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100.勇者グスカス




《グスカスSide》



 一方元勇者グスカスはというと、魔銀ミスリル鉱山で働いていた。



「ふぅ……ふぅ……くそ……」



 グスカスは大汗をかきながらも、作業を淡々とこなしていた。

 職業ジョブを失っても、腐っても元勇者なのだ。



 基礎体力は並の人間よりはある。

 また、水の国で失ったはずの腕は元通りになっていた。



 ジュードから魔法薬をもらって、失った腕は戻ったのだ。



「…………ジューダス」



 このところ思い出すのは、水の国での出来事。

 彼は自分と再会したとき、恨みをまったく抱いていなかった。



 魔王討伐の功績を奪って、汚名を着せて、追放までしたというのに……。

 あのおっさんは、どうして自分なんかを、許していたのだろうか。



「…………」



 グスカスは、さすがに気づいていた。

 自分がやったことが、あまりに愚かな行為だったのだと。



 辛いことの連続があって、ようやくグスカスは、己の行いの愚かさに気づいたのだ。

 ……というか、まあ、水の国で愛する女雫から言われたのである。



 自分がわるいと、そのせいで、しっぺ返しを受けているのだと。



「……悪いことしたら、罰を受ける……か」



 ジューダスのもとで指導を受けていたとき、よく彼は言っていた。

 神は見ていると。



 良いことをすれば良いこととして帰ってきて、悪いことをすれば罰を受けると。


「……ほんと、その通りじゃあねえか。くそ……どうしておれは……」



 ややあって。

 地下での労働を終えて、魔銀ミスリル鉱山の奥から戻ってきた。



 他の労働者たちも、作業を終えて、魔法馬車に乗り込もうとしてる。

 グスカスもおとなしく列にならんで、馬車に乗り込もうとした。



 げしっ!



「いってえ! なにすんだよ!」



 横から入ってきた誰かに蹴飛ばされて、列からはみ出してしまったのだ。



「あら、ごめんなさい」

「てめ……ティミス!」



 ティミス。

 かつてグスカスと同室だった、奴隷の女だ。



 ティミスは奴隷長マリアに気に入られたことで、地位が向上した。

 その結果どうなったかというと……。



「横入りなんてずりぃじゃあねえか!」「はぁ? 横入りなんてした? 証拠はどこにあるの? ねえみんな!」



 ティミスが周りの奴隷達に言う。

 彼らは怯えたように、目をそらした。



「ほら、みんな見てないって。ほら、列から出たんだから最後尾に回りなさいよ」

「ティミスてめえ……」



 グスカスはティミスをにらみつける。

 だが彼女はニヤニヤと、意地の悪い笑みを浮かべながら言う。



「あらなーに? あたしには奴隷長のマリアさんがついてるのよ? 口答えしたら、今度はどんな重い罰が科せられるかしらねぇ~? おーほっほ!」



 ……ティミスは奴隷長という後ろ盾を得たことで、すっかり増長いていた。

 グスカスは反論しようとして……やめた。



「……くそ」



 大きな権力をもって、増長する姿に、【誰か】を重ねてしまったのだ。

 誰かというか、まあ、過去の自分なのだが……。



 昔の自分は、あんな感じだったのかと……。

 職業ジョブを、立場を失ったことで、ようやく客観視できるようになった。


 ああはなりたくないな、と思って、自嘲する。

 なりたくないもなにも、昔の自分があんなんだったのだ。



「おれってやつは……ほんと……」



 さて。

 馬車の最後尾にならんだグスカスだったのだが……。



「ざーんねんグスカスぅ! 馬車はもう一杯なんだ。歩いて帰って来いよ!」

「……ちっ。わかったよティミス」



 あまりに素直に従ったので、ティミスは困惑してるようだ。

 だが、ふんっ、と鼻を鳴らす。



「間違っても逃げるんじゃあないわよ! 奴隷の首輪が発動して、首がふっとばされるんだからね!」

「……わかってるよ。さっさといけよ」

「ふんっ……! つまらないの」



 やめてくれ……とグスカスは心の中でつぶやいた。

 ティミスが、かつての自分とかぶりすぎてて、やばい。



 昔の愚かだった自分を見せつけられてるようで、嫌で仕方なかった。

 馬車が出発する。



 グスカスはおとなしく、その後ろを歩いて行くのだった。


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