷長だったが、グスカスのあまりの真剣な表情を見て、信じることにした。
「わかった。おおいおまえたち! 直ぐに作業を中断して、外に出な!!」
奴隷達は困惑しながらも、奴隷長の言葉に従う。
「あたいは上に報告しに行く。グスカス、あんたは中の連中に避難するよう勧告をしておいてくれ」
「わかった」
グスカスたちはうなずくと、それぞれの役目を果たすために走り出す。
「奴隷長からの命令だ! 作業を中断して外に出ろぉ!」
グスカスを見下している奴隷達だが、奴隷長命令となれば話は別。
彼らはおとなしく外へと向かっていく。
グスカスは魔銀鉱山の奥までやってきた。
「よし……全員外に出たな……」
そのときだった。
「ぎゃああああああああああ!」
「! 悲鳴……どこから……?」
グスカスは声のした方へと向かう。
……だんだんと、嫌な予感がしていた。
「ここは……ダンジョンの入口……まさか……!」
……そういえば、ティミスと一度もすれ違っていない。
まさか……。
「あの馬鹿……ダンジョンに入りやがったな……!」




