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Tales 26【Septet Summoner】

 魔女。


 誰もが何かしらの創作、もしくは歴史などの窓口から一度は見聞きした事はあるはずで、思い浮かぶ魔女のイメージもまた人それぞれだろう。


 お伽噺の悪役で出てくるような、大きな鍋で怪しげな調合をしてる老婆。

 もしくは箒にまたがって悠々と空を飛ぶ少女だとか、最近ではファンシーなマスコットを連れてモンスターと闘ったりとか、その窓口は近代化につれて大きく幅を広げているが、それはあくまで現代での話。


 今まさに俺が立っているファンタジーの世界では往々にして魔法関連の実力者だとか、或いは人々から恐れられている、まさにブギーマンみたいな立ち位置に在りそうなもんだけれども。

 その推測が的外れかどうかは、あのヴィジスタ宰相が抑えきれない畏怖をその語り口に添えている辺りで察せられる。



「そ、その話! 詳しく聞かせていただいてもよろしくって!?」


「お嬢様!」


「?」



 しかし、闘魔祭の開催に関わる魔女というファクターにいの一番に食い付いたのは、何故か今まで一言も発さずに黙り込んでいたお嬢だった。

 前触れもなくピアノの高いキーの鍵盤を叩いたかのようなソプラノに振り向けば、星屑をちりばめたみたく赤い瞳を輝かせているお嬢のお顔がすぐ近くに。


 いや、えっ、いつの間に。

 ていうかなんでこんな俺の至近距離にお嬢が居るの。

 ついさっきまではもう一歩二歩くらいは後ろに居た気がしてたのに。



「ふむ。ラスタリア騎士団、並びにガートリアム騎兵隊のなかにエルフが在籍していたとは知らなんだが……」


「……ひっ……──あっ、お、おっほん。申し遅れました……わたくしはナナルゥ・グリーンセプテンバー……と、此方に控えているのはわたくしの従者で……」


「執事のアムソンと申します。我々エルフからしても物々しい【魔女】なる響きの余り、宰相様の口上を遮った我が主のご無礼、代わってお詫び致しますぞ」


「……で、あるか」



 深々と頭を下げるアムソンさんの謝辞を宰相は別段気にした様子もなく流した。

 いや、というよりはもっと謝辞すべき無礼な所があるだろって言いたいんだろう。



「な、ナナルゥ……貴女……」


「なにやってんのお嬢……」


「……ち、違うんですのよ……今こうしてナガレの背に掴まってるのはちょっと眩暈(めまい)を感じたからであって……けっ、決してヴィジスタ宰相の目付きが怖いとか、過去の厳しい教育係を思い出したとかそんな訳ではだだだ断じて……」


「あー……僕にも気持ち分かるなぁ。キツく叱られた日の夜なんかには、夢にまで出て来そうな時も……」


「──陛下」


「あ、いやいや何でもない! 冗談、冗談だから! さ、さぁ! ヴィジスタ、口上の続きを」



 お嬢がやたら俺の至近距離に居た理由は、何やら過去のトラウマを呼び起こしかねない宰相さんの眼差しに対する遮蔽物代わりだったという事か。

 通りでさっきから口数が少なかった訳だ……流石にこれはお嬢が失礼だとも思うけども、俺の背に隠れながら添えられてる掌からカタカタと小刻みな震えが伝わってくる分、強く言えない。


 まぁ、幸いにしてルーイック陛下の自爆もとい湾曲的なフォローのおかげで、何とか仕切り直しの空気は出来上がった。

 お嬢は俺の背に隠れたままだけど。

 お陰でヴィジスタ宰相が物凄く物言いたげに俺を見据えてるから、乾いた愛想笑いで取り繕ろうのが精一杯だった。



「……このセントハイムの地より南に降った先。『ヒドラの肌』と呼ばれる、枯れた木々が生い茂る森があるのだが……その奥を更に進んだ所に【闇沼の畔】と呼ばれる、我が国が危険区域と定めた魔境が存在する」



 音の並びだけでもおどろおどろしいというか、まさしく魔女が居城を構えるには相応しい区域の名に心が沸き立つ。

 都市伝説とかに近い怪談や怪奇現象を追い掛けてる内に、いかにも曰く付きな場所や廃墟ってだけですっかり琴線に触れてしまうようになったけど。

 それだけに、是非とも脚を踏み入れてみたいという欲求が騒がずにはいられない。



──────



何より──『闇沼』という響き。


"細波流としての奇妙な縁"や、我ながら捻くれてる高揚感を覚えずには居られなかった。



──────



 けど、残念ながら話の軸はその心惹かれるスポットではなく、そのスポットに住む魔女についてだ。

 心底からせり上がって来る探求心を抑えつつ、固く拳を握りしめながら本題への合いの手を加えた。



「闇沼の畔……そこに、その、魔女ってのが?」


「……うむ。闇沼の深淵、或いは【人智の及ばぬ黒き底】……そう呼ばれておるほどの異端者、『魔女カンパネルラ』。魔女と揶揄されておる時点で貴殿らにも想像がついておろうが……彼奴(あやつ)の精霊魔法は常軌を逸しておる。その気になれば、三日三晩もかけずに大国を滅ぼしかねない程にな」


「【人智の及ばぬ黒き底】!? そ、その肩書き……では、その魔女カンパネルラなる者は、かの【精霊奏者(セプテットサモナー)】の一角という事ではありませんの!?」


「……で、ある。魔女と呼ばれる道理も分かろう、グリーンセプテンバー嬢よ」


「え、えぇ……」



 宰相が紡いだ魔女カンパネルラ。その力についての憶測だけでも、おいそれと触れてはいけない存在ってのは伝わるけど。


 闇沼の深淵、人智及ばぬ黒き底、セプテットサモナー……次から次へと聞いたこともない単語が目まぐるしく沸いて出てくるもんだから、俺も話の流れに置いていかれまいと対応しなくちゃいけない。

 という訳で、お嬢だけでなく少なからず衝撃を受けていたセリアに呼び掛ける。



「……セリア、セリア。セプテットサモナーってなんなの」


「あ、あぁ、そうね…………私達が扱う精霊魔法、その属性を司る大精霊と契約を交わし……"召喚魔法"を発現する事に成功した者の事を、そう呼ぶの。貴方に分かりやすく言うなれば、精霊魔法を扱う者にとっての目指すべき"到達点"、という所かしら」


「大精霊……それって、前に話してたシルフィスとかいう奴とかの事か」


「えぇ、確かナインの名前を決めた時ね。正確には、風精魔法の属性を司る大精霊の名前はシルフィスじゃなくて『シルフィード』だけれど……」


「んー……つまり、セプテットサモナーってのは魔法使いの頂点、みたいな感じ?」


「……えぇ、その認識で間違ってないわ」



 ざっくばらんな纏め方に苦笑しつつも頷いてくれたセリアの弁から、ある程度の認識は固められた。

 要するにセリアとかお嬢が唱える魔法と、セプテットサモナーの使える召喚魔法っていうのはそもそもの規格(レベル)が違うって事なんだろう。



「む……」


「……?」


「……あ、いや……すいません。自分、魔法に関しての知識が浅くって、ははは……」



 で、恐らくそのセプテットサモナーの称号についてはこのレジェンディアじゃかなり有名、というか常識的な事らしい。

 俺が異世界人って背景を知らないから、わざわざこの場でセリアに尋ねたことを疑問に思ったのか、訝し気に眉を潜めるセントハイムのお二方に、慌てて取り繕ろう。

 この際、その属性とか精霊の種類とかも聞いておこうかと思ったけど、国王との謁見においてそれは完全に余談に過ぎない。

 興味を優先するには、時と場所を選ぶべき、だったんだけれども。


 後にして思えば……もう少し、考慮すべきだったな。


 "召喚"魔法、それがレジェンディアの精霊魔法において偉業達成の証であるって事について。


 もう少し、考えとけば良かった。




────

──


【Septet Summoner】


──

────



「……あの、話の内容からして闘魔祭を中止するとそのカンパネルラって魔女の怒りを買うってのは分かったんですが……その理由を聞いても宜しいでしょうか、ルーイック陛下?」



 魔女そのものの驚異については一段落を迎えた訳だけども、本題である魔女と闘魔祭についての関連についてはまだ分かってない。

 ここは同盟国からの使者って立場に乗っかって、少しでも情報を引き出しておきたいし。

 という訳で、若干強引ながらも、厳めしいヴィジスタ宰相ではなく、尋ね易そうなルーイック陛下に疑問を投げ掛けてみる。



「え、あ……うん。といっても、僕自身彼女……カンパネルラについては伝聞ばかりで、直接顔を会わせた事はないんだけどね」


「会わせられる筈もありません。アレはひどく傲慢で利己的……度し難くきまぐれな気性で、何より精霊魔法の真髄を極めることを至上としておる異端者。斯様(かよう)な人格の者を陛下と引き合わせるなど……」


「心配症だなぁ、ヴィジスタは」


「……お言葉ですが陛下、陛下はもう少し大国の主であるという自覚を持っていただきたいものです」



 忌々しい、と言葉にせずとも伝わってくる程にくっきりと寄せた眉間の皺の深さと口振りからして、ヴィジスタ宰相は魔女カンパネルラと直接会った事があるらしい。

 ただ、過保護だと言わんばかりに苦笑する陛下には悪いけど、ルーイック陛下と魔女とを引き合わせる訳にはいかないって言い分は、宰相という立場からしても説得力がある。



「あはは……で、話を戻すけど……そもそも闘魔祭の興りは今より二百年前。初代国王である『ダグラス・ロウ・セントハイム』と、魔女カンパネルラとの間で交わされた盟約の証としてひらかれている祭儀なんだ」


「盟約、ですか」


「うん。まぁ、盟約というよりは互いに過度な干渉をしないっていう消極的なものだけどね」



 要するに、ちょっとした不可侵条約みたいなものか。

 大国の姿勢にしては一個人に対して随分及び腰にも見えるけど、逆に言えばそれほどまでに魔女という存在が恐ろしかったって事か。

 というか、城門を潜る前にセリアから聞かされた話だけど、確かルーイック陛下で五代目の国王様なんだよな。

 やっぱり魔女ってだけあって、とっくに平均的な寿命を越えてるのか。



「各国各地から、魔法や戦闘技術に自信のある実力者達を集めて競い合わせる祭儀。ただ、当然魔女に参加して貰うわけにもいかなくてね……セプテットサモナーである彼女からすれば、そこまで興味を惹かれなかったんだろう。開催してから"しばらく"は、魔女からの干渉はなかったんだけど……」


「……しばらく、という事は」


「うん、そういう事。勿論、彼女自身が闘魔祭に参加したという訳じゃない。ただ、その代わりに……彼女は彼女が育てていた"弟子"を参加させたんだ」


「!!」


「ぐ、お嬢……痛いってば」


「あっ……こ、これはわたくしとした事が。オホホホ」



 弟子という単語に過剰な反応してか、もう掴むどころか握り潰す勢いで肩を掴まれて、思わず非難の視線をお嬢に向ける。

 ったく、ヴィジスタ宰相が怖いからっていつまで引っ付いてんだか。

 けど、ヴィジスタ宰相の言葉を借りればかなり自分勝手で気まぐれな魔女にも、弟子が居たってのは意外だな。

 そりゃセプテットサモナーともなれば、その教えを請いたいと願う魔法使いも沢山居るんだろうけど。



「では、結果は……?」


「あぁ……セリアの想像通り、魔女の弟子が優勝したよ。やはり、彼女の教えを受けていただけあって弟子の方も相当な実力者だったようだね。そして何より、カンパネルラにとっても、闘魔祭は弟子の成長を測る良い『目安』になったという訳さ」


「味を占めたと…………あ、じゃあ、闘魔祭が中止に出来ない理由って……」



 あぁ、なるほど。

 話を聞く前は、どんな難事だったり政治的局面が絡んでたりするのかと身構えていたけども。

 蓋を開けてみれば、なんてことのないと思えてしまうくらいに単純な理由と理屈だった。


 利己的かつ傲慢で、度しがたいレベルの気まぐれ、か。

 確かに、ヴィジスタ宰相から見ればそうとも映るだろうな。




「察しの通りさ…………毎回という訳じゃないけども、闘魔祭は、今では魔女カンパネルラにとって……愛弟子の『お披露目会』の場でもあるんだよ」




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