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Tales 107【淑女が涙を拭った後に】

 旅立ちの朝は、澄んだ空の匂いがする。


 小鳥の囀りで目が醒める自分をベタだなと揶揄しながら起床して、はや三十分。

 義務付けられた訳でもないのにはじめた部屋の清掃。

 最後にシーツをきっちりと整え終えた頃には、夢見心地は跡形もない。


 跡は濁さずってやつだろうか。

 長く世話になった部屋を見渡せば、俺の過ごした形跡は薄れている。

 勝手で薄めた癖に僅かな寂しさも感じている自分が、なんだか妙に可笑しくて。



「⋯⋯準備、終わったかしら?」


「ん。今行くよ」



 そんな俺の心模様を察しでもしたのか。

 空模様と同じ蒼の人が、柔らかい微笑を浮かべていた。





◆◇◆◇






「黒椿だけやなく、よもや魔女の弟子までとはなぁ。懐深いというか、大したもんやねキミら」



 セントハイムの国門付近の、大国だけあって広大な馬宿。

 予め指定された合流地点に赴いた、俺とセリアを出迎えたエースの開口一番がそれだった。

 飄々とした彼の頬がほんの少し引き攣ってるのは、一足先に合流してたセナトと、棺に背を預けて佇んでいたトトが原因だろうか。



「急な話で悪かったね」


「それはええんよ、昨日セリアちゃんから説明貰っとったし。ただ、てっきりナガレくんらと一緒に来る思うてたからな。部下が魔女の弟子がカチコミに来よったーってえらい騒いでもうてね」


「あー⋯⋯」


「ククク。早朝ながら中々愉快な光景だったぞ」



 そこにたまたま居合わせたのか、セナトが嫌味たらしく喉鈴を転がした。

 きっとひと騒動の一幕を、特に仲裁するでもなく傍観してたんだろう。

 肩をすくめるエースの苦笑いを見れば簡単に察せられるから困り物だ。

 今回は事前に示し合わせなかった俺たちにも非があるから何とも言えないけれども。



 早朝というには太陽が顔を昇らせている馬宿の中で、傍目にはチラチラと荷物を運んだり、何かを話しあってる団員らしき人達が映る。

 ただその数は精々五、六人といったところで、話に聞いていた四十人には程遠い。



「そういえば、キングや他の団員は?」


「他のモンなら門の外で準備が終わるのを待っとるよ。馬車やら荷やら運ぶのもほぼ終わってるし」


「もう? 随分、仕事が早いのね」


「隊は拙速が大事やからね」


「じゃあひょっとして、後は俺たち待ちだったり?」


「せやね。まー、別の意味でも待っとったとも言えるんやけど」


「⋯⋯別の意味?」


「後ろ振り返ってみ?」



 悪戯心を匂わせる言い回しに従って振り返ってみる。

 するとそこには見覚えのある車椅子の少女と、にこやかな笑みを浮かべたクイーンが手を振っていた。



「エルザ!」


「こないだぶりですね、ナガレさん。セリアさん」



 クイーンに押されるエルザが白い歯を見せる。

 カラカラと回る車輪の軽快な鳴き声に、負けない明るさは健在だ。

 けれど近寄る彼女自身には、もっと明確な変化が訪れていた。



「あれ。エルザ、髪が⋯⋯」


「はいな。元々、兄やんと同じ黒い髪やったから⋯⋯ウチも聞いた時は驚きましたよ。まだ根元んとこだけ黒やから、ちょっと変に見えちゃうかもですけど」


「いいえ、そんな事ないわ。それにしても、精霊樹の雫は大したものね」


「えへへ、ほんまですね。昨日今日で効果が現れるなんて、やっぱり国宝モンの秘薬って凄いんやなぁって。身体もいつもより調子ええんですよー」



 スノーホワイトの髪の生え際に色付いた、僅かな黒色。

 それはエルザが少しずつ、虚色症という身を蝕み続けた病魔から、指を剥がせている証とも言えるだろう。

 甘菓子を含んだような笑顔を浮かべて、目を閉じたエルザが無邪気に俺達を見上げる。

 儚げなその(まぶた)も、この調子ならいずれ綺麗な瞳を覗かせてくれるかも知れない。



「あらあら、エルザちゃんたら。治療は始まったばっかりなんだから、あんまりハシャいだらダメですからねぇ?」


「うっ、わ、わかっとりますよぉ」


「決勝前ん時と同じで、どーしてもナガレ君らの見送りしたいて、ごねとったからなぁ。ひょっとしたらナガレ君にホの字やったりしてな。なっはっは!」


「もう、何いうてんの。返しきれへん恩を受けた相手なんやから、見送りくらいせんとアカンやろ」


「ナガレくん、どない? 素直やないけど、こーいう所が逆に結構可愛いと思わへん? ボクの妹ながら、中々男がほっとかへん器量の良さや思うんやけど! あ、でも簡単にやらへんけどな!」


「⋯⋯ねぇ。テンション上がってるとこ悪いけどさ、その可愛い妹の顔に青筋増えてってるけど⋯⋯いいの?」


「⋯⋯決めた。完治したら元の顔分からんなるくらい引っ張ってやるわ。兄やんのドアホ」


「⋯⋯なっはっは」



 エースも快復に向かう妹の姿につい浮かれたんだろうけど。

 何事も、触らぬ神に祟りなし。

 冷や汗を流しながら助けを求める細目から、そっと目を逸らした。


 結局、俺たち待ちだったのが、損ねてしまった妹の機嫌を取るべく慌てふためくお兄ちゃん待ちとなったのは、言うまでもない。



「⋯⋯」



 けれど、慣れ親しんだ騒々しさの中には、いつしか当たり前になっていた二人を欠いている。

 そんな実感に肩を掴まれて、喉の奥がじわりと苦んだ。




◆◇◆




「⋯⋯」



 予選での修行の時に何度か潜った国門が開けば、飛び込んできた光景に言葉を無くしてしまった。


 街道脇を彩る朝露溶けた草原。

 エメラルドの草の海にズラリと並ぶのは、 馬具をつけた逞しい馬の群れと人の波。

 その合間には馬車や畳みかけたテントと、さながら遊牧民の様相は圧巻といえた。



「どや? こうして並ぶと結構壮観やろ。あぁでも、ラスタリアにも騎士団あるから見慣れてるか」


「いや。こんなの普通に気圧されるって」


「気を抜けてるように見せても、一人一人の動きに統率が見えるし、馬の質も良い。大国に本拠を置ける傭兵団というのは、これほどのモノなのね」


「なっはっは、お褒めに預かり光栄や。まっ、これから道中一緒にするんや、そう堅くならずに行こうやないの」



 こっちの瞠目をよそに、エースがポンと肩を叩く。

 傭兵団の長にフランクに接しられているからか、団員達の視線も自然と俺達に集まってくる。

 興味、好奇、怪訝と、視線の種類は十人十色。

 中には無関心のものや刺さるほど強いものもあって、元男子高校生相手に堅くなるな、っても無理な話だ。

 トトはともかく、顔色ひとつ変えないセナトもまた場数を踏んでるって事なんだろうか。



 でも、これから一緒にガートリアムまで行くってのに、気張ったってしょうがない。

 むしろ興味を向けてる何人かの団員に、都市伝説ってものを広める良い機会かも知れないしね。

 うん。いいなそれ。長い道程じゃないとはいえ、布教するチャンスはあるはず。



 そんな風に気を持ち直した俺の心境も、エースにはお見通しだったのか。

 機嫌良さげに笑みを濃くして、青空を見上げた。

 いよいよ、出発って事らしい。



「さぁて。そんなら、いよいよガードリアムに行こか、ってなる流れやけど。忘れ物とかしとらへん?」


「子供扱いは勘弁してよ。ちゃんと確認済みだって」


「忙しない所があるもの、仕方ないわ」


「セリアに言われたくないね」



 引き戻す事は出来ないって言いたいんだろうけど。

 切り替えの為の緩衝材に使わなくたっていいじゃない。

 さらりと不満を述べれば、またエースに笑われた。



 けれど軽快な笑い声が、不意にピタリと止まる。

 パカッと空いた三日月の口が、微笑ましげに緩んだ。



「────⋯⋯あかんなぁ、ナガレ君。確認漏れがあったみたいやね?」


「え?」


「ほら、あっちや。"忘れ物"の方から来てくれてるやん」



 あっち。

 ピアニストのような長い指が示したのは、さっき俺達が潜ったばかりの門で。

 どういう意味だろうと疑問を傍らに、そちらを向けば。


 眩い『緑閃光』が、疑問を溶かした。



「な、なんとか、間に合いましたわね⋯⋯」


「ほっほ。間一髪ですな」


「お嬢! アムソンさん!」



 よほど急いだのか、肩で息を継ぎ、額に汗を浮かべているお嬢と、息一つ乱さず朗らかな笑みを浮かべるアムソンさん。

 今朝にはもう、宿から姿を消していた二人がそこには居た。



「ふっ、危うく機を逃しかけましたわ。ですが主役は遅れて姿を現すもの、つまりはナイスタイミングということ! 風向きはわたくしの背を押してますわね!」


「別れ際をどう演出するかで悩みに悩んでいた故に、悩んだ意味すら水泡に帰す所であった事を棚に上げる手腕。流石のお嬢様にございます」


「うぅ、ぅ、うるさいですわ!」


「はは、なんだよ。今朝にはもう居なかったからさ、てっきり湿っぽい別れは⋯⋯ってヤツかと思ってたのに。ほんっと、お嬢ってば」



 あっさりしたもんだな、とこっちは少しブルーになってたくらいだってのに。

 別れ際の演出考えて遅刻とか、いかにもお嬢らしい。

 隣のセリアと顔見合わせてクツクツと笑えば、急いだ余韻で上気したお嬢の頬に、更にかぁっと朱色が増していた。



「仕方ないじゃありませんの。本当はそのつもりもありましたけれど、心に痼を残したままなんてわたくしらしくありませんもの」


「⋯⋯そっか」


「それに。いつぞやの貸しも、まだ返して貰ってませんから」


「貸し?」



 意味ありげな流し目と共に、含ませた"貸し"という言葉。

 薄白い唇が紡いだ一言に、心当たりがなくて小首を傾げる俺を視界から切り離して、お嬢が隣のセリアへと向き合う。

 誠実さを溶かした鮮やかな深紅に、さっきまでの緩みはない。

 緑を揺らすに勤めていた朝の風が、似た色したエルフの巻き髪を、絡めて流した。



「まずは、セリア。此度はわたくしの身勝手で、貴女とイレイザ姫との契約を打ち切った非礼。改めてお詫び致しますわ」


「いいのよ。貴女は、貴女の心に従ったまででしょう。深く悩んで、それでも力を願ったナナルゥの選択を、私は尊重するわ」


「⋯⋯ありがとうございますわ、セリア」



 静かに腰を折ったお嬢の謝罪に、やはりセリアは責め立てる事はしなかった。

 蒼い騎士の優しい理屈に、そういうと思ってたとばかりにお嬢が微笑む。

 微笑みの内側に、どこか哀色を滲ませて。



「次にセナト」


「おや、私か」


「貴女に言うべきことではないかも知れませんが⋯⋯そこな男は慎重に見えて、無鉄砲で無茶しがちですの。しっかりと目を配らせておくように」


「クク、なるほど。了解したよ、ご令嬢」



 慎重に見えない上に無鉄砲なお嬢に言われたくないんだけど。

 さしずめ今までからかった意趣返しか。なにもこんな場面で。

 セナトもセナトでさぞ愉快そうに忠告を受け取ってるし。



「トト⋯⋯いいえ、姉弟子様」


「⋯⋯?」


「貴女はもう少し、淑女らしくなさいな。年頃の娘が地味で遊びのない服装ばかりするもんじゃありませんわ⋯⋯アムソン!」


「畏まりました。『コンビニエンスこんなこともあろうかと』⋯⋯⋯⋯トト様、此方をお受け取りくださいませ」



 順繰りならば、という予想に違わず。

 いつの間にか、姉弟子と呼び方が変えられたトトに渡されたのは、分厚く膨らんだ紙袋だった。

 有無を言わさず受け取らされたトトが、大きな瞳を不思議そうに丸めて、小首を傾げる。



「⋯⋯これ、なに?」


「お洋服ですわ。ワンピースを始めとした、ブラウス、ニット、スカートもフレア、プリーツなどなど。この美意識の権化たるわたくしがチョイスした選りすぐりですの。道中、そんな陰気なローブばかりでは滅入ってしまいますものね。」


「⋯⋯トト、悪魔憑きなのに?」


「姉弟子様、愚問ですわ! 悪魔が憑こうがなんであろうが、貴女は列記としたレディ。レディが美を磨いてはいけないはずありませんし、そんな理屈、例え精霊様が許してもこのわたくしが断固として許しませんわっ!」


「⋯⋯」



 パチパチと、藤色のガラス玉がまばたく。

 まるで知らない言語でまくし立てられ、一方的な勢いに押し込まれているような、無垢な反応。

 そんな淑女と少女のやり取りが────いつぞやの、俺とメリーさんに遠慮なく説教をしてくれた彼女の姿を。

 まだ、ナナルゥさんと呼んでいた頃の、一日を思い出させてくれたから。



「⋯⋯最後に、ナガレ」


「あぁ」



 こうして、改めて面と向かうと、別れという実感が強くなる。

 辛いものでもないし、納得だって互いにしてるのに。

 それぐらい、この二人の存在が大きくなっていたって証拠なんだろうか。



「⋯⋯なにを似合わない、寂しそうな顔をしてますのよ。良き殿方とはこういう時、決意した者の背を押すものでしょうに」


「⋯⋯はは、そんな顔してるつもりはないんだけどな。案外寂しがって欲しいっていうお嬢の願望で、そう見えてるだけじゃない?」


「この期に及んでの減らず口。けれど⋯⋯そっちの方が貴方らしいですわね。宜しい」


「お嬢の偉ぶりようは、魔女相手にしごかれたって治んないんだろうね」



 毒のない皮肉の応酬。負けず嫌いは最後までお互い様か。

 そりゃ寂しくない訳がない。一時のものだとしても。

 女々しくたって、強く惜しむくらいには、俺達は共に多くを過ごして、この青空に笑い声を響かせてきたんだから。



「⋯⋯さて。いい加減、忘れ物を回収しませんとね」


「忘れ物ってさっき言ってた貸しってやつ?」


「えぇ。"嫁入り前の乙女の肌に触れた責任"、といえば⋯⋯お分かりですわよね?」


「⋯⋯肌⋯⋯⋯⋯って、えっ。それって予選の時のアレか!?」


「ふむん。ちゃんと覚えてるようで何よりですわ。奮起を促す為とはいえ、わたくしの背中をあんな風に触れたんですもの。その代償、ただでは済みませんわよ?」


「⋯⋯ナガレ、貴方って人は」


「ほう、ほうほう。傍から聞けば、随分とけしからん内容ではないか。なぁ、ナーくん?」



 紛らわしい言い方をしたもんだから、妙に冷たい視線がこぞって俺に集まってる。

 お嬢がいう責任ってのは、予選の時に背中をツーっとなぞってやったアレだろう。

 いやまぁ、セクハラって判断されても仕方ないと我ながら思うくらいだけども。

 よもやこの期に及んで掘り返されるとは。



「オーッホッホッホ! わたくしへの負債、しっかりと思い出して下さったようですわね!」


「ぐっ⋯⋯あーもう、はいはい。悪かったって。で? 何すりゃ良いわけ?」


「ふふん。話が早くてなによりですわ」



 旗色の悪さを早々に察して肩を落とす俺の姿に、お嬢はさぞかし満足気な笑みを浮かべる。

 一体何やらされんだろ。

 まさかの展開にげんなりしていた俺の前に、スッとオペラグローブに包まれた右手が差し出された。



 え。なに。これってあれか?

 映画とかで良く見る、高貴な女性の手の甲に、ってヤツをやれと。

 そういう意味なのか、これは。



「臣下の礼、分かりますわね?」


「いや、だから⋯⋯俺はいつの間にお嬢の臣下になってんのさ」


「良いからさっさとなさいな! 他に思いつかなかったんですもの⋯⋯ほら、レディを待たせるんじゃありませんわよ」


「⋯⋯はぁ」



 どうやらそういう意味らしい。

 こんな人前で(かしず)けって、ホントお嬢は良い趣味してるよ。

 忸怩たる思いを舌の裏に滲ませながら、渋々差し出された右手を取って、片膝をつく。


 流石に羞恥を感じざるを得ない。

 けれど、やらなくちゃお嬢は満足しないだろうから。

 いざ、と腹を括った、その時だった。 



「⋯⋯もっと良いのを、思い付きましたわ」



 って。いきなりそんな事言い出すもんだから。

 そりゃあ「えっ」、と顔を上げてしまうのか普通だろ。

 ごくごく自然な流れだと思うし、何も可笑しいことはなかったのに。



「────」



 顔を上げた目の前には、お嬢の綺麗な顔があった。

 睫毛の長さがよく分かるくらいに(まぶた)が閉じられて。

 突き出された唇が、薄いルージュを引いていて。



 俺の頬に、手が添えられて、そして。



 世界の音が消えた気さえした。


 

「⋯⋯、────」



 ただ、音が消えても色だけは鮮明であるらしい。

 白鳥の羽毛みたく滑らかな白い肌が、みるみる内にその瞳の色彩のように、痛いほどの真紅に染まっていくのが良く見えた。


 あぁ、うん。

 そういえば味があるって良く聞くけど、無論そんなの、感じてるキャパシティもなく。

 それどころか、あまりに突拍子がなさすぎて。

 何をされたのかを心は理解してるのに、肝心の現実と実感が遅れ気味なせいで、そう。短い白昼夢でも見てたような、そんな感じ。



「あ、こ、これでは結果的にナガレが更に得しただけですわね! つまり、あえ、えと、ナガレへの貸しが増えただけ! わたくしとしたことがやらかしちまいましたわー、本末転倒ですわー! で、でもしちゃったものは仕方ないですし貸しは貸しですの! 貸しなんですの!」

「⋯⋯」

「で、ですから⋯⋯、────また、必ず回収しますわよ。踏み倒せるなんて思わないで下さいましっ」

「⋯⋯」


 だってのに、そんな早口でぐわーっと(まく)し立てられたら、相槌一つも打てやしない。

 こっちだけに限らず、あっちも大層混乱してるらしい。

 けれど。

 けれど、だ。

 こんがらがった脳味噌が辛うじて弾き出せた直訳は、きっと。 

『また会いましょう。必ず』とか。

 そういう意味、なんだろうから。


「お安くしといてよ」

「!」


 口に残る微熱を、無かった事にするつもりはない。

 とんでもなく高くつきそうだったけど。



「オーッホッホッホ! お断りでしてよ! 一エンスたりともまけませんわー!」


「⋯⋯性質(たち)の悪い貸主が居たもんだ」








 そうして、果てがないほど突き抜けた青い空に、またも笑い声を響かせる淑女と従者に見送られて。


 俺達は、門出の一歩を踏みしめる。


 先行きの不安は、不思議なほどに掻き消えた。


 きっと、風に攫われたんだろう。


 何年経てども錆びつかない、黄金色の風に────













【淑女が涙を拭った後に】




──

────

───────

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― 新着の感想 ―
[良い点] ワオ、大胆ですね〜 ハーレムはぶっちゃけ苦手ですけど今作品は結構すんなり入ってきますね。 あと、最後のところでタイトル回収するのめっちゃセンス感じました。
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