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Tales 64【因縁バーサス】

『やぁぁぁぁっって来ました、闘魔祭二日目!! 老若男女のエーブリバーディ! 昨晩歯ぁ磨きました? お手洗いはすませましたぁ?! 楽しみ過ぎて徹夜明けなんてことしてませんかぁぁ?! そんなピュアハートな方々も、このミリアム・ラブ・ラプソディーと一緒にィ、眠気なんか吹っ飛ばして参りまっしょ~う!!!』


「「「「「おおおおおぉぉぉ!!!!」」」」」


「テンションたっかいなぁ」



 開幕からハイテンションなミリアムさんと観客達の歓声が、肌をビリビリと震わせる。闘技場の重たい開閉門すら振動してるし。

 飛ばしてんなぁと、つい他人事な感想を吐き出していれば、ついにはジーンズのポケットさえブルブルと。


 あ、違った。

 こっちはいわば、お馴染みの彼女からの遅過ぎるモーニングコールってところだろうか。



《ふっふっふ。ついにこの時が来たの……あっ、私メリーさん》


「とってつけなくて良いから。おはよ、メリーさん。で、この時って?」


《決まってるの。ことあるごとにナガレの背後を狙うあの"黒い人"をぎゃふんと言わせる時が来たってこと……ナガレの後ろはメリーさん専用って、こないだの会議で決まったんだからっ》


「黒い……あぁ、セナトのことね」



 そういえば、予選の時にセナトの事をムカつくとか言ってたっけなメリーさん。

 スマホ越しに聞こえる甘いソプラノは、すっかりやる気にみなぎっているようだ。

 昨日の疲れはすっかり取れたらしい。


 それにしても会議ってなに。

 え、番外編? 別に気にしなくても良い?

 あーうん、ならまぁ良いか、なんか聞かない方が良さそうな気もするし。



『今日、最終決戦へと駒を進める二組が決まります!!

一回戦、二回戦で確かな実力を示した選手が目白押し! 魔法か武術か、知略に策略、経験か才能か!

選手達の更なる凌ぎの削り合いは、きっと私達をより魅了してくれることでしょう!!』


「ま、簡単に勝たせてくれる相手じゃないのは間違いないし。"例の確認"も頼んだよ、メリーさん」


《それはお任せしてくれていいけど……はぁ。本当にアイツも喚んじゃうの?》


「メリーさんを信用してない訳じゃないけど、流石に一人じゃキツいだろうし。喧嘩しないでくれよ?」


《ぶーぶー》



 件の"アイツ"とは、よっぽどウマが合わないんだろう。

 犬猿の仲とでも言うべきか。それでも反対するだけの理由が思い浮かばないらしく、メリーさんは子供みたく口を尖らせた。

 ただ、それとは別の気掛かりが彼女にはあるらしい。



《それにもし、例の予想が"外れたら"どうするつもり?》


「んー……」



 昨晩セリアに答えたセナトへの対策の念押し。

 こう言っちゃなんだけど、マルス戦同様、対策というには不確定要素もちらほら浮かぶ程度の策。

 もし失敗したら。もし想定が違ったら、その時は。



「いっそ白旗でも振るかな」


《諦めがはやーい》


「出たとこ勝負はいつもの事だろ?」


《胸を張れることじゃないの》


「確かに」



 大変なのはこっちなんだから、と言いたげなトーンも苦笑で流す。

 ただでさえ想定通りに事が進んでも、勝てるかどうか怪しい相手なんだし。

 劇的なアイデアが降ってくれれば楽なんだけど、そんな簡単には世の中動いてくれやしない。



『それではぁぁ第三回戦の火蓋をバチィッと切っていきましょう!!! まずは剣のブロック、第一試合!』


「それでも、やるだけやるよ。意地張る為にな」


《……ちょっと今、無理矢理格好付けたの》


「バレたか」



 なんかメリーさん、セリアの普段が伝染(うつ)ったみたいに手厳しい。

 それもある意味相方らしさかもなと、お後を宜しくしといて。

 

 アーカイブを一撫でして、射し込んだ正面の光へとへと向けて、靴先を上げた。



────

──


【因縁バーサス】


──

────




『さぁさぁ、初戦からいきなり今大会注目株同士の激突です!! まずは剣のコーナーより!』


 ミシミシと音を立てて開いた門を潜れば、昨日よりも一際勢いを増した歓声が空気を塗り替える。

 そのボルテージに背を押されながら、闘技場の中心へ。



『精霊メリーさん、そして二回戦にて新たなる精霊さえも召喚してみせた彼は、果たして"何色"の精霊使いなのか?! 勝ち進める度に注目度を増すトリックスター、サザナミ・ナガレ選手の入場でっっす!!!』


「(ミステリアスの次はトリックスターと来たか。あえて大袈裟に言ってるんだろうけど)」



 昨日と今日とで、大袈裟な肩書きがどんどん増やされている事に、どうしたもんかと首を傾げながら肩をほぐす。

 周りの観客も乗っかってミステリアスやらトリックスターやらと声を挙げてるし。


 その声援の量に、自分が今、改めて大舞台に立ってるんだって自覚さえ抱く。小さく空いた口から落ちる吐息も妙に熱い。

 でも、不思議と緊張はしなかった。



『さて対するは魔のコーナー! こちらも同じく注目株、一回戦、二回戦での圧勝ぶりに今大会優勝候補の一人ではと囁かれる黒衣の使者! その腕力は細いながらもモーニングスターすら受け止めるほどのパワー、その脚力は影すら見えないスピーディー!』



 勿論、それは決して油断なんかじゃない。

 強いていうなら、高揚感なのかも知れない。

 思い返せば、セントハイムに来て以来の因縁の相手、かもだしな。



『神速の影法師、セナト選手の入場でっす!!』



 アンタもそう思うだろ。

 前触れも、自覚さえもなく挑発めいた微笑が浮かべば、そのままそっくり対面の黒衣も愉快気は微笑みで返してくれる。

 もっとも、それだけの『返し』で終わらないのがセナトという人物であって。

 立ち位置まで歩み寄るなり、黒布で覆われた口元を嘲笑混じりに震わせた。



「三分、らしい」


「は?」



 ピッと立てられた三本の指。

 三分って、いきなりなに。カップラーメンでも作るつもりか。

 いや、んなものセナトが知ってる訳ないけど。

 三本の指が示すモノが今ひとつ分からなくて、反射的に声を挙げる俺の姿に、黒曜石の瞳が愉快そうに細まった。

 


「私の闘魔祭での試合時間、だそうだ。無論、"合計"でだがな?」


「…………ふーーーん」



 はいはい、なるほどなるほど。

 目には目を。歯には歯を。挑発には挑発を、って訳ね。

 軽く小首を傾げる仕草が如何にも「さてお前はどれくらいの時間だったか」と問いたげで、実に腹立だしい。 

 とんだ意趣三倍返しだよ、こんにゃろう。



「なんせ『神速の影法師』だもんな。確かに試合時間からなにまで速いんだろうけど、その分影もうっすいんじゃない?」


「ククッ……だがどうやら私は優勝候補らしいぞ。影が薄いにしては、随分な持ち上げられ様じゃないか」


「羽振りの良い『雇い主さん』が大金叩いてミリアムさんに言わせてる、ってオチだったら爆笑モンだよな」


「なるほど。それは確かに滑稽だな」


「でしょうよ。ハハハ」


「こやつめ、クハハ」


『おおーっとぉ……内容は聞こえませんが、どうやら既に言葉の矛先をぶつけ合ってるようです! もしや因縁のライバル同士とかなのでしょうかッ、だとしたらより一層燃える対戦カードと言えるでしょう!』



 負けじと挑発を重ねれば、打てば響くように飄々とした答えが返ってくる。

 とんだ試合前の挨拶ではあるが、妙に小気味が良い。

 黒い外套に身を包んだ、近寄りがたい忍者染みた見た目の癖に、割と饒舌だからだろうか。


 といっても、笑顔で足踏み合ってるようなもんだけど。

 ミリアムさんの言うようなライバルって間柄は、御免被(ごめんこうむ)りたいだろうね、お互いに。



『観客も選手同士も、そしてわたくしミリアム・ラブ・ラプソディーのボルテージも最高潮といったところで、三回戦第一試合、そろそろ行ってみましょうじゃあ~りませんかぁ!!』


「両者、準備は宜しいですね」


「「……」」



 期を見計らったアナウンスを皮切りに、レフェリーの冷涼な声に頷きながらふと気づく。

 フォーマルスーツとベルキャップと鉄面皮、あの予選会場で係員を務めたあのお姉さんだ。


 こんなとこまで揃えば、ますます因縁めいた色合いが強くなる。

 偶然か作為か、なんとなくあの煽り上手のオルガナさんの顔が脳裏を過ぎれば、お姉さんとパチリと目が合う。


 軽い会釈と、ため息混じりに肩を竦める仕草。

 あぁ、やっぱりオルガナさんの演出か。あの人好きそうだもんな、そういうの。



(……さて)



 と、余談はここまで。

 集中しろ、と言い聞かせる。浅い呼吸に切り替えて身構え、ホルスターを外す。

 そんな俺の臨戦態勢を前に、"それでも"セナトは柳の様に立つだけだった。


 でも、それはあくまで姿勢の話。

 ピシリと、空気が変わる音がした。



「──」


「!」



 立ち姿は同じでも、セナトを取り巻く雰囲気はガラリに変わっている。

 それも呑み込むような威圧ではなくまるで刀の先端を突き付けられているような。

 俺だけに向ける為の、凝縮した、冷たい殺気。



「では只今より、剣のブロック、三回戦第一試合……」


『それでは参りましょう!!』



 押されてる場合じゃない、思い出せ。

 アイツが聴いてもいないのに教えてきやがった、喧嘩の『鉄則』を思い出せ。



「──試合」


『──試合』



 いわく、ビビッたら負け。

 ヤバい時こそメンチを切れ──だっけ。



「開始ッ!!」


『開始でっす!!』



 ぶっちゃけ、あの時はそんなのただの根性論じゃんって思ったけど。

 今この時、この瞬間に()いては、確かに身を助ける鉄則になってくれたらしい。



「ッ」


「──!」



 メンチ切るくらい睨み付けていたからだろう。

 顔めがけて飛んできた"黒い切っ先"を見逃さずに済んだ。


 標的を視覚で捉えて、最小限の逸らしで回避。

 そのままの流れで大きく後退し、悪意を込めてニヤッと笑ってやる。



 奇襲は失敗、残念だったなってさ。




「【奇譚書を(アーカイブ)此処に(/Archive)】」




 そんで、今度はこっちの番。

 奇遇だな、セナト。



「来てくれッ、メリーさん! そして──」



『奇襲』と『速攻』、考えてたのはこっちも同じなんだよ。



「ナインッッ!!」






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