99.
キースがうちに来た、その数時間後。
『へー! ここがジュードさんとの愛の巣なんすねー! 毎日やりまくりなんす?』
『ば、ばかおまえ……! 変なことを言うな!』
2階からはきゃあきゃあと、女子たちのかしましい声が聞こえてくる。
俺は一階の掃除をしていた。
「うーむ……」
「パパ~。どうしたの~?」
「おおタイガ、とハルちゃん」
ハルコとタイガが風呂場からこっちにやってきた。
一緒にお風呂入ってもらっていたのだ。
「あんがとね、タイガを風呂いれてくれて」
「いえいえ! ……それでそのぉ、王子様からの依頼についてなんですけど」
ハルちゃんはあのとき、説明を聞いてなかったのだ。
タイガの面倒を見てもらっていたからね。
「ダンジョンがどうとかって……」
そうだよな、この子にも説明しておかないと。
もう家族なんだしな。
「今ね、この国の真下に、広大なダンジョンが出現したらしんだ」
「! だ、ダンジョン……? どれくらい広いんだに?」
「国と同じくらいの規模なんだってさ」
「ええええ!? そ、それって……すごいんじゃ……?」
「そうだね、そんなに大きなダンジョンは聞いたことないね」
ダンジョンは生き物に例えられる。
突発的に産まれて、そして成長するのだ。
現時点で、国と同規模のダンジョン。
ほっとけばさらに拡大すると思われる。
「早急になんとかしないといけないんだ」
「……だから、ジュードさんがかり出されることになったんだに?」
「そう、ま、ほっとけないしね」
俺は引退した身ではあるけど、さすがにこの大事件を、放置はできない。
ここで俺が見て見ぬふりすれば、ハルコやタイガ、キャスコ、この町、この国の皆が困る。
「そんな事態を、見過ごすことはできないね」
「……なるほど。そうですよね、ジュードさん、優しいですから」
……優しいっていえば、ハルコもそうだ。
その浮かない顔から察するに、俺が危険な場所へ行くことを、危惧してるんだろう。
ほんと、優しい子だ。
「大丈夫。今回はキャリバー、オキシーもついてくるし、それにキャスコもついてくる」
「キャスちゃんも……?」
キャスコは大魔法使いだ。
彼女の魔法があれば、ダンジョン攻略もスムーズにいくだろう。
ほんとはグスカスにも力貸してもらいたかったんだが……ま、しょうがない。
やりたくないやつを、無理矢理引っ張っていくわけにはいかないしな。
「いつ出発するんですか?」
「明日」
「明日!? ちょ、ちょっと早すぎでは……?」
「ほっとくとダンジョンは成長しちゃうからね」
俺はハルコの頭をなでる。
「大丈夫、すぐ戻ってくるから。タイガと待ってておくれ」
ハルコは俺を見上げて、何か言いたげだったけど、最終的にはうなずいた。
たぶん俺に危ないとこいってほしくないんだろう。
本当に優しくて良い子だ。
俺はこんな可愛い子が彼女で幸せものだ。
だから、絶対無事に帰ってくるんだって、そう改めて思うのだった。




