96.勇者グスカス
食事を取った(とってないが)あと、奴隷達は、主人の所有する鉱山へと連れてかれる。
主人の意向で、全員を屋敷に住まわせているのだ。
鉱山奴隷は鉱山に住まわされることも多いため、ここの主人は変わり者と言えた。
「さぁ、みんな。今日もキリキリ働くよぉ!」
奴隷長がそう言うと、奴隷達が従順に従う。
そして今日の配置が言い渡される。
奴隷達は日ごとに、どこのポジションで、どんな仕事をするのか決められる。
楽な仕事もあれば、当然キツい仕事をする場所もある。
「グスカス。あんたは鉱山の最奥での作業だ」
「はぁ!? またかよ……! ふざけんなよ! あそこはめちゃくちゃ瘴気がキツいんだぞ!」
彼らが働くのは、魔銀とよばれる稀少な鉱石が取れる鉱山だ。
しかし魔銀は瘴気(体にわるいガス)が濃い場所に生える。
瘴気は洞窟の奥に行けば行くほど濃くなる。
つまり、奥の方が大きな魔銀が取れるのだ。
しかし瘴気は体にわるいため、長時間そこにいたら体を崩す。
そうならないため、奴隷はローテーションで、最奥部の作業をさせられてるのだが……。
「ここんとこずっとじゃあねえか!」
「うるさいよ。あんたが一番若くて健康なんだから、危険な場所に配置されるのは当然さね?」
「何が当然だ! ぜってー嫌がらせだろこんなの!」
そのとおり、嫌がらせである。
グスカスは奴隷長のお気に入りの子を、いじめてしまった。
そのせいで奴隷長の不興を買ってしまったのだ。
結果、彼女から嫌がらせを受けている。
「いいからさっさと言うとおりにしな。死にたくなきゃね」
「うぐ……くそぉお……」
グスカスの首には、ゴツい黒革の首輪がつけられていた。
これは奴隷の首輪。
奴隷が反抗的な態度をとったときに魔法が発動。
軽い電流が流れるしくみになっている。
任意で別の魔法を発動させることも可能だ。
たとえば奴隷が脱走したときは、魔法で首を吹き飛ばすことができる。
「く、くそ……」
今まで何度も、電撃を浴びせられてきたグスカスは、悪態をつきながらも、しぶしぶと奥へ向かう。
濃い瘴気のなか、グスカスはツルハシを手に、魔銀を採掘する。
「ぜえ……はあ……くそ……つれえ……」
瘴気を吸い込まないよう、呼吸は最小限に留める。
また、採掘した魔銀を外まで手押し車で持ってかないといけない。
そのどちらの作業もグスカスは強いられていた。
「ちくしょう……なんだってこんな……」
ゴロゴロとカートを押していると……。
突如として、足を引っかけられる。
「ぎゃあ!」
「どこ見て歩いてるんだよ、バーカ」
「手伝わねえからな。自分で拾えやゴミくず」
ここでも奴隷達からのいじめを受けているグスカス。
奴隷長が、グスカスをいじめている。
その姿を見て、他の奴隷達はこう思っているのだ。
自分たちより下がいると。
奴隷達もまた奴隷長のようにグスカスをいじめる。
いじめたところで、奴隷長は何も言ってこない。
「こらグスカス! ぼさっとするな! さっさと働け! 死にたいのかい!」
「く……くそ! ふざけんなよ!」
グスカスはあまりに理不尽さに腹を立てて、声を荒らげる。
「こんな仕事……」
「やめるかい? じゃあ、あんた死ぬことになるけど」
「ぐ……く、くそ……!」
生殺与奪の権を握られてるグスカスは、労働を強いられる。
またいじめの対象となってる。
「ちくしょお……ちくしょお……なんで、こんな目に……ジューダスを追い出しただけで……くそぉ……」
ジューダスを追い出した日の自分を、殴ってやりたかった。
今こんな酷い目にあってるのは、彼を追い出したことを発端としてる。
「ジューダス……ジューダスぅ……」
もはや彼は、ジューダスを侮っていなかった。
水の国での出来事があって、彼の力を認めたのである。
ジューダスは魔王を倒すほどの英雄。強い力を持っていたのだ。
「おれがわるかった……謝るから……助けてくれよぉ……ジューダスぅ……」




