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Tales 14【ちぐはぐ異種間交流】

「あー……盛り上がってるとこ悪いんだけど、ちょっと良い?」


「ん? なんですの、貴方」



 水を差さなきゃ日が暮れるまでやってそうなやり取りに介入すれば、エメラルドグリーンのお嬢様がさも今気付きましたとばかりに大きな瞳をさらに丸めた。



「俺は細波 流。ナガレって呼んで。そんでこっちは……」


「ラスタリア騎士団所属、セリアです」


「ほっほう……聞きましたかアムソン。早くもわたくしの活躍を聞き及んで、騎士団の者に声を掛けられましたわ。ふふふ、グリーンセプテンバーの名が二度咲く芽を見るのもそう遠くはなさそうですわね!」


「活躍も何も、たった今クエストの報告を終えたばかりでございますが?」


「…………そ、それで? このわたくし、ナナルゥ・グリーンセプテンバーにどういったご用件ですの?」


「うっかりタイミングを逃しかけたのを思い出し、慌てて名乗りつつモノを尋ねるとは行儀が悪うございますぞ、お嬢様」


「お黙りなさい、アムソン! いちいち口を挟まない!」



 軽く頬を染めて軽く咳払いで仕切り直すナナルゥお嬢様は、なんというか見た目や態度はいかにも貴族のお嬢様って感じなんだけど、どうにも言動がアホっぽい。


 というか従者のアムソンさん、ビシビシお嬢様に突っ込んでるなぁ。

 まぁ仲良さそうだからいいけど。


 さて、どう説明するべきか。



「えーっと……実は俺達、ある難題を解決する為に、頼りになる人材を探しててね。そんで丁度今、ギルドに二人組のエルフが来てるって噂を聞いて来たワケ。ね、セリア?」


「えぇ。そこで、もし宜しければ助力を願えないかと。どうかしら?」


「…………わたくし達に?」


「そそ。エルフって頼りになるって聞いたから、もし力を借りれればなぁって…………あれ、ナナルゥさん聞いてる?」


「………………きた」


「「……?」」



 とりあえず当たり障りのない感じで、まずは相手の興味を惹けるように勿体ぶってみた訳だけども。

 なんか話の途中から惚けたみたいに固まって、小綺麗に整った顔を伏せて、なんかブツブツと言い始めた。


 どうしたんだと気になって顔を寄せれば……いきなりブワッとナナルゥさんが顔を上げた。

 なんか興奮気味に高揚してて、ワインレッドの瞳が幾つもの星屑をキラキラと瞬かせている。



「きた……きたきたキタキタ、来ましたわぁぁぁぁ!!! 難題を解決するべく頼りになる人材を探している…………これをパパっとこなせれば、更にこのわたくしの勇名がレジェンディアに轟くビックチャンス! オーホッホッホ!! 強い追い風を感じますわよ、アムソン!」


「……お嬢様、お喜びになるお気持ちは大変良く分かりますが、まずはせめてお二方の話を最後までお聞きになるべきでは」



 なんか、めっちゃ喜んでた。

 なんだろうね、この、手に持ってるクジが見てもいないのにハズレって書いてありそうな微妙な感じ。


 ヤバいな、判断ミスったかも。

 隣のセリアはセリアで、どうしようと困り顔を浮かべてるし。

 まぁ、一応話をきっちりしてみようか。

 毒を食らわば皿までとも言うしね。





────

──


【ちぐはぐ異種間交流】


──

────





「ワッ、ワイバーン!!!? お、おぉお、お待ちなさい。あ、貴方達もしや……竜種に挑むつもりなんですの!?」


「いや挑むってか……まぁ倒せるに越した事はないけど」



 毒を食らわばとか失礼な事を思ったけれども、毒を食わせるつもりはなかった。

 さっきまでの興奮冷めやらぬといったハイテンションから急転直下。

 面白いぐらいにナナルゥお嬢の顔が青褪(あおざ)めていってる。



「失礼ですが、ナガレ様。ナガレ様は飛竜……いえ、竜種との戦闘経験はお有りなのでしょうか?」


「いや、ないです」


「セリア様は?」


「リザードマンなら、何度か。とはいえ、リザードマンは竜種の最底辺に属する程度だから、実質ないと言っても過言じゃないわね」


「なるほど、左様ですか」



 ロビーの長椅子で俺とセリア、エルフ主従とでそれぞれ向かい合いながらの交渉は、早くも難航していた。


 ラグルフさんとかテレイザ姫の話だけでも、ワイバーン含めた竜種ってのがどれだけ恐ろしいかは知ってたつもりだけど、まさかエルフですらこんなに難色を示す相手だとは思わなかった。



「確かにセリア様の言う通り、リザードマンとワイバーンでは脅威の度数が桁違いでしょうな。なにせワイバーンは空を自由自在に飛び回り、急襲と離脱を繰り返す厄介な相手。おまけに硬い竜鱗で全身を纏っておりますので、まともな武器ではダメージが通らない」


「竜種の(ウロコ)ってそんな硬いのか」


「剣や槍とかが余程の業物でもない限り、まず先に武器の方が折れるくらいには硬いわね」


「……そんじゃ魔法ならイケるとか?」


「高威力の魔法であれば有効でしょう。ですが、先程も申し上げた通り、ワイバーンは空から急襲し、直ぐにまた離脱するのです。そう易々と当たってはくれますまい。それに、竜種の生命力も尋常ではありませんからな」


「……つまり纏めると、速くてタフで防御力もあんのね」


「言っておきますけど、攻撃力も尋常じゃありませんわよ」


「……そうね。生半可な防具や魔力障壁程度では、時間稼ぎにもならないわ」


「……隙がないパラメーターで何より」


「ぱらめーたー? ってなんですの」


「あ、なんでもないこっちの話」


「??」



 そういえばパラメーターってゲーム用語か。

 聞き覚えがないだろう言葉に、ナナルゥお嬢がなにそれと首を傾げていた。


 しかし、流石ファンタジーの代表的種族。

 話を聞く分だけで、まともに正面から闘えば歯が立ちそうにもない。

 まぁ無理に倒そうとせずとも、何かしらで時間が稼げれば良いんだけど。




「……あ、じゃあワイバーンに餌やってさ、食べてる隙に峠を抜けるとか」


「……風無き峠でなければ、有効な手段だったわね。でも、峠に住むワイバーンが巣を作ってる場所は……峠と峠を繋ぐ橋の直ぐ傍にあるの」


「……それなら夜、ワイバーンが寝静まった頃に橋を渡れば良いのではありませんの?」


「えっと……その、多分難しいと思いますよ? 風無き峠のワイバーンは、今の時期は冬眠前の蓄えの為に必死で狩りをしてますし、ワイバーンは竜種の中でも特に嗅覚が敏感で──」


「何ちゃっかり盗み聴きしてますの! レディとしてはしたないですわ!」



 どうやら平静を取り戻したナナルゥお嬢が、それとなく出した案も実行するには難しいようで。

 話を聞いていたらしき受付嬢の意見にムッと口を尖らすお嬢を、慌てていさめる。



「いやいや、こっちが勝手にロビー使わせて貰ってんだから文句言えないって。で、受付のおねーさん、ワイバーンって嗅覚に敏感なの?」


「は、はい。風が吹かない風無き峠ですら、テリトリーに入ってきた動物の匂いを嗅ぎ付けて襲って来るって話です。あと、耳も良いとか」


「……眠ってる間は?」


「確かに睡眠中は嗅覚とかも半減するそうですけど、もともとが高いから橋を渡る時にはもう気付かれてしまうかと……」



 風が吹かないから風無き峠。

 安直な名前の由来につい和まされつつも、峠突破の難易度がますます高くなっていくように思えた


 セリアの話じゃ峠と峠を繋ぐ橋が架かってるらしいけど、もしそんな所で襲われたらどっちにしろ終わりだ。



「随分と詳しいのね」


「い、いえいえそんな。実は、件のワイバーンから運良く逃げ延びた方が居まして。確かその方達も、餌を沢山するって方法を取ったそうです。ワイバーンはご飯を食べた後、すぐに眠るっていう習性があるらしいので」


「……逃げ延びたって事は失敗したってことだよね」


「えぇ……そうですね。風無き峠のワイバーンは、沢山用意した餌を巣に持ち帰って、お腹一杯になるまで食べていたらしくて。それでそのまま、直ぐに眠ってくれた、そこまでは良かったんですけど……」


「途中で気付かれちゃったと」


「はい」



 貴重な情報に感謝したいとこだけど、余計に八方塞がりになった気分。

 情報提供してくれた受付嬢にお礼を言うと、ペコリと頭を下げて元の受付場所に戻っていった。


 参った、マジで攻略法が思い付かない。

 いっそブギーマンでもぶつけてみるしか方法がない気がする。


 いやでも、実はセリアにブギーマンは余程の事がない限り使うなってきつく言われたばっかりだった。

 今がまさに余程の事だろうとは思うけど。


 とりあえず他に良い案が浮かばないので、少し脇道に逸れてみよう。



「……ところで、アムソンさん。ちょっと気になることがあったんだけど」


「おや、なんでございましょうか、ナガレ様」


「さっきペンダント、一瞬でどっかから出してたじゃん。あれって執事の技ってやつ? あんまり早すぎてどこに仕舞ってたのかすら分かんなかったんだけど」



 気になっていた事とは、単純明快。

 クエスト報告の時に、アムソンさんが一瞬にしてペンダントを受付カウンターに並べていた、あの謎の技術。


 ここで実は超高速でペンダントを取り出しただけとかそんなオチであれば、もうそれ以上はつっこめない程度の疑問だけど。



「あぁ、実はこのアムソン、収納魔法が扱えましてな。こう、独自の空間から物を収納出来まして……例えば、こんな風に──【コンビニエンスこんなこともあろうかと】」


「──!?」



 蓋を開けてみればとんでもなかった。

 アムソンさんが何やら魔法名を朗々と詠みあげると、ほぼ一瞬にして目の前に、カフェとかにあるオシャレなテーブルが出現した。


 呆気に取られている俺に、これまたいつの間にかティーカップとケトルを手に持ったアムソンさんが、慣れた仕草で紅茶を振る舞ってくれる。


 え、なにこれホントすごい。

 ていうかめっちゃ便利じゃん。



「皆様、どうぞ」


「あ、どうもー……うわ紅茶も旨いし」


「……本当ね。この茶葉もそうだけど、淹れ方が良いんだわ。美味しいです、アムソンさん」


「お褒めに預かり恐悦至極に存じます」


「……エルフってホント凄いのな。こんな便利な魔法まで使えるなんて」


「……いえいえ、少しばかり買い被っておられますよ、ナガレ様。このアムソン、確かにエルフではありますが……扱える魔法はこの"収納魔法だけ"なのでございますよ。それにこの魔法は所謂サポートマジックというものでしてな、ナナルゥお嬢様も……そして恐らくセリア様も扱えるのではないでしょうかな?」


「え、そうなの?」


「……まぁ、使えるけれど。でも、これほどのテーブルを仕舞える空間領域を保持するのは人間の魔力だと少し厳しいわ」



「ご謙遜を…………つまるところ、お恥ずかしい話ですがこのアムソン、エルフとしては大変出来の悪い落ちこぼれでございましてな。恐らくお二方はワイバーンを突破出来るほどの魔法を扱えるエルフを探していたのでしょう。ご期待に添えず、誠に申し訳ありません」




 出来の悪い落ちこぼれ。

 そう卑下しながら頭を下げるアムソンさんの顔は、恥じる様子を皺の深みにひっそりと隠している。


 言葉に迷って、チラッとナナルゥお嬢の方を伺えば彼女も彼女で複雑な色味を唇の端に滲ませていて。

 肘までの長さの黒いオペラグローブに包まれた指先が小刻みに震えて、そっと彼女のティーカップの水面を揺らした。


 収納魔法、か。

 確かにここに来るまでは、単純な火力を期待してたのは事実だったけれども、これだって充分に…………



「……いや、待てよ。ねぇアムソンさん。アムソンさんってさ、この収納魔法を使ったらどれくらいの規模の物まで仕舞ったり出したり出来る? あと、人とか動物って収納可能?」


「……規模、ですか? そうですな……とりあえず、このテーブル二つ分の大きさぐらいであれば可能です。しかし、人や動物などの"生きているモノ"は無理にございますぞ」


「……じゃあ、『死んでたら』大丈夫って事?」


「出来ますわよ」


「お、お嬢様?」


「出来ます。アムソンは口喧しいながらも、執事としての技量は徹底的に磨いてますの。ですから料理なども嗜みますし、わたくしの要望には出来る限り答えれるよう色んな料理の材料を収納させていますから」



……やっぱなんだかんだで主従仲は良いんだな。

 まるでフォローするかのように口数を途端に増やし出したナナルゥお嬢に、つい微笑ましくなった。



「へぇ、じゃあ当然『ワイバーン用の餌』とかも可能って事だよね」


「もっちろんですわ!! ……って、ワイバーンの餌?」


「……ナガレ。まさか」


「いや、そんな心配しなくても、ブギーマンは使わないって。代わりにちょっと良い"再現"を思い付いてね。上手く行けば────風無き峠を突破出来る」


「……ぶぎーまん? さいげん?」



 冬眠前のワイバーンの習性とやらを上手く活用すれば、何とかなるかも知れない。

 勿論、ただ習性を活用するだけでは橋を渡る事は出来ないだろうけど。


 呆気に取られたように舌足らずなオウム返しをするナナルゥや、傍に控えながらも頭を捻るアムソンさんの主従コンビには、俺の思い付きが分からないのも無理はない。


 けど、セリアは俺の能力を知っている。

 当然、正解はそこにある。



「……ナナルゥさん、アムソンさん。改めてだけど、俺達に協力してくれない?」



 あの"現象"を再現出来れば、突破出来るかもしれない。





【人物紹介】



『ナナルゥ・グリーンセプテンバー』



身長155cm 外見年齢16歳


ギルドにて出会った、お嬢様エルフ。


エメラルドグリーンのセミロングを左右両サイドでグルグルと巻いてる、まさにお嬢様っぽい髪型と高級感のあるワインレッドの瞳を持つ。

どことなく幼さの残る甘い顔立ちをしているが、スタイルは大人顔負けなレベルで、特に胸元は年齢不相応。


お調子者で融通が利きにくい上、プライドが高いといった典型的なお嬢様気質。

自分をぐんぐんと持ち上げる割には他人をあまり卑下しない言動からして、根っこは素直であるらしい。



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