01.英雄、勇者の代わりに魔王を倒す
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魔王城では、今まさに、勇者パーティたちによる最終決戦が繰り広げられていた。
「オキシー! 魔法攻撃が来るぞ! 防御スキル!」
「了解っす! ジューダス兄貴!」
魔王からの強力な炎の魔法が飛んでくる。それの前に騎士のオキシーが、盾を構えて躍り出る。
「2秒後に【完全反射】スキルだ! キャスコそれに併せて風の魔法で威力をあげろ! 4秒後!」
「わかりましたジューダスさん!」
オキシーが防御スキルで魔法を打ち返す。それと同期して、魔術師キャスコが風魔法を打つ。
完璧なタイミングで、打ち返した炎が、キャスターの魔法で強化される。
爆炎となりて、魔王に襲いかかる。
【ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!】
魔王が炎に焼かれもだえている。
「ここがチャンスだ、いくぞキャリバー!」
「ああ! ジューダス! ここで決めよう!」
二刀流剣士キャリバーが、炎と氷の剣をかまえて、魔王へと走る。
俺もその後ろを走る。俺の手には、【勇者の聖剣】が握られていた。
本来なら勇者にのみ使用を許された聖なる破邪の剣。だが俺は【指導者】という、特殊な職業を持っている。
【指導者】。これ単体にそこまで強い力はない。仲間がいて初めて効力を発揮する。
様々な能力があるが、その中の一つに、仲間のチカラを借りることができる、という能力がある。
俺は【指導者】の力を使い、本来なら勇者にしか装備できないはずの聖剣を装備しているのだ。
さておき。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
剣士キャリバーが活路を開く。魔王の左右の手を切り飛ばす。
「いけ! ジューダス! おまえがとどめを刺せ!」
「ああ!」
俺は聖剣を構え、無防備な魔王の前に躍り出る。
「くたばれぇえええええええええええええええええええええ!!!!」
【指導者】の能力が、聖剣の使用を許可させる。
魔を払う聖なる剣に、俺の魔力が流れ込む。黄金の輝きを放ちながら、俺は聖剣を振るった。
ズッバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!
【ぐわぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!】
魔王は断末魔の悲鳴を上げる。その後、爆発四散。
じゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃら
と魔王を倒したことによる、ドロップアイテムが、俺たちに降り注ぐ。
金貨だったり、マジックアイテムだったり。
「やった……」
俺がつぶやくと、
「「「やったぁああああああああああああああああああああ!!!!」」」
と騎士、魔術師、剣士が、歓声を上げる。
彼女たちがいっせいに、俺の元へとやってくる。
「やったっすね兄貴ー!」
鎧兜をぬぎすてて、オキシーが笑顔で抱きついてくる。
「……ついに魔王を倒しました。長い道のりでしたね」
眼に涙を浮かべながら、キャスコが涙を拭う。
「ジューダス。おまえがいたおかげだ。おまえがあのクソ勇者の代わりにボクたちを導いてくれたおかげで、使命を果たせた。ありがとう」
剣士キャリバーが、凜としたたたずまいを崩すことなく、俺に握手を求めてくる。
「ありがとう。本当に、ボクたちを導いてくれてありがとう……」
「キャリー姉さん泣いてるんすか~?」
オキシーがからかうように言う。
「ば、馬鹿野郎! おまえボクが泣くわけないだろ!」
ぐしぐし、と目元を拭うキャリバー。
「鬼のキャリバーも所詮は女だったわけっすね~」
「な、なんだよその言い方! ボクが泣いたらおかしいのかよ!」
ぎゃあぎゃあと賑やかに騒ぐ彼女たち。
「……ジューダスさん」
すす、と魔術師が俺のそばまでやってくる。
「どうした?」
「……本当に、ありがとうございました。勇者さんが逃げたときは、正直もう死を覚悟しましたもの……」
勇者。魔王を倒すのは、本来ならこいつの役目だった。
「やめよーっすキャス姉さん。あんな敵前逃亡しやがった腰抜けの野郎のことなんて、忘れましょーっす」
「そうだ。ボクらをおとりにして、そして世界を救う使命を投げ出した無責任馬鹿のことなんて放っておこう」
そうだそうだ、と彼女たちがうなずく。
「ジューダス」
キャリバーが俺の前にやってくる。
「あの馬鹿勇者に変わって魔王を倒してくれた。ボクたち全員を守り、そしてこの世界を守った」
剣士の少女は、自分の胸に手を当てる。そして跪く。
「きみが、きみこそが、真の勇気あるもの。きみこそが、真の英雄だ」
騎士、魔術師の少女たちも、その場に座って俺を見上げて言う。
「ジューダス兄貴こそが英雄っす!」
「ええっ! そうです! ありがとうございます英雄ジューダスさん!」
と仲間たちが口々に、俺をたたえてくれた。気恥ずかしい。
「そんなかしこまらなくていいって。やめてくれよ、調子狂うぜ」
俺は彼女たちと笑い合う。
ともあれ、こうして世界に平和が訪れたわけだ。
真の英雄なんて、気恥ずかしくて柄じゃないが、まあ悪い気はしなかったな。
ところが……。
魔王討伐の知らせを、王都に持ち帰ったその場にて。
俺は国王直々に、こう言われたのだ。
「ジューダス・オリオン。貴様を勇者パーティから追放する」