Tales 57【仁義なき戦い】
男にとって、いやさ一個の男子にとって──異性からご主人様~と恭しく呼ばれる事は、一度は抱く浪漫である。
いわば健康で健全たる証なのだと、現世での悪友三人衆の黒一点、要リョージはそう言って憚らなかった。
わかる。わかりみに溢れる。
俺とリョージとで行ったメイド喫茶、結構盛り上がったもんな。
だが、だがしかし。
俺にとっての『浪漫そのもの』に、ご主人様と呼ばれて嬉しいかどうかは、また話が別。
いってしまえば、都市伝説とは憧れや信仰を向ける対象であり、リョージのいう浪漫を求める相手じゃないのだ。
という旨をエイダに伝え、ご主人様呼びを撤回させようと試みたところ……失敗しました。
『え、やだ……せっかくだし……』とのこと。
いや何故だよ。なにが折角なんだよ。
呼ばれる側ならともかく、呼ぶ側が頑なに譲らないってどういうこと。
なんでなんでとエイダに理由を尋ねて見ても、打ち解ける前みたく背を向けるだけで、一向に撤回してはくれなかった。
……という事の顛末を、試合を観戦してたパーティーの皆々様に誠実に包み隠さず懇切丁寧に説明したんだけど。
「……そう。おめでとう」
という、普段より十割増しに冷たいセリアの一言と。
「ほっほ。若々とした浪漫ですなぁ、ナガレ様」
という、俺は分かってるぜ的なニュアンスをどっぷり注いだサムズアップで迎えるアムソンさん。
こんなとこでリョージのソウルメイト足り得そうな人を見付けるとは。
だが、いよいよ大トリの番となり、折角収まったであろう台風が再び吹き荒れるかと腹を括ってみた……んだけども。
「……喚びたてほやほやの新入りとさっそく主従関係を結ぶとは……むふ、むふふ。さーてーはー……この優雅で高貴な主人たるわたくしへのリスペクト、というワケですわね!」
「……はい?」
「ですがそれも仕方のないことですわね……なにせ。な・に・せ! こぉんなにもゴージャスかつ、可憐かつ、完っっ璧な存在が傍に居れば! 憧れのあまり形だけでも真似をしたいと思うのもごくごく当っ然の摂理!
あぁ、罪ですわぁ……わたくしったら罪な女ですわぁ!」
「…………」
思わず絶句した。
こう言っちゃなんだけど、俺の普段の振る舞いにお嬢へのリスペクトなんて微塵も感じられないだろうに。
もしかしたら、自分の対戦手番がもう直ぐだからって緊張の余りこんな勘違いをしちゃったとか。それとも素なのか。
どっちにしろ、もうね、流石お嬢としか言えない。
お嬢のお嬢たるお嬢っぷりを存分に堪能させられ、もうなんでもいいやの精神がむくむくと育ち切った頃。
第二回戦、剣のブロックの最後の試合を告げるアナウンスが高々と響き渡るのだった。
────
──
【仁義なき戦い】
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『さぁさぁさぁ、興奮収まらぬ闘魔祭二回戦、魔のブロック第一試合!! まずは剣のコーナーよりご紹介致しますのは──泰山揺るがす巨身豪腕。一回戦にてその格闘センスを存分に発揮して下さいました、祭典に拳一つで臨むインファイター…………エドワード選手ッ!!』
「うぉぉぉぉおァァ!!!」
黒椿の一員、セナト。
魔女の弟子、トト。
有力視されていた二人が予想を裏切らず勝ち抜き、折り返しを迎えた二回戦。
コーナーポストに昇ったプロレスラーもかくやというほどの勇ましい咆哮に歓声が飛び交う中、客席最前列に並ぶ俺達の間に流れる空気もまた、ピリッと張りつめていた。
「フン、巨身豪腕だなんて大袈裟な。ただの筋肉だるまじゃないの、あれ」
「いやいや大袈裟って……遠目で見ても二メートルは軽く越えてんじゃん。腕も……なにあの筋肉。多分ワンパン食らったら一撃で意識持ってかれるでしょ」
「近付かれなければ良いだけの話でしょうが」
「簡単に言うねぇ」
「言っとくけど、あたしをあの"落ちこぼれ"やあんたみたいなエセ精霊奏者と同じ括りに考えないでよね」
原因は言うまでもなく、俺の隣で刺々しい物言いを遠慮なく放ってくる、このエトエナというエルフである。
現実離れしてる程に整った顔で胡散臭い霊媒師でも見てるかの様に睨み上げてくるもんだから、その圧力もより一層キツい。
事実エセだし、エトエナみたいな精霊魔法使いからしたら悪い印象を持たれるのは仕方ないけども、だったらなんでわざわざ俺の隣に来るのか、これがさっぱり。
反対側のセリアやアムソンさんの方に行けば良いのに。
態度と反比例して背のちっさいこの金髪は、何故だか二人とは顔を合わせようとはしなかった。
『対するは魔のコーナーより!! やって来ました期待の星、その色んな意味でド派手な見た目故でしょうか、実力は未知数ながらも既に彼女の活躍を期待する方も多いことでしょう。光彩奪目の緑閃光──ナナルゥ・グリーンセプテンバー選手!!』
「オーホッホッホッホッホ!! この『黄金風のナナルゥ』のデビュー戦……七転八倒、八面六臂の活躍で一生忘れれない試合にして差し上げますことよ!」
「気合入ってんなーお嬢」
「ほっほ、晴れ舞台でありますから」
ミリアムさんの煽りに乗っかって、背を反らしてズビシッと高くを指さし宣誓するお嬢の弾け具合と言ったら。
彼女の機嫌に比例するくらい周囲の歓声も大きいが、その多くを占めるのが歓喜する男達というのも、思わず苦笑を誘う。
だが、お隣のエルフさんが誘われたのは苦笑とは別のものだったらしく、小振りな唇からは不似合いな鋭い舌打ちが俺の鼓膜に届いた。
「……チッ、何よアイツ。デカイ口叩いといて、ガッチガチに緊張してんじゃないの。不様ったらないわね」
「……え、緊張? お嬢が?」
「あの落ちこぼれが難しい言葉並べる時は大体そうでしょ」
「初耳なんだけど」
アムソンさんに目線を向けてみれば、微笑ましそうに緩ませた彼の目尻の皺が、エトエナの言葉が正解である事を教えてくれた。
思わず隣のセリアと目が合って、苦笑がちに肩をすくめ合ったのは必然だったかも知れない。
「はー……良く知ってんねぇ。お嬢の昔馴染みだって言うし……あれか、ツンデレ?」
「は? なによそれ」
「素直じゃないヤツの事。なんだかんだでお嬢の心配してんじゃないの?」
「…………、──!? ──ッ!!」
「いだっ!? ちょ、やめ痛っ! 悪かったって! ていうかそのサイドテール武器かよ!?」
けれども、そこでアムソンさんがあえて指摘しない理由を考えないから、痛い目に合うんだろう。
無言のまま髪を鞭みたく利用したエトエナの制裁は、照れ隠しなんて可愛げのあるもんじゃない。
口は災いの元。
総体で見れば、中には美少女に責められる事をご褒美と捉えるマイノリティな連中もいるらしいけれど、生憎と俺にはそんな趣味はなかった。
……"俺には"、なかったんだけどね。
マイノリティ、つまりは少数派。
それをあっさり引き当ててしまうお嬢は、ある意味で運が良い。
幸運であるとは、試合の決着を見届けた後では、口が裂けても言えなかったけども。
◆◇◆
ナナルゥ・グリーンセプテンバーという少女にとって、『目立つ』という過程は避けて通れるはずもない道である。
勝利する事自体、前提として置いておくべき事ではあるが、それは彼女にとってあくまで前提に過ぎない。
勝利し、その上で観客の視線を釘付けにする様な華麗さ、優雅さを知らしめる。
それが故郷フルヘイムを飛び出したナナルゥにとっての命題であった。
勿論、彼女自身が目立ちたがり屋という側面も関係しているが。
だからこそ。
「──刮目しろ」
波乱を呼び込む先手を、よりにもよって相手に披露された時。
彼女の思考は、真っ白になった。
「そして、網膜と心に刻め。俺の、この────完成された肉体美を」
「…………は?」
『うおおおおっとぉ!? エドワード選手、開始早々いきなり外套を脱ぎ捨てましたぁぁ!! これは……一体何を狙っての行動でしょうか?!』
脱いだ。
それはもう堂々と、荒々しく。
いわゆるカタギではないお方々が背中に住まう墨の絵を披露するかの様に、エドワードはその巨身に纏っていた灰色の外套をブワサッと脱いだ。
レジェンディア上着脱ぎ捨て検定などあろうものなら、間違いなく段位ものの脱ぎ捨てっぷり。
だが、彼の真意は更に上を行く。
『ちょ、挑発行為? い、いえ、これはっ……ご、ご覧下さい! エドワードの芸術的ともいえるバランスの筋肉。隅々にまで輝く光沢のボディと、どの方角からでも己が鍛え上げた矜持が映えるべく計算されたポージング……これはっっ! アピールッッ!! エドワード選手から我々に対する、アピールなのですっ!!』
「な、なんですって?!」
そう、アピール。
豪腕と巨身を活かして、研磨し築きあげた肉体美の完成度を、宣言通り大観衆の網膜と心へ焼き付けているのだ。
つまり、観客の視線を釘付けにする為の行為に他ならない。
何故だか鼻息の荒いミリアムの解説により我に帰ったナナルゥにとって、許してはならない狼藉である。
「この……わたくしよりも目立とうと言うんですの!」
「思うに。筋肉とは何よりも平等で、誰しもが手にする事の出来る、高みを目指す為の切符だ」
「ちょ、ちょっと! 聞いてますの?!」
「思うに。高み。即ち、飽くなき究極への挑戦。それはどれだけ己を追い詰め、虐め抜けるか。延々と山を登り続けるに等しい行為だ」
「無視すんなですわ!」
なんたる意志の一方通行か。
手に取ったステッキを遠巻きに振り回して声を張っても、盛り上がった上腕二等筋を愛おしげに見つめる彼に言葉は届かない。
それはまるで、お前など認識するまでもない矮小なものだと挑発されているにも等しかった。
「くっ、詠唱破棄……【天使の靴】!!」
そんなことを、みすみす許しておけるはずもない。
力強く唱えた魔法によって空を泳ぐ権利を得たナナルゥは、客席最前列ほどの高さまで舞い上がる。
スポットライトの行き先を、奪い去る為に。
「オーホッホッホ!! どうですの、貴方が目指した高みとやらから見下ろされる気分は!」
「……」
『ナナルゥ選手、負けじと挑発返しだー! あえて風精霊魔法で高く飛んでからの高笑い、これは痛烈です! 未だ一合目も迎えていないのに、両者の間には既に熾烈な闘いが始まっております!』
「ハッ、馬鹿と煙は高いとこが好きって言うけどその通りね」
「ぬわんですって?! って、エトエナ!? あ、貴女なんでナガレ達と一緒に居ますの?」
「どこで何しようがアタシの勝手でしょうが」
『ちょ、ちょっとナナルゥ選手!? 試合中に客席との口論は控えてくださーい!』
確かに精霊魔法によって観客のどよめきをさらう事には成功しても、飛んだ矢先がナガレ達が居る最前列というミラクルによって今ひとつ締まらない結果となる。
今にも闘う相手が入れ替わりそうなほど、至近距離で睨み合うナナルゥとエトエナ。
だが、それは本来の対戦相手からしてみれば、決定的な隙とも言えて。
「思うに……」
醜い火花の散り様を呆れながら見ていたナガレの顔を、ふと影が覆う。
そのシルエットは、あまりにも大きく。
「筋肉があれば、空とて飛べる!」
巨人が、壁伝いに駆け上り、空を飛んでいた。
「なっ……」
「お嬢!」
電光石火。躍動する豪腕は、さながら死神の鎌のように鋭く孤の軌道を刈る。
軌道上の風すら、すり潰しかねない凶悪な右フック。当たれば、驚愕に染まる美しき顔が悲惨な未来を辿るのは目に見えるほどの。
「っ、んのっ、無礼者ッ」
「なにっ」
だが、より多くの驚愕に染まったのは、強襲をしかけたエドワードの方だった。
風切り音すら豪快な高速フックを咄嗟に身を屈めることで躱してみせたナナルゥは、そのまま気炎を吐きながら柔道の一本背負いの要領で、エドワードを放り投げてみせたのだ。
『か、カウンター! ナナルゥ選手、エドワード選手の強襲を見事なカウンターで返してみせました! じ、実に鮮やかです!』
「ふむ、お見事。ナガレ様の前で、姉弟子としての面目躍如といった所でしょうかな、お嬢様。そもそも油断しているという点は、置いておいて」
「ひ、一言余計ですわよアムソン。ですが……ふふん。今度は此方の番ですわ!!」
上から下へと、振り下ろしたステッキの矛先は、片膝をついてナナルゥを見上げているエドワードを指し示す。
つまりはここから攻守交代。有言実行を為すべく、彼女もまた詠唱短縮を用いて速攻を仕掛けた。
「詠唱短縮……お食らいなさい! 【エアスラッシュ】!」
「──、──!」
薄緑に煌めく、風の刃が巨漢へと迫る。
間に合わない……訳ではなかった。
しかし、紙一重。躱し切れるかどうかの瀬戸際。
数巡の判断の末、下手に回避し損ねるリスクを背負うよりも、彼は、エドワードは、豪腕をクロスさせ──
「ぐ、うぉぉぉ!!!」
『う、受け止めたぁぁ?!』
真っ正面から、受け止めた。
◆◇◆◇
「……思うに。筋肉とは、拳とは。鍛え上げた強靭なる肉体とは、魔法を超えうる万能にすら手が届くと……俺は、信じている」
「……!」
「信じているからこそ。俺は、この祭典へと乗り出した。至高を冠する為に必要なものは、剣の腕でも槍の腕でも、魔法でもない──筋肉だ」
無傷、という訳ではない。
その両腕ともはや岩石とも見間違うシックスパックには、風の刃を真っ正面から受け止めた証である、赤い痕が出来ていた。
ダメージは、確かに与えたはず。
しかし、泰山エドワードは、揺らぐことなく地に立っている。
『な、なぁぁんということでしょうか!! エドワード選手、エルフであるナナルゥ選手の魔法を真っ向から受けきりましたぁぁ!! とんでもないマッスル! 不可能を可能にするマッスルです!』
エルフの魔法を真っ向から受けるなど、自殺行為に等しい。
その誰もが知る前提知識があるだけに、威風堂々と君臨する彼の姿はあまりに雄々しく映り、けたたましい程の歓声があがった。
……しかし。
「そして、思うに……俺は、恵まれている────そう、ナナルゥ。お前の存在がそうだ」
「なっ……わ、わたくしが、何だと」
「ナナルゥ・グリーンセプテンバー。エルフの娘よ。貴様という好敵手に出逢えたお陰で、俺は、更なる高みへと昇り詰める事が出来る。より剛く、より厚く、より強靭である肉体を得る……その機会に恵まれたのだと。だから、さぁ────」
しかし、そう、もう既に、ある意味で決着はついてしまったのかも知れない。
ひたすらに至高を目指し、筋肉こそその高みへと到達する為の術だと信じて己が身体を鍛えあげたエドワードにとって。
「もう一発、打って来い」
「…………えっ」
「筋肉とは、自らを痛みつけることでより強さを増していく。ならばこそ、エルフである貴様の魔法を受け止めれば受け止めるほど、それだけ俺の筋肉はより至高へと近付く。思うに、これは常識だろう」
「……そ、そうなんですの?」
勝利よりも、"トレーニング"の方が大事なのだと。
筋肉を愛し過ぎたが故、脳味噌まで筋肉で出来てそうな男が弾き出した優先順位が、それだった。
だからこそ彼は、会場の空気などそっちのけでワンモアを好敵手に求める。
「そうだとも。だから、もっと打って来い!」
「え、えっと……本当に打っていいんですの?」
「何を躊躇う! 思うに、お前もこの大会に挑んだ者ならば、より高みを目指す心はあるのだろう?! ならば、さぁ!」
「じゃ、じゃあ……詠唱短縮。【エアスラッシュ】……」
「っ──ぐ、ぬぅぅぅぅん!!」
流石に多少遠慮がちにナナルゥが再び放ったエアスラッシュを、やはりエドワードは仁王立ちで受け止める。
しかし、その雄々しき顔は苦痛に歪むと共に、どこか恍惚とした温度も浮かび上がっていた。
「くぅっ、この痛み……だが、まだだ! まだこの程度の蓄積では、至高の筋肉には育たない。もっと、もっとだ!!」
「で、でも……」
「もう一度言う! 何を、躊躇う。俺を痛め付けることを躊躇っているとでもいうのか? 馬鹿な。貴様とて、この大会に臨む戦士だろう。よもや、臆病風にでも吹かれたか!」
「んなっ、だ、誰が臆病風ですって?! この黄金風のナナルゥに向かって…………じょ、上等ですわ! 思う存分、わたくしの魔法を食らわせて差し上げますわよ!」
『こ、これは……プライドとプライドの──真剣勝負! エドワード選手は、たゆまぬ筋肉への矜持を。ナナルゥ選手は、エルフ故の矜持を。互いに譲れないプライドを賭けた、まさに試合という枠組みを越える、真剣勝負なのでしょう!!』
いや、他所でやれよ。
という、実に的確で冷静な感情を持ち合わせいる観衆が、過半数をいくかどうかの瀬戸際である事も、悲しい事実だったのかも知れない。
それどころか、エドワードの至高を目指す心意気に感動し、声援を送る者も多かった。
「【エアスラッシュ】!」
「んおぉ、なんのぉ!! まだまだぁ!」
真剣勝負、なのだろう。少なくとも本人達にとって。
そして、その光景はミリアム・ラブ・ラプソディーのマイノリティな趣向を大いに擽ってしまったのも、紛れもなく悲しい事実で。
「【エアスラッシュ】!」
「ぬふぉぉ!! この痛み、この高揚感! 良い、良いぞ! 思うに、昂って来た!!」
観衆の反応はまさに、十人十色。
ある者はエドワードのタフさに心を惹かれ。
ある者は魔法を放つと同時に大きく揺れるナナルゥの一部を凝視し。
ある者は連れてきた我が子の目を隠し。
また、彼女と縁の深いある者達は。
「あ、セリア。ここ、枝毛」
「……あら、本当ね」
「髪は女の命とも言いますし、手間はあれどケアは心掛けた方が宜しいですぞ」
「そうね、気を付けるわ」
「………………あほくさ」
ナチュラルに、他人のふりに勤しんでいたという。
これを薄情と呼ぶか、退席しなかっただけ有情と捉えるか。
その解釈の差もまた各々、十人十色。
◆◇◆
ちなみ、試合の行く末については。
およそ三十にも及ぶ風の刃をしっかりと受け止めたエドワードが、実に満足そうな笑みを浮かべながら仰向けに倒れた事によって決着がついた。
「……お、思うに……これで、俺は。また、強く……ごふっ」
「ぜぇ……はぁっ……ふ、ふふふ、オーホッホッホッ!! わたくし、大ッ勝ッ利ぃですわぁ!!」
仁義の欠片も見当たらない戦いの末に、すっかり茜色が差し込み始めた大空へと、誇らしげに高笑うナナルゥの姿は、ある意味で美しいものだったとか。